2026.08.28 NEW

[対談]普通の会社員が「いつの間にか富裕層」になれる時代 DCや持株会での投資継続がカギ

[対談]普通の会社員が「いつの間にか富裕層」になれる時代 DCや持株会での投資継続がカギのイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

2025年来の日経平均株価の急速な上昇に象徴される世界的な株高を背景に、特別な金融知識を持たない一般の会社員が1億円以上の純金融資産を保有する富裕層の仲間入りを果たすケースが最近注目されています。野村総合研究所の調査では、この層を「いつの間にか富裕層」と名付けました。その実像や課題について、野村総合研究所(NRI) 金融コンサルティング部のシニアコンサルタントである竹中啓貴さんと、野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング CIOマネジメント部(野村CIO)チーフ・ストラテジストの宮嵜浩が対談しました。

[対談]普通の会社員が「いつの間にか富裕層」になれる時代 DCや持株会での投資継続がカギのイメージ

会社の制度で資産増、相場上昇が恩恵

今回は「いつの間にか富裕層」の実像に迫りたいと思います。富裕層は、これまで普通の会社員には遠いイメージもありましたが、最近は無理なく富裕層になるケースもあるということでしょうか。

竹中啓貴さん(以下、竹中)

私たち野村総合研究所では、2000年代の半ばから長きにわたって富裕層を研究してきました。そんな中、特に2010年代以降、推計ベースで富裕層の数が増えていることが見えてきたのです。

まず前提として、野村総合研究所では保有する純金融資産が1億円以上5億円未満の層を「富裕層」と位置付けています。5億円以上を保有する「超富裕層」を合わせた世帯数は2023年時点で約165万世帯に達し、このうち富裕層は約153万世帯、超富裕層は約12万世帯で、いずれも過去最多の水準となりました。

[対談]普通の会社員が「いつの間にか富裕層」になれる時代 DCや持株会での投資継続がカギのイメージ

(出所)国税庁 「国税庁統計年報書」、総務省 「全国家計構造調査(旧全国消費実態調査)」、厚生労働省 「人口動態調査」、国立社会保障・人口問題研究所 「日本の世帯数の将来推計」、東証 「TOPIX(東証株価指数)」 および NRI「生活者1万人アンケート調査」 、「富裕層アンケート調査」等よりNRI推計

宮嵜浩(以下、宮嵜)

確かに、最近ではインフレが定着しており、かつてのデフレのころに比べれば市場環境全体として資産運用がうまくいく可能性が上がっていると見ています。以前より着実に資産を増やせる時代になってきたと言えるでしょう。

竹中

私たちの調査で、「いつの間にか富裕層」には、よくお金持ちでイメージされるような地主でも起業家でもない普通の会社員が含まれることがわかりました。2010年代以降のアベノミクスや世界的な株高を受けて増えてきています。

もともと資産家の生まれだったなどの事情ではなく、富裕層になった人がいるということですね。

宮嵜

そうですね。基本的には、近年の株高で資産が膨らんでいた人たちということです。野村證券投資情報部の試算によると、仮に20年前から積立投資で世界株式(MSCIワールド指数(円建て))を毎月4万円購入し続けたとすると、積立額は960万円ですが、評価額は4,000万円を超えます。例えば、これを夫婦で実践していれば、それだけで資産が1億円に近付いたというのが最近の状況です。

毎月、拠出金4万円、20年間 MSCIワールド指数(円建て)に連動する架空の投資信託に投資したと仮定したシミュレーション

[対談]普通の会社員が「いつの間にか富裕層」になれる時代 DCや持株会での投資継続がカギのイメージ

(注)毎月4万円ずつ、2006年7月末から、2026年6月末までの20年間、MSCIワールド指数(円建て)に連動する架空の投資信託に投資したと仮定した試算。購入時手数料や信託報酬等は考慮していない。上記はあくまでも一定の条件を基に試算した結果であり、将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではない。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

日本株も上昇しています。例えば、株価がTOPIXに連動する架空の会社があるとして、その従業員が持株会に入って20年間4万円を積み立てたとしましょう。持株会のなかには拠出額の10%相当の奨励金を支給する制度を設けている会社もあります。その結果、月額4.4万円を20年間積み立てたとしたら、以下のようになります。

毎月拠出金4万円+奨励金10%の4.4万円、20年間TOPIXに連動する架空の株式会社の持株会に投資をしたと仮定したシミュレーション

[対談]普通の会社員が「いつの間にか富裕層」になれる時代 DCや持株会での投資継続がカギのイメージ

(注)2006年7月末から、2026年6月末までの20年間、毎月4万円または4.4万円を、それぞれTOPIXに連動する架空の株式会社の持株会に投資したと仮定した試算。購入時手数料や信託報酬等は考慮していない。上記はあくまでも一定の条件を基に試算した結果であり、将来の投資成果を示唆あるいは保証するものではない。
(出所)ブルームバーグより野村證券投資情報部作成

