Research

野村リサーチ

2026.08.17 NEW

米ドル円相場の中長期展望 なぜ弱い円が定着したのか? 野村CIO・宮嵜浩

米ドル円相場の中長期展望 なぜ弱い円が定着したのか? 野村CIO・宮嵜浩のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

2026年7月末に実施された日米当局による協調為替介入を受け、円高・米ドル安が進行しましたが、足元では1米ドル=160円台に再び近づいています。中長期的な視点では、日本円の割安感は解消されるのでしょうか。野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティングCIOマネジメント部(野村CIO)のチーフ・ストラテジストである宮嵜浩が解説します。

米ドル円相場の中長期展望 なぜ弱い円が定着したのか? 野村CIO・宮嵜浩のイメージ

日米が約28年ぶりに円買い協調介入を実施

日米の通貨当局による「円安是正」の取り組みが本格化しています。財務省・日本銀行は7月30日に円買い介入を実施し、翌31日には約28年ぶりとなる日米協調の円買い介入に踏み切りました。片山さつき財務相は8月3日、「更なる協調介入を実施することも躊躇しない」と発言しています。一方、日銀も円安による物価の上振れリスクを警戒しており、今後は利上げペースを早めて、政府の円安是正スタンスに足並みを揃える可能性があります。

一連の円買い介入によって、米ドル円相場は1米ドル=163円台から一時155円台まで円高・米ドル安が進行しましたが、ベッセント米財務長官は協調介入後も「円は著しく過小評価されている」との認識を明らかにしています。一般に、為替レートの「適正な水準」を通貨当局が明らかにすることはありません。ただ、中長期的な為替レートの目安としては、購買力平価が参考になります。

米ドル円相場と購買力平価の推移

米ドル円相場の中長期展望 なぜ弱い円が定着したのか? 野村CIO・宮嵜浩のイメージ

(注)購買力平価はOECD算出、暦年ベース(直近は2025年)。
(出所)OECD、BloombergよりNFRC作成

購買力平価ベースで割安が際立つ日本円と韓国ウォン

購買力平価は、商品・サービス価格が2国間で一致する為替レートの理論値です。例えば、米ドル円相場が購買力平価よりも円安の場合、安い日本製品の米国向け輸出が増加するとともに、高い米国製品の輸入が減少し、対米貿易黒字が増加します。外国為替市場では円買い・米ドル売りが優勢となり、米ドル円相場は購買力平価に収束する、という考え方です。

実際には、為替レートは株式や債券などの売買動向からも影響を受けるため、現実の為替レートは購買力平価から乖離しています。直近では、米国株・米国債などの高い収益性を背景に米ドルが買われやすく、かつ地政学リスクの高まりに伴う「有事の米ドル買い」もあり、米ドルは他の主要通貨に対し上昇しています。下の図表の通り、現在、多くの主要通貨は購買力平価(米ドル)に対し割安ですが、日本円は韓国ウォンと同様に割安が際立っており、ベッセント米財務長官の「著しく過小評価」発言と整合的です。

主要通貨の購買力平価からの乖離率

米ドル円相場の中長期展望 なぜ弱い円が定着したのか? 野村CIO・宮嵜浩のイメージ

(注)購買力平価はOECD算出、2025年暦年データ。直近の為替レートは2026年8月11日時点。
(出所)OECD、BloombergよりNFRC作成

日本円が購買力平価を下回るようになった背景は

ベッセント米財務長官は、円買い介入に関連して、「多くのアジア通貨が円と連動しており、1990年代のアジア通貨危機は大幅な円安が引き金となった」とも述べています。韓国ウォンが購買力平価に比べ大幅に安くなっていることも、米国が円買い協調介入に踏み切った理由と考えられます。

一方、スイスフランは、購買力平価よりも高い水準を維持しています。下の図表の赤線で示している日本円も、2012年頃まではスイスフランと同様に、購買力平価よりも円高・米ドル安水準で推移していました。しかし、2013年の2%物価目標の導入と日銀の大規模金融緩和を契機に、円相場は購買力平価を下回り、2020年のコロナ・ショック後に一段と下落しました。現在は、韓国ウォンの乖離率に接近しています。

購買力平価からの乖離率の推移(スイスフラン・日本円・韓国ウォン)

