2026.06.04 NEW
植田総裁講演を踏まえ、野村は日銀の6月利上げ予想を維持 野村證券・森田京平
写真/タナカヨシトモ(人物)
日本銀行の植田和男総裁は2026年6月3日、きさらぎ会(共同通信社の講演会組織)で講演しました。野村證券金融経済研究所チーフ・エコノミストの森田京平は、今回の講演について、6月の決定会合での利上げを明言したわけではないものの、利上げを議論する姿勢を改めて示したとみています。以下、詳しく解説します。
植田総裁講演:(1)6月利上げの確約とは言えず、(2)野村は6月の利上げ予想を維持
今回の講演は、6月の金融政策決定会合(15~16日開催)の約2週間前に当たります。市場では、日銀が利上げを検討しているのであれば、2025年1月と12月の利上げ時と同様、今回の講演が利上げに向けた地ならしの場になりうるとの見方がありました。
実際には、今回の講演が6月の利上げを明確に示したとは言えません。ただ、日銀が景気の下振れリスクよりも物価の上振れリスクを重視しながら、政策運営を進める姿勢は改めて示されました。野村證券は引き続き、6月の決定会合での利上げを予想しています。
ポイント:(1)物価の上振れリスク重視、(2)金融市場への影響にも配慮
中東情勢の行方と、それが経済・物価に及ぼす影響が不確実な中、日銀は2026年4月の決定会合で、経済・物価見通しの確度(第1の柱)だけでなく、リスク(第2の柱)にも十分目配りしながら政策を運営する姿勢を示していました。今回の講演からは、植田総裁が経済・物価の中心的な見通し(第1の柱)への自信を深めたとの印象までは得られませんでした。
一方、リスク(第2の柱)については、景気の下振れリスクと物価の上振れリスクを比較したうえで、後者への警戒をより明確に示しました。例えば「これまでに明らかとなっているデータやヒアリング情報等を踏まえると、全体として物価上振れリスクの方が大きく、より早く表れてくる可能性が高い」、「経済の下振れリスクを意識しつつも、物価上昇率が大きく上振れていくリスクが顕在化し、それがその後の経済に悪影響を及ぼすことを、より警戒する必要がある」といった発言がありました。
利上げの遅れが金融市場に及ぼす悪影響にも警戒を示しました。「適切な金融政策運営によって、インフレが適切にコントロールされていくという市場の信認を確保することが重要」、「必要な対応が遅れ、あとで却って大幅な利上げを余儀なくされるような状況になれば、景気のみならず、金融市場や金融システムに大きな負荷をかける恐れ」との発言に、そうした警戒姿勢が表れています。
6月決定会合:条件付きながら利上げの議論に言及
先行きの政策運営については、「中心的な見通しが実現する確度が高まっていくと判断できれば、これまでと同様、適切なペースで政策金利を引き上げていくことになる」、「仮に不透明な状況が続くとしても、先行き、経済の下振れリスクに比べて、物価の上振れリスクが高まると判断される場合には、(中略)、利上げの是非についてしっかりと議論する必要がある」と述べました。
末尾の表現は、事実上の利上げ予告を行った2025年12月の総裁講演での「利上げの是非について、適切に判断したい」という表現と似ています。一方で、(1)次回会合で議論するとまでは明示していないこと、(2)「判断できれば」「判断される場合には」など一定の条件を付けていることは、2025年12月講演との違いです。こうした点を踏まえると、今回の講演が6月利上げを決め打ちしたものとは評価しにくいです。
それでも野村は、6月会合での利上げ予想を維持します。植田総裁が(1)物価の上振れリスクを重視する姿勢を示したこと、(2)利上げの遅れによる金融市場への負荷にも言及したことなどを踏まえた予想です。
加えて、講演を受けて市場が織り込む利上げ確率が9割弱まで高まったことも無視できません。こうした環境で日銀が6月会合で政策金利を据え置けば、それ自体が市場にサプライズをもたらし、ひいては市場に負荷をかけるきっかけになりかねません。そもそも植田総裁が6月利上げを有力視していないのであれば、今回の講演では、政策金利の据え置きをより強く示唆するメッセージを発していたはずです。
- 野村證券 金融経済研究所 チーフ・エコノミスト
森田 京平 - 1994年九州大学卒業、野村総合研究所入社。英国野村総研ヨーロッパ、野村證券金融経済研究所を経て、バークレイズ証券(2008~2017年)およびクレディ・アグリコル証券(2017~2022年)にてチーフ・エコノミストを務めた。2022年7月より現職。2000年米ブラウン大学より修士号(経済学)、2018年九州大学より博士号(経済学)を取得。共著に『人口減少時代の資産形成』(東洋経済新報社)、『現代金融論 新版』(有斐閣)など。
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