2026.08.18 NEW
マンション修繕積立金にも値上げの波 運用するなら?個人向け国債にも存在感 野村證券・寺田絢子
撮影/タナカヨシトモ(人物)
インフレによる資材価格や人件費の上昇を受け、マンションで定期的に必要となる大規模修繕工事の費用が上がっています。多くの管理組合では、工事に備えた修繕積立金を銀行預金中心で管理していますが、インフレが続けば積立金の実質的な価値が目減りして、いざという時の工事費が不足してしまう可能性があります。こうした中、政府は「個人向け国債」を2027年1月発行分からマンション管理組合も購入できるようにする予定です(商品名も「個人向け国債プラス」に変更予定)。なぜこのような動きが出てきたのか、管理組合はどのような選択肢を取り得るのか、野村證券投資情報部ストラテジストの寺田絢子が解説します。
12~15年周期の大規模修繕、積立金の月額は増加している
- 最近はインフレで食料品や衣服をはじめ身の回りの物価が上がり続けています。マンションの維持費については、どのような状況になっているのでしょうか。
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一般財団法人建設物価調査会によると、都市別の工事原価の推移は全体として上昇傾向にあり、特に2020年代に入ってからは、その上昇ペースが一段と強まっていることがわかります。価格上昇の背景には、資材価格の高騰に加え、人手不足に伴う労務費の上昇などがあります。
(注)データは月次で、直近値は2026年2月。2015年の平均を100としている。2026年1月、2月は暫定値。指数は集合住宅、事務所などの構造物平均(鉄筋コンクリート構造)の工事原価を示している。
(出所)一般財団法人建設物価調査会「建設物価 建築費指数」より野村證券投資情報部作成
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こうした工事費等の上昇を受けて、マンションの1戸当たり月額の修繕積立金の推移をみると、修繕積立金の額、および使用料等からの充当額を含む修繕積立金の総額はともに増加しています。⽉額の修繕積⽴⾦は、1999年度の7,378円から、2023年度には13,054円まで上昇しています。駐⾞場使⽤料などからの充当分も含めた総額では、2023年度に13,378円となっています。修繕積⽴⾦を増額する動きはすでに広がっていますが、今後も⼯事費が上昇すれば、⻑期修繕計画の⾒直しや積⽴⽔準の再検討が必要になる可能性があります。
(注)使用料等からの充当額を含む修繕積立金とは、区分所有者が毎月払う「修繕積立金」そのものだけでなく、駐車場使用料などの収入のうち、修繕積立金会計に回している金額も含めた金額を指す。
(出所)国土交通省「令和5年度(2023年度)マンション総合調査結果からみたマンションの居住と管理の現状」より野村證券投資情報部作成
- 維持費は急ピッチで上昇しているようですね。大規模修繕は、どの程度の頻度で行われていますか。
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国土交通省の資料からマンションの大規模修繕工事(外壁、防水、設備などを計画的にまとめて修繕する工事)の平均的な実施周期をみると、12~15年周期で実施されるケースが多く、全体の約7割を占めています。なかでも最も多い実施周期は13年で、次いで12年、14年、15年の順となっています。つまり、マンション管理においては、現在の資⾦だけではなく、10年後、15年後を⾒据えた資⾦計画が求められると言えます。
3回目からは工事費1億円超も、高まるマンション資産価値の毀損リスク
- 実際の修繕費はどれくらいかかるのでしょうか。
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大規模修繕の工事金額は回数とともに増加する傾向があり、修繕積立金不足が深刻化しています。国土交通省によると、マンションの大規模修繕工事の回数別にみた工事金額は、1回目では「4,000~6,000万円」の割合が最も高く、2回目では「6,000~8,000万円」、3回目以上では「6,000~8,000万円」と「1億円~1億5,000万円」の割合がそれぞれ最も高くなっています。マンションは築年数の経過とともに外壁、防⽔、設備などの劣化が進むため、住みやすさや資産価値を維持するうえで、定期的な修繕が欠かせません。
(注)工事金額に共通仮設費は含んでいない。
(出所)国土交通省「令和3年度(2021年度)マンション大規模修繕工事に関する実態調査」より野村證券投資情報部作成
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一方で、こうした修繕に必要な資金が不足するマンションが増加しています。国土交通省の「令和5年度(2023年度)マンション総合調査」によると、修繕積立金の残高が長期修繕計画に対して不足しているマンションは約36%に上っています。また、修繕積立金の増額については、「引き上げはできたが計画通りの額までは増額できなかった」が約26%、「増額したかったができなかった」が約4%でした。積⽴⾦不⾜は、⼀部の管理組合だけの問題ではなく、多くのマンションに共通する課題と言えます。ただ、積⽴⾦を増やすには区分所有者の合意形成が必要であり、すぐに解決できるとは限りません。
