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2019.08.26 NEW境界線の越えかた

理系の現役東大生が、研究者の働き方を変える。24歳、加茂倫明の挑戦

理系の現役東大生が、研究者の働き方を変える。24歳、加茂倫明の挑戦のイメージ

世界を変える30歳未満の30人を、「アート」「エンターテインメント&スポーツ」「ビジネスアントレプレナー」など10のジャンルから選出する「30 UNDER 30 JAPAN」。Forbes JAPANとEL BORDEによる「EL BORDE特別賞」が、ビジネスシーンでのさらなる活躍が期待される3名に贈られた。

今年2回目となる「EL BORDE特別賞」の、受賞者に共通するテーマは「挑戦する人」。受賞者の一人である加茂倫明は、理系の研究関連市場をテクノロジーで革新する「ラボテックベンチャー」という分野に挑んでいる。現役の東大生でありPOL(ポル)代表取締役CEOを務める加茂に、受賞の喜びを聞いた。

「率直にうれしいと思いつつ、まだ何も成し遂げてないという思いもあります。僕らが提供したい価値や作りたい社会からすると、一合目にも来てないので、恐縮さみたいなものもあります」

加茂がPOLを創業したのは22歳、2016年のこと。最初の事業である「LabBase」(ラボベース)で、研究に取り組む理系学生のための就活サービスを始めた。理系人材の就活、彼らを採用したい企業、研究室それぞれが抱える課題を解決し、理系人材がより活躍できる社会を創出しようとしている。

「僕が自分の会社で描いているビジョンは、社会にとって非常に大事だと思っているので、その志や想いという意味ではこの賞に値する自信もあります。なので、恐縮する気持ちと認めてもらえてうれしい気持ちが半々ですね」

加茂が理系学生の就活サービスに着目したきっかけは、先輩の就職活動からだという。研究が忙しく、就職活動に時間を割くことができないため、研究室のOBの就職先や推薦などで適当に決めようとしていた姿を、彼は目の当たりにした。本当に優秀な理系人材の就職がおろそかになっている現実に、加茂は向き合おうと決意したという。

「率直に先輩を助けたいという想いと、その社会的意義から、理系学生の就活問題を解決したいと思いました。それが今の主力事業である『LabBase』につながっています」

一般的に見て理系の学生は売り手市場だ。職を選ばなければ、就活やキャリア設計を考えずともどこかしらに就職できることが多い。また、推薦やOBの紹介でなんとかなるという楽観的風潮もあり、理系学生の多くが就職活動に関心がない。一方、企業からすれば採用市場で理系学生は常に不足している。

「企業側からすると喉から手が出るほど理系の人材を採りたい。しかし、理系の学生に広くアプローチできる手段がなかった。なので、これは絶対ニーズがあるなと」

当初は理系学生の就活の課題を解決したいという思いから始まった「ラボテックベンチャー」。しかしそのうち、研究者や研究室の環境にも課題があることに気づかされていく。

例えば、研究に必要な資金(研究費)は日本学術振興会や各省庁といった公的機関のほか、民間の財団や企業などから助成されるが、研究者の誰しもが潤沢な資金を得られるわけではない。

「研究に使う実験器具も同様です。数千万、数億円する装置を買ったとしても、それが数回使用されたまま眠っている研究所がある反面、その器具を使いたくても買えない研究者が多くいる。そこをうまくシェアする仕組みがない」と加茂は言う。

また、企業との共同研究を手がけようとしても、どこの研究室で誰が何をやっているのか可視化されていないなどの理由により、「産学連携」の溝もある。

そもそも研究者自身にとっても、研究以外に、会議や事務作業といった一般業務などが煩雑で、実質20~30%ぐらいしか研究の時間が割けない。だから加茂は、「研究者が研究に使える時間が20%から60%になったら、単純計算すると3倍の速度で科学が発展するのに」と常日頃感じている。彼がラボテックベンチャーを促進させ、未来を変えるための挑戦を続けるのは、こうした研究者たちの現状を変えたいという思いがある。

