Research

野村リサーチ

2026.09.10 NEW

<円金利>円高・フラット化へトレンドが転換 利上げを前倒しするほどターミナルレートは低下の公算 野村證券・宍戸知暁

<円金利>円高・フラット化へトレンドが転換 利上げを前倒しするほどターミナルレートは低下の公算 野村證券・宍戸知暁のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

日銀の早期利上げ観測が強まるなか、高田審議委員の発言を契機に、円相場と円金利市場は円高・イールドカーブのフラット化へと転じました。利上げを前倒しするほど、インフレや期待インフレの加速が抑えられ、ターミナルレートは低くなりやすいと考えられます。本記事では、日銀の利上げ加速が円相場やJGB金利に及ぼす影響と今後の見通しについて、野村證券シニア金利ストラテジストの宍戸知暁が解説します。

<円金利>円高・フラット化へトレンドが転換 利上げを前倒しするほどターミナルレートは低下の公算 野村證券・宍戸知暁のイメージ

高田委員の発言で円高・フラット化へトレンドが転換

7月末の日銀金融政策決定会合と、その前後に米国の全面協力を得て実施した為替介入を契機に、日銀の早期利上げ観測が強まりました。ただ、先週前半まで円相場の反応は限定的でした。イールドカーブも、利上げ加速局面で典型的にみられるベア・フラット化というより、ほぼ平行に上方へシフトする動きに近く、超長期のJGB(日本国債)金利は高値を更新していました。

このトレンドを転換させたのは、日銀の政策委員会で最もタカ派とみられる高田創審議委員の発言でした。高田委員は7月会合で利上げ議案を提出しましたが、否決されました。このため、市場では同委員の意見は政策委員会の総意や執行部の見解を代表するものではないとみられていました。それだけに、発言がイールドカーブのフラット化と円相場反発のきっかけとなったことに、意外感を持った市場参加者も多かったようです。筆者も事前には、相場の転換点となり得るイベントとは認識していませんでした。

円為替レートとJGB長短金利スプレッド

<円金利>円高・フラット化へトレンドが転換 利上げを前倒しするほどターミナルレートは低下の公算 野村證券・宍戸知暁のイメージ

(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成

高田委員の発言が結果的に市場の転換点となった理由の一つは、25bp(ベーシスポイント)を超える利上げや連続利上げも選択肢になるという、インパクトのある内容だったことでしょう。同時に、2%の物価安定目標は達成されたとの見解を改めて示しました。基調的なインフレ率の押し上げを目指してきた従来と比べ、日銀の金融政策運営が大きく変わると指摘した点も大きかったと考えます。

具体的には、「最近まで、利上げに関する市場の織り込みは、2028年まで半年ごと(に25bp)のペースとの受け止めだった。しかし、2026年はそうした一定のペースという状況ではなく、海外のトレンドを中心に国内の物価・経済環境に応じた機動的な対応、『data dependent(データ次第)』となりやすい、(政策運営の)レジーム転換(の年だ)と考えている(カッコ内は筆者、一部表現を変更)」とのくだりです。

日銀金融政策運営への信認が高まったことが超長期金利低下、円反発の主な理由と思料

円相場の反発やイールドカーブのフラット化につながったのは、物価安定に必要な政策、具体的には必要なだけの利上げを日銀が実行できるとの市場の信認が高まったためだと考えます。市場の見方が変わるきっかけとなったのが、ベッセント米財務長官の主導による異例の「外圧」であることは論を待ちません。高田委員の発信は、日銀側からもこの点を追認する形となり、一種の「ダメ押し」として作用したのではないでしょうか。

信認維持に必要な特定の利上げペースやターミナルレートがあるわけではないと思料

日本の基調的な物価上昇率とインフレ期待を目標の2%付近で安定させるため、日銀が今後どのようなペースで、どこまで利上げすべきかについて、金融市場全体に定まった見方があるわけではないでしょう。原油価格やAIブームなど、日銀が最近警戒しているインフレの上振れ要因の動向によっても、利上げペースやターミナルレート(利上げ到達点)は変わるでしょう。重要なのは、原油価格などの所与の条件に対し、日銀が必要と考えるだけの利上げを適切なタイミングで実施できると、市場が自信を持てることだと考えます。

利上げを前倒しするほどターミナルレートは低くなる公算

もっとも、現状では日銀が利上げペースを加速するほど、ターミナルレートは低くなりやすいと考えます。川上での物価上昇の加速を踏まえると、今後半年間にインフレが加速する可能性は高いとみられます。緩やかな利上げでは、インフレの加速に政策金利の引き上げ幅が追いつかず、実質短期金利が低下する可能性があります。これは、中央銀行家や経済学者がいう「テイラーの原則」が満たされない状況といえます。足元で家計や企業のインフレ期待、特に短期の期待が上振れていることも、利上げを急ぐべきだとする根拠になるでしょう。

実質金利と名目金利(1年)

