2026.07.27 NEW
高市政権の円安許容度は変化するか 円相場と債券市場安定には日銀の利上げ姿勢が重要 野村證券・後藤祐二朗
写真/タナカヨシトモ(人物)
高市早苗政権の金融・財政政策への姿勢をめぐり、7月初旬に円安・債券安が進みました。その後、7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、文言が修正されるなど、政府の市場配慮をうかがわせる動きもみられます。こうした変化は、金利や為替市場にどのような影響を与えるでしょうか。本記事では、為替動向や今後の注目点について、野村證券チーフ為替ストラテジストの後藤祐二朗が解説します。
「骨太ショック」を受けた高市政権の対応が焦点
高市政権の金融・財政政策に対する姿勢が「想定以上に緩和志向」とみなされた「骨太ショック」とも称される市場反応を受け、高市政権の債券利回り上昇や円安に対する許容度が変化するか注目されます。国内勢による国内資産への投資促進議論からは、特に債券市場の安定を重視する姿勢の高まりも感じられます。円相場と債券市場の安定には日銀の利上げ姿勢が重要でしょう。7月会合での連続利上げは難しい一方、9月が「ライブ会合」となるかが注目されます。以下、詳しくみていきます。
高市政権の円安許容度に変化はみられるか
中東情勢悪化懸念が再燃する中、米ドル円相場は1米ドル=164円目前まで上昇しています。当面の米ドル円相場にとっては、
1)中東情勢と原油価格
2)7月の日米金融政策決定
3)本邦当局の介入姿勢
が重要となりますが、円相場にとっては日本政府の債券利回り上昇や円安に対する許容度の低下が示されるかも焦点となります。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
2026年の米ドル円相場を占う上で高市政権の円安許容度が焦点になると判断してきましたが、夏場にかけて政権の姿勢を占う上での重要局面に差し掛かっていようと考えられます。
国内勢による国債投資促進の動きは加速するか
7月10日の閣議後会見において、片山さつき財務相は「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)をはじめとする年金基金により日本の金融資産にさらなる投資をしていただくという方向で後押しをする方策を追求したい」と発言しました。高市首相も17日に国会において「年金基金による日本の金融資産へのさらなる投資を後押しする方策を追求」と片山財務相と同様の姿勢を示しています。GPIFに向けて政治的な国内債投資増への圧力が一段と強まる可能性はあるでしょう。
片山財務相は7月10日、「日本の個人向け国債の商品性見直し、新商品の設計を早急に具体化して進めたい」とも発言しています。21日に閣議決定された骨太の方針内でも「個人向け国債の魅力向上による国内投資家層の拡大を図る」とされ、何らかの形で個人投資家による国債投資を促進する方策が議論される可能性は高そうです。
債券市場安定に向けた意向の強まりを反映か
片山財務相を中心に、GPIFによる国内資産投資増や個人向け国債のNISA(少額投資非課税制度)対象化の議論が急速に勢いを増した背景には、円安及び債券市場不安定化への警戒の高まりがあるのでしょう。特に、10年債利回りが3.0%の節目を大きく超えていけば、日本の名目成長率を上回る状況となりやすく、債務残高対GDP(国内総生産)比を低下させるという高市政権の財政の中核目標実現への障害となりかねません。
(出所)ブルームバーグ、マクロボンドより野村證券市場戦略リサーチ部作成
仮にインフレが物価安定目標である2%前後に中長期的には収斂すると仮定し、現時点では1%以下とみられる日本の潜在成長率を考慮すれば、当面の名目成長率は3%以下との想定が妥当でしょう。仮に10年債利回りが3%を上抜け、国債利回りが名目成長率を安定的に上回る状況となれば、債務残高対GDP比は上昇しやすくなります。
長期及び超長期債利回り上昇の背景には、円安による期待インフレ率上昇があると考えられます。債券市場安定には円相場の安定が重要でしょう。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
7月21日に閣議決定された骨太の方針では事前報道通り、原案にはなかった「安定的な物価上昇」の実現が「強い経済」の実現と並列の形で加えられ、注記として「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」との表現も盛り込まれました。7月に入り公表された主要メディアの世論調査においては内閣支持率が前月から軒並み低下し、50%割れの調査も目立ち始めています。
日銀9月会合は「ライブ」となるか
円安や金利上昇への許容度が低下すれば、日銀利上げに対する牽制姿勢が緩む可能性も否定できません。骨太の方針の原案からの修正が示した日銀の独立性への配慮が、実際に日銀のより積極的な利上げにつながるかが円相場にとって重要となるでしょう。今週の日銀会合に向けては、7月22日にブルームバーグが「利上げペースを半年に1回程度の市場見通しよりも加速させることに柔軟な姿勢」と報じ、ロイターも「物価上振れリスクへの警戒を続けている」「今後の利上げペースに影響し得る」との日銀内の声を報じました。
もっとも、マクロファンド勢と筆者の対話では、実際の利上げ加速を伴わない日銀のインフレ警戒の高まりは、むしろ政治的圧力やビハインドザカーブ(金融政策正常化の遅れ)への懸念を高めるとの声も一部で聞かれています。7月会合での連続利上げのハードルは極めて高いとみられますが、声明文や投票行動、記者会見などを通じて9月会合が政策変更のあり得る「ライブ会合」となる可能性の示唆が、円安抑止には重要でしょう。四半期に1回のペースでの利上げ実現との期待が高まれば、米ドル円相場への一定の追い風になり得ます。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗 - 為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半にわたるニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
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