「研究者が頭の中で描いている考えが、未来に最も近いもののひとつだと思います。彼らが思いついたものが、論文や研究実績としてしっかりと世に出て、そこから事業化などを通して、世の中に価値として実装されないといけない。この流れを速くして、科学やテクノロジーが発展するスピードをもっと上げるべきなんです」

加茂 倫明のイメージ

あえて無茶な設定をして自分を追い込んだ

革新的な分野で、0から1を生み出すのは決して容易なことではない。理系学生向け就活サービス「LabBase」のスタート時は、当たり前だが登録者数がゼロだった。そこで加茂は大胆な作戦に打って出た。企業向けにいきなり「事前登録募集を開始しました」というプレスリリースを発表したのだ。

「この事業は企業と学生のマッチングサービス。なので、サービスをリリースしたタイミングで企業がゼロだったら、学生にとっても価値がゼロになる。なので、リリース前からお客さんを入れる必要があったんです」

企業からのニーズの強さ、提供するサービスの質、そして学生へのアピール。この3つを狙ってプレスリリースを出したところ、早いタイミングで百数十社からリアクションがあったという。

しかし、当時は登録した学生が1人もいなければ、システムを作るエンジニアもいない状態。だが彼は企業に対し「2カ月後にリリースします。学生を300人集めます」と言い切った。

当時の自分を「死ぬ気で考えて、何とかやる方法を出した」と振り返る。リリース発表前から口説いていたエンジニアには、2カ月後にはリリースしないといけないギリギリの状態であることを、直接目を見て必死に説得し引っ張ってきた。自分たちがやらねばと組織を鼓舞すると同時に、がむしゃらに学生を300人かき集めた。「ひたすらキャンパスに足を運んで声をかけたり、研究室を訪問したり……。死ぬ気で集めましたね」と、加茂は語った。

事業を立ち上げ、人を動かすには、その価値を提供するか、感情を動かすかしかない。しかし立ち上げ時期や創業前は、容易に価値提供はできない。だから「相手の感情を動かすしかなかった」と加茂は強調する。

「あえて無茶な設定をして自分を追い込んでいきました。『ニワトリが先か卵が先か』という問題で、学生が一定数集まらないと企業側も来ないし、企業側が一定数集まらないと学生が来ない。だからこのやり方で突破しましたね」

やっぱりいい人じゃないとあかんなって

300人の学生を集め、システムも完成させた加茂にとって、起業家人生で大きなターニングポイントとなったのは、共同創業者でもある、ガリバーインターナショナル(現・IDOM)元常務取締役、吉田行宏氏との出会いだった。

「今までいろんな起業家と会ってきたんですけど、その中でも誰よりも優秀な方ですし、心から尊敬できる人です。いかに社会をよくするか、いいものを届けて世の中をよくしていくか、というところにモチベーションがあって」

吉田行宏氏とはじめて会った時の衝撃を嬉しそうに語る加茂。20代の彼にとって、40歳近く年の離れた吉田氏から受けた影響は計り知れない。

「事業家としての能力、戦略の思考力、組織マネジメント力、そして志や覚悟といった全ての面で圧倒的に僕より上回っている。自分の少し高くなっていた鼻がへし折られた気持ちでした」

「いろんな起業家や経営者にはメンター(指導者・助言者)が付いていると思うのですが、それが僕の場合は共同創業者で社内にいる。彼(吉田氏)のおかげで、事業に対する自分の考え方が甘いと知ることができたし、上には上がいるんだなと気づきました。彼とビジョンを語り合ううちに『この人と絶対一緒に今やるべきや!』という思いが強くなったのも、共同創業に踏み切った理由のひとつですね」

同世代の学生から40歳近く離れた実業家まで、さまざまな人脈を広げ規模を大きくしていく加茂に、周りを巻き込む力、人を惹きつけるパワーはどこから来るのか尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

「常に『いい人』であろうとしています。リーダーたるもの自然体でいることがベストですが、悪い自然体だったら意味がないので、『やっぱりいい人じゃないとあかんな』っていう」

