2026.07.24 NEW
日本株さらなる上昇の余地はあるのか? 5つのチェックポイントと年後半以降の見通し 野村證券・池田雄之輔
写真/タナカヨシトモ(人物)
日経平均株価は2026年前半に大きく上昇し、その動向は市場の注目を集めました。一方、足元で長期金利の上昇や円安進行など気になる動きも出ています。今後の日本株に対しては、どのようにみておくことができるでしょうか。野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が5つのチェックポイントを解説します。
デフレ脱却で利益成長が加速、海外投資家の買い余力も大きい
日本株は2026年前半、年初の予想を上回る力強い伸びとなりました。5つのチェックポイントをみる前に、まずはメインシナリオを確認しておきたいと思います。
2022年以降、日本企業の利益成長は力強さを増しています。TOPIX(東証株価指数)のEPS(1株当たり利益)は新型コロナウイルスのショックが明けてから、非常に力強く業績が拡大してきています。支えになっているのは日本の名目GDP(国内総生産)の拡大です。まもなく700兆円に達するところまで来ています。
(出所)Bloombergより野村證券市場戦略リサーチ部作成
次に、物価をみると、企業による値上げの力が着実に上がっています。国内の企業物価と輸入物価を比べると、かつては上がるときも下がるときも概ね一緒でしたが、最近は脱デフレの動きを反映し、輸入物価が上がらなくても国内物価が上がっていきやすくなっています。中東情勢の不安定化に伴いホルムズ海峡が封鎖された際、原油価格を中心に輸入コストが上がりますが、それをしっかりと価格転嫁する動きが出てきています。つまり、企業の利益率が上がりやすくなってきている状況と考えられます。
また、これまでけん引役となってきたセクターは、やはりAI・半導体関連です。2026年度の経常利益は年初の時点では6兆円あまりと予想されていたのが、6月時点では2.2倍の13兆円超となり、7月に入ってもまだ上方修正が続いています。
(注)各月末時点。予想はQUICKコンセンサス(東洋経済予想で補完)。AI・半導体関連銘柄(除くSBG)はイビデン、日本特殊陶業、三井金属、古河電気工業、住友電気工業、フジクラ、ディスコ、SMC、安川電機、KOKUSAI ELECTRIC、TDK、ヒロセ電機、アドバンテスト、キーエンス、ファナック、ローム、京セラ、太陽誘電、村田製作所、SCREENホールディングス、HOYA、東京エレクトロン、キオクシアHD。直近2026年7月の業績予想は7月17日時点。
(出所)QUICK、東洋経済新報社より野村證券市場戦略リサーチ部作成
企業業績に対する投資家の見方は劇的に変わってきており、このことが株高を支える重要なファンダメンタルズになっています。日本株は、企業業績に基づき、しっかりと地に足の着いた上昇トレンドをたどってきたと言えるでしょう。決算発表を控えて、いったん持ち高を調整する動きは出ていると思いますが、基本的には業績主導の相場になっていると考えられます。
さらに、海外投資家がどれくらい日本株を買ってきたかをみると、実はまだまだ対応力があり道半ばと評価できそうです。2012年の10月を起点としてみると、アベノミクスのピークだった2015年半ばまでの日本株買いは約25兆円でした。しかし、それ以降、ながらく売り越し基調となってきました。2025年4月からはようやく持続的に買われるようになっています。
(注)現物と先物の合計。直近は2026年7月10日時点。
(出所)東京証券取引所資料、大阪取引所資料、日本銀行より野村證券市場戦略リサーチ部作成
2015年半ばは、グローバルな時価総額ウェイトに対してほぼ同じくらいの日本株が保有されていた時期ですが、そこに戻る、つまり過少投資(アンダーウェイト)が解消されると考えるなら、まだ20兆円から25兆円程度は海外投資家が入って来られる状況にあると考えられます。この1年間は、米国株への一極集中からアジア株、中でも日本株に分散したいとの投資家の意向が色濃く表れています。
チェックポイント① 日本の名目GDP成長率と10年国債利回り