拠出額は960万円ですが、奨励金もあるので積立額は1,056万円となり、20年後の評価額は3,000万円以上となったという計算になります。

仮に、20年前の40歳から持株会で4~5万円積み立てていた従業員が、それとは別に同額を世界株式で積み立てていたら、現在60歳定年時の資産額が1億円前後になりますね。資産に占める株式の割合が高すぎるリスクの高い状態ではありますが、株式投資をコツコツと続けていれば、富裕層になれる環境だったというわけです。

もちろん試算は過去の実績を基にしており、長期的に相場が下落すると長期保有の方が損をする可能性もありますので、将来の成果を保証するものではありません。

竹中

それは納得しますね。「いつの間にか富裕層」となった人のなかには、自分でこつこつと長期的な資産形成を継続した方もいると思います。よくあるケースの1つは、従業員持株会や企業型確定拠出年金(DC)といった企業が用意する制度を早くから利用し、地道に運用を続けて、相場上昇の恩恵を受けた人たちです。私も、これまで富裕層とは、非常に金融リテラシーが高くて、金融商品に詳しく、金融機関とも深い関わりを持つような人が多いのではないかと考えていましたが、必ずしもそうした方ばかりではなかったということが分かってきました。

富裕層には、ほかにも共働きで世帯年収3,000万円以上あり、積極的に投資をしている「スーパーパワーファミリー」や、上場企業に勤めているというメリットを生かしてローンを組んで不動産に投資し、資産をつくる「サラリーマン不動産投資家」もいます。

しかしその方たちに比べると、今述べた持株会、DCなどの制度で資産形成した「いつの間にか富裕層」は、必ずしも能動的に資産を貯めたという方たちばかりではありません。堅実な志向も強く、富裕層に仲間入りしてもコストに敏感な人もいます。積み上がった資産に明確な使途がなく、一律に金融リテラシーが高いわけでもないんですよね。

宮嵜

そうですね。特に持株会は投資しているという実感もなく続けた人も多いのではないでしょうか。奨励金が上乗せされる仕組みも一般的ですし、最近大きく株価が上昇した企業も多いですから、想定を超えて資産が増えている人もいるでしょう。ある企業で長期にわたって持株会を通じた自社株購入を続け、定年時に数億円という巨額の資産を築いた方がいるという記事が話題にもなりました。

投資を継続していないと、「いつの間にか富裕層」になれない?分岐点はあるか

一方、同じように会社員として働いていたのに、そんなふうに資産を大きくすることはできていない、という人ももちろんいると思います。その分岐点はどこにあると思いますか。

竹中

日本企業の株価が上昇したとはいえ、株価が大きく下がった局面もあります。そこで怖くなって慌てて売った方、運用を継続することができなかった方は、結果的に相場上昇の恩恵を十分に受けられなかった、ということもあるでしょうね。

宮嵜

その通りですね。資産価格が急落するような局面に怖くなって途中で市場から撤退してしまうと、その後に株価が上がっているときにまた市場に戻るのが難しいんです。特に、資産のほとんどが株式という人は、何かのショックが起きたときの資産の減り方が大変激しく打撃を受けます。とはいえ、そもそも資産が現金のみでは資産を増やすことができません。

株式だけというのも極端ですが、預貯金だけというのも極端なんです。極端な形で資産を持つのは危険だと認識し、様々な対象にバランスよく分散させることが王道だと思います。

竹中

調査の過程では、「いつの間にか富裕層」となった方たちにインタビューする機会が多くありました。増えたお金をどう使うか、あるいはどう守っていくか考える余裕もなく、懸命に仕事を続けてきたような人たちで、誰かに相談したいというニーズを多くの方が持っていました。この方たちの資産をどう守り、増やしていくかが、今とても重要なテーマになっていると感じます。

宮嵜

そうなんですよね。何が起きるかわかりませんので、市場をモニタリングし、トレンドが変わったときに教えてくれるプロが必要だと思います。日本では、長年続いていたデフレのトレンドが変わり、金利が上昇する局面を迎える可能性があると考えています。多くの方が金利上昇は経験していないことなので、ますますプロが大事な存在になります。

私個人の話をすると、最初に勤めていた会社で先輩に持株会に入るのが当然だと言われて、積み立てをしていたら、その会社が破綻したんですね。積み立てていた資産は当然、消えてしまいました。何が起きるかわからない、と強く感じたキャリアのスタートでした。

[対談]普通の会社員が「いつの間にか富裕層」になれる時代 DCや持株会での投資継続がカギのイメージ

金融市場はプロにとっても予測は難しいです。いろいろな金融技術が開発されて、商品のバリエーションが増えている一方で、景気の変動を小さくするような金融政策はなく、むしろここ最近は景気後退の深さが大きくなっているような印象を受けます。株価の上昇スピードが速い分、下落時の「深さ」も大きくなるかもしれません。景気は拡大と後退のサイクルがあり、サイクルの転換点が予測できればいいのですが、その見極めは難しいものです。

特に気になるのは為替です。ここ最近は1ドル160円前後で推移していますが、これが続くとは限りません。世界株式で資産を大きくしてきた人たちは、株価下落は経験しているかもしれませんが、為替が円高に振れると資産が減るということをあまり経験していませんね。予想外に資産が増えるならいいんですけども、予想外に減るときには動揺して投資をやめてしまうということもありえます。

