2026.08.28 NEW

老後2,000万円問題のその後 ゆとりある生活のために必要な老後資金はいくら? 野村證券・山口正章

老後2,000万円問題のその後 ゆとりある生活のために必要な老後資金はいくら? 野村證券・山口正章のイメージ

写真/タナカヨシトモ(人物)

資産形成の目的として、老後資金の確保を挙げる方も多いでしょう。ただ、日本でもインフレが進み、生活にかかるコストの上昇が想定される中、老後を迎えるまでにいくら準備すれば足りるのか、明確な目標額を設定して資産形成をしている方はあまりいないかもしれません。2019年には金融庁の報告書をきっかけに「老後2,000万円問題」が注目されましたが、現在のデータで不足する老後資金を試算するといくらになるのでしょうか。野村證券投資情報部シニア・ストラテジストの山口正章が解説します。

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2025年の高齢者世帯データで老後資金を試算

2019年に話題となった「老後2,000万円」は、金融庁が2019年に公表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」が発端となりました。報告書では、「高齢夫婦の無職世帯では、公的年金だけでは毎月5万円超の赤字が生じ、夫が65歳、妻が60歳で定年後30年間生活すると、約2,000万円の貯蓄が取り崩される」という試算結果が示されました。

この報告書では2017年の家計調査報告のデータが使われましたが、2025年のデータを使って同様の方法で計算すると、不足金額はいくらになっているでしょうか。下の表をご覧ください。2025年の不足額(30年分)は1,534万円となり、2017年と比べて、428万円減少しました。

世帯主が無職の高齢者世帯の月間家計収支と不足額

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(注)夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの世帯主無職世帯における調査結果。数字は月額平均値で、単位は円。月間不足額は「実支出-実収入」で算出し、20年・30年の金額はこれを単純に年数倍した試算です。これは不足分を保有資産から取り崩す場合の目安の試算であり、老後に必ず必要となる金額を示すものではありません。
(出所)総務省「家計調査報告(家計収支編)平成29年(2017年)、令和7年(2025年)平均結果」より野村證券投資情報部作成

将来必要な老後資金が減ったと安心するのは禁物

数字だけ見ると、将来必要な老後資金が減り、不安はやや和らいだようにも見えるかもしれませんが、この結果だけで安心するのは早計です。増えた実収入の内訳をみていきましょう。

まず、この間、実収入の大部分を占める年金を含む社会保障給付額は増えています。これは女性の就業率の高まりで、妻の厚生年金受給額の所得比例部分が増えていることなどが考えられます。もっとも、社会保障給付の増加額は支出額の増加に追いつかず、両者の差は拡大しています。さらに、少子高齢化が一層進むと予想される中で、マクロ経済スライドにより公的年金受給額がインフレ率を上回って引き上げられにくい年金制度の設計が行われています。今後も、現役世代のさらなる負担増にもつながりかねない制度改正を期待するのは難しいと考えられます。

また、2017年に比べ2025年には、配偶者収入が大きく増えています。これは女性の就業率の上昇による影響があると考えられます。年齢差がある夫婦では、まだ現役世代である配偶者の収入が増加したと考えれば納得できます。もっとも、女性の活躍が進んでいること自体は望ましい変化ですが、将来的には年齢や健康状態、働き方の変化などにより、就労による収入が減少する可能性もあります。

さらに、2025年のデータには経常収入以外の「特別収入」として、住民税非課税世帯を対象とした給付金が含まれていました。2017年にも消費税率引き上げに伴う給付金が住民税非課税世帯に支給されていましたが、2025年は2017年より手厚く給付されていました。しかし、この制度も恒久措置というわけではありません。

金融庁報告書はあくまでも平均値、個人差がある「ゆとりある生活」

金融庁報告書は、世帯主が65歳以上で無職の世帯について、平均の収入額、支出額、不足額を示したものでした。しかし、これはあくまで平均値です。また、各家庭が考える「ゆとりのある生活」には個人差があります。

生命保険文化センターによると、一般的な老後の最低日常生活費が月額約24万円であるのに対し、旅行や趣味などを含めた「ゆとりある老後生活費」は2025年時点で平均月額約39万円となっています。この金額を参考として、ゆとりある老後生活を送るために、ゆとりある老後生活費から最低日常生活費を引いた約15万円が月間不足額と仮定した場合、30年換算では、追加で約5,400万円が必要となる計算となります。

さらに、持ち家か借家住まいか、家屋の状況(修繕費がどの程度かかるか)によっても、必要となる老後資金は大きく左右されます。さらに自営業者であれば、会社員や公務員と比べて公的年金は少なくなります。自営業者が引退した場合、満額支給されても国民年金は夫婦合計で月額約14万円であり、厚生年金を受給できる夫婦共働きの会社員より公的年金は平均で約11万円少なくなります。先ほどと同様の方法で試算すると、自営業者の場合、会社員に比べて30年間で約3,960万円が不足することになります。

このようにライフスタイルや持ち家の有無、給付される公的年金の水準などによって、必要となる老後資金の金額は大きく変わります。今後、インフレによって、支出が増えていけば、必要となる金額は増えていく可能性があります。老後の備えは、多いに越したことはありません。私的年金の一つである確定拠出年金は、現役世代が将来に備えて資産形成を進めるための有効な手段の一つです。また、預貯金を含む資産全体の配分は、ライフプランやリスク許容度に応じて検討することが大切です。例えば、株式投資信託などを活用した分散投資も選択肢の一つです。税制優遇制度も有効活用しながら、長期分散運用をコツコツと継続することが重要になるでしょう。

老後2,000万円問題のその後 ゆとりある生活のために必要な老後資金はいくら? 野村證券・山口正章のイメージ
野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
山口 正章
神奈川県小田原市出身。1985年野村総合研究所入社。2010年に野村證券に転籍後も一貫してリサーチ畑を歩む。1990年から1993年まで香港に駐在し、日本人アジア株アナリストの草分けとしてアジア株ブームに貢献。帰国後は日本株アナリストとして日経人気アナリストランキングで3年連続首位(食品・飲料セクター、2001~2003年)となったのを機にアジア株ストラテジストに再度転身。アジア調査部長、投資調査部長などを歴任した後、2018~2022年にかけて公益財団法人国際金融情報センターに出向(調査部長兼中東部長兼中央アジア部長)し、フィンテックやカントリーリスク調査等に従事。2022年4月より現職。世界46ヶ国に訪問経験あり。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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