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EL BORDEとは

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2018.09.03 NEW

「不条理がとにかく嫌い」SYMAX代表鶴岡マリアが貫く哲学とは

「不条理がとにかく嫌い」SYMAX代表鶴岡マリアが貫く哲学とはのイメージ

次世代を担う「30歳未満の30人」を選出したForbes JAPANの「30 UNDER 30」。Forbes JAPANと、若手ビジネスパーソン向けウェブマガジン「EL BORDE」による特別賞「EL BORDE特別賞」が、これからのビジネスシーンを牽引する3人に贈られた。

受賞者の一人は、ヘルスケアloT装置を使ったプラットフォームを開発するSYMAX(サイマックス)株式会社の代表である鶴岡マリアだ。

継続してデータを収集できる排尿に着目した鶴岡は、小型センサを取り付けたトイレで用を足すだけで、病気の兆候がわかるサービスを提供している。
中学生の時から荘子やスピノザなどの思想系の本を読んでいると言い、20代とは思えないほどの冷静さと知性を持ち合わせる。彼女の極めて緻密な言葉選び、かつロジカルな話しぶりに、つい惹きつけられる。

一方で、チームの成長を誰よりも喜んだり、「不条理がとにかく嫌い」と言い放ったり、「誰もが健康不安なく、夢の実現に邁進できる社会へ」と熱くビジョンを語ったり、ほとばしる情熱も見え隠れする。

既成概念や思い込みにとらわれることなく、「自分の見たい世界を自分で作る」よう心がけているという彼女。その自由で大胆な発想力と、年上の社員たちをまとめ上げる求心力と推進力の源泉に、知られざる両親の教えがあった。

鶴岡マリアとはどのような人物なのか、迫った。一問一答は以下の通り。

やりたいことができない状況を打開したい

30 UNDER 30 JAPANの「EL BORDE特別賞」を受賞したお気持ちをお聞かせください。

非常に光栄です。私たちがやっていることは、日本だけではなく世界中で起こっている社会構造の変化に合わせ、そこにある様々な課題を解決するためのものだと思っていますが、まだ知名度が高い会社でもサービスでもありません。その中で目をつけていただいて、こういった機会をいただいたのは、非常にうれしいです。

大学在学中からインターンとして参画していた「サムライインキュベート」で新規事業を手掛けられました。フリーランスへ転身された後、2014年には「SYMAX(サイマックス)」を設立されました。キャリアが変化していく中でも、ご自身のブレない軸や哲学などはありますか?

共通して言えるのは、私は不条理というのがあまり好きではない、というか、とにかく嫌いなのです。不条理とは、何かしらの常識や標準が理由となり、精神的な抑圧になっている状態のことを指します。自分自身も嫌ですし、自分ではない誰かがそういう状態にいることがすごく嫌いなのです。

過去にやってきたサービスも、今のサービスも、「本当はやりたいのに何かができない」という状況を打開するために作られたものです。

過去の弊誌インタビューにて、2015年のヘルスケアビジネスのイベント「Health 2.0 Asia Japan」 の後、介護施設や製薬会社からの問い合わせが相次ぎ、大手デベロッパーなどと導入に関する具体的な話も進んでいるとお聞きしました。その後の事業について教えてください。

不動産会社、製薬会社、介護施設など、たくさんのお問い合わせをいただき始め、特に英語の情報発信はやっていないのですが、イギリスやドイツ、ケニア、中国、シンガポールなど様々な国からのお問い合わせもいただいております。まだ海外のニーズに対応できるほどのシステムは構築できておらず、これからの課題なのですが、大変ありがたいことです。

それ以外でも、例えば研究分野で活用していただいています。今まで、リアルタイムかつ連続的に身体データをとる方法は存在していなかったので、これを研究分野に生かしてもらっています。また、自治体と一緒に新しい地域住民向けのサービスモデルを開発したりもしていました。

今年の7月からは、一般企業向けのサービスを開始しました。健康問題は、本人のためだけではなく、その方が属している企業や地域コミュニティなどにも関係するものだという思いからです。

日本の企業は、高齢化や少子化という社会構造の変化に伴って、労働力が不足していく運命にあります。その中で企業がやらなくてはいけないことは、大きく分けて2つしかありません。1つは労働者の数を減らないように抑止する施策で、もう1つは一人当たりの生産性を上げるための施策です。

私たちのサービスは、健康問題が理由で休職や離職するケースも多数ありますので、そう言った意味だと前者の施策に繋がりますし、健康がその人のパフォーマンスに関わることという意味で後者の施策にも当てはまるのです。この施策を十分に実施されている企業はまだ少ないのですが、この社会構造の変化というのは止めらません。

