2026.07.01 NEW
トランプ大統領に米中間選挙の切り札はあるか? イラン情勢が落ち着いても株式相場の乱高下は続くか 野村證券・吉本元
撮影/タナカヨシトモ(人物)
米国の中間選挙を11月に控える中、トランプ米大統領の言動が注目されそうです。米国とイランが戦闘終結に至るかどうかは不透明な情勢が続いており、仮にイラン情勢が落ち着いても、支持率が低迷するトランプ大統領が繰り出す一手によっては株式相場の乱高下が続くかもしれません。米国の政治情勢の見通しについて、野村證券経済調査部地政学・政治アナリストの吉本元が解説します。
イラン攻撃の成果乏しく、さらなる軍事行動の可能性は低い?
- 米国とイランの戦闘終結に向けた協議が進んでいます。トランプ大統領にとってイラン攻撃の成果は出たと言えるのでしょうか。
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米国とイランは戦争終結に向けた合意にこぎ着けましたが、米国内で3つの批判が出ています。1つ目は、成果です。イランによる核兵器開発の阻止という最終的な目標については合意に至っていません。2つ目は、世界的な原油価格上昇を招いたことです。トランプ大統領はイランの現体制と軍事力に壊滅的打撃を与えれば、イランがホルムズ海峡の封鎖に動けないであろうと、もう少し楽観的にみていたようです。しかし、実際にはイランはホルムズ海峡を封鎖するだけの軍事力を失いませんでした。原油高騰により、米国内でガソリン高を招いています。3つ目は米国の財政への影響です。巨額の戦費が米財政への重荷となり、中間選挙前に減税のカードを切ることが出来なくなったとみています。
さらに、イランがホルムズ海峡の通航を管理しようとしたり、イスラエルがレバノンの代理勢力(親イラン勢力)のヒズボラへの攻撃を続けたりすれば、合意が立ち消えてしまうかもしれません。当事国の米国、イスラエル、イラン、そして仲介国のパキスタン、カタールの忍耐が試されています。
そして、60日間の協議期間内に、イランの核兵器開発阻止、米国による対イラン制裁の解除、ホルムズ海峡の航行の恒久的な開放について詳細を詰め、最終合意できるかも不透明です。最終合意が得られない場合、60日後に戦闘再開とならないよう、当事国、仲介国の間で協議期間の延長などを検討する可能性の方が高いとみられますが、不安定な状況が続き、問題解決には時間が掛かりそうです。
- トランプ大統領としては不本意な中で中間選挙に向かっていく流れになりそうですが、支持率回復のためにどんな手を打ってきそうでしょうか。
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トランプ大統領が中間選挙前にとり得る方策はあまり多くなさそうです。トランプ大統領は、今年に入り、ベネズエラ、イランと立て続けに攻撃を加えましたが、イランでの不首尾を覆そうとして、さらなる軍事行動に踏み切るとの懸念があります。相手国はキューバが想定されます。
実際、トランプ政権がキューバに対する圧力を強めています。米司法省は、キューバのラウル・カストロ元国家評議会議長らを殺人などの罪で起訴したと発表しました。ベネズエラ攻撃の前に同国のマドゥロ大統領を起訴したのと同じ構図です。加えて、米軍は原子力空母ニミッツをカリブ海に展開すると表明しました。そして、ベネズエラを1月に制したことで、キューバへの原油の供給ルートを制圧し、経済制裁を通じた圧力もかけています。
- 米国がキューバへの軍事行動に踏み切るとしたら、成果は得られるのでしょうか。
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軍事攻撃の一歩手前とも言える状態に来てはいますが、問題点が5つあり、現状では、軍事攻撃実施までには至っていません。1つ目は、岩盤層と言われるコアな保守層の支持を失いかねないという問題です。そもそもトランプ大統領は2024年の大統領選挙の際に、「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」を提唱し、自国優先の孤立主義を掲げていました。「外国に関与、介入しない」と有権者に訴えていたにも関わらず、今後、キューバへの攻撃に踏み切れば、公約違反との声が一層高まりそうです。イランでの不首尾を挽回するためにキューバを攻撃しても、孤立主義に賛同してトランプ大統領に票を投じた有権者の支持をつなぎとめるのは困難ではないかとみています。
2つ目は、キューバの現体制を打倒しても、キューバ国民に歓迎される保証がない点です。キューバでは、長年、米国に介入され、経済的にも搾取されてきたとの考え方が根強くあります。そう簡単に親米的になるとは思えません。1959年に起きたキューバ革命も、米国寄りの政権への反発が背景にありました。現体制を快く思っている人も多くないとみられますが、米国主導の統治がキューバ国民に受け入れられるかどうかは不透明です。
3つ目は、ベネズエラの時のように軍事作戦が短期間に成果を上げるか不透明です。イランやキューバは、米国からの攻撃に常に備えてきました。米軍がキューバを空爆しても、政権が地下などに潜伏し体制存続をアピールすれば、地上軍を投入せざるを得なくなります。そして、ゲリラ戦に引き込まれれば、紛争が長期化する恐れもあります。
4つ目は、米国がキューバに侵攻すれば大量の難民が発生する懸念があります。その際、最もキューバに近い避難先として難民が米国に流入する可能性が高いとみられます。戦禍を避けるだけではなく、経済的な理由で米国に渡ろうとする難民も出てくるでしょう。移民の受け入れに不寛容なトランプ政権が、そうした難民を受け入れられるのか、ジレンマを生むでしょう。
そして5つ目は、得るものが乏しいことです。トランプ大統領は、ベネズエラ攻撃に際し、石油利権獲得に強い関心を示していました。利権獲得には成功しませんでしたが、イランも有力な産油国です。ところが、キューバは石油を産出しません。砂糖、トロピカルフルーツ、煙草などの農産品はありますが、軍事攻撃の見返りとして十分な利益とは言い難いでしょう。
インフレ抑制を主張、FRBに利下げ圧力も?
