2026.07.15 NEW
出遅れ中国株、再浮上のきっかけは? 「K字型経済」、「エモ消費」、「客単価」に注目 野村東方国際証券
中国株が伸び悩んでいます。中国本土の2市場に上場する有力企業300社で構成するCSI300指数は2025年末と比べおよそ5%高と、S&P500種指数(10%高)や日経平均株価(30%高)など、日米の主要株価指数と比べて出遅れ感が目立ちます(6月26日時点)。野村東方国際証券によると、AI(人工知能)市場の急成長が中国の株式市場をけん引する一方で、K字型への分化が進む個人消費の弱さなどが上値を抑える要因になっているようです。個人消費動向を中心に、中国景気の先行きについて、野村東方国際証券のA株(中国本土株)ストラテジーアナリストの宋勁(ソン・ジン)が詳しく解説します。
(注)野村東方国際証券は中国を拠点にビジネスを展開する、野村グループの総合証券会社です。
不振の個人消費、政府施策は需要の「総量拡大」につながらず
- 中国景気の現状について教えてください。
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中国・国家統計局が6月16日に発表した5月の社会消費財小売総額(小売売上高)は前年同月比0.6%減で、市場予想も下回りました。6月10日発表の5月のCPI(消費者物価指数)は同1.2%上昇しており、物価の変動を除いた実質ベースでみると、小売売上高は同1.8%程度減少した可能性があります。
背景には、中国政府が消費拡大の支援策として2025年から実施している、買い替え促進策の規模縮小があります。中国政府は自動車などを含む高額な消費財の購入などに対して補助金を支給していますが、2026年は2,500億元と2025年(3,000億元)比で500億元減り、個人消費の減退につながっています。
実際、2026年1-5月の国内乗用車市場の小売販売台数は累計709.9万台と、前年同期比で19.5%減と大幅に落ち込みました。一方、同期間の輸出台数は337.3万台で同68.1%増と大きく伸び、内需の弱さを外需が補っている格好です。家電・音響映像機器の売り上げも減少しています。
個人消費がさえない理由には、中東情勢の緊迫化を受けた原油価格の上昇や、AI市場の拡大に伴う半導体価格の高騰などもあると考えています。2021年以降の不動産市場の低迷も、資産効果などを通じて悪影響を及ぼしているのでしょう。
- 中国国内での自動車販売の不振は深刻ですね。
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はい。中国政府は買い替え促進策が始まる以前から、新エネルギー車取得税の減免も実施していました。この減免の幅もだんだんと縮小されています。この間、中国の大手自動車メーカーであるBYD(比亜迪汽車工業有限公司)などが激しい競争環境の中で高頻度のモデル改良と継続的な値下げを進め、1年の間に何度もマイナーチェンジ・値下げを行っていました。そのことで様子見をしていた消費者なども購入に踏み切り、今後数年分の潜在需要の「先食い」が発生しました。長引く不動産市場の低迷も需要の重石となっており、中国政府の一連の施策は需要の「総量拡大」につながっていないのが現状です。
個人消費の先行きを占う「K字型経済」、「エモ消費」、「客単価」
- 個人消費は今後、回復に向かうのでしょうか。
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中国の個人消費には構造的な特徴がみられ、先行きを占ううえで当社は以下の3点に注目しています。
(1)K字型経済(K字型分化)
個人消費のK字型分化が進んでいます。高価格帯と低価格帯の消費が好調な一方で、中価格帯の消費は相対的に弱いです。低価格帯消費の強さは、所得増加への期待が低下する中、家計がコストパフォーマンスを重視した消費を選好していることを示しています。この傾向は、2022年下半期以降、弱含みで推移するCPIからも裏付けられます。一方、高価格帯消費では、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)やケリングなど世界的なラグジュアリー企業の1-3月期の中華圏売上高が前期比で改善を続けており、富裕層消費に持ち直しの兆しがみられます。
(2)エモ消費(情緒消費)
