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2019.03.25 NEW

30代は最後のチャンス。クリエイティブディレクター水野学が語るこの言葉の真意とは

30代は最後のチャンス。クリエイティブディレクター水野学が語るこの言葉の真意とはのイメージ

人気キャラクターのデザイン、子ども乗せの自転車の設計、電車や駅のデザインだけでなく沿線のブランディングまで含めた鉄道会社とのプロジェクト——。good design companyの水野学の仕事は、実に多彩だ。最近ではその仕事術やマインドセットにも注目が集まる彼が、悩める30代に向けてブレイクスルーのヒントを語った。

小さな仕事から連鎖して、仕事が増えていった

美大を卒業後、グラフィック系のデザイン会社を2社経て、わずか2年で「good design company」を立ち上げられました。早いタイミングで独立に踏み切った理由は何だったのですか?

実は、独立を明確に思い描いて会社をやめたわけではないんです。1社目は2社目に行きたくて、2社目は腰を痛めてしまい退社したのですが、2社目の後少しゆっくりしようと思ったら……。成り行きで会社を作ることになってしまった感じです(笑)。

当時はちょうど個人でコンピューターを持つ時代になっていて、大掛かりな機材がなくても1台のパソコンで仕事ができるようになった時期。その流れに乗じて、本当に小さなところからスタートしました。

最初に手掛けたのは、結婚した友人に作った結婚報告のダイレクトメール。それを見た人から雑貨屋さんのダイレクトメール制作をご依頼いただき、今度はその雑貨店の常連さんから、会社のパンフレットを作ってほしいと依頼され……。ごく小さな仕事が少しずつ大きくなっていき、雪だるま式に増えていったという感じです。

順調な出足だったように伺えます。
いや、独立後2年くらいは年収が90万円くらいしかなく、夏は暇すぎて毎日近所の区民プールにいました。主食はもやしで、しかも値引きされて10円とかになったものが大半。あの頃の僕の献立には「腹いっぱいのもやし」と「普通の量のもやし」しかありませんでしたね。ただ、時間だけはたっぷりあったので、ひげを丁寧にとって、すごくおいしいもやし炒めを作っていました(笑)。
不安はありませんでしたか?
毎日不安でしたが、悲観はしていませんでしたね。というのも、励みになる存在が身近にいたから。自分が200円のプールに通いながらもやしばかり食べていた頃、大学の同期が広告代理店のデザイナーとして、大きな仕事をいくつも手掛けていたんです。そんな姿をみて、「あいつができるんだから、俺だってがんばればやれるはずだ」と自分を鼓舞していたんです。
「がんばればやれるはず」を形にするために、何か工夫していたことはありますか?
目の前の仕事を100パーセントでなく120パーセントやることに重点を置いていました。期日は必ず守り、頼まれたことは絶対やる。むしろ頼まれていないこともやる。「お弁当を買ってきて」と言われて、お弁当だけでなく10円のチョコレートを添えるような感覚です。
確かに……。思いもよらぬプレゼントは、たとえ小さなものでもうれしいものです。
水野 学のイメージ

お土産って、いいですよね。お土産自体というよりも、その人が旅行先で僕のことを思ってくれたことがうれしいんですよね。仕事も一緒で、企画書にはA案だけでなくそれを飛躍させたAダッシュ案、もしくはまったく別切り口のZ案をつける。そうすると相手はすごくうれしいと思うんです。

38歳のときに手掛けた「くまモン」のキャラクターデザインは、実はZ案でした。当初受けた依頼はPRキャンペーンのロゴを作ってほしいというものだったんですが、いろいろ考えているうちに、必要なのはロゴよりもキャンペーンを宣伝してくれる人なのではと思い始めたんですよ。それで、“宣伝マン”になるようなキャラクターを作ってみたらどうだろうと提案し、生まれたのがくまモンだったんです。

30代は、ステップアップする“最後のチャンス”

くまモンの他にも、子ども乗せ自転車の商品開発や商業施設のブランディング、アーティストのアルバムのアートディレクション……。さまざまなジャンルの仕事に取り組まれた30代は、水野さんにとってどのような時代だったのでしょう。
「お金が1円もない」とか「仕事が全部なくなった」という夢を見なくなったのは、40歳を超えた6年前くらい。30代は毎日が不安の連続でしたし、その分ものすごく働きましたね。
その経験をふまえて、30代を生きる「エルボルデ世代」に対して何か感じていることはありますか?
僕は若いころの努力がとても大切だと思っていて、「25歳の1年は30歳からの5年に相当する」という持論があるんです。
仕事柄さまざまな企業の方とお付き合いさせていただきますが、実際、30代前半で出世するような優秀な人は、20代でものすごく努力してきた人だと感じますね。逆に伸び切れない人は、社会人になるまでは努力をしてきたけれど、その後にほっと一息ついてしまった人。さっきの持論の続きを言うと、30代に彼らとの差を埋められなければ、40代から取り返すのは相当難しいと思っています。つまり、30代はステップアップする最後のチャンスだと思って、必死で努力することをおすすめします。
さまざまな仕事に取り組む中で、ブレイクスルーを感じる瞬間というのはありましたか?

