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2020.06.25 NEW

ビジネスを支える「コミュ力」の磨き方――どんな環境にも適応する力をつける絶対条件

ビジネスを支える「コミュ力」の磨き方――どんな環境にも適応する力をつける絶対条件のイメージ

あらゆる業界でリモートワークが普及し、これまでの組織のあり方や働き方が転換しようとしている。この急速な変化のなかで、あらためてコミュニケーションの重要さ、そして難しさを実感した人は多いのではないだろうか。

コミュニケーション力向上をうたうビジネス書は数多く出版されているが、内容に説得力があるという点でも、難解さや説教くささをみじんも感じさせないという点でも、他とは一線を画すのが今回紹介する『世界トップエリートのコミュ力の基本 ビジネスコミュニケーション能力を劇的に高める33の絶対ルール』(PHP研究所)だ。

トップエリートを支えるビジネス・コミュニケーション力の33ルール

本書のいちばんの特徴は、徹底して“身近さ”と“読みやすさ”を追求している点にある。著者はベストセラー『最強の働き方』(東洋経済新報社)などで知られる、実業家のムーギー・キム氏。英語、中国語、韓国語、日本語の4カ国語を操り、外資系の投資銀行やコンサルティング会社を渡り歩いた“グローバルエリート”だ。

現在は、日本とシンガポールを行き来して投資活動やグローバル人材育成などに注力し、世界を股にかけて活動しているからこそ、本書に登場するエピソードもバラエティ豊か。香港とシンガポールのプレゼン大会で最優秀賞をとった秘訣、累計1億PVを突破した連載コラムから得た知見、さまざまなメディアで世界のVIP達を相手にインタビューするコツ、700億円の損失から得た学びなど、大抵のビジネスパーソンはなかなか経験できないようなエピソードが満載である。

などと書くと、一般離れした経験談や上から目線の自慢話が並んでいる本だと思われそうだが、著者はもともと「気の毒な」コミュニケーション能力の持ち主だったという。多彩な経験のなかで、世界中のトップエリートたちと働くうちに蓄えられていった知識を、徹底した“下から目線”で解説し、万人に役立つ学びや教訓に落とし込もうとしているのが本書のやり方。だからこそ“身近さ”と“読みやすさ”を感じるのだ。

さて、ビジネス・コミュニケーション能力を高めるにはどの観点が必要なのか? 本書は、「文章」「プレゼン」「会話」の3つの章からなるアウトプット編と、「質問」「読み方」の2つの章からなるインプット編とで構成。各章では著者が経験してきた一次情報とそのナレッジの数々が、次のように統一されたポイントで整理され紹介されていく。

  1. 多くの人が陥る“3大欠陥”
  2. スキルを向上させるための“絶対ルール”とその教訓
  3. マトリクス図と、4段階の「できないレベル」に応じた改善点

それでは、本書に書かれたビジネス・コミュニケーション能力を「劇的に高める」ノウハウをみていこう。

価値あるアウトプットをするための“絶対ルール”

アウトプット編は、第1章の「文章の絶対ルール」から始まる。ここで強調されるのは、伝えたいことを明確にすること、伝わりやすくする工夫をすることの重要性である。

はじめに前提として、ある意味で頭が良すぎる人の文章にありがちな文章の3大欠陥として以下を挙げている。

つまらない文章の3大欠陥

  • 文章に構造がない
  • 一般論や抽象論ばかりで、具体性、オリジナル性がない
  • 書く源泉となる感動やインスピレーションがない

ここで著者は、かつて一緒に働いた中国のAI分野の著名教授の一例を紹介する。そのトップ研究者は、説明がやたらと無味乾燥で抽象的。いくら「具体的に」とお願いしても「数式のような」解答しか返ってこず、やりとりに苦労していた。

このエピソードから著者が習得したのは、抽象論だけで終わる「骨格標本みたいな文章」にならないよう注意することが、読みやすい文章にするポイントの1つだということ。具体例もきちんと書き込み、本質的なメッセージとのバランス感覚を配慮して「骨付きカルビのような文章」を意識せよと説く。

