2025.01.28 NEW
ディープシークショックで米国AI関連銘柄が急落 野村證券ストラテジストが解説
中国のAI開発企業、DeepSeek(ディープシーク)が低コストで高性能なLLM(大規模言語モデル)を開発したと報じたことなどを受けて、米国株市場でAI関連銘柄が急落するなどの影響がありました。野村證券投資情報部シニア・ストラテジストの村山誠がディープシークの特徴や今後の米国AI関連銘柄の見通しを解説します。
AI関連銘柄が売られた1月27日の米国株式市場
2025年1月27日の米国株式市場は、S&P500指数が前週末終値比-1.45%、ナスダック総合指数が同-3.06%、ダウ指数は同+0.65%となりました。前週末に経済専門チャンネルCNBC等が、中国のAI開発企業、DeepSeekが低コストで高性能な生成AIモデルを開発したと報じたことなどを受けて、米国のAI産業への警戒感が広まり、半導体関連銘柄や電力関連銘柄など、AI関連銘柄が売られました。
DeepSeekが安価で性能の低い半導体を使って構築した生成AIモデルは、1つのモデル開発にかかった費用が約560万ドルで、開発期間は約2ヶ月だったと、同社は説明しています。米国が中国への先端半導体の輸出を制限していることから、DeepSeekはLLMの学習に最先端ではないGPU(画像処理半導体)を使ったと説明しています。にも拘わらず、DeepSeekの生成AIアプリは、OpenAIのChatGPTと同等以上の性能を示しているとのことです。
DeepSeekは、開発した生成AIモデルを誰でも利用できるよう公開していて、スマートフォン向けのアプリも提供しています。一連の報道を受けて、同社の生成AIモデルの実力を試そうと利用者が殺到し、週末にはアップルの米国のアプリストアでDeepSeekのダウンロード数は一時首位になったとのことです。また、アンドロイドのアプリストアでは、無料の「仕事効率化」アプリ部門で、ChatGPTに次ぐ2位となっているとのことです。
米国では、生成AIモデルの開発に必要なデータセンターへの投資が行われ、21日にはトランプ米大統領が、民間主導のAIインフラ整備事業「スターゲート計画」を発表するなど、設備投資計画が相次いでいます。そのような中、中国企業が低コストで高性能な生成AIモデルを開発したと報じられたことで、米国企業を中心に行われている巨額な設備投資の資金回収に対する警戒感や、米国企業の競争優位が失われることへの懸念などが台頭したとみられます。
現時点では個人ユーザー中心に試している段階か
中国で開発したアプリが米国に浸透した例としては、バイトダンスのTikTokが挙げられます。TikTokは米国内でユーザー数が多いSNSですが、国家安全保障の懸念や、個人情報保護の観点等から、米国ではその使用については規制がかけられようとしています。
TikTokのようなSNSにおいても、利用に伴う様々な懸念が示されていますが、DeepSeekのような自然言語による対話型生成AIモデルについては、利用に伴うリスクはSNSよりも一段と高いと考えられます。
米国内の自国企業が開発した生成AIモデル、OpenAIのChatGPTなどについても、入力した情報が、その基となるLLMの学習に用いられ、企業の情報や個人情報が外部に漏洩する可能性が指摘されています。このため、企業において使用する際には、API(Application Programing Interface)と呼ばれるソフトウエアを用いて、企業側からの情報がLLMの学習には用いられないようにするなどの対応を行うなどして、使用されています。
このような状況を踏まえると、中国企業による生成AIモデルが、米国の企業等において本格的に普及するには、乗り越えなければいけないハードルは多いと考えられます。報じられているような、アプリストアでダウンロード数が急増しているのは、個人を中心に性能を試してみようということで、ダウンロードされていると推察されます。
米国ではAI関連への投資は引き続き行われる
中国企業がLLMを安く提供できるというのに、米国企業が行っている高額の設備投資の回収はできるのだろうかという不安が投資家の間に生まれ、それが27日の下落を引き起こしたと考えられます。
しかし、生成AIはまだこれから普及期を迎える途上であり、そのために必要なデータセンターへの設備投資は避けて通ることはできません。27日は、AI関連銘柄が大きく下落しましたが、前述の通り、先週はスターゲート計画の発表等もあり、AI関連銘柄が足元で一段と上昇していたことから、米国株式市場における株価の反応も大きかったと推察されます。米国ではスターゲート計画も進められることもあり、AI関連銘柄の株価は、短期的な上下はあるものの、2025年から2026年にかけて上昇していくと予想されます。
半導体ではAI関連以外への裾野の広がりも
なお、半導体企業の株価は、半導体セクター内でローテーションのように投資対象が移り変わることが考えられるため、エヌビディア以外にも注目することが重要です。これまでは、データセンターで多く用いられる、エヌビディアをはじめとするAI関連の半導体企業に株式投資家の資金が集中していて、それ以外の例えばテキサス・インスツルメンツやアナログ・デバイセズといった、自動車や産業ロボットなどの分野で多く利用されている半導体企業の株価は、2024年秋以降下落していました。2025年は、データセンター投資の継続に加え、AI機能搭載端末の増加や自動車や産業機器向けなど、裾野の広がりが半導体需要拡大に寄与すると見込まれます。これらの分野ではDeepSeekによる直接的な影響は受けないことから、仮に同社が米国のAI業界に与える影響が大きかったとしても、投資家から再評価される可能性があります。
大手ハイテク企業の決算発表での情報発信に留意
足元では米主要企業の2024年10-12月期決算発表が続いていますが、今後、米国時間29日にはマイクロソフトやメタ・プラットフォームズ、30日にはアップル、2月4日にはアルファベット、6日にはアマゾン・ドットコムなどの大手ハイテク企業が決算発表予定です。
これら大手ハイテク企業の決算が発表された際には、決算説明会等で、アナリストからの質問に回答する形で、DeepSeekとその影響について、各社のコメントが得られる可能性があり、それらを通して示唆が得られないか、注目したいと思います。また、DeepSeekや中国のAI産業に関する報道は、メディア等から今後も出てくると予想されます。これら各社のコメントや報道等から、状況を見極めていきたいと考えます。

- 野村證券株式会社投資情報部 シニア・ストラテジスト
村山 誠 - 1990年野村総合研究所入社、1998年に野村證券転籍。エクイティアナリスト、クレジットアナリストとして勤務。2011年6月より米国株ストラテジー担当。投資環境の分析、個別株の投資アイデアを提供。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。
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