2017.10.19 NEW
「隷属なき道」―注目を集めるベーシックインカムの有効性を、豊富な事例をもとに解説する一冊
「ピケティにつぐ欧州の新しい知性」と評される、29歳の若きオランダの新鋭ジャーナリストが著した「ベーシックインカム」の啓蒙書。
世界は確実に豊かになっている。60億人が携帯を持ち、平均寿命は100年前の倍以上。中世に生きる人が聞けば、まるで「豊饒の地(ユートピア)」だと言うだろう。
しかし、今の子どもたちは親世代より悪い時代を生きることになると信じている。我々は手に入れた世界以上に良い世界を思い描くことができないので、新たな夢を見ることができないでいる。
そんな閉塞感に陥っている我々に、この本は未来への扉を開こうと語りかけてくる。
そして、そのためのキーワードが「ベーシックインカム(BI)」だ。「隷属なき道」と題されたこの本は、過去の世界各国の取り組みを例に上げながら、ベーシックインカムの必要性・有効性を説いていく。
たとえば、BIの議論では、貧困者にお金(フリーマネー)を渡してもそれが適切に使われないのではないかという指摘がよくなされる。得たお金を浪費してしまうのではないかと。
しかし、ロンドンで行われたホームレスを対象とした実験、西ケニアの事例などを通して、貧しい人々にフリーマネーを支給することで「選択の自由」を与えれば、犯罪、小児死亡率、栄養失調、10代の妊娠、無断欠席の減少、学力向上、経済成長、男女の平等など、さまざまな効果が得られることが実証されていることを示す。
また、従来の福祉にかかる人的コストの削減や、ヘルスケアにかかる公共支出の削減など、財政的意味の大きさにも言及している。
いまBIについては賛否両論ある。いやどちらかというと否定のほうが多いだろう。スイスの国民投票ではBIの導入は否決された。日本でもBI導入を望む声も増えては来たものの、実現するには長い時間が必要だろう。それでも著者はBIの必要性を説き続ける。そして、この本は以下のように締めくくられる。
「思い出そう。かつて、奴隷制度の廃止、女性の選挙権、同性婚の容認を求めた人々が狂人とみなされたことを。だがそれは、彼らが正しかったことを歴史が証明するまでの話だった」
もしベーシックインカムに興味があるのなら、ぜひとも読んでおきたい一冊である。
■書籍情報
書籍名:隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働
著者 :ブレグマン・ルトガー(Rutger Bregman)
1988年生まれ、オランダ出身の歴史家、ジャーナリスト。ユトレヒト大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で歴史学を専攻。広告収入に一切頼らないメディア「デ・コレスポンデント(De Correspondent)」の創立メンバー。
訳者 :野中 香方子(のなか きょうこ)
翻訳家。お茶の水女子大学文教育学部卒業。主な訳書に『137億年の物語』(文藝春秋)、『マッキンゼー流 最高の社風のつくり方』(日経BP社)、他多数。
※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。