- すでに保有している修繕積立金の管理を工夫していく必要があるということでしょうか。
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はい、大変重要なポイントとみています。国土交通省が公表する「建設工事費デフレーター(2015年度基準)」(建設工事に要する費用の物価変動を示す指標)は上昇が続いており、修繕積立金の実質的な価値の目減りが加速しています。同じ⾦額の修繕積⽴⾦を保有していても、⼯事費が上がることで、実際にできる⼯事の量や内容は減ってしまう可能性があるということです。この傾向が続くと、必要な時期にマンションの大規模修繕などを実施することが難しくなる恐れがあり、マンションの資産価値が大きく毀損するリスクが高まるでしょう。
(注)データは年次で、2015年度から2024年度。建設工事費デフレーターは、2015年度基準。2021年4月分の公表から、基準年を2015年度基準に改定している。2022年度までの数値については、当該年度の実績を基に算出した建設投資のウエイトを用いている。2023年度以降は2020~2022年度の平均値を暫定的に用いている。建設工事費デフレーターは、営業余剰や間接税(消費税を含む)等はウエイト項目に含めていない。修繕積立金の実質価値は、建設工事費デフレーターの逆数を用いて算出している。
(出所)国土交通省「建設工事費デフレーター(令和8年(2026年)3月31日付け)」より野村證券投資情報部作成
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一方で、マンション管理組合における修繕積立金の運用先をみると、最も多いのは銀行の普通預金で76.8%、次いで銀行の定期預金が35.1%となっています。このことから、多くの管理組合では、資金を金利水準が限定的な銀行預金で保有している実態がうかがえます。預⾦残⾼が減っていなくても、資材費や⼈件費が上がれば、実質的には「修繕に使える⼒」が下がってしまう可能性があります。そのため、インフレ環境下では、預⾦で安全に管理することに加えて、当⾯使わない資⾦については、実質価値の⽬減りを抑える⽅法を検討することも重要です。まずは⼤きなリスクを取る商品ではなく、国債など安全性を重視した選択肢から確認していくことが現実的ではないかと考えています。
(注)複数回答。
(出所)国土交通省「令和5年度(2023年度)マンション総合調査(令和6年(2024年)6月21日公表)」より野村證券投資情報部作成
「金利のある世界」は個人向け国債の存在感が増すか
- 資産運用を考えるうえで、個人向け国債にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
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個人向け国債は、⽇本国が発⾏する債券であり、安全性を重視する資⾦の運⽤先として検討しやすい商品です。特にマンション管理組合の修繕積⽴⾦は、将来の修繕に使う⼤切な資⾦ですので、まずは安全性、流動性、期間を確認しながら、無理のない範囲で検討することが重要です。⾜元では、⽇本の⾦利環境が変化しており、個人向け国債の利回りも上昇しています。
背景には、インフレの継続、日銀の利上げに前向きな姿勢、政府の積極財政などが挙げられます。こうした市場金利の上昇を受け、市場金利に基づいて適用利率が決まる個人向け国債の利率も、足元では上昇傾向にあります。いわゆる「金利のある世界」で、個人向け国債の存在感は高まりつつあると言えるでしょう。
(注)データは月次で、直近値は2026年2月。変動10年は初回利率。利率はいずれも税引前。
(出所)財務省より野村證券投資情報部作成
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管理組合のように安全性を重視する資⾦については、預⾦と個人向け国債を組み合わせることで、資⾦の性格に応じた管理がしやすくなる可能性があります。例えば全額を運⽤するのではなく、「近々使う資⾦は預⾦」、「当⾯使わない資⾦の⼀部は個人向け国債」、というように、資⾦の使途や時期に応じて分けて管理することが考えられます。
- 具体的には、どのような選択肢が考えられるのでしょうか。
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マンション管理組合が修繕積立金の運用先として検討できる国債には、現在も購入できる「利付国債」と、2027年1月発行分から購入可能となる予定の「個人向け国債」があります。いずれも発行体は日本政府で、満期まで保有すれば額面金額で償還されます。個人向け国債は、これまで個人専用の商品として販売されてきましたが、2027年1月発行分からマンション管理組合も購入できるようになる予定です。1万円単位から購入でき、金利タイプは固定金利型と変動金利型があり、年限は3年、5年、10年です。原則として発行から1年経過後に中途換金できます。市場価格で売却する商品ではないため、価格変動リスクは原則ありませんが、中途換金時には所定の調整額が差し引かれます。