米ドル円相場の中長期展望 なぜ弱い円が定着したのか? 野村CIO・宮嵜浩のイメージ

(注)直近2026年は2025年の購買力平価(OECD算出)をもとに算出。直近の為替レートは2026年8月11日時点。日本円の長期平均は連続性を欠くため非表示。
(出所)OECD、BloombergよりNFRC作成

スイスフランは、低インフレ・低金利の「安全通貨」と認識されています。一方、日本は「金利のある世界」に転換し、インフレ率もスイスを大幅に上回っています。その結果、円相場には相応の価格変動リスクが織り込まれました。円相場は今後、購買力平価を下回る水準で定着する可能性があります。

中長期的に円相場は上昇トレンドを維持

円安が是正され、購買力平価の水準に回帰した場合の米ドル円相場は1米ドル=100円近傍です(図表「米ドル円相場と購買力平価の推移」)。一方、購買力平価よりも安い水準が定着している韓国ウォンのケースを日本円に当てはめると、米ドル円相場は1米ドル=140円程度と試算されます。今後、世界景気が減速し、米国株や米国債などの収益性が低下すれば、投資家は米ドル建て資産の保有に慎重となり、相応の円高・米ドル安が生じると考えられます。

もっとも、過去をみると、景気は短期的な上昇と下降を繰り返してきました。為替レートも、短期的な景気サイクルの影響下にあります。長期投資の観点からは、米ドル円相場の中長期的な水準である購買力平価の方向性が、より重要になります。

やや長い目でみると、貿易取引や海外投資収益などを通じて、安定的に外貨を獲得する経常収支黒字国の購買力平価は、中長期的に上昇する傾向があります。経常収支黒字国の通貨である円相場は、中長期的に上昇傾向を辿るとみられます。投資家は円相場の中長期トレンドを念頭に、外貨建て資産と円資産のリスク分散を図る必要があります。

購買力平価と経常収支の関係(2021~2025年)

米ドル円相場の中長期展望 なぜ弱い円が定着したのか? 野村CIO・宮嵜浩のイメージ

(注)経常収支は2021~2025年平均。購買力平価の変化率は2020年と2025年の比較。
(出所)OECD、BloombergよりNFRC作成

米ドル円相場の中長期展望 なぜ弱い円が定着したのか? 野村CIO・宮嵜浩のイメージ
野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング CIOマネジメント部チーフ・ストラテジスト
宮嵜 浩
1994年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、2001年中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。1994年に山一証券へ入社。その後、富士通総研、三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、しんきんアセットマネジメントチーフエコノミスト、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所シニアエコノミスト、みずほリサーチ&テクノロジーズ主席エコノミスト、伊藤忠総研マクロ経済センター長兼主席研究員として国内外のマクロ経済やマーケットの調査・分析に従事。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

手数料等およびリスクについて

当社で取扱う商品等へのご投資には、各商品等に所定の手数料等(国内株式取引の場合は約定代金に対して最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は、2,860円(税込み))の売買手数料、投資信託の場合は銘柄ごとに設定された購入時手数料(換金時手数料)および運用管理費用(信託報酬)等の諸経費、年金保険・終身保険・養老保険の場合は商品ごとに設定された契約時・運用期間中にご負担いただく費用および一定期間内の解約時の解約控除、等)をご負担いただく場合があります。また、各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。信用取引、先物・オプション取引をご利用いただく場合は、所定の委託保証金または委託証拠金をいただきます。信用取引、先物・オプション取引には元本を超える損失が生じるおそれがあります。証券保管振替機構を通じて他の証券会社等へ株式等を移管する場合には、数量に応じて、移管する銘柄ごとに11,000円(税込み)を上限額として移管手数料をいただきます。有価証券や金銭のお預かりについては、料金をいただきません。商品ごとに手数料等およびリスクは異なりますので、当該商品等の契約締結前交付書面、上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。

株式の手数料等およびリスクについて

国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。国内REITは運用する不動産の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。国内ETFおよび国内ETNは連動する指数等の変動により損失が生じるおそれがあります。国内インフラファンドは運用するインフラ資産等の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。
外国株式(外国ETF、外国預託証券を含む)の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。
詳しくは、契約締結前交付書面や上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。

  • EL_BORDEをフォローする
  • Pick up

    ページの先頭へ