そこで、社員の方が気軽に使えるセルフケアのサービスとして、企業向けに提供をしています。企業の人事担当者には、組織全体での傾向が分かるレポートをお出ししています。従業員が簡単に体調管理をできるようになれば、仕事にも趣味にもさらに精を出すことができる。

そうすれば、企業全体の生産性向上にも繋がります。ありがたいことに、一部上場企業をはじめ、幅広い企業にお申し込みいただいています。これからも力を入れて丁寧にご提供していきたいなと思っています。

想像以上のチームの成長を目の当たりにした時が一番嬉しい

20代で挫折や深い苦悩をご経験されたことはありますでしょうか。その時のご経験について教えてください。

一つ挙げるとすれば、まだこのサービスを立ち上げたばかりの頃の話で辛かったことがあります。技術があって、実現の道筋も見えるけれども、モノはまだここにないという時に、一緒に事業をやっていただける方、支援していただける方を探すことになるのですが、99%以上の方に「そんなのは夢物語でしょ」ですとか、「若い経営者に何故それができると思うの」ですとか、そういうことをよく言われました。無論、皆さん大人なので、そんなダイレクトな表現ではないですが……。

仲間や協力者、投資家の方も含めてずっとお話をしていて、全く棒に当たらない時は、正直辛かったです。ただ、その間も、創業からずっと一緒にいてくれるメンバーは諦めないでいてくれました。諦めずに話をしていると、徐々に、支援してくれる人に出会えました。私が描く未来を一緒に見たいと言ってくれた投資家の方に出会って、全てが始まっています。結果的には良かったですが、1年ぐらいずっとその状況が続いたので、辛かったですね。

辛い状況をそれでも乗り越えられたのは何故ですか?

やはり実現したいという強い思いもありましたし、応援してくれると言ってくださる方は、口で言うだけではなく、時間をかけて相談に乗っていただいたり、その方が持つ人脈を活用してご協力いただくこともありました。その方が信頼してくれているからこそ、応えたい気持ちがありました。

エンジェル投資家の方には、お金は返さなくていいから、正しいと思うことをしなさいと言ってくださる方もいらっしゃって。本当にありがたいです。人に恵まれているとしか言いようがありません。

最近、うれしかったことはどのようなことですか?

起業すると年に1、2回ぐらいしか良いことないですよ(笑)。その1、2回の良いことを糧にまた頑張ろうという感じです。

弊社のメンバーは非常に優秀な人が多い。入社した時は自分の経歴や専門性に近い業務から入ってもらうのですが、その人が全く触れてなかった部分で想像もしなかった成長をして、それがチームのパフォーマンスに繋がった時はすごくうれしいです。

チームとして成果を出すと、その人もメンバーもこの仕事をやっていてよかったという気持ちになります。その気持ちはその人の人生を豊かにする、とてもいい感情だと思うし、その感情を一緒に働いているこの環境で作れたのはうれしいです。

では、ブレイクスルーしたなと感じた瞬間はどのような場面ですか?

会社を立ち上げた時でしょうか。フリーランスだった当時取り組んでいた「小型のバイオセンサ」はまだ技術開発を完了していませんでした。

普通の企業だと、もっとテストをした後に法人化すべきだと思うのですが、これが実現したら少しでも早く周りの人の役に立てるなと思い、リスクが多分にある中で先に起業をしてしまったんです。

その時の経験が、自分が欲しい、もしくは、誰かのためになるプロダクトを作ることを最優先に考えて仕事をしたいという思いを強固にしたと思っています。

「当然」を一旦リセットして、フラットに周りを見つめて

お話しを聞いていてとても冷静でロジカルな印象です。ご両親からはどのような影響を受けられたのでしょうか?

父は車が好きという理由で、もともとの仕事を辞めて車の整備工場を始めた自由人です。母は外国籍で、昔は個人貿易業をしていました。

父にも母にも共通して言えるのは、「これが当たり前だからやらなきゃいけない」というのをあまり信じていないタイプということでしょうか。私たちの世代よりも上の方々は、「みんなこうあるべき」という観念がより強い社会で生きてきたと思いますが、その中でも両親は自由に自分の人生を生きている方だと思います。

小さい頃から、「自分で判断しなさい」と口すっぱく言われ続けてきました。両親の影響はあると思いますし、自分で判断するための教育をしてくれたので、感謝しています。

ビジネスをするうえで、年配の方に対し、時には説得し、時には従え、時には対立するような場面もあるのではと拝察します。年齢や年配者との関係について、ご自身のお考えをお聞かせください。

