2026.06.18 NEW
米イラン停戦後も燻る景気下振れ懸念 ナフサ不足が影響しやすい産業は? 野村證券・伊藤勇輝
撮影/タナカヨシトモ(人物)
米国とイランが戦闘終結などに関する覚書に合意したことで、ホルムズ海峡の通航再開への期待が高まっています。原油高やナフサなど石油製品が不足する影響が懸念材料となっていますが、中東情勢が正常化に向かう場合、こうした不安は和らぐのでしょうか。野村證券経済調査部の伊藤勇輝エコノミストが解説します。
中東情勢によるインフレのピークは2027年1-3月期と予想
- 米国とイランが戦闘終結で合意したことを受けて、高止まりしていた原油価格は低下しています。無事にホルムズ海峡が開放され、原油価格が落ち着けば、日本の物価や景気に与える悪影響は回避できるのでしょうか。
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野村證券では、中東情勢の日本経済への影響を「5つの層」で整理しています( 2026~27年度の日本経済見通しを改定 中東情勢の影響を「5つの層」で評価 野村證券・森田京平)。このうち現時点で日本経済は、(1)「価格面」から見た供給制約の影響だけでなく、(2)「数量面」から見た供給制約、(3)物流障害による輸出制約へのリスクが高まっている状況です。もっとも、米国とイランの合意などを受け、原油価格は下落しており、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が長期化するリスクは、一時に比べて後退したとみられます。
(出所)野村證券経済調査部作成
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ただし、中東情勢に端を発する国内景気への影響が完全に払拭されたわけではありません。原油価格の変動がCPI(消費者物価指数)に反映されるまでには約半年のタイムラグがあり、これまでの原油高による影響は2026年後半以降のCPIに表れる公算が大きいです。野村證券は、生鮮食品を除くコアCPIのインフレ率が2026年度後半にかけて上昇し、2027年1-3月期に前年比+3.6%でピークを迎えた後、低下に転じると予想しています。なお、2027年4月に実施と想定する消費減税を前提とした場合、2027年度のコアCPIインフレ率は+0.9%まで低下すると予想しています。
(注)コアCPIは生鮮食品を除く総合、総務省版コアコアCPIは食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合、コア食料は生鮮食品及び酒類を除く食料を指す。2014年4月、2019年10月の消費税率引き上げ及び、2019年10月からの幼児教育無償化、2020年4月からの高等教育無償化の影響を除く。2026年5月以降は野村予測。2027年4月より食料品(酒類、外食除く)の消費税率が現行の8%から0%に引き下げられることを想定。コアCPIインフレ率への影響は-1.5%pt程度と試算。
(出所)総務省資料より野村證券経済調査部作成
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引き続き、物価の上振れリスクからも目が離せないです。6月16日に開催された日本銀行・総裁定例記者会見にて、内田眞一副総裁は「消費者物価の基調的な上昇率が2%の「物価安定の目標」を超えて上振れていくリスク」を強調しました。これは、(a)原油高を起点として企業間取引における価格転嫁が早いスピードで進捗していること、(b)サプライチェーン(流通網)の川下に位置する消費者段階の幅広い品目の価格上昇に波及していく可能性があること、が背後にあります。サプライチェーンの段階別かつ業種別に見た価格転嫁の動向を捉える上では、6月調査の日銀短観(概要は7月1日、全容は翌2日に公表)で示される企業の物価見通しが一つの評価軸となると考えられます。
また、物流面でもホルムズ海峡周辺で順番待ちの船舶が滞留している状況が続いています。ホルムズ海峡が開放されても、日本から出発した船舶が通過できるまでには時間を要するでしょう。
ナフサ不足の波及次第で、景気回復が頓挫する可能性も
- 原油価格高騰に加え、ナフサなどの石油製品の不足も懸念されています。ナフサ不足の影響も時間をかけて出てくるのでしょうか。
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そうですね。中東依存度が高いナフサの輸入は4月にかけて減少しており、ナフサを原材料とするプラスチック製品、合成ゴム、塗料などの在庫も減り始めています。影響はサプライチェーンの川上に留まらず、川中にまで広がってきていると言えます。今後、じわじわと川下に位置する産業にも波及していく可能性があります。
(注)2025年実績。全世界に占める中東からの輸入額のシェアを表示。
(出所)財務省資料より野村證券経済調査部作成
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ナフサが不足することで起きる「数量面」の供給制約は、需給の引き締まりを通じたインフレ圧力の強まりに加え、一部産業の生産ラインの稼働率が低下することで、景気・物価へ波及する恐れがあります。原油については、政府主導で代替調達の多角化を通じ供給量の確保が進む一方、中東依存度の高いナフサは情勢次第で輸入量が減るリスクが払拭しきれていません。
- ナフサの供給制約が長引く場合、どのような産業にまで影響が波及するでしょうか。
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ナフサを川上産業と位置付けた場合、どのような産業が川下にあたるのかを整理したものが下の表になります。2020年『産業連関表(442部門×388部門)』の取引額表を用いて、これら川上産業と取引額が大きい産業を抽出しました。ナフサの川下産業としては「プラスチック製品」、「ゴム製品」、「自動車」、「医療」などが挙げられます
(注)経済産業省『2020年産業連関表(442部門×388部門)』で示される部門間の取引額をもとに、ナフサと関連性がある業種を一部抽出。
(出所)経済産業省資料より野村證券経済調査部作成
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中でも自動車産業は、サプライチェーンのすそ野が広く、他産業の生産活動にも強く影響します。例えば、ナフサを材料とし、タイヤの製造に必要な合成ゴムや塗料などが欠けるだけで、自動車の完成が難しくなります。ナフサの影響を受けない自動車関連企業にも、部品の減産という形で影響が広がる可能性があります。仮に自動車の減産に至れば、より広く製造業の生産活動が下押しされ、その程度によっては、景気回復が続くとする野村證券や日銀のシナリオに黄信号がともります。
ただ、財務省が6月17日に公表した5月の貿易統計を見ると、財輸入は化学製品や鉱物性燃料など幅広く増加しました。原油などの代替調達が進展し、「数量面」の供給制約の緩和が伺えます。ナフサの供給制約の状況については、6月26日に公表される5月分貿易統計の確報で、細かい品目レベルで輸入動向を確認する必要があります。
中東情勢が鎮静化しても、ナフサ不足をはじめとした「数量面」の供給制約は見通しにくいため、今後も関連する経済指標を丁寧に見ていくことが重要になるでしょう。
- 野村證券経済調査部 エコノミスト
伊藤 勇輝 - 2020年早稲田大学政治経済学部卒業後、野村證券入社。経済調査部へ配属後、一貫して日本経済の分析・見通し作成に従事。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。
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