うーん……。たくさんありすぎて絞れないですね。「人生のチャンスは数回しかない」という考え方がありますが、僕はちょっと違うと思っているんです。

確かに元々あるチャンスは少ないけれど、いくつかのチャンスをしっかりキャッチすればどんどん増えていくものではないかと。だから、小さなチャンスにしっかり気づいて遂行することが大事だと思い、そのように心掛けていました。

人は誰しも大きなチャンスを狙いがち。小さなチャンスに気づく方法はあるのでしょうか。
水野 学のイメージ

「100本ノックの球を全部拾う」くらいの心構えでいるといいかもしれません。そうやってがんばっているうちに、30代中盤くらいで、キャッチできる球とキャッチできない球がわかってきて、40代になるとノックする側になれます。そして、早めにそういうクセをつけておかないと40歳、50歳になってもゆるいノックを受け続けることになりかねません。

ボールを受ける側からノックする側……。つまり、チームを引っ張る側になるにあたって、ご苦労されたこと、配慮していることはありますか?

誰かから指示を受けるのが性に合わなくて会社をやめたような、根っからのディレクター気質なので、苦労はなかったですね。ただ、1人ひとりの特性をしっかり見定めて、役職を渡してあげるということにはすごく気を遣っています。

世の中には、指示を受けて現場で手を動かすことのほうが得意だという人もいるじゃないですか。そういう人たちって、大きな組織の中だと「能力がない」とくくられがちですが、僕はそうは思っていません。だって裏を返せば、すごく集中して深掘りができるということだし、同じ作業を辛抱強く続ける忍耐力があるということでもある。僕は管理する側の人間ですから、そういったところをきちんと見定めないといけないんです。

中途半端な万能は凡庸だ

水野さんのような上司のもとで、「自分の得意なこと」に気づける人もいれば、得意なことが何なのかわからずに過ごしている人もいると思います。気づきを得るために必要なことは何なのでしょう。
多くの人が「万能でありたい」と願っていますが、それは言い換えれば凡庸だということです。「中途半端な万能は凡庸だ」と自分に言い聞かせて、まずは「何が得意なのか」に向き合ってみてください。そうやって得意なものを見つけたら、今度はそれを上司や部内の人に伝えて、得意分野を優先させてもらえるような環境を作っていく。それが難しいなら部署を変えるか、転職・独立するか。そうしないと自分もつらいし、まわりもつらいじゃないですか。早く自分自身を見極めて、得意なステージに上っていけるように努めてみてください。
30代のビジネスパーソンにとって非常に含蓄のあるお話を伺うことができました。最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
水野 学のイメージ

今の時代は、組織にいようがいまいが、やることや考え方にあまり差がありません。加えて、企業がハラスメントに対してとてもセンシティブになっているので、昔のように上司が注意してくれることもなく、期待に応えることができない人は放っておかれます。そういう意味では、大企業に属していても個人商店の経営者的なマインドを持っていたほうがいいでしょう。

いい仕事は「いい商店を経営している人」にやってくるもの。「あのプロジェクト、あいつがやったんだって?」「じゃあ、これもあいつに任せてみよう」というような感じで噂が噂を呼び、チャンスが広がっていくんです。そこに抜け道とかウルトラCはない。いい仕事をしているやつにいい仕事が来て、いい仕事をすれば必ず次の仕事につながっていくということを忘れずに、仕事に取り組んでください。

水野 学(みずの まなぶ)
クリエイティブディレクター/クリエイティブコンサルタント/good design company代表。
1996年よりゼロからのブランドづくりをはじめ、ロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに手がける。著作に『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』他。いつか手掛けたいのは、地元・茅ヶ崎が生んだスター、サザンオールスターズの仕事とのこと。「他の人がどれだけ素晴らしいものを作っても『こうじゃないんだよな~』と思ってしまうんです」と笑う。

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