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2026.08.26 NEW

「米ドル離れ」への警戒再燃か 円が米ドル売りの受け皿となる? 野村證券・後藤祐二朗

「米ドル離れ」への警戒再燃か 円が米ドル売りの受け皿となる? 野村證券・後藤祐二朗のイメージ

撮影/タナカヨシトモ(人物)

米国債市場の不安定化や「米ドル離れ」への警戒から、米ドル安圧力が再燃しています。ユーロは対米ドルで1.17米ドル台の回復を試すなど、2026年5月半ば以来の水準に上昇しました。米ドル円相場も160円を前に円安・米ドル高の勢いが弱まっています。米ドル安の背景と米国債の需給動向、年末に向けた米ドル円相場の見通しについて、野村證券チーフ為替ストラテジストの後藤祐二朗が解説します。

「米ドル離れ」への警戒再燃か 円が米ドル売りの受け皿となる? 野村證券・後藤祐二朗のイメージ

米ドル安のドライバーに変化?

8月の米PMI(購買担当者景気指数)速報値は56.0と、前月の54.5から改善し、2022年4月以来の高水準を記録しました。特にサービス業の景況感が56.8と強く、7月の雇用統計や小売売上高の弱さを受けて高まっていた米景気への懸念を後退させる内容です。9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)に向けた市場の利上げ期待はやや回復しています。

米ドル安の要因は、米利上げ期待の低下から、米国債市場の不安定化や「米ドル離れ」への警戒に移った印象です。先週後半には金価格や暗号資産も大きく上昇し、キャリー取引の調達通貨となってきたスイスフランも買い戻されました。いわゆるディベースメント取引が再び活発化し、「米ドル離れ」への警戒が再燃した印象もあります。

金・ビットコイン価格と円とユーロの対米ドル相場

「米ドル離れ」への警戒再燃か 円が米ドル売りの受け皿となる? 野村證券・後藤祐二朗のイメージ

(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成

高まる米債市場不安定化への警戒

足元の米ドル安は、長期・超長期債を中心とする米国債利回りの上昇と同時に進んでおり、トランプ政権も警戒を強めているとみられます。米財務省は8月19日、長期・超長期国債について「流動性支援のための買い戻し規模を少なくとも2倍に引き上げる」と公表しました。現在、1回当たり20億米ドルとしている買い戻し規模を、少なくとも40億米ドルに引き上げます。20日にはベッセント米財務長官が、政権が新たな財政健全化策を近く打ち出す方針に言及しました。長期債の買い戻しについても、1回当たり40億米ドルを上回る可能性を強調するなど、債券市場の安定化に向けた姿勢を強めています。

米政権が債券市場の安定化に向けた動きを活発にする一方、FRB(米連邦準備理事会)からは、米国債市場の不安定化を静観する発言が相次ぎました。サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は8月20日、米国債市場は現在の金融政策が適切な位置にあるとのシグナルを発していると述べ、当面は様子を見る姿勢を示唆しました。同日には、タカ派と目されるセントルイス連銀のムサレム総裁も、7月の利上げが望ましかったとしながら、足元ではインフレ期待が安定していると指摘しました。債券価格の下落はFRBへの信認低下によるものではなく、政府の資金調達やAI関連の資金需要増が要因との見方も示しました。23日には、7月のFOMCで利上げ票を投じたミネアポリス連銀のカシュカリ総裁も「米国債市場は本来あるべき形で機能している」と述べました。

もっとも、中間選挙が近づくなか、トランプ政権の支持率は低下しており、政治的には利回り低下を求める機運が高まっているとみられます。

トランプ大統領の支持率と米ドル指数

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(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成

トランプ大統領は8月19日、米国債利回りの上昇について「心配する必要はない」とする一方、政策金利の高さを批判しました。7月のFOMC後には、FRBが利上げを見送ったにもかかわらず、長期・超長期債利回りが上昇しました。FRBのハト派化が必ずしも債券市場の安定につながらない可能性は高いものの、当面は米国でもFRBに対する政治的なハト派化圧力や、FRBの独立性への懸念がくすぶりやすくなりそうです。9月のFOMCに向けた利上げ期待の低下に加え、為替市場で「米ドル離れ」に伴う米ドル安圧力が強まる可能性にも警戒が必要です。

