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2020.12.10 NEW読み方の角度

「日本のドラッカー」と呼ばれた男―1万社を指導したコンサルが残した「反逆の書」

「日本のドラッカー」と呼ばれた男―1万社を指導したコンサルが残した「反逆の書」のイメージ

今から55年前の1965年に発売された1冊の経営書が2020年6月に復刊され、反響を呼んでいる。『マネジメントへの挑戦 復刻版』(日経BP)だ。

著者は「日本のドラッカー」と称され、赤字会社を次々と立て直した伝説の経営コンサルタント、故・一倉定(いちくら さだむ)。1918年に生まれ、1999年に80歳で逝去するまで、日本中をくまなく行脚し、大中小1万社の社長を指導した。

門下生には、ユニ・チャーム創業者の高原慶一朗やドトールコーヒー創業者の鳥羽博道など、錚々たる面々が並び、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正も一倉の思想に学んだ一人だという。また、今回の復刻版には、冒頭にドラッカー学会理事佐藤等も文章を寄せており、それだけでも一倉の影響の大きさが見て取れる。

「実現可能なもの」を実現させるのは、誰にでもできる

本書で特徴的なのは、経営にまつわる「言葉」の定義である。例えば「経営計画」とは何か、に対する解釈。一般的には、経営ビジョンや目標を達成するための行動計画といった広い意味を指す言葉だが、一倉の考え方は少しばかり違っている。

「死に物狂いの努力をしなければ『そのとおりやる』ことができないような計画」こそが「ほんとうの(経営)計画」であり、実現可能、無理でない、科学的といった世間でいわれる経営計画の考え方に対しては、「綺麗ごとの観念論」だと一蹴しているのだ。

「予算」についても同様だ。経費の予算について、多くの会社では、各部門の要求を経理担当者がまとめて決めているが、一倉氏にとってそれは悪習と映る。企業活動は、経営者が売り上げと利益の目標を設定することから始まる。ゆえにそこから逆算し、事業運営を賄うために算出する経費こそが「予算」だというのだ。

一倉によると、「実現可能なもの」を実現させることは、誰にでもできる。それなら経営者は不要だ。会社が生き抜くためには、「不可能なことを可能にする」必要があり、そこに経営者の存在価値があるのだという。

事実、一倉は自身が接した企業が「赤字」と知らされると、じっとしていられず、どんなに多忙でも指導の時間を割いたという。そして、社長の姿勢が変わり、黒字の兆しが見えると、「もう大丈夫」と指導を終了。新たな赤字会社に目を向けたそうだ。

一倉の謦咳(けいがい)に接した社長たちは、「後にも先にも、あれほど強烈に『社長の生き方』を指し示した人はいない」と口をそろえたというが、コロナショックが直撃し、多くの企業経営者が「あるべき経営のかたち」を模索する今だからこそ、一倉の言葉が多くのマネジメント層に刺さるのではないだろうか。

「組織に定形はない」と断言する小気味良さ

では、一倉が示したメッセージとは具体的にどんなものだったのか。ここではあるべき「組織のかたち」について説いた4章から、その一端を紹介したい。

“一倉節”の特徴は、一般論では是として語られていることの多くを、小気味良いほどバッサリと否定することだ。

たとえば「組織論」についてはこうである。世の中には、「組織とはこうあるべき」という定形の理論がある。だが一倉は「組織に定形はない」と断言。その根拠として、以下のような従業員400人ほどの会社の例を挙げる。

その会社は、親会社からの値下げ要請により、赤字転落の間際に追い込まれていた。危機打開策の一つとして掲げたのが、生産部門の合理化だった。合理化にあたり、現在の生産部長では力不足であると判断した社長は、彼を異動させ、自ら生産部門の陣頭指揮をとる。その結果、みるみる合理化が進んだという。

しかし上手くいっているにもかかわらず、「そうした特定の目的のために一時的な組織を作ることは、組織論上は適切ではない」「社長の個人的な力で事態の改善を目指すのではなく、組織のかたちを整えることで改善を目指すべきだ」という批判を受け、社長は組織を元に戻し、別の生産部長を選任。しかし生産部門の生産性は低下し、再び業績の足を引っ張った――。

この例からわかることは、次の通りだ。

理想的な形態の組織をつくることはやさしい。しかし、そこに人をあてはめることは容易なことではない。人が不適任であったなら、組織はいくらりっぱでもなんにもならない。(P.97)