エモ消費とは、精神的な満足を目的とする消費行動であり、ファンダム経済(推し活経済)、グッズ消費、AIコンパニオン、癒し消費などが含まれます。2025年に人気を集めた「トレンドトイ(潮玩)」も、こうした消費トレンドを代表する例です。例えば、ウサギのような外見のモンスターで世界的な人気を誇るキャラクター「ラブブ(LABUBU)」を展開するポップマート(POP MART、泡泡瑪特国際集団)の中国売上高は2025年に135%増と大幅に伸び、2026年1-3月期も100〜105%増を維持しました。同期間の消費関連業種の売上高はそれぞれ0.9%減、3.5%増であり、エモ消費の勢いの強さが分かるでしょう。
(3)客単価
中国の外食産業調査機関である紅餐産業研究院によると、2025年の飲食分野における1人当たり消費支出は前年比3.5%減だったものの、2024年の11.5%減と比べて下落率は縮小しました。軽食・ファストフードや火鍋などでは、平均客単価が下げ止まりつつあります。上場している主要ホテルのRevPAR(販売可能客室1室当たりの収益)も、2024〜2025年にかけて2年連続で低下した後、2026年1-3月期には下げ止まり、持ち直しています。こうした動きは、店舗数の縮小による供給面の調整や、価格競争の緩和を反映している可能性があります。
(4)その他
以上はモノ消費に関連したテーマですが、中国ではサービス消費も増えています。足元では、国際消費中心都市へのインバウンド客数が急増しているほか、コンサートや音楽フェスが広く支持を集め、サッカーの「蘇超(江蘇省スーパーリーグ)」や「村BA(中国の農村バスケットボール大会)」などの地域スポーツイベントも話題を呼ぶなど、サービス消費市場の裾野は拡大しています。こうした背景には、消費構造の高度化に加え、政策面での下支えがあるとみられます。
例えば2026年には、多くの地域で教育当局が小中学校の春休みを導入しており、その多くは清明節や労働節休暇に合わせた連休設定となっています。中国政府は2025年9月に「サービス消費拡大に関する若干の政策措置」を公表し、サービス消費を国民生活の向上や消費の転換・高度化を促す重要な方向性として位置づけました。学生の休暇制度の最適化、地方スポーツイベントへの支援、訪中外国人の誘致など、いずれもサービス消費の拡大を後押しする施策を推進しています。
中国株を再浮上させる成長ドライバーは
- 中国景気の先行きを読むうえでのポイントを教えてください。
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これまで紹介した消費関連指標の弱含みは、消費支援策による前倒し需要の発生や、そもそもの中国の内需の弱さが主な背景です。不動産バブルの調整が続く中、家計の可処分所得の伸びも鈍化しており、消費者心理の改善を阻んでいます。個人消費は不動産市場との連動性が高いことから、不動産市場が底入れし、所得面でのK字型分化が一定程度緩和されることで、中国の消費は再び回復基調に転じると期待しています。
投資家の観点からみると、個人消費や内需の弱さはある程度織り込んでいると考えています。中国株市場は日本や韓国、米国などと同様にハイテク株への注目度が高いですが、中長期的にみればバリュエーションの調整が進んだ消費関連セクターの投資妙味は高まりつつあるのではないでしょうか。株価が回復トレンドに向かうには手掛かりが必要ですが、「ラブブ」のように中国発の「消費の海外展開」が新たな成長機会になる可能性はあります。
そのため、当社では中国の消費政策の方向性、消費関連企業の輸出拡大、新しい消費領域における需要の掘り起こしなどに注目しています。具体的にはインバウンド観光、ショートドラマ、トレンドトイ、モバイルゲーム、コンソールゲーム、日本でも広がりつつある新タイプ茶飲料などが、次の成長ドライバーとなり得るでしょう。
- 野村東方国際証券 A株(中国本土株)ストラテジーアナリスト
宋勁(ソン・ジン) - 2019年12月に野村東方国際証券に入社し、現在までA株(中国本土株)ストラテジーアナリストを務める。以前は申港証券でA株ストラテジーのチーフアナリストおよび消費財セクターのアナリストを務めていた。申港証券入社前は、東興証券と元大証券でそれぞれアナリストおよびリサーチアシスタントを務めていた。
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