2026.08.05 NEW
「機械受注」からAI・半導体分野の成長を読み解くには? 経済統計の見方 野村證券・伊藤勇輝
撮影/タナカヨシトモ(人物)
エコノミストは先行きの経済を見通すために、毎月数多くの経済統計を見ています。その中から、ビジネスパーソンの参考になる経済統計を紹介します。今回は、企業の設備投資の動向を把握するために役立つ内閣府の「機械受注統計」を取り上げます。日頃、日本経済の分析・見通し作成を担当する野村證券経済調査部の伊藤勇輝エコノミストが、分かりやすく解説します。
AIブームの兆候を日本の経済統計から読み解くには
- 数多くある日本の経済統計から半導体関連製品の輸出が今後増えるかどうかを読み解くためには、どのデータに注目すれば良いでしょうか。
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数カ月先の景気の動きを示す先行指数の1つである内閣府の「機械受注統計」が、手がかりになるでしょう。設備投資の流れと主な経済統計との関係を整理した下記の「企業部門のフローチャート」をご覧ください。企業は「①設備投資計画」から「⑥稼働」までのサイクルを繰り返しています。機械受注は「②発注」の状況を把握するのに役立つ経済統計です。もし「②発注」段階で半導体関連製品の需要が強ければ、今後、半導体関連製品の輸出増加や設備投資の強化につながる可能性があります。
(出所)野村證券経済調査部作成
機械受注から見える設備投資のシグナル
- 報道で目にすることもありますが、改めて「機械受注統計」について教えてください。
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内閣府が毎月公表している「機械受注統計」は、主要機械メーカーの機械受注実績と見通しを集計したものです。民間需要、官公需、海外需要など需要者(発注者)ごとの受注額を機種別に調査しています。GDP(国内総生産)ベースの設備投資の動向を占う上で参照されやすい経済統計です。ただし単月の振れが大きいため、数カ月単位で均して見る工夫も必要です。
| 統計名 | 機械受注(Machinery Orders) |
| 公表元 | 内閣府 |
| 公表時期 | 当該月の翌々月上旬 |
| 概要 | 機械製造業者が受注する設備用機械類の受注状況を調査したもの。設備投資動向を早期に把握することが目的。 |
| ポイント |
✔ 主要機械メーカーの機械受注実績と見通しを集計。 ✔ GDPベースの設備投資に3~6カ月程度先行する傾向がある。 ✔ 景気が持ち直しているときに、機械受注残高が増えやすい。 ✔ 船舶への受注や電力会社からの受注は単価が大きいため、不規則な動きをする。このため、「船舶・電力を除く民需」がコア部分として主に参照される。 ✔ さらに、大型案件(1件で100億円を超える案件)の影響も受けやすく、振れが大きい。何か月か均した数値で見るなどの工夫も必要。 |
(出所)内閣府資料より野村證券経済調査部作成
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7月15日に公表された直近の機械受注統計を見てみましょう。赤線で示した船舶・電力を除いた5月分の「コア機械受注」は、市場(ブルームバーグ調査中央値)では前月から4%程度の減少が予想されていましたが、蓋を開けてみると、前月比で12.4%減の9,620億円でした。ただし、5月の減少は、4月に受注が大きく増えていた造船業、運輸・郵便業、電気機械工業などの短期的な反動減とみられ、企業の設備投資意欲が後退するシグナルとまでは読み取れません。
(出所)内閣府、国土交通省資料より野村證券経済調査部作成
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加えて、GDPの設備投資を見る上では、コア機械受注だけでなく、電力・船舶を含めた民需全体で確認することも重要です。グレー線で示した5月分の「機械受注(民需全体)」は、前月比+37.4%と急増しました。単月の振れが大きいため四半期で均すと、4月・5月平均は1月~3月平均比で20.4%増加しました。機械受注がGDPベースの設備投資に先行する傾向があることを踏まえると、目先、設備投資が底堅く推移すると見る野村證券の経済見通しをサポートする材料と言えそうです。
急増した背景としては、電力業(前月比寄与度+46.1%ポイント)が挙げられます。公表元の内閣府によれば、電力業からの受注には大型案件(1件で100億円を超える案件)が3件含まれ、いずれも「火水力原動機」(タービンや水車など)の受注のようです。
「電子計算機等」の海外需要の強さが意味することは
- 機械受注の概要や足元の状況は理解できました。この統計を活用し、今後のAI・半導体関連の伸びを確かめるには、どの項目に注目したら良いでしょうか。
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機械受注は「電子・通信機械」「産業機械」「工作機械」といった機種別でも受注額が公表されているため、半導体関連製品・汎用コンピューターなどが含まれる「電子計算機等」の受注動向は参考になるでしょう。具体的に、米国のハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)のデータセンター投資が、日本の半導体関連産業にどう波及するかを考えてみましょう。
下の図表は機種別に見た機械受注(外需)の動向をまとめたものです。電子計算機等(青線)の海外需要が2026年5月にかけて急伸しています。AIの計算処理やデータ解析を担うデータセンターなどでは、同機種が欠かせません。グローバルなAIブームが、半導体関連製品(半導体・半導体製造装置)の輸出増という形で、機械に対する外需の追い風になっている可能性があります。
(注)季節調整は野村による。四半期ベースで表示。
(出所)内閣府資料より野村證券経済調査部作成
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機械製品の受注から生産、出荷までには一定のタイムラグ(時間差)が存在します。足元の受注の強さは、先行きの輸出や設備投資が増える予兆を示している可能性があります。
- 今後は、海外からの電子計算機等の受注額がどこまで伸びるのかに注目すれば良いのでしょうか。
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どちらかというと、AIブームの国内景気への影響を見る上では、どこまで上昇するかよりも、どこまで継続するかのほうが重要だと考えています。機械受注から景気インパクトを推計するのは難しいのですが、「期間」であればある程度の察しがつきます。例えば、電子計算機等の受注がある程度落ち着いてくれば、その影響は2~3四半期後の実体経済に影響が出てくる可能性があります。つまり、AIブームの落ち着きどころを見極める材料として、役立つでしょう。
- 野村證券経済調査部 エコノミスト
伊藤 勇輝 - 2020年早稲田大学政治経済学部卒業後、野村證券入社。経済調査部へ配属後、一貫して日本経済の分析・見通し作成に従事。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。
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