<円金利>円高・フラット化へトレンドが転換 利上げを前倒しするほどターミナルレートは低下の公算 野村證券・宍戸知暁のイメージ

(注)インフレ期待は短観の全規模全産業の1年先インフレ予想。
(出所)ブルームバーグ、日銀より野村證券市場戦略リサーチ部作成

消費者のインフレ期待と実績のCPI上昇率

<円金利>円高・フラット化へトレンドが転換 利上げを前倒しするほどターミナルレートは低下の公算 野村證券・宍戸知暁のイメージ

(出所)日銀、総務省より野村證券市場戦略リサーチ部作成

利上げペースが遅いと、実質短期金利が十分に上昇せず、インフレやインフレ期待がさらに加速する可能性があります。その場合、後から追いつくために名目短期金利を急速かつ大幅に引き上げなければならなくなります。ある意味では、日銀は現在、そのような状況に直面しているともいえます。すなわち、今年前半にイラン戦争の勃発を受けて利上げを見送った結果、実質金利が低下し、円安や長期・超長期金利の上昇に表れている市場のインフレ期待上昇を招いた、という解釈です。

日銀は引き続き、実質金利を金融緩和の度合いを示す指標として重視しています。上述のような論点が日銀内で認識されている可能性もあります。

日銀の利上げ加速を予想、超長期金利は低下へ

ホルムズ海峡を巡る米国とイランの対立は解決のめどが立っていません。原油価格が早期に急低下し、本邦のインフレ上振れリスクが後退するとは期待しにくい状況です。円安トレンドの是正は、為替介入だけでは難しいとみられます。日銀がトレンドの是正に必要なだけの利上げを実施し、政府がそれを許容することが不可欠になりつつあります。

野村證券では、7月の日銀金融政策決定会合とその後の日米協調による為替介入などを受け、金融政策見通し(政策金利見通し)を改定しました。改定後は、2026年9月、2027年1月、同年4月にそれぞれ25bpずつ利上げし、政策金利が1.75%まで上昇すると見込んでいます。

この利上げ予想の変更を受け、JGB利回りの予測値も全般に修正しました。利上げペースの加速を反映し、2027年度上期までの2~10年債利回りの予測値を全般に引き上げました。上述の通り、野村證券では2027年4月の利上げをもって利上げ局面が終了すると見込んでいます。この見方は2027年下期中に市場で広く共有されると想定し、改定後の予想では、2027年度下期に2年超~10年のイールドカーブが顕著にブル・フラット化すると見込んでいます。

超長期JGBは、発行減額や海外投資家などの買いに加え、低クーポン銘柄の処分売りも時間の経過とともに減衰すると見込まれます。需給の改善傾向が続き、市場機能も徐々に回復するなか、利回りを押し上げている各種のプレミアムは徐々に剥落するとみています。10年超の金利の絶対水準は徐々に低下し、2027年度には低下ペースが加速すると見込んでいます。

金利予測表

<円金利>円高・フラット化へトレンドが転換 利上げを前倒しするほどターミナルレートは低下の公算 野村證券・宍戸知暁のイメージ

(注)利回り予測のレンジはトレーディング・レンジ。特記ない限り、利回りは複利ベース。( )内は単利。単位は%。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成

<円金利>円高・フラット化へトレンドが転換 利上げを前倒しするほどターミナルレートは低下の公算 野村證券・宍戸知暁のイメージ
野村證券 市場戦略リサーチ部 シニア金利ストラテジスト
宍戸 知暁
2000年野村総合研究所入社。2003年からニューヨークの野村総研アメリカおよび米国野村證券で米国マクロ経済の分析に従事。2006年からマクロ経済分析を基礎とした米国債券市場の分析・予測を担当し、その後は米株式市場の分析およびマルチアセット・ストラテジーを担当。2022年から2年間、財務省理財局国債業務課で市場分析官として勤務し、海外市場および円金利市場の分析に従事した。2023年6月から円金利ストラテジー担当。 ファンダメンタルズ分析および中銀ウォッチを基本に、投資家の売買動向を含む市場需給見込みも加味した予測作成およびストラテジー構築を心掛けている。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

手数料等およびリスクについて

当社で取扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、年金保険・終身保険・養老保険の場合は商品ごとに設定された契約時・運用期間中にご負担いただく費用および一定期間内の解約時の解約控除、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。信用取引、先物・オプション取引をご利用いただく場合は、所定の委託保証金または委託証拠金をいただきます。信用取引、先物・オプション取引には元本を超える損失が生じるおそれがあります。証券保管振替機構を通じて他の証券会社等へ株式等を移管する場合には、数量に応じて、移管する銘柄ごとに11,000円(税込み)を上限額として移管手数料をいただきます。有価証券や金銭のお預かりについては、料金をいただきません。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。

株式の手数料等およびリスクについて

国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。国内REITは運用する不動産の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。国内ETFおよび国内ETNは連動する指数等の変動により損失が生じるおそれがあります。国内インフラファンドは運用するインフラ資産等の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。
外国株式(外国ETF、外国預託証券を含む)の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。
詳しくは、契約締結前交付書面や上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。

  • EL_BORDEをフォローする
  • Pick up

    ページの先頭へ