過去には、他者からの承認欲求が強く、格好つけたり自分を優秀に見せたりするなど、自分の中に悪い面があったと加茂は認める。しかし「このままではどこかで限界が来る。本当にすごい人を巻き込めない」と思い直し、自分の弱い部分、悪い部分を認識した上で、もっといい人になろうと覚悟を決めた。

それからは、悪い自分が出たらいい自分に修正する意識を持つ、ネガティブな言葉を使わない、困っている人がいたら助ける、といったことを心がけている。

「自分はもともと明るい性格だと思いますし、何より人が好きですから。いい人をやっているうちに、それが本当の自分になっていくと思うんですよね。本当の、心の底からいい人になろうと。そのほうが人生も楽しくなります」

加茂 倫明のイメージ

弱みを見せられるリーダーでありたい

加茂に、経営者やリーダーとして、同僚との向き合い方やマネジメントで心掛けていることを聞くと、トップダウン型ではなくサーバント型のリーダーシップを心がけていると答えた。

「自分自身、僕が一番優秀などとは全く思っていないですし、年齢的にも新卒を除いたら、僕がほぼ最年少みたいなもの。スタッフのみんなはそれぞれ自分より優れたスキルや特性の持ち主ですから、僕は自然と謙虚にならざるを得ません」

会社では、人材育成にも力を入れていると語る。自分がこの世からいなくなっても社会に価値あるものを提供し、メンバーを幸せにし続ける会社を目指す。そのために、一本軸が通った組織の中で人を育てていきたい。経営者が社内で生まれ、引き継がれる「イズム」を持つこと、人を育てていくことが大事だと。

人材育成に重点を置くのは、「シンプルに人が好きだから」という理由もある。加茂は最近、会社のメンバーやその家族も含めて幸せにしなくてはいけないという使命感が湧いてきているという。

「メンバーが人生の貴重な時間を会社に割いてくれている。だから、絶対幸せにせなあかんな、恩返しせなあかんなっていう気持ちは強く持っています」

縦軸で問題解決を、横軸で世界を視野に

さまざまな人を巻き込みながら、誰もが幸せになれる世界を目指す「ラボテックベンチャー」は、今後どのように進化していくのだろうか?

「研究者の可能性を最大化するプラットフォームを作りたいですね。彼らがもっと研究に集中できるように、キャリア選択や企業との協業といった研究者のさまざまな課題を解決する事業群をどんどん作っていき、あらゆる課題を解決していくのを”縦軸”としつつ、グローバルな活動を”横軸”にしていきたいです」

実際に海外の企業から、日本の研究者を探したいからLabBaseを使わせて欲しい、または日本の企業から、海外の研究者を調べたいといった問い合わせはあるが、まだそこに十分なリソースがなく、価値提供ができるほどには至っていないため、ある意味『選択と集中』、として現在はサービスを国内にとどめている。今は日本の研究者や企業、学生しか幸せにできていないが、今後は活動の幅を世界規模に広げていきたいと加茂は語る。

「研究に国境は関係ありません。研究領域の課題を解決するには、グローバルでやらないといけないなと。世界中の研究者、理系の学生、企業内の研究者、彼らのあらゆる研究の工程や雑務を大幅に改善し、課題解決していく事業群を作っていきたいですね」

理系学生の就活問題から始まり、研究環境に関するさまざまな問題、そして国境を越えて活躍しようと目を輝かせながら語る姿は、穏やかなのに熱い。最後に、困難にぶち当たっても乗り越えていく秘訣を聞いた。

「僕の特性は、将来に対してポジティブなところ。将来的にいい会社を作る自信がある。そこが困難を乗り越えられるポイントかもしれません。そうは言いつつも、足元はネガティブなんです。すぐにはできないし、課題もあるとシビアに考える冷静な自分もいる。常に大きな挑戦をする一方で、課題を抱えて苦しみながらも頑張っている、という感じです」

【共通質問】

・自分を色に例えるなら?
白。「研究者の可能性を最大化するプラットフォームを創造する」という、一見綺麗ごとにもとられるビジョンをまっすぐに追い求め、また、いつまでも素直に謙虚にあり続けるという覚悟も込めてです。

