2026.09.08 NEW
米ドル円が一時152円台 相場が転換点を迎えたとの見方が強まる 野村證券・後藤祐二朗
写真/タナカヨシトモ(人物)
米ドル・円相場は2026年9月8日に一時、約半年ぶりとなる1米ドル=152円台まで円高が進みました。日本銀行の利上げ観測や日米当局による円安是正への思惑が強まるなか、円高は今後も続くのでしょうか。足元の円高の背景と今後の米ドル・円相場の見通しについて、野村證券チーフ為替ストラテジストの後藤祐二朗が解説します。
米ドル円は2月以来の155円割れに
8月28日のジャクソンホール会合でのウォーシュFRB(米連邦準備理事会)議長の講演を受け、米ドル円は一時160円台を回復しました。しかし、先週半ば以降に大きく調整し、9月7日には155円を割り込みました。155円割れは今年2月以来です。ユーロ円も180円を割り込んでおり、全面的な円高となっています。
(出所)ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
9月7日は米国市場が休場で、目立った新規材料もありませんでした。そうした中、日銀の利上げ観測や、国内外の年金勢による日本国債への投資拡大を巡る思惑などが、引き続き円高材料とみられます。
CFTC(米商品先物取引委員会)が集計した円のポジションでは、9月1日時点のレバレッジドファンドによる円の売越額が87億米ドルと、7月末の介入前の9割超の水準まで戻っていました。155円前後でストップロスを巻き込み、円高が加速したとみられます。米ドル円は2026年末に向け、150円台半ばまで緩やかに調整するとみてきました。しかし、9月11日に8月の米CPI(消費者物価指数)、来週には日米の金融政策決定という重要イベントを控える中、このタイミングでの155円割れには意外感があります。ゴールデンウィーク中と7月末にかけての日米協調や、今年2度の円買い介入局面でも、米ドル円は155円を割り込みませんでした。それだけに、足元で155円を割れたことで、相場が転換点を迎えたとの見方が強まりそうです。
円高加速で本邦当局の姿勢に変化は見られるか
足元で円高圧力が強まっている背景には、1)米国の利上げ観測の小幅な後退、2)日銀の利上げ観測の高まり、3)日本国債市場における安定化の兆し、があるとみられます。日米協調介入後、米当局から日銀や政府に対し、日銀の利上げ加速を求める圧力が強まっています。市場は来週の9月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げを6割程度織り込んでいますが、8月のCPI次第では米政策金利が据え置かれる可能性があります。こうした中、日銀が9月会合で利上げし、その後も3ヶ月に1回程度のペースで利上げするとの見方が広がれば、米ドル円の上値は一段と重くなりそうです。
円高の加速を受け、本邦当局や高市早苗政権の発信に変化がみられるかが注目されます。先週後半の米ドル円急落後、三村淳財務官は「引き続き臨戦態勢」と発言しました。155円割れとなる円高・米ドル安に対し、当局の拒否反応は限定的とみられますが、足元で堅調を維持する日本株の反応には一定の注意が必要です。
6月の日銀短観における2026年度上期の想定米ドル円レートは、1米ドル=152円62銭(全規模・全産業)でした。米ドル円が一気に150円に近づけば、製造業を中心に業績予想を下方修正する必要が出てくるでしょう。日本株にとっても短期的な逆風となり得ます。
(注)次期ないしは当該半期の想定レート。
(出所)日銀、ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
一方、内閣府が集計した輸出企業の採算米ドル円レートは、今年1月時点で1米ドル=132円20銭と、足元のスポットレートに比べてかなり円高の水準にあります。緩やかなペースの円高であれば、150円を割り込んでも、日本経済や企業活動への悪影響は限定的でしょう。
(出所)内閣府、ブルームバーグより野村證券市場戦略リサーチ部作成
結論:米ドル円見通しは維持も、下振れリスクへの警戒が必要に
155円の節目を割り込んだことで、本邦の輸入企業や投資家による押し目買い需要が強まるとみられます。特に、中東情勢の不確実性が高く、原油価格も高止まりしているため、円高の勢いを抑える材料となるでしょう。9月11日発表の8月の米CPIや、来週の日米の金融政策決定といったイベントを控え、目先は円高のペースも鈍ると予想されます。ただ、当局の姿勢に変化がみられなければ、米ドル円の上値が重い状況は続くでしょう。市場が6割程度織り込んでいるFRBによる9月の利上げが見送られた場合、米ドル円の下落基調が一段と鮮明になる可能性があり、注意が必要です。2026年末の米ドル円予想は154円で据え置きますが、年度上期末に向け、下振れリスクへの警戒が必要な局面といえます。
- 野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗 - 為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半にわたるニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。
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