- 軍事行動以外には、どのような手立てが考えられますか。
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トランプ大統領の経済政策上の課題は、インフレ対策です。中低所得者にとって、必要なものが手ごろな価格で手に入り、暮らしに余裕が持てる状態を指す、「アフォーダビリティー」という言葉が2024年の大統領選挙以来、重要なテーマとなっています。
トランプ大統領は、2024年の大統領選挙でバイデン前大統領について、アフォーダビリティーを損ねたと批判していました。牛肉などの必需品が値上がりし、家賃も高騰していたからです。ところが、トランプ大統領は就任の初年に関税を引き上げてしまい、必需品の値段が上がり、むしろアフォーダビリティーを損ねるとの懸念を高めてしまいました。2025年11月の地方選挙では、共和党候補が敗北する事例が相次ぎました。
その上今年に入っても、イラン攻撃によってガソリン価格を押し上げてしまっています。このため、上述したように、トランプ大統領にとって、イランとの合意では、原油価格を下げるため、ホルムズ海峡の開放を最優先にせざるを得ず、攻撃の成果を十分に上げられなかったと言えます。
- インフレ対策の有効な手立てはあるのでしょうか。
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トランプ大統領は、イランとの合意で原油価格が下がっているのに、石油会社がガソリンで暴利を得ていると批判し、司法省に対して調査を命じたと述べています。もっとも、イランとの合意は脆弱なもので、ホルムズ海峡の開放が維持されるのか不透明感があります。また、在庫や精製の状況など米国内のガソリン市場に独自の要因があり、トランプ大統領の圧力だけでガソリンが値下がりするとは言い難い面があります。
一方で、物価高対策の財源にも欠けています。昨年の大規模減税で財政赤字が減らない上に、イラン戦争で戦費が拡大しています。このため、今年の予算教書では、トランプ政権は減税を要求していません。
政治的混乱が深まれば、株式市場に波及か
- トランプ大統領の動向が、米金融市場の不安定要因になりますか。
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トランプ大統領は、昨年の関税政策において株価が下落すると発動を見送ったり、関税率を引き下げたりして政策の手を緩めていました。その結果、株価が回復することから、「TACOトレード」と呼ばれ、株式市場の楽観論を支えてきました。
(注)TACOはTrump Always Chickens Out(トランプ大統領はいつも怖気づいて引き下がる)の略。TACOトレードは市場のトランプ関税への楽観的な見方を示す。
一方で、米雇用統計などで強い数字が出てくれば、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレを警戒するのではないかという見方から、株価の上値が重くなる展開も予想されます。
そうなると、トランプ大統領は、FRBのケビン・ウォーシュ議長に対して、原油価格低下を理由に利下げを要求してくるかもしれません。ウォーシュ氏は5月に議長就任したばかりですが、ジェローム・パウエル前議長の時と同じような政治的圧力にさらされる可能性がありそうです。こうしたFRBの独立性の侵害が、金融市場の不安定要因になるリスクに注意が必要でしょう。
さらに、トランプ大統領が、民間企業を槍玉にあげ、圧力をかける展開にも注意が必要でしょう。上述した石油会社への圧力は既に出てきています。また、トランプ大統領は、AI(人工知能)向けのデータセンターの建設により電気料金が値上がりするようであれば、電気料金の上昇分をテック企業が負担すべきだという発言もしています。足元でAI・半導体株が牽引してきた相場上昇に冷や水を浴びせるようなトランプ大統領の言動に対して、市場が懸念を強めることも考えておかなければならないでしょう。
- 米国政治の先行きに注意が必要になっていきそうです。
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2001年9月11日に米同時多発テロの起きた翌年の中間選挙では、ジョージ・W・ブッシュ大統領の与党の共和党が上下院の過半数を維持しましたが、それを除くと、1990年代以降、どの政権でも中間選挙で与党が過半数を失っています。トランプ大統領自身も1期目の中間選挙(2018年)で共和党が下院で過半数を失いました。
今回の中間選挙で、共和党が上下両院のいずれかで過半数を失えば、トランプ大統領の思惑どおり予算や法律が通らなくなるいわゆる「レームダック」化のリスクが顕在化しそうです。政府閉鎖や債務上限の引き上げを巡る与野党対立といった政治問題が浮上し、米政治の混乱の度合いが深まっていくことも予想されます。
また、下院で民主党が過半数を獲得すれば、第1次政権と同様に、トランプ大統領に対する弾劾訴追が行われ、トランプ大統領が捜査に反発するような政治的混乱にも注意する必要があります。株式市場への影響について、中間選挙前だけでなく、選挙後の政治動向も、よく見ていく必要があります。
- 野村證券 金融経済研究所経済調査部 シニア・エコノミスト(政治・地政学調査)
吉本 元 - 1993年に野村総合研究所に入社し、経済調査部配属。1999年、東京大学大学院経済学研究科入学、2001年に経済学修士号取得。野村證券金融市場情報管理部、米国野村證券、野村證券金融経済研究所経済調査部を経て、2009年に外務省に出向し、在英国日本大使館に着任。2011年、野村證券金融経済研究所に帰任。国内外のリスク分析(政治政策、地政学リスク、政治動向など)を担当。
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