・自分を一言で表すとしたら?
『ONE PIECE』のルフィ。僕は特段頭がいいわけでもないし、事務処理能力も遅い。ただ、いい志を掲げつつ、いい船を作って「みんな頑張るぞ」と言って仲間集めはできているなと。なので「弱いルフィ」ですね。

・あこがれのOver30は?
一番は共同創業者の吉田(行宏)。彼は本当に素敵な人物です。他には、FiNCの溝口勇児さんも、志や覚悟という意味で本当にすごいなと。海外だと、ハワード・シュルツ(スターバックス元CEO)さんです。

・自分が人より秀でた才能があると感じること。逆に苦手なことは?
ワクワクし共感できるストーリーを語って、いい感じに人を巻き込むのは得意だと思います。大学1年の頃には事業につながる出会いの確率を上げようと、共同創業者がいそうなイベントや交流会など積極的に顔を出し、経営者が多く集まる場所で、あらゆる人に自身のビジョンを語り続けていました。逆に、細かいことはあまり得意ではありません。これをきっちりやりなさい、みたいなことはもれなく苦手です。

・人生最大の挫折は?
創業前にプロジェクトベースで起業アイデアを考え検証し始めていた時に、自分がまるで茹でガエルになったかのような挫折を感じました。色々議論し、前に進んでいるようで、全然進んでいない。机上での議論ばかりで、結局そのビジネスアイデアは実現できなかった。その時、自分の中で「少し頭でっかちになっていたな。スピードが大事だ」というのを痛感しました。その直後に吉田と出会い、ラボテックベンチャーを始めましたが、このときの反省があったからこそ、電光石火のプレスリリース作戦が生まれたと思います。

・40歳の時に自分は何をしていると思う?
POLの経営をしていると思います。その時には、世界中の研究者がPOLのサービス群を使っていて科学が発展し、ノーベル賞受賞者が「LabBaseがあってよかった」とスピーチしてくれたら最高ですね。POLと僕はイコールなので、それに向けて20代、30代をどう過ごすかみたいなところで言うと、常に視座を上げ続けなければいけないと思っています。

会社は、経営者の器や視座以上に大きくなりません。僕がこのぐらいでいいやと思ったら、会社はそれ以上スケールアップしません。よほど根っから高いところを求めるような人じゃない限り、一定のところで満足したくなってしまう。でも、「まだまだもっと上がある。もっとでかいことをしないといけない」と、常に視座をアップデートし続けられるかが勝負。

40歳の時点でPOLの経営ができていないとしたら、おそらく僕がある程度のところで満足してしまった結果だと思います。

・仕事以外の時間の使い方は?
カフェに行って仕事したり、本を読んだりしています。社長がオフィスにずっといると良くないので。社員は仕事が終わったら早く帰ってほしいし、週末は「リフレッシュしてね」と言いたいので。なので、夜や週末はできるだけオフィスに行かず、カフェにいます。POLと僕はイコールなので、仕事以外の時間、という感覚はなく、常に仕事のことを考えていますね。

・同世代のビジネスパーソンに向けて一言
いまは、やりたいことを探せないという人が結構多い気がしますが、とりあえず面白いかもって思ったことをやってみる中で、だんだんそれが天職になる、自分がやるべき形になっていくのではないかと思います。とりあえず楽しい方向に、楽しいと思ったことをやっていくのがいいのではないかと。案外リスクはないと思います。

加茂 倫明(かも みちあき)
1994年、京都府生まれ。東京大学工学部3年生(休学中)。東京大学を半年間休学してシンガポールへ渡り、「REAPRA」傘下でオンラインダイエットサービスを立ち上げる。その後、アプリ解析・マーケティングツールを提供する「Repro」にてインターン。クライアントの事業成長支援、コンサルティングを行ったのち、2016年9月にガリバーインターナショナル(現・IDOM)元常務取締役、吉田行宏氏とともにPOL(ポル)を創業。代表取締役CEOを務める。
文=石澤理香子 写真=福岡諒嗣
「Forbes JAPAN web」2019.8.23 配信記事より転載

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