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2019.04.15 NEW

なぜ私たちはデータを正しく読むことができないのか―誤解を生みだす「10の本能」

なぜ私たちはデータを正しく読むことができないのか―誤解を生みだす「10の本能」のイメージ

社会制度の変革や種々の技術発達を背景にマーケットのグローバル化が進展していく現代を生きるビジネスパーソンにとって、「世界情勢を知ること」の重要性は増すばかりである。テレビやネットなどの各種メディアを通して日々たくさんのニュースや情報に触れていると、「自分は世界のことをよく理解している」と思ってしまいがちだが、果たしてそうだろうか?

私たちの世界に対する知識は誤りだらけ――。そんな衝撃的な事実を紹介し、瞬く間に世界的なベストセラーとなった『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP社)。本書は、その事実を指摘するのみならず、誤りをあらためるための手立てと道筋を提示している。

私たちは世界についてとんでもない勘違いをしている

あのビル・ゲイツをして「名作中の名作」と言わしめた本書。その内容を簡単に表現するなら、最新の統計データをもとに人々の「思い込み」や「心理的な偏り」を指摘し、教育、貧困、環境、エネルギー、人口などに関する「世界の本当の姿」や「事実(ファクト)に基づく世界の見方」を紹介した一冊、といったところだ。

本書の主たる著者は、医師であり、公衆衛生の専門家であり、世界を飛び回る講演者でもあったハンス・ロスリング(残念ながらハンスは本書の完成を待たず2017年にこの世を去ってしまったが、息子のオーラとその妻のアンナが残された原稿を完成させた)。

ハンスはノーベル賞受賞者の会議や、世界経済フォーラムのダボス会議でも「事実に基づいた世界の見方」についての講演を行っており、ウェブ上で公開されている彼の講演動画は、累計3,500万回以上再生されている。

本書は、「私たちはいかに世界について勘違いをしているか?」を実証するため、冒頭で13の三択問題を投げかける。そのうち何問かを引用して紹介しよう(p9-p11)。

質問1:現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?

A 20%

B 40%

C 60%

質問3:世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?

A 約2倍になった

B あまり変わっていない

C 半分になった

質問9:世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいいるでしょう?

A 20%

B 50%

C 80%

著者は世界のトップクラスの政界人、金融関係者、ジャーナリスト、大学教授などに同様の質問を尋ね続けてきたそうだが、いずれもその正答率は「チンパンジー以下」のひどいものだったという(3択問題を当てずっぽうに回答した場合の正答率は33%。つまりチンパンジーがやっても33%は正答できるのだが、それ以下の正答率だったわけだ)。しかも、学歴の高い人ほど正答率が低い傾向にあったというのだ。

ではなぜ、十分な教育を受けてきたはずの人々が「チンパンジー以下」になるのか? それは「無知」が問題なのではなく、「誤った思い込み」が深く刷り込まれていることだと筆者は説く。過去の教育で学んだ古い知識や先入観にとらわれすぎて、問題を実際よりも深刻なものだと思い込んでいたり、忙しい毎日に追われて、知識や情報のアップデートを怠っていたり……。「ファクトに基づかない思い込み」を持ち続けているがゆえに、私たちは世界の本当の姿が見えなくなっている(世界をドラマチックに見すぎている、とも言える)というわけだ。

ちなみに、さっきの質問の回答は、すべてC。世界の人口のうち、極度の貧困層はここ20年で半減しているし、世界のほとんどの子どもがワクチンの接種を受けている。世界は私たちが思っている以上に、よりよい方向に向かっているのだ。

人の認識を誤らせるさまざまな「本能」とは

私たちが誤解してしまう理由には、「物事のポジティブな部分より、ネガティブな面に気づきやすい」という人間の「本能」が作用しているのではないか――。そんな仮説を立てた著者は、その仮説をもとに多くの人が持つ「10の本能(思考の癖)」にスポットを当て、バイアスの克服法を解説していく。

たとえば、何事も2つに分けたがる「分断本能」。私たちは国の特性を論じる際に、よく「先進国」や「途上国」、「豊かな国」と「貧しい国」という言葉を使うが、本当に世界はそんな風に分断されているのか。

本書に記された1965年の国連データをみると、確かに世界のほとんどの国が先進国(アメリカ、ヨーロッパのほとんどの国を含む44ヵ国)か、途上国(中国やインドを含む125ヵ国)のどちらかの枠におさまっている。

