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2018.08.06 NEW

サッカーで生きるための逆算人生。Footmedia西岡明彦が描いた青写真

サッカーで生きるための逆算人生。Footmedia西岡明彦が描いた青写真のイメージ

サッカー報道のプロフェッショナル集団「Footmedia」代表取締役の西岡明彦。「生涯サッカーに携わる」という目標を実現するための道のりとマインドとは。

実況アナウンサーの派遣業務、マネジメント業務、各メディアの制作業務など、幅広い業種でサッカーとスポーツを生業にする会社「Footmedia」。代表取締役社長でサッカー実況者の西岡明彦は、生涯サッカーに携わるためにテレビ局から脱サラし、同社を立ち上げた。サッカーの仕事がしたい――。その思いを形にするために何を考え、どのような仕事人生を送ってきたのだろうか。

新卒で広島のテレビ局に入社。プロサッカーチームを担当したことが、キャリアを「サッカー」に定めるきっかけになったそうですね。

実は入社当時の私は、野球でもサッカーでもスポーツに関われれば何でもいいと思っていました。とはいえ、広島カープは歴史があってさまざまな先輩方が関わっていたので、私が入り込める余地があまりなかったんです。
一方のサンフレッチェ広島は、まだJリーグがスタートしていなかったこともあって、試合実況をやっている先輩も、練習を取材している記者も少なかったんです。おかげで、毎日練習場に通っていたら、選手やスタッフに「今日も来たんだ」と受け入れてもらうことができた。それがうれしくて「サッカーに関わりたい」と思うようになったんです。そのうちにニュース番組の一部にコーナーができて、試合実況も3、4年目に担当させてもらえるようになりました。

そんな充実した会社員生活に終止符を打ったのが28歳の時。退職された理由は何だったのでしょうか?
西岡明彦さんのイメージ

スポーツ中継でできることは、あらかたやらせてもらえたと感じたからです。当時は、サンフレッチェはもちろん高校野球やカープの中継も担当できるようになっていたのですが、「このまま同じ業務を続けるより、何か新しい仕事にチャレンジしてみたい」と思うようになったんです。
それともう一つ。6年の間にたくさんの選手たちの移籍や引退に触れるなか、「サラリーマンのままじゃ、彼らの本当の気持ちはわからない」「それではプロの厳しい世界に向き合っているとはいえない。もっと選手やクラブと近い関係性を持ちたい」と感じるようになっていたことも大きな理由でしたね。

それからロンドンに1年間留学し、帰国後の1999年にフリーのアナウンサーとして活動を開始されました。

ロンドンのウエストミンスター大学でメディア論を学び、プレミアリーグの試合をたくさん観戦して帰ってきました。フリーになって最初の仕事は、有料チャンネル放送でのサッカーの試合実況。仕事が月2本しかなかったうえに、局アナ時代と違って次の仕事が保証されていないので、毎回全力投球でしたね。

大変失礼だとは思いますが、月2本の実況だと生計が立てにくいのでは?

おっしゃる通りです(笑)。普段は名古屋の実家に住んで、実況があるときだけ新幹線で東京に出てくる、という生活でした。出演料は交通費と宿泊費でチャラになるので、平日はアルバイトのような形で地元局のディレクターもやっていました。

サッカー以外の実況やナレーションの仕事をするという選択肢はなかったのですか?

確かに当時は、サッカー以外の競技を兼業するフリーアナウンサーのほうが多かったと思います。ただ、私は「実況はサッカーに関わる大切な手段」という考え方だったので、他の競技の仕事をしたくなかったんです。

また、「タレント事務所に入ったほうが間違いなく仕事が増えるよ」というお誘いをいただくこともあったのですが、好きじゃない競技をやっても自分の価値を下げるだけだと思い、すべてお断りしていました。その分、空いた時間に少しでも多くの試合を見るようにしたり、選手のことを徹底的に調べたりということをやっていましたね。

有料チャンネルでお金を払ってまでサッカーを見ているのは、大半が「とにかくサッカーが好き」という人。そんな方たちより知識のない人間が実況をやるのはまずいじゃないですか。そうやって、サッカー漬けの日々を送っていたら徐々に仕事が増えていって、2001年ごろにはじめて東京に家を借りることができました。

Footmediaを設立したのは2004年。どのような経緯で会社を立ち上げられたのですか?

フリーアナウンサーとして請け負っていたサッカー実況の仕事が増えたので、会社組織にして事務処理を円滑にしたかったのが一つ目の理由。そして、テレビ局に勤務していた頃から親交のあった森保一(U-21サッカー日本代表監督:取材時)が現役を退いたので、彼のセカンドキャリアのマネジメントを手伝いたいと思ったのがもう一つの理由です。立ち上げ時は、私を含め3人の会社でした。

現在のFootmediaは、幅広い業種でサッカーだけでなくスポーツ全体をカバーされています。当初からこのような形を思い描かれていたんですか?

