2026.07.30 NEW
FRBはややハト派的な印象に 中東情勢やAI不安が株式市場を混乱させても、景気は悪化していない 野村證券・岡崎康平
撮影/タナカヨシトモ(人物)
FRB(米連邦準備理事会)は2026年7月28-29日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、政策金利の据え置きを決定しました。米国とイランの対立による中東情勢の混乱が再燃する中で、7月29日の米国の株式市場は主要株価指数が下落しました。ここ最近、市場をけん引してきたAI・半導体株の変動も懸念されています。今後の市場をどのようにみておくと良いか、野村證券チーフ・マーケット・エコノミストの岡崎康平が解説します。
FRBは丁寧な政策対応をしている印象を与えた
- 今回のFOMCは政策金利の据え置きが大方の予想だったと思いますが、一部、サプライズ利上げがあるのではないか、という警戒もありました。政策が据え置かれた今回のFOMCをどのように受け止めていますか。
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あまり新情報のないFOMCだったと受け止めています。利上げ票を投じたFOMCメンバーが3名いたものの、メンバーの過半数(7名)にはまだ距離感のある数字でした。FOMCメンバーの間で利上げに向けた合意形成が急速に進んでいるとまでは解釈しにくく、金融市場のコンセンサスに近い結果になったと言えるでしょう。FRBがタカ派化するかもしれない、という市場心理が和らいだ、という意味で、今回のFOMCはややハト派的な印象を受けました。
興味深いのが、米国債利回りの反応です。利上げ期待がやや後退して2年債利回りまでがやや低下した一方、より長い金利が上昇しました。イールドカーブ全体を見ると、ツイスト・スティープニングといえます。目先の利上げ期待が低下した点は既に述べた通りで自然な反応ですが、長い金利が大きく上昇した点が目を引きます。
この反応は、FRBがビハインド・ザ・カーブ(金融政策が後手に回ること)に陥る可能性を金融市場が懸念したとも解釈できますし、また、バランスシート政策がFOMCで議論されたとの発言が影響した可能性もあります。この解釈はもう少し金融市場の動きを観察したうえで改めて考えたいと思いますが、いずれにせよ、経済・物価に対して影響力が大きい政策金利が据え置かれた一方、相対的に影響力が小さい長期金利が上昇した構図です。結果として、イールドカーブはインフレ抑制の度合いを強める形状に変化したと言えるでしょう。これがケビン・ウォーシュFRB議長の狙いだとすれば、慎重かつ巧みな政策運営と解釈する余地もあります。
- 米国の経済状況も、今後の政策判断に影響を及ぼすでしょうか。
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マクロ指標の観点では、今後、ISM(全米供給管理協会)製造業景況感指数や米雇用統計などが注目されるでしょう。AI・半導体関連の株価は調整局面を迎えていますが、需要自体が急落したというデータも現時点ではありませんので、米国経済への警戒感もそこまで高まってはいない状況です。
足元、野村證券では2027年末まで米利上げはないと予想しています。AIが人間の仕事を代替することで雇用が奪われるとの見方もありますが、最近の雇用統計はやや良い内容です。積極的な利下げに踏み切るほどでもなく、一定のバランスが取れた状態なのではないかとみています。
もっとも、中東情勢が不安定化していますので、11月の米中間選挙までは、株式相場の乱高下が繰り返される落ち着かない状況となる可能性がありそうです。イラン側の同調勢力であるイエメンの武装組織フーシ派が、バブ・エル・マンデブ海峡の封鎖や通航料徴収を検討しているという報道も出てきています。米国の武器在庫の不安感から、イラン側に足元をみられている可能性もあります。事態が複雑化し、米イラン関係がこじれれば、改めて原油高への警戒感が高まるでしょう。そうなれば、FRBにとっては身動きが取りにくく、利上げ・利下げのどちらについても動きにくい状況となることも予想されます。
AI・半導体は急変動続くも、日本株は物色広がるか
- 日経平均株価は一時72,000円を超える上昇を見せ、その後じわじわと下落しましたが、どうみていますか。
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日々の値動きは、ボラティリティが高い状態が続くのではないかと思っています。中東情勢の地政学的リスクに加え、足元のAI・半導体株安も重なってきています。ただし、世界経済全体の観点では、悪くなっているわけではありません。半導体受託生産を手掛けるTSMC(台湾積体電路製造)がある台湾や、メモリー半導体のSKハイニックスがある韓国の輸出が急落しているわけではありませんし、米国の製造業景況感も比較的良好な状態を保っています。日本も4-6月の消費は強くなりそうな状況とみています。
現時点でその兆候はみえませんが、仮に、世界の実体経済が大きく崩れるようなことがあれば、株価は一段の下値を探りに行く可能性もあるでしょう。また、中東情勢は予断を許さない状況ですので、緊張関係が強まる展開に対する警戒感はもっておいた方が良いとは言えます。
とはいえ、日本は韓国や台湾と比べて株式市場の多様性が高いという特徴があり、ある程度落ち着いて投資できる環境にあります。8月公表のGDP(国内総生産、2026年4-6月期分)が強めの数字となれば、AI・半導体関連だけでなく、人々の消費活動に根差した内需関連銘柄に見直しの物色買いが入る可能性もありそうです。
- AI・半導体株の見通しはどう予想されますか。
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グローバルにAI関連やメモリー関連銘柄が下落基調となり、日系の関連企業の株価も下押しの圧力を受けています。ただ、AI・半導体株は、もともと値動きが激しい銘柄群です。成長産業が育つなかで、必然的に生じるサイクルと理解して良いように思います。
2026年初くらいから株式市場をけん引してきたAI・半導体相場が軟調なのは、需要が大きく伸びていくことが改めて意識された側面があるうえ、メモリー価格が一気に上がったというダブルの効果が出ていたため、やや織り込みすぎた部分もあったとみています。中国系メーカーの参入やハイパースケーラーによる巨額設備投資の持続性への不安、スマートフォンの販売の伸び悩みなどが意識され、市場のセンチメント(心理)に振られすぎている印象もあります。
ただ、AI・半導体関連銘柄への成長期待はいまだに頑健であり、しっかりとした技術力がある企業の株価ほど値下がりに耐える強靭性もみられます。AI・半導体株安のウェイトが大きい日経平均株価の下げに比べて、TOPIX(東証株価指数)の下げはそれほど大きくはありません。日本企業の中には、AIに直接関わる銘柄でなくても、AIのサプライチェーンの中で重要な役割を担う企業が多くあります。そうした銘柄は、高いボラティリティの中でも相対的な安定感を発揮するとみています。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ・マーケット・エコノミスト
岡崎 康平 - 2009年に野村證券入社。シカゴ大学ハリス公共政策大学院に留学し、Master of Public Policyの学位を取得(2016年)。日本経済担当エコノミスト、内閣府出向、日本経済調査グループ・グループリーダーなどを経て、2024年8月から、市場戦略リサーチ部マクロ・ストラテジーグループにて、チーフ・マーケット・エコノミスト(現職)を務める。日本株投資への含意を念頭に置きながら、日本経済・世界経済の分析を幅広く担当。共著書に『EBPM エビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞社)がある。
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