重要なのは、組織論を型どおりに実行することではなく、自社の実情に合った組織の形を考えること。それが一倉の考え方なのだ。

さらに、「組織はバランスのとれたものでなければいけない」という通念にも、一倉は異を唱える。一般的に企業には、収益性や安全性、資本効率性といった評価指標がある。そして、こうした指標において、バランスの取れた評価を得ることは、一見正しいことのように映る。

ただ一倉によると、成長する企業は組織面だけでなく、さまざまな面で「バランスを破って」前進しているのだという。つまり、アンバランスこそが成長途上の姿というわけだ。

その点については、一倉はこう指摘する。「見かけ上の八方美人的組織では、激しい競争に勝ちぬくことはできないであろう。よい組織とは、バランスのとれた組織ではない。目標を達成するために、重点に力を集中した、あるいは集中できる組織である」(P.100)と。全国をくまなく歩き、多くの再建企業を見てきた実体験を持つからこその考察である。

そしてこれは、社長や経営者のみならず、チームを率いる立場の者であれば誰しもが参考にしうる考察であろう。

「権限の委譲」がない企業は前進しない

最後に、組織における「責任」と「権限」の関係についての考え方も紹介しておく。企業経営においては、部下に業務上、何かを決定できる「権限」を与える代わりに、その結果に対する「責任」も負わせるというケースが多く存在する。これは「責任と権限が等しくなくてはならない」という考え方に依拠する。

しかし一倉は、そもそも責任と権限を「等しい」とはかる物差しは存在しないと訴える。さらに日常の社会生活においては、ほとんどの場合で「責任」のみが重く、「権限」はほとんど存在しないとも。例えば親が子供を教育するケースがそうだ。親は子を育てる責任を持つが、それに見合う権限を特段持たない。会社のケースも同様で、社員はある特定の業務において、権限がなくても、責任を果たす必要がある。「責任」と「権限」は、決して等しくはないのだ。

また組織において、上司から部下へ、責任と権限をどのように委譲するかも問われる。一倉いわく、まず重要なのは、責任と権限が等しくない以上、部下が定められた責任を果たすこと。そのうえで権限が必要になれば、部下側から上司を説得して、「獲得」すればいいという。

上司にとっては、部下へ権限を委譲することで、前進するための考察の時間を得られる。社長も同様に、部下に仕事を任せることで、企業の成長に向けた考察の時間を生み出せる。そのように「順々に上から下への権限の委譲があって、会社は前進できる」というのが、一倉の主張である。

本書はこのように、全国津々浦々の経営の現場で、経営者とともに汗を流した一倉ならではの考察がふんだんに詰まっている。そして、あるべき経営計画の形から、経営の実践、組織の統制、さらに財務、社員教育、組織の人間関係や社員の労務管理にまで及ぶその内容は、「世の経営にまつわる通念を再定義した試み」と捉えることもできる。

ちなみに、本書の執筆に著者を駆り立てたのは、世に溢れる“きれい事のマネジメント論”に対する怒りだったそうだが、それを示す序章の言葉もまた印象的だ。

これは挑戦の書であり、反逆の書である。ドロドロによごれた現実のなかで、汗と油とドロにまみれながら、真実を求めて苦しみもがいてきた一個の人間の、”きれい事のマネジメント論”への抗議なのである。(P.14)

『マネジメントへの挑戦』という書名も、著者のそうした姿勢を表したものだ。

一倉が存命であれば、コロナショックが直撃し、経営危機に直面する経営者に対して、「危機をコロナのせいにするな」と一喝したかもしれない。そのうえで、上っ面のマネジメント論ではなく、現場で汗をかいて導いた「血の通ったマネジメント論」を諄々(じゅんじゅん)と説いたのではないだろうか。「現実は生きているのだ、挑戦せよ」と。

本書には、経営者はもとより、大小を問わず組織を動かす人全般に向けたメッセージが詰まっている。そして、自身が向き合う組織やチームの課題に合わせてページを開くと、まるで一倉に伴走してもらっているような気分にもなれる。もしあなたが、地に足の着いた経営論を求めているなら、これほど心強いことはないだろう。

マネジメントへの挑戦 復刻版のイメージ

■書籍情報

書籍名:マネジメントへの挑戦 復刻版

著者 :一倉 定(いちくら さだむ)
1918年、群馬県生まれ。1936年、旧制前橋中学校(現在の前橋高校)を卒業後、中島飛行機、日本能率協会などを経て、1963年に経営コンサルタントとして独立。「社長の教祖」「日本のドラッカー」と呼ばれ、多くの経営者が師事した。指導した会社は大中小1万社近くに及ぶ。1999年逝去。

※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。

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