伝えたいことを明確にするために、著者は直接経験したり、会って聞いたりしたときのインスピレーションを大切にすること、そのために「自分で面白い経験を積むこと」を勧める。文章とは、言い換えれば、自分の頭にあるイメージを、文字を通じて読み手に伝えることでもある。だからこそ、文字に書き手のイメージやインスピレーションが豊富であればあるほど、読み手がイメージを再構築する助けになる。

文章でイメージを伝えようとする際、同時に重要になるのが、発信する前に十分に寝かせて、冷静な目で見つけ直す「熟成期間」だ。深夜に書いた恋愛がらみのメッセージや、怒りの文章を翌日読み直して、「とんでもなく後悔した……」という経験がある人なら、著者の「深夜のラブレター誤送信事件」の失敗をもとにしたこの教訓に身をもって共感できるだろう。

一方、伝わりやすくする工夫については、最初と最後をつなげて読めば大意がわかるよう、「文頭と文末での論旨強調」をすることを心がけるべきというのが第一のアドバイス。私たちは、学校教育を通じて「起承転結」という文章テクニックを教えられ、「物語」のような文章を好む傾向にある。だが、ビジネス文書において、なかなか結論が出てこない文章など論外なのだ。

「文章の絶対ルール」では全部で7つのルールが紹介されているが、ここまでの3つのルールと教訓をまとめると以下になる。

文章の絶対ルール

  • 読みやすい文章は、骨付きカルビのバランスで
    (教訓:極力短く書き、具体例と抽象論をバランスよく織り交ぜて、読みやすくしよう。読みにくい文章に耐えられるのは、極度に生真面目な人だけである)
  • アドレナリンとセロトニンが配合された、「熟成文章」が大切
    (教訓:気持ちを伝える文章を書く前には、直接経験したり、会って聞いたりしたときのインスピレーションを大切にしよう。ただし文章の編集は、冷静な平常心で行おう)
  • 伝わる文章には、「起承転結」より「最初と最後」が重要
    (教訓:文章の構造を明確にして、一言要約と様式の統一にこだわろう)

総じて、文章のコミュニケーションで肝になるは、著者のいうように「端的に要旨を伝えられる利点があるので、それを最大限活かす」ということかもしれない。

第2章の「プレゼンの絶対ルール」では、聴衆のニーズを意識することと、形式よりも伝える努力をすることの重要性を説く。巷に情報が溢れている時代、どれだけ誠実に準備しても、相手の興味のない話をすれば「聞こう」という気持ちまでシャットダウンさせてしまう。

では、プロはどのように聴き手の興味を引き付けるのか? ここで紹介されるのは、某大手グローバル企業の取締役会において、世界中の支社のCFOを前に行ったプレゼンの体験談。そのとき、著者はその企業の有力者に連絡をとり「参加者が関心を持っているトピックはどんなことか」「そこにどんな価値や課題を感じているのか」といったことを事前にヒアリングをしたという。

そうして下準備を済ませてしまえば、あとは当日に「これから話すのは、みなさんの関心に役立つ情報です」というふうに切り出すだけ。聴衆は身を乗り出して、話に耳を傾けたそうだ。つまり、相手の“自分ごと”に、付加価値としてこちらが伝えたいメッセージを結びつけることで、見事にプレゼンを成功させたのである。

プレゼンの絶対ルール

  • 相手の「自分ごと」に、伝えたいメッセージを結びつける
    (教訓:聴衆のニーズを考えよう。そしてそれを理解していることを示してプレゼン内容を紐づけ、オーディエンスの理解レベルに合わせよう)

残念なアウトプットをしないためのインプット・リテラシー

よりよいインプットは、アウトプット向上の基礎となる。インプット編のスタートとなる第4章でピックアップされるのは「質問力の絶対ルール」。ここでは人から興味ある話を引き出すために、聞きたいことを明確にすることや、相手の「答える意義」を意識することが挙げられている。