資産が大きくなった後、「いつの間にか富裕層」になってからも、資産が失われてしまうという不安はあるのでしょうか。

竹中

定年を迎えて退職金を受け取ったとき、収入が少なくなる状況で資産が変動するのが怖くなり、運用をやめてしまう人も見受けられました。健康寿命は延びているので、何らかの方法で資産運用は続けたほうがいいと思いました。

宮嵜

ポートフォリオが株式だけに偏っているのを放置するのは危ないですね。特に持株会だけで資産形成した方は1銘柄の株式に集中していますので、そのままにしておくと会社の倒産リスクなどを抱えている状態となります。収入が減る定年後は特に、景気後退にも強いとされる資産も持ち、リスク分散を図っていくことが大事だと思います。

例えば、外国株だけ持っている人は日本株を持つことが為替変動リスクの抑制にもつながりますし、債券を持つこともリスクを抑えるひとつの方法です。また、不動産投資に興味を持つ方も多いと思いますが、REITには現物不動産と比べて手間やコストを抑えられ、なおかつ小口から投資できるというメリットがあります。

資産規模の大きい超富裕層が具体的にどのような運用をしているのかも調べてみたのですが、想定以上に「オルタナティブ投資」が多いことがわかりました。オルタナティブ資産は株式や債券市場と異なる値動きをするというのが特徴で、ポートフォリオに組み入れるとリスク分散になります。具体的には、未上場株式や不動産を含むプライベートアセットなどがあります。

プライベートアセットは、取引所などの公開(パブリック)市場では売買されず、未公開(プライベート)で取引される資産のことを指します。高いリターンが期待できる反面、流動性は低く、売却ニーズがある方には向きません。不動産も、株式や債券に比べると流動性は低いです。

超富裕層はそれほど資産の流動性を必要としていないので、ある程度リスクを取ってでも、こういった商品を選択することがあります。富裕層から超富裕層に資産を増やす段階では、こうした資産の選択肢をタイミングよく知ることが重要ですね。

新たな富裕層像:何のためにお金を増やすのか

資産形成の途中でも、資産を大きくした後も、資産が特定のものに偏るような極端な形で保有するのではなく、 バランスよく分散して運用を継続することが大切。そんな法則が見えてきましたね。しかし、どうしたら市場が大きく動いたときにも慌てずに運用を継続できるマインドを持てるでしょうか。

竹中

まず、資産がどのくらいあるのか、退職金はどうなっているのかといったファクトを整理すると、慌てなくても大丈夫じゃないか、と落ち着くこともあると思います。そのうえで、いつ頃までに、どれくらいの資産額を目指すのか、何のために増やすのかというイメージを持つことが大切ですね。将来どんな夢を実現したいかを考えて、そのときに必要な資産を考えれば、足元の市場変動に慌てずにすむのかもしれません。日々の変動に惑わされず仕事に打ち込みたいという人は、持株会やDCといった資産運用を継続する仕組みが有効になるでしょう。

宮嵜

たしかに金融機関としては、資産を増やす方法ばかり提案しがちですが、資産をどう切り崩して使っていくのかという提案が大切になってくるのかもしれませんね。たとえば早期退職して、資産から得られるインカムゲインを使いながら暮らす、「FIRE」と呼ばれるライフスタイルも実現可能性が高まってきたと思います。しかし、早期退職だけを目標にするのではなく、その先でどんなことを実現したいのかがしっかりないと、結局不安になったりやりがいを見失ったりしてしまいそうです。

若い時代から早めにお金の使い方をイメージし、いろいろな不測の事態を想定しながら資産を長期で増やしていく、活用するという視点が、今後ますます大切になっていくのではないでしょうか。

※本記事で取り上げられた竹中氏、および宮嵜氏のマーケットや投資に関する考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

[対談]普通の会社員が「いつの間にか富裕層」になれる時代 DCや持株会での投資継続がカギのイメージ
野村総合研究所 シニアコンサルタント
竹中 啓貴さん
2018年慶應義塾大学経済学部卒業。2018年野村総合研究所に入社し、主に銀行、証券、生命保険業界向けのコンサルティング業務に従事。金融機関におけるリテール金融およびウェルスマネジメント領域を専門とし、事業戦略、営業・業務改革、チャネル・マーケティング戦略などを推進。金融コンサルティング部シニアコンサルタントとして、現在は富裕層ビジネスの支援や顧客接点強化などのプロジェクトを手掛ける。
野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング CIOマネジメント部チーフ・ストラテジスト
宮嵜 浩
1994年慶應義塾大学法学部政治学科卒業、2001年中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。1994年に山一証券へ入社。その後、富士通総研、三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)、しんきんアセットマネジメントチーフエコノミスト、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所シニアエコノミスト、みずほリサーチ&テクノロジーズ主席エコノミスト、伊藤忠総研マクロ経済センター長兼主席研究員として国内外のマクロ経済やマーケットの調査・分析に従事。

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