ここからは今後の投資戦略に向けた5つのチェックポイントをみていきます。まず1つ目は、金利です。日本の名目GDP成長率と10年国債利回り、つまり長期金利を比べることが大事です。長期金利が上昇していても、しっかりと成長の裏付けがあるところが最大のポイントとなります。
(注)名目GDPは四半期移動平均の前年同期比。2026年4-6月期は野村予想。
(出所)内閣府、Bloombergより野村證券市場戦略リサーチ部作成
市場が注目しているのは長期金利の3%ラインだと思います。名目GDP成長率も3%程度が巡航速度になると見込まれていますが、これを金利が上回ると、やや金融引き締めに近づいていくと解釈されます。成長率が金利を上回っている間は、金利は十分に低い「株高環境」と言えますが、両者が交差してくると、より「中立」に近い状況になります。
もっとも、日本の政策金利は日銀の利上げによって1%まで来ていますが、先物市場においてはこれが2%まで上がるところまでは既にしっかり織り込んでいます。野村證券としては、長期金利が実際に3%を突破して大きく超えていくということは、当面メインシナリオにならないと考えています。
チェックポイント② AI・半導体関連の気になるデータ
2つ目は、半導体関連の価格です。512MB(メガバイト)のNANDフラッシュメモリーは3米ドル前後で推移していたところから、1年足らずで24米ドルへと8倍になりました。そこから少し上がりにくくなってきたのは、需給逼迫に対して生産見通しが少し追いついてきたためでしょう。また、AIの使用方法の一種であるLLM(大規模言語モデル)の平均使用料も、6月からやや下降気味です。
(出所)Bloombergより野村證券市場戦略リサーチ部作成
両者には共通点があるとみており、具体的には、中国企業が半導体分野に進出してくる、あるいは米国企業より安価なAIモデルを提供するなど、いずれも「中国産」の台頭が警戒されつつあるということです。今後、価格指標をみて、需給バランスを見極める重要性が高まってきていると言えるでしょう。設備投資や生産能力、在庫の過剰は、基本的には価格に表れてきます。今後、価格が下がり続けるようであれば、半導体関連の業績見通しも少し調整する必要が出てくるかもしれません。
チェックポイント③ 日本株アクティブ投信の「攻め度合い」
3つ目は、日本株アクティブ投資信託におけるポートフォリオの中身です。個別証券やポートフォリオの収益が、証券市場全体の動きに対してどの程度敏感に反応して変動するかを示す数値である「ベータ値」をみると、1を上回っている時は攻めのポートフォリオで、より強く上がりやすい銘柄を多く組み入れていることになります。逆に1を下回っている時は下がりにくい銘柄を入れている守りのポートフォリオと言えます。
(注)対象は日本株公募アクティブ投信で残高上位50本。セクター・テーマ特化型のものは除外。過去100営業日のリターン系列とTOPIX(配当込み)のリターン系列をもとにTOPIXに対するベータを算出し、中央値を表示。
(出所)QUICK、JPX総研より野村證券市場戦略リサーチ部作成
ベータ値は1.1を超えており、ここまで強気に傾斜することは過去と比較してもあまりないことです。ファンドマネージャーもある程度リスク量のコントロールが必要ですので、強気一辺倒ではなくてバランスを取る意識が働く目安となる可能性があります。今まで機械や半導体関連の輸出が中心となりやすかったところから、徐々に内需も拡大してくるとか、あるいは化学などの素材にも物色のすそ野が広がるイメージで考えていくことができるでしょう。
チェックポイント④ 米中間選挙(2026年11月)をどうみるか
4つ目は、米中間選挙後の状況です。共和党が米議会で過半数を維持できる確率は上院の方が比較的高いのですが、下院は2割弱まで低下しています。もし共和党が上・下院とも勝利すれば、大きなサプライズということになるわけですが、トランプ米政権が積極財政のスタンスを維持できるようになれば、恐らく米国で株高・金利上昇の反応になるとみています。
(出所)Bloombergより野村證券市場戦略リサーチ部作成
(注)共和党が上院敗北・下院勝利となる確率は極めて低いと見込まれるため割愛。
(出所)野村證券市場戦略リサーチ部作成