しかし、2017年には、世界の人口の85%が先進国という枠の中に入っており、途上国の枠に入るのは全人口のたった6%・13ヵ国(残りは、両者の間に位置する)に過ぎない。このことから筆者は、世界が先進国と途上国に分断されているととらえるのは「時代遅れ」だと断じる。

もっとわかりやすい例を挙げるなら、自分が所属する「わたしたち」とそれ以外の「あの人たち」に分けてしまうのも、この分断本能の仕業だ。

良いか悪いか、正義か悪かといった二項対立の構図は確かにドラマチックだし、そうした分断本能に訴えかけるようなメディアの報道も少なくはない。だが、分断本能に従ってばかりいたら――。いつまでたっても「チンパンジー以下」から抜け出すことができないだろう。

そして、こうした勘違いを見つけて正しい理解に変えるには、「データ」を見せ、その裏側にあるファクトを理解させることが必要なのだという。

本書ではこのほか、「直線本能」(○○はひたすら増え続けると考えてしまう本能)、「パターン化本能」(ひとつの例をすべてに当てはめてしまう本能)、「犯人捜し本能」(誰かを責めれば物事は解決すると考えてしまう本能)といった「10の本能」を取り上げている。

本書は難しい経済用語や統計用語を使わずに解説されているため、実にすんなりと理解することができる。これまでデータや分析などに触れてこなかった人であっても、非常に易しく読めるはずだ。

「正しいものの見方」はビジネスにおいても重要

世界は刻一刻と変わり続けているという事実と、私たちがそれを誤解・曲解してしまっているという現実。まずはそれをしっかりと認識することが、「正しいものの見方」を身につけるためのスタートとなる。

そして、「正しいものの見方」を身につけることは、“世界情勢の正しい理解”にとどまらず、ビジネスの現場においても大いに役立つだろう。提案書・企画書を作成するとき、あるいは新しい商品・サービスの企画を行うときに、データを正しく理解し、クライアントやエンドユーザーの「本当の姿」を捉えることができたなら、ビジネスにおける生産性は格段に向上するに違いないからだ。

さまざまなことが大きく変化する時代だからこそ、そして世の中に情報が氾濫しているからこそ、本書を傍らに置き、事実を事実として見る姿勢を常に持っておきたいものだ。

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣のイメージ

■書籍情報

書籍名:FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

著者 :ハンス・ロスリング(Hans Rosling)
ハンス・ロスリングは、医師、グローバルヘルスの教授、そして教育者としても著名である。世界保健機構やユニセフのアドバイザーを務め、スウェーデンで国境なき医師団を立ち上げたほか、ギャップマインダー財団を設立した。
ハンスのTEDトークは延べ3500万回以上も再生されており、タイム誌が選ぶ世界で最も影響力の大きな100人に選ばれた。2017年に他界したが、人生最後の年は本書の執筆に捧げた。

著者 :オーラ・ロスリングとアンナ・ロスリング・ロンランド(Ola Rosling and Anna Rosling Rönnlund)
オーラはハンスの息子で、アンナはその妻。ギャップマインダー財団の共同創設者。オーラはギャップマインダー財団で2005年から2007年、2010年から現在までディレクターを務めている。
アンナとオーラが開発した「トレンダライザー」というバブルチャートのツールをグーグルが買収した後は、グーグルでオーラはパブリックデータチームのリーダー、アンナはシニア・ユーザビリティデザイナーを務めた。
2人はともに功績を認められ、さまざまな賞を受賞している。

訳者 :上杉 周作(うえすぎ しゅうさく)
IT技術者。カーネギーメロン大学でコンピューターサイエンス学士、ヒューマンコンピュータインタラクション修士取得。卒業後、シリコンバレーのPalantir Technologies社にてプログラマー、Quora社にてデザイナー、EdSurge社にてプログラマーを経験。現在はフリーランスプログラマーとして活動するかたわら、不定期で実名ブログ「上杉周作」を更新中。

訳者 :関 美和(せき みわ)
翻訳家。杏林大学外国語学部准教授。慶応義塾大学文学部・法学部卒業。電通、スミス・バーニー勤務の後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。モルガン・スタンレー投資銀行を経てクレイ・フィンレイ投資顧問東京支店長を務める。また、アジア女子大学(バングラデシュ)支援財団の理事も務めている。

※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。

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