2026.09.07 NEW
外圧で加速する日銀利上げペース 円高への転換点となるか 野村證券・後藤祐二朗
撮影/タナカヨシトモ(人物)
米国から日本銀行に対して利上げ加速を求める圧力が強まっています。外圧を受けた利上げペースの加速は、円相場が円高方向へ転じるきっかけとなるのでしょうか。日米の金融政策と今後の米ドル・円相場の見通しについて、野村證券チーフ為替ストラテジストの後藤祐二朗が解説します。
強まる米国からの日銀利上げ加速への圧力
日本では、9月会合(17~18日)での日銀の利上げがほぼ完全に織り込まれるなど、利上げ期待が顕著に高まっています。
(注)市場織り込みはOIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)市場による。
(出所)ブルームバーグ、野村證券市場戦略リサーチ部作成
背景には、異例ともいえる米国からの日銀の利上げ加速を求める圧力があるでしょう。G20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議の前後に、ベッセント米財務長官は片山さつき財務相や植田和男総裁と会談しました。米財務省は植田総裁との会談について、「インフレ期待を安定させ、為替レートの過度な変動を回避するためには、金融政策を適切に策定し、その内容を明確に発信することが重要」と指摘する声明を公表しました。ベッセント財務長官はG20後の記者会見でも、日本はリフレ政策を中止すべきだとの姿勢を示しています。
片山財務相はG20会合初日の記者会見で、ベッセント財務長官が日銀に利上げを要請したとの報道を否定しました。ただ、片山財務相や植田総裁が、米国から利上げ要請や圧力を受けた事実を公に示すとは考えにくいでしょう。ベッセント財務長官の声明などからは、日銀に対する利上げ加速への圧力は明確だとみられます。
日本のリフレ政策の転換点となるか
植田総裁はG20後の記者会見で、利上げについて「次回会合を含め、毎回の会合でしっかり議論する」と発言しました。高田創委員は、「市場で考えられている一定の利上げの間隔や幅にとらわれることなく」、機動的に対応する必要があると言及しました。中立金利が「従来の分析から大きく外れてしまうリスク」があるとも発言しています。植田総裁の「物価上振れリスクを考慮して政策を判断」「基調物価はかなり2%に近い」といった発言は、ファンダメンタルズ面でも早期利上げの必要性が高まっていることを示唆しています。日銀による9月の利上げは確定的となっています。3ヶ月に1回程度のペースで12月に追加利上げすることを基本としつつ、円相場次第では連続利上げの可能性も市場で意識される環境といえます。
木原稔官房長官は9月2日、ベッセント財務長官の発言への論評を避け、責任ある積極財政の考え方に変化はないとしました。ただ、金融政策面では、高市早苗政権が日銀に表立って圧力をかけにくくなった可能性があります。3ヶ月に1回行われてきた高市首相と植田総裁の会談が実現するか、内閣改造で政策姿勢の変化がみられるかに注目したいと考えます。2026年の米ドル円相場では、高市政権の円安許容度の変化が重要だとみてきました。しかし、想定外に強い外圧を受け、円安抑制姿勢を強めざるを得ない状況に追い込まれつつあるといえそうです。
ビハインドザカーブ懸念後退で円高圧力が強まるか
過去1年程度の為替市場では、日銀が利上げしても円高で反応しにくい状況が続いてきました。背景には、日銀の利上げペースが遅く、インフレ抑制には不十分との懸念があったとみられます。日銀がビハインドザカーブ(金融政策正常化の遅れ)に陥っているとの見方から、インフレ期待が抑制されず、実質金利が上昇しにくい状況にありました。債券市場の参加者も利上げの打ち止め時期を見通しにくく、日本国債を買いづらい状況でした。
(出所)ブルームバーグ、野村證券市場戦略リサーチ部作成
外圧も加わって利上げペースの加速が実現すれば、インフレの上振れリスクやビハインドザカーブへの懸念は後退し、日銀の利上げに対して円高で反応しやすくなるでしょう。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗 - 為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半にわたるニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。
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