逆に、上・下院とも敗北する可能性は40~50%あるとすると、サプライズ性は小さいですが、政策が停滞することによって小幅の株安・金利低下という見通しになるのではないでしょうか。
チェックポイント⑤ 米国企業は全体として「借りすぎ」には程遠い
5つ目は、米国企業の借り入れ状況です。全体として借りすぎかどうかの判定は、企業の貯蓄投資バランスで、100を超えている時はどちらかというと投資あるいは借り入れが大きいことになります。現在のAIブーム下の投資貯蓄比率は、過去のITブームの頃などと比べても、けっこう低いことがわかります。ニュースなどでは一部の業種や企業での過熱感が指摘されることもありますが、米国経済全体としてはかなり低いということです。
(出所)米国商務省より野村證券市場戦略リサーチ部作成
(出所)Bloombergより野村證券市場戦略リサーチ部作成
それから家計と非金融事業法人の借入残高の対GDP比をみると、コロナショック(GDPの一時的落ち込み)でイレギュラーに上がっている部分はありますが、やはり基調としては下がってきています。AI投資に積極的なハイパースケーラーを含め、米国企業全体でとらえると、懸念されるような借りすぎという姿からは程遠く、むしろかなり保守的な全体像がみえてきます。
日経平均株価メインシナリオは年末68,000円を予想
最後に、上述した5つのチェックポイントを踏まえ、野村證券の株価見通しに触れておきます。メインシナリオとしては、イラン情勢の緊張や原油高が7-9月には沈静化とみています。AI・半導体の需要拡大は基本に据えています。日本企業は今期、増益が予想されます。米国は景気拡大を維持しつつ、政策金利は据え置きでみています。日本では適度な財政刺激策を実施するという中で、日銀の緩やかな利上げをメインで置いており、日経平均株価は年末が68,000円、来年末は70,000円とみています。
日経平均株価の特徴としては、AI・半導体関連に影響されやすいため、半導体は好業績を積極的に織り込んできている中では、伸びしろについては若干慎重にみてもいいのではないかと評価しています。一方で、TOPIXに関しては、足元4,000前後ですが、そこから年末が4,200、来年末は4,400と上値余地が大きいと予想しています。
| 26年 12月 |
27年 6月 |
27年 12月 |
28年 6月 |
28年 12月 |
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|---|---|---|---|---|---|---|
| メインシナリオ:イラン情勢の緊張や原油高が7-9月にも沈静化、AI・半導体需要拡大。日米ともに「G>R」、26年度2桁増益、株数減少。米国は景気拡大を維持しつつ政策金利据え置き、日本では適度な財政刺激策実施のもとで日銀が緩やかに利上げ | TOPIX | 4,200 | 4,300 | 4,400 | 4,500 | 4,600 |
| 日経平均 | 68,000 | 68,500 | 70,000 | 70,500 | 72,500 | |
| 上振れ:AI・DX投資が想定以上の速さで生産性向上に貢献、賃金・消費の好循環、ROE改善につながる事業ポートフォリオ改革が生じる | TOPIX | 4,900 | 5,000 | 5,100 | 5,200 | 5,300 |
| 日経平均 | 78,000 | 78,500 | 80,000 | 80,500 | 82,500 | |
| 下振れ:イラン情勢の緊張再燃やAI・半導体ブーム失速、コーポレートガバナンス改革後退などで日米の「G>R」環境、26年度2桁増益、株数減少が成立しなくなるようなレジームシフト。日米マクロ政策が景気抑制に転じたり市場との対話に失敗 | TOPIX | 3,500 | 3,575 | 3,650 | 3,700 | 3,800 |
| 日経平均 | 53,000 | 53,500 | 55,000 | 55,500 | 57,500 | |
(出所)野村證券市場戦略リサーチ部作成
- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
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