著者は一例として、実業家の堀江貴文氏にインタビューした際のエピソードなどを盛り込みながら、相手が「答える意義」を感じる質問を考えることの必要性を説いていく。そのときは、堀江氏が通信学校の開校を発表したタイミングだったため、同氏にとって答えるメリットがあるだろう教育の話題をインタビューに盛り込んだ。結果、どこか硬派な印象の彼に「とても楽しかった」と言ってもらえ、本来の企画の目的も満たすことができたという“お墨付き”だ。

最後となる第5章の「確かな情報を手に入れるインテリジェンス戦略」では、ニュースやSNSなどの膨大な情報源からいかに良質な情報を収集するか、その「受信力」がテーマだ。いくら果敢にアウトプットをする努力をしても、それが正しい情報でなければ元も子もない。

ところが、毎日4カ国語でニュースを収集している著者がいうには「各国が報じる情報はしょせん一面的で、プロパガンダやレッテルだらけ」のものがあふれかえっているのだという。そういった情報の「偏見」が世にはびこる多くの要因として、次の3つの掛け合わせを提起する。

残念過ぎる「受信力」の3大欠陥

  • 発信者が抱えるさまざまな偏見と利益相反
  • 偏見に反する情報を排除する「間違った一貫性」
  • 自分が属する集団こそが正しいと信じる「内集団バイアス」

このような状態に陥らず、受信力を強化するためには、「収集する情報の信頼性を見極めること」と、「自分自身が間違った思い込みをしていないかを確認すること」が大事というのが著者の考え方だ。本書には、メディアリテラシーの磨き方についてもしっかりと記載してあるので、ぜひ参考にしてほしい。

最後は、自信がつくまで準備しきること

最後に、著者はコミュニケーション力に、最大の自信を与えてくれる根拠になるのは、「『これを伝えるのが楽しみで仕方がない』という状態になるまで、しっかりとした準備をしたという事実」(p.252)だと実感しているのだという。コミュニケーション力は、もともとの生まれ持った才能だというイメージを持っている人も少なくないかもしれないが、努力して磨かれるべきスキルなのだ。

アフターコロナにおける変革の波をスムーズに乗りこなすためにも、またビジネスシーンでさらなる信頼関係を構築するためにも、ぜひ手に取ってもらいたい一冊だ。

世界トップエリートのコミュ力の基本 ビジネスコミュニケーション能力を劇的に高める33の絶対ルールのイメージ

■書籍情報

書籍名:世界トップエリートのコミュ力の基本 ビジネスコミュニケーション能力を劇的に高める33の絶対ルール

著者 :ムーギー・キム
実業家。AI Partners(シンガポール)パートナー。(株)ディープキャリア取締役。ブルー・オーシャン・グローバル・ネットワークメンバー。慶應義塾大学卒業。INSEAD(フランス/シンガポール)MBA。欧州系投資銀行、米系戦略コンサルティングファーム、米系資産運用会社で勤務したのち、香港・シンガポールに移りプライベートエクイティファンドにて勤務。現在は日本とシンガポールを拠点に、投資×企業イノベーション×グローバル人材(採用・研修・コーチング)の3領域で活動。英語・中国語・韓国語・日本語の4カ国語を操る。その多言語コミュニケーション能力は世界的VIPから高い評価を受けており、ジム・ロジャーズ氏(世界3大投資家)、チャン・キムINSEAD教授(Thinkers50世界ナンバーワン、“ブルー・オーシャン・シフト”共著者)、竹中平蔵氏(元・経済財政政策担当大臣、世界経済フォーラム<ダボス会議>理事)など、世界的著名人を対象とした対談・インタビューを多数こなしている。インフルエンサーとしても知られており、東洋経済オンラインでのコラムは1人で1億PVを達成。主著の『最強の働き方』(東洋経済新報社)、『一流の育て方』(ダイヤモンド社)などのベストセラーは6カ国語で展開され、累計60万部を突破。2017年翔泳社ビジネス書大賞受賞。2020年よりビジネスコミュニケーション能力を高めながら仕事の教訓を学ぶ、「マンスリービジネススクール」をコンセプトにしたオンラインサロン「最強&一流の基本」(キャンプファイヤー)を開設。

※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。

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