弊社内の平均年齢は39.2歳で、常勤の社員だと、私が最年少です。ただ、社内にせよ、社外にせよ、年齢は私の中では、あまり大きなファクターではないです。あくまでその方の一要素に過ぎないですし、それよりもその方自身とコミュニケーションすることが重要だと思っています。

年配の方は、もちろん長く生きている分、たくさんいろんな経験をされていて、知識も蓄えて、人生の厚みが出ていて素晴らしいと思いますし、話していて楽しいことはたくさんあります。でもそれよりもっと重要なのが、そこにいる人が、何者で、その人と私が今何のためにここにいるのかだと思っています。

社内に関して言えば、年齢関係なく、フラットです。チームとしてのパフォーマンスを最大化するために、何を達成すべきか決めていく。それだけです。一緒にやってくれている投資家の皆さんも基本的にはそんな感じで、自分たちが年上だから、逆に私が年下だからというのは全く関係ないと思っています。

同世代で頑張っている仲間たちに伝えたいことを教えてください。

たまに抑圧されている人がいますよね。自分自身が思っている「当たり前」を、一旦頭から外してしまって、立ち止まって、フラットに自分の周りの世界を見たら、もしかしたらぜんぜん違う結果に繋げられるのではないかなと思います。人間は自らの思い込みを軌道修正するのが苦手な生き物なので、これは私自身も気をつけたいことです。

誰もが健康不安のない生活圏のインフラを目指す

今後のビジョンを教えてください。

誰もが健康不安なく、それぞれが持っている夢の実現に邁進できる社会に繋げるというのが、私たちのビジョンです。それぞれが豊かな生活を送るうえで、健康は土台の部分になります。

私たちのサービスはまだ知名度も高くないですし、まだまだ課題があります。それらを一つ一つ解決していくことで、生活圏のインフラになりたいです。私たちのサービスは非常にユニークで、連続的かつリアルタイムな身体データを取得できるサービスです。個人はもちろん、企業や特定のマーケティング目的を持つ企業の役に立てるので、一つ一つのニーズに応えながら、人が生きていくベースの部分に浸透していくサービスを作っていきたいです。

企業のセルフケア支援も、スマートシティ関連の話も、研究分野での活用も全てサービスをインフラ化に繋げるための施策としてやっています。それを地道にやっていきたいと思います。

鶴岡マリア(つるおか・まりあ)
1989年東京都生まれ。慶應義塾大学在学中に、「サムライインキュベート」にインターンとして参画。大学卒業後、正式に入社し、主に新規事業などを手掛ける。退職後はフリーランスとして働き、2014年6月にヘルスケアloT装置を使ったプラットフォームを開発するSYMAX(サイマックス)株式会社を設立。

【共通質問】

・座右の銘は?
「自分の見たい世界を自分で作れ」。人間誰にだって嫌なことがあると思うのですが、変わらないものはこの世に何もないので、自分が変えたいと思う方向に自分が動けばいい。自分が気に入らないという世界と自分を切り離して考えるのではなく、自分もその世界の一部だから、その一部としてなすべきことをすればいいのだと思っています。

・「#わたしのバイブル」として1冊挙げるなら?
今の私を形成しているという意味では、中学生の時に触れた本のインパクトが大きいです。中でも『荘子』。まとめると、「世の中なるようにしかならない。自分が生きているコミュニティ、政治、社会全般、すべてに流れがあって、その中で自然に生きる。自然な状態で、自分自身と向き合って、過剰に苦悩したりすることもなく、いい世の中に繋げていくことで、健全な精神世界を構築する」といったようなことが書かれているのですが、中二病だった私には刺さりました(笑)。

・休日はどのように過ごしていらっしゃいますか。
だいたい家にいても仕事をしてしまいますが、ボケーっと考えたいことを自由に考えるのが好きです。短い時は10分程度ですが、長い時は数時間、ビジネスに限らず抽象的なことを考えています。また、最近は週に2回ジムに通い、ヨガも合わせて、体を鍛えています。3週間で5キロ体重が減りました。

・憧れの「Over 30」は誰ですか?
あまり年齢は意識しませんが、孫正義さんとイーロン・マスクさんを尊敬しています。どういった課題を捉えるかというのは、その人がどう世界を捉えているかに依存するので、そのスケールによってどういうものを作れるか決まってしまうと思います。お二人とも、スケールが大きい、かつ、発見した課題に対して全く既存のものに縛られず、斬新かつ実用的な解決策を合理的に導き出せる。その実行力を、純粋に人間としてすごいなぁと思います。

文=五月女菜穂 写真=帆足宗洋(Avgvst)
「Forbes JAPAN web」2018.8.22 配信記事より転載
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