2026.08.03 NEW
日米協調為替介入で円安是正は新局面入り 日銀利上げ圧力が高まる可能性 野村證券・後藤祐二朗
写真/タナカヨシトモ(人物)
日本と米国の両政府が2026年7月31日、円買いの協調為替介入に踏み切り、米ドル円相場は円高方向に大きく振れました。日米協調介入は2011年以来15年ぶりとなります。なぜこのタイミングで異例となる協調介入を実施したのか、また、その影響や今後の見通しについて、野村證券チーフ為替ストラテジストの後藤祐二朗が解説します。
米国がユーロ売り円買い介入を実施したとの報道
米財務省が7月31日にNY連銀を通じてユーロ売り円買い介入を実施したとFTが報じました。また、ロイターは、31日の閣議において、ベッセント米財務長官の手元にあった「日本円を50億米ドルから100億米ドル購入」とのメモを撮影したと報じています。共同通信は「日米両政府が早ければ週明けにも、円安の是正に向けた方針を表明」と報じました。日本の財務省は8月3日、財務大臣談話を発表し、米財務省と協調して7月31日に円買い介入を実施したと説明したうえで「今後、更なる協調介入を実施することも躊躇しない」とコメントしました。市場の警戒感は高まるでしょう。
7月30日の円買い介入とおぼしき円高に際しては、NY連銀がレートチェックを実施したと報じられ、ベッセント財務長官も「円は著しく過小評価されている」「円上昇は懸念していない」と発言し、介入容認の姿勢を滲ませていました。三村淳財務官も31日には、為替介入について「ノーコメント」とした上で、「精神的支援を超えるものを米国当局から頂いている」と発言しています。
本邦当局の円買い介入に対する米国側の支援姿勢は、既に明確と言えましたが、仮にユーロ売り円買い介入での協調があったとすれば、米国と日本の円安抑制に向けた協調姿勢は新たな段階に入った可能性があります。米財務省が7月23日に公表した半期為替報告では、円相場について「大幅に過小評価されている」「円の過度な変動は望ましくない」との判断が示されていましたが、重要な伏線だったのかもしれません。
自国通貨売りでの介入は回避、ユーロ売り円買いで協調姿勢を示したか
1月時点でNY連銀が円相場についてレートチェックを行うなど、米国側の円安是正に向けた意向は明らかとなっていました。もっとも、米国を含むG7は「競争上の目的で為替相場を目標としないことを再確認」「すべての国が競争的な通貨切り下げを控えることの重要性を強調」と合意しています。米財務省の為替報告書も自国通貨売り介入を継続的にモニターしており、米当局は対日本を含めて自国通貨売り介入に対して厳しい態度を示してきました。
米当局が日本との協調で米ドル売り円買い介入に踏み切る場合、将来的に中国などによる自国通貨売り介入を誘発する材料となりかねず、協調介入のハードルは高いと見てきました。米側による日本の介入への協力は、あくまでもレートチェックや日本の資金を使っての委託介入などに留まる可能性が高いと見てきましたが、米ドル売りではなくユーロ売りとすることで、実弾による円買い協調介入に踏み切った可能性は否定できません。
過去の日米協調介入は相場の転換点に前後して実施
日本と米国が協調での介入に踏み切った例は限定的ですが、1995年と2011年の円売り米ドル買いによる協調介入、1998年の円買い米ドル売り介入は、概ね米ドル円相場の転換点前後に行われています。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
協調介入に際する米国の介入金額は少額(1995年:11.3億米ドル、1998年:8.3億米ドル、2011年:10.0億米ドル)であり、協調による介入であることの心理的インパクトが重要と言えるでしょう。米国側の協調による介入参加が確認されたことで、市場参加者の間で円高転換への警戒感が強まる可能性があります。
日銀への利上げ圧力が高まる可能性
日米協調介入が、実際に円高へのトレンド転換につながるかは、今後のファンダメンタルズの変化に依存するでしょう。原油価格や米金融政策といった外部要因に加えて、国内材料では日本銀行(日銀)の政策姿勢の変化につながるかが焦点となります。
この点では、米財務省が公表した為替報告書で日本に関し、「金融政策の正常化はインフレ期待を安定させ、過度な為替変動を抑制する上で有効」と表記されていたことが重要でしょう。円安是正への協調に際し、米国側が本邦当局に対して金融政策の正常化加速への要求を強める可能性は否定できません。
ベッセント財務長官は日銀7月会合後、SNSにて「日本経済は引き続き良好」と発言し、日本銀行は「金融および金融システムの安定に向けた強いコミットメントを示した」との評価を示しました。また、8月末のG20財務相・中央銀行総裁会議に際して、植田和男総裁との会談を楽しみにしているとの意向も示しています。ベッセント財務長官は5月の植田総裁との会談後、「もし日本政府が植田総裁に必要なことをする余地を与えてくれるなら、素晴らしい金融政策が行われると確信」と発言していました。円安是正への協力の見返りとして、日銀の利上げを政府は容認すべきとの意向を一段と強める可能性もあるでしょう。
三村財務官も日銀7月会合後、「今後とも金融政策と緊密に連動しながら対応したい」と発言しています。7月会合では、金融緩和度合いの調整のタイミングやペースに関し、中東情勢に加えて「AI関連需要の拡大」や「為替相場の変動の影響」が加えられていました。日米当局の意向が影響した可能性も意識されるでしょう。円安圧力の再燃時には、日銀の利上げペースの加速機運が高まり、最短で9月会合での利上げといったシナリオの蓋然性が高まりそうです。
米当局の円安是正への協力姿勢の背後には、円安が日本のインフレ上振れにつながることで、日米債券市場が不安定化することへの警戒があると考えられます。高市早苗政権の財政政策運営に影響が生じる可能性にも注意しておきたいところです。
本邦当局は既に10兆円規模の介入実施か
なお、日銀当座預金からの推計では、本邦当局は6~7兆円程度の円買い介入を7月30日に発動した可能性があります。31日にも追加で介入を実施したことから、既に累計で10兆円規模に到達した可能性も否定できません。もっとも、財務省は8月1日にSNSにて、米国債を担保に米当局から米ドル資金を調達する仕組みがあると紹介し、米債市場に影響を及ぼすことなく、円買い米ドル売り介入を持続できることを示唆しました。米国の支援姿勢が明確な中、IMF(国際通貨基金)の通貨分類基準といった材料が日本の介入姿勢を縛るとも考えにくいでしょう。日米当局による介入の持続性は高いと見ておくべきです。
結論:協調介入が確認され米ドル円は155円割れに向かう可能性も
本邦当局による円買い介入が再発動したことに加え、米国による協調姿勢への警戒が高まったことで、先週の米ドル円相場は157円台半ばまで調整して引けました。CFTC(米商品先物取引委員会)が公表した7月28日時点の非商業部門の円ポジションは125億米ドルの円ショートと、2024年7月上旬以来のショート規模に達しており、ポジション調整余地は残るでしょう。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
米国によるユーロ売り円買いでの協調が確認された場合、日米当局の協調姿勢の高まりへの警戒から、短期的にはポジション調整が進展し、円買い圧力が強まる可能性に注意が必要でしょう。ゴールデンウィークにかけての円買い介入局面で割り込めなかった155円割れに向けて、米ドル円の下落が加速する可能性も意識する必要があります。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗 - 為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半にわたるニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
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