今週はジャクソンホール会合も予定されています。ウォーシュ議長は7月のFOMC後の記者会見で、ジャクソンホールでの講演は「近視眼的な議論に陥りがち」としたうえで、一歩引いた大局的な視点から「大きな問い」を提起する考えを示唆しました。8月28日に予定されるウォーシュ議長の講演は、当面の利上げ期待を大きく動かす材料にはなりにくいでしょう。一方、政治との距離感や債券市場の不安定化に対する見解などが注目されそうです。

海外投資家の米債投資需要は低調

需給面では、海外投資家による米国債投資の勢いが鈍い一方、米国株への投資の勢いが持続するかが注目されます。6月のTIC(対米証券投資)では、海外投資家による米国株の買越額が1,814億米ドルと、過去最高のペースだったことが確認されました。一方、米国債の買越額は68億米ドルと少額にとどまり、政府機関債は168億米ドルの売り越しとなるなど、債券市場への資金流入は鈍っています。米利上げ期待の高まりが債券投資への逆風となり、公的部門によるリバランスに伴う米国債売り98億米ドルも影響したとみられます。

中東情勢の悪化もあり、2月末以降、米ドル指数は上昇傾向をたどってきました。需給面では、4-6月期に世界的にテック株が好調となるなか、米国株が歴史的な勢いで買われたことが支えになったと考えられます。一方、米国債利回りの高さを踏まえると、海外投資家による米国債投資の勢いは鈍く、債券市場では底流として「米ドル離れ」が続いてきた可能性もあります。海外投資家による米国株買いの勢いが鈍れば、需給面から米ドル安圧力が高まりやすくなる可能性があり、注意が必要です。

日銀利上げペース加速への期待は高まるか

日本では、7月のコアCPI(消費者物価指数)が前年同月比1.8%上昇と市場予想に一致し、前月の同1.6%上昇から伸びが加速しました。日銀版コアコアCPIも同1.9%上昇と、前月の同1.7%上昇から加速しました。政策効果もあり、日本のインフレ率は2%を下回る水準で推移してきましたが、足元では底打ち感が明確になりつつあります。

日本のインフレ動向

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(出所)マクロボンドより野村證券市場戦略リサーチ部作成

4-6月期のGDP(国内総生産)成長率は、内需が想定より弱く、前期比年率+1.1%となりました。市場予想の同+2.0%を下回り、前期(同+1.9%)から減速しました。ただ、8月の総合PMIは53.4と、イラン攻撃前の2月以来の水準を回復しており、6月の利上げ後も景気失速のリスクは低いとみられます。ファンダメンタルズ面からも、9月会合での利上げが正当化されやすい状況にあります。

もっとも、9月の利上げを8割程度織り込むなか、円高が進むには、9月の利上げ後も3ヶ月に1回程度の利上げペースが維持されるかが重要です。8月27日に予定される氷見野良三副総裁の講演や記者会見で、高まる市場の利上げ期待を維持するようなインフレ警戒姿勢が示されるかが注目されます。また、これまで3ヶ月に1回の頻度で開かれてきた高市早苗首相と植田和男総裁の会談が、8月末にかけて実現するかも当面の焦点です。日銀に対する政治的圧力への警戒が和らげば、市場のビハインド・ザ・カーブ(政策対応の遅れ)への懸念が後退し、長期・超長期の日本国債の需要増を通じて円売り圧力の後退につながり得ます。

結論:円は米ドル売りの受け皿となるか

為替市場では米ドル安圧力が再燃し、米ドル円相場も上値が重くなっています。年末にかけて、FRBの利上げ期待の低下が米ドル安圧力になるとみてきましたが、「米ドル離れ」への警戒再燃も米ドル安圧力を強める可能性があります。日銀の利上げペースの加速や、日本の財政拡張への懸念後退が実現すれば、円も米ドル売りの受け皿として買われやすくなりそうです。日米当局による円買い介入の可能性も残るなか、米ドル円相場が165円を超えて上昇する可能性は低下しています。年末にかけて150円台半ばへ調整すると予想します。

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野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗
為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半にわたるニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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