スポーツに関わることはなんでもやりたい、とは思っていました。今では珍しくないのですが、私が留学していた当時、ロンドンにはすでに映像の撮影から、アナウンス業務やリサーチ業務まで請け負えるスポーツメディアの専門集団のような会社があったんですよ。それを見て、いつか日本でもそういう会社が必要とされる時代がくるのかなと考えていたんです。

アナウンサー、選手・指導者のマネジメント、雑誌の翻訳や編集、テレビ・ラジオの番組制作…。手掛けている業務を見ると、スポーツメディアの専門集団という目標に近づいているように感じます。

立ち上がった当時は、テレビ局から「海外サッカーのリサーチはできないか」「野球をしゃべれる人が欲しい」と相談を持ち掛けられて、その都度、要求に見合う人材を全国から探していました。そこから少しずつ「スポーツに特化した仕事がしたい」「生涯現役でいたい」という覚悟を持った人が自ら集まってくれるようになって、活動の幅も広がりました。今は私を含め7人の社員と、タレント契約をしているアナウンサーが10人いて、ほかに選手や解説者ともマネジメント契約をしています。

ここに至るまで、会社経営で苦労したこと、悩んだことはありましたか?

あえていうなら、自分たちで活動の場を生み出すことができないという点でしょうか。「メディアで活躍したい」と思っていても、テレビ局や出版社からのリクエストがないと成り立たない仕事なので、常に活動の場を探して、確保しないとといけないんです。
でも、全員が「スポーツに関わって生活できるのは何よりの幸せ」と思っているので、正直それを苦労とは感じていないんですよね(笑)。

確かに、好きなことを仕事にできるのは幸せなことだと思います。
西岡明彦さんのイメージ

最近は、私たちと同じようにスポーツが好きで、スポーツ業界で働きたいという人も増えているのですが、受け皿がとても少ない。私たちのような小さな会社であっても、しっかり活動してそういう人たちが働ける環境を増やしていけたらいいですね。

現在は、地上波以外にもさまざまなメディアが登場して、スポーツの楽しみ方が多様化してきました。そうした中で、仕事に対する考え方、やり方に変化はありますか?

プロ意識をしっかり持つことが、より大事になったと思っています。アナウンサーの中には「お金を稼ぎたい」という理由でフリーになって、ある時はサッカー、ある時は野球という具合に、何でも実況してお金を稼ぐ人もいます。でも、専門性の高い有料コンテンツにお金を払ってくださる視聴者からすると、そういう存在は“良質なサービスの担い手”とは言えないと思うんです。

もちろん、アナウンサーだけでなく、ディレクターをはじめとするほかのスタッフも同じこと。目の肥えたサッカーファンは、作り手がサッカーのプロフェッショナルかそうでないかを一発で見抜きます。たくさんのメディアの中から選ばれるには、サービスの質が何よりも大事で、だからこそ「マルチに何でもやります」という人よりも、ものづくりのプロが必要とされる。そういう意味では、真っ当な時代になってきたなと感じます。

EL BORDEの読者にも「いつかは、好きを仕事に」と考えている方もおられると思います。なにか、メッセージをいただけますか。

サッカーの世界にいる人間はほとんどが転職組。とはいえ、Jリーグやサッカー協会、各クラブに転職した知人の大半は、前職でスポーツの仕事を経験し、そのノウハウを買われてサッカー界にきています。そういうことを踏まえると「必要とされる人材になるための逆算」は必要かもしれませんね。

もちろん、私自身も逆算をした結果、今の立場にいます。新入社員の頃から生涯広島にいようとは思っていなかったし、イギリス留学もどれだけ楽しくても1~2年で切り上げると決めていました。
会社を作ったときも、「一生実況アナウンサーとして活躍するのは難しいけれど、選手やアナウンサーのマネジメント業務やメディアの制作業務ならずっと業界に関わっていられる」と考えて、“サッカーに関わることならどんなことでも”という活動を展開してきました。

スポーツ業界に関わらず、“辿り着きたい場所”までの道のりを逆算し、キャリアプランを立てて、行動する。それが目標実現の近道だと思います。

西岡 明彦(にしおか あきひこ)
1970年愛知県名古屋市出身。青山学院大学経営学部を卒業後、広島ホームテレビのアナウンサーとして1992年から1998年まで勤務。ロンドン留学の後にフリーの実況アナウンサーとして活動開始。2004年にFootmedia代表取締役に就任。現在も実況、コメンテーター、執筆業、マネジメントなど幅広い分野でサッカーに携わっている。
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