一方、利付国債は、現在もマンション管理組合が購入できる国債で、固定金利型が中心です。購入金額の下限は年限や、最新の発行分か否かなどによって異なります。償還前でも市場価格で売却できますが、金利上昇時などには元本割れとなる可能性があります。
このほか、国債以外の選択肢として、独立行政法人住宅金融支援機構が発行する分譲マンションの管理組合向けの利付10年債「マンションすまい・る債」といった選択肢もあります。1口50万円単位で購入でき、原則として発行から1年以上経過後は所定の手続きにより中途換金が可能です。なお、政府保証はなく、元本や利息の支払いは同機構の信用状況に依存します。
| 項目 | 個人向け国債 | 利付国債 | マンションすまい・る債 |
|---|---|---|---|
| 対象 | 個人専用 | 法人・個人・マンション管理組合・管理組合法人等 | 分譲マンションの管理組合・管理組合法人 |
| 発行体 | 日本政府 | 日本政府 | 独立行政法人住宅金融支援機構 |
| 購入金額 単位 |
額面1万円以上、1万円単位 | 購入金額の下限は、年限や、最新の発行か否かなどによって異なる | 1口50万円単位 ※購入金額の上限は、1年間の修繕積立金に前年度決算における修繕積立金会計の残高を加算 |
| 年限 | 3年・5年・10年 | 2年~40年 | 10年 |
| 金利タイプ | 3年・5年:固定金利 10年:変動金利 |
主に固定金利 | 固定金利 |
| 固定金利型:発行時の利率が満期まで適用 変動金利型:半年ごとに見直し (最低金利0.05%の保証あり) |
発行時の利率が満期まで適用 | 発行時の利率が満期まで適用 ※管理計画認定の取得やマンション管理適正評価制度の評価水準などで利率が上乗せされる |
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| 利払い | 年2回 | 年2回 | 年1回 |
| 元本償還 | 満期時に額面金額が償還 | 満期時に額面金額が償還 | 満期時に額面金額が償還 |
| 中途換金 ・売却 |
原則、発行後1年経過後から中途換金可能 | 償還前でも市場価格で売却可能 | 初回債券発行日から1年以上経過した場合、中途換金可能 |
| ※中途換金時は、額面金額に経過利子を加えた金額から、直前2回分の利子相当額(税引前)×0.79685が差し引かれる | ※売却価格は市場実勢による | ※手数料無料で全部または一部の中途換金が可能。換金時には元本に月割りの経過利息を加算 | |
| 価格変動 リスク |
原則なし | あり | 原則なし |
| 信用リスク | 日本政府の信用状況に依存する | 日本政府の信用状況に依存する | 政府保証は無く、住宅金融支援機構の信用状況に依存する。ただし、保有者は同機構の総資産から優先的に弁済を受ける権利あり。同機構は国債と同等水準の信用格付を取得している |
| 主な特徴 ・適した方 |
少額から投資可能で、安定性重視の方、中途換金時の価格変動を避けたい方 | 年限を選び、満期保有または中途換金による価格変動を理解して運用したい方 | 修繕積立金を計画的に積み立てたいマンション管理組合向け |
(注)全てを網羅している訳ではない。上記は各債券について一般的な説明を記載している。そのため、これらの説明に当てはまらない場合もある。マンションすまい・る債は、国の認可を受けて独立行政法人住宅金融支援機構が発行する債券。
(出所)各種資料より野村證券投資情報部作成
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さらに、管理組合によっては、外国債券や国内外株式を組み入れた国際分散投資によって、より高い運用利回りを長期的に目指す動きもあるようです。いずれにせよ、修繕積⽴⾦をすべて運⽤する必要はありません。むしろ、管理組合の資⾦は安全性と流動性が⼤切ですので、まずは預⾦を中⼼に置きながら、⼀部を個人向け国債などに分散する形が現実的と言えるでしょう。例えば、近々使う予定の資⾦は普通預⾦や定期預⾦に、当⾯使わない資⾦は個⼈向け国債というように、資⾦の性格ごとに分けて管理するといった⽅法を、管理組合の検討材料としてみてはいかがでしょうか。
- 野村證券 投資情報部 ストラテジスト
寺田 絢子 - 2005年野村證券入社、営業店を経て2013年より投資情報部。月刊誌「Nomura21 Global」等、個人投資家向け株式資料の作成をはじめ投資情報の提供を行う。
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(●変動10年:直前2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685、●固定5年、固定3年:2回分の各利子(税引前)相当額×0.79685)
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