2019.02.21 NEW
【分解力特集:後編】分解力はこう高める! 一番簡単な、自作フレームワークの作り方
前編では、上司やクライアントを説得するためには、ひとつのグッドストーリーだけに捉われず、バッドストーリーも含めた多様な視点を持って提案する必要があるということ、そのためには課題を分解して考える能力が必要であることを紹介した。そうした分解は、既存のフレームワークを用いることで可能になる。
後編では、そこから一歩進んで、フレームワークを自作する方法を紹介したい。経営コンサルティングファームでの勤務を経て、現在は学習塾「ロジム」の塾長兼代表取締役を務める苅野進(かりの しん)さんが前編でも推奨しているように、フレームワークを自作することで、分解力をさらに磨くことが可能だからだ。
チェックリストは、一番身近なフレームワーク
はじめてフレームワークを作成する人に、苅野さんがおすすめしているのが「チェックリスト」だ。
チェックリストはあまりにも身近なため、フレームワークであると認識されづらい。しかし、チェックリストもれっきとしたフレームワークの一つ。課題を分解するにあたって、非常に有用なツールなのである。では、チェックリストはどのように活用すべきなのか。営業職を例に考えてみよう。
「優秀な営業職は自社のプレゼンを一方的に行うだけではなく、クライアントの不満も聞いてくるものです」と苅野さん。
さらにいうと、ただ漠然と不満を聞くのではなく、優秀な営業職はお客様の不満を、以下のように3つに「分解」して聞いていることが多いというのだ。
たとえば上記のようなチェックリストを用いれば、「良い営業をしよう」といったような漠然とした意識ではなく、「今回は業界に対する不満を聞きだそう」「前回の営業が上手くいかなかったのは、商品に対する不満を聞きだすことができなかったからかもしれない」といったように、営業内容に対する多様な課題設定や分析が可能になる。
このように、チェックリストの項目は、何も真新しいことや高尚なものでなくてもよい。普段当たり前に行なっている、業務上、非常に重要な行動を細かく把握して書き出していくだけでよいのだ。
「こうした細かい行動を一つ一つ把握していくことで、分解する項目が増え、分解力がさらに磨かれていくのです」(苅野さん)
分解要素をいかに増やすか
チェックリストの項目を増やしていく作業を通じて、分解力も磨かれていく。ではチェック項目、つまり分解要素は、どのように増やすことができるのだろうか。
苅野さんが推奨しているのは、「小さな失敗を経験する」「ダメ出しを書き留める」「クレーマーになりきる」の3つだという。それはなぜなのか。一つずつ見ていこう。
(1)小さな失敗を経験する
「よく言われているように、プロフェッショナルとは、その分野で想定される失敗を全部把握している人のことです」と苅野さん。
コンサルティングの現場では、クライアントは成功例よりも失敗例を聞きたがることの方が多いという。それは、失敗事例を知れば、成功と失敗の差異を発見することができるため、判断を下しやすくなるからだ。
たとえ小さな失敗であっても、失敗を経験していれば、チェックすべき項目がどこにあるかに気づくことができるようになるのだ。早いうちに小さな失敗を重ね、チェックリストの項目を増やしておこう。
(2)ダメ出しを書き留める
「上司やクライアントから『YES』と引き出せなかった経験は非常に貴重です。大切なのは、ダメ出しをされて落ち込むことではなく、そこから次回に繋がるチェック項目を見つけることです」と諭す苅野さん。
上司や先輩は、自分よりも経験値が高く、広い視野を持っている場合が多い。それはつまり、上司は自分より多くのチェック項目を持っているということだ。
ダメ出しとは、意見を否定されたわけではなく、視野が足りない部分を指摘してもらっただけのこと。視野を広げてもらったと感謝して、貪欲にダメ出しされた項目を自分のチェックリストに加えていこう。
(3)クレーマーになりきる
上司やクライアントに頼らずに、自分の視野を広げるには、「第三者になりきることが効果的」と苅野さん。その際、クレーマーのように、自分に否定的な役になりきるといいそうだ。クレーマーになりきることで、自分の提案がいかにご都合主義に基づいていたか、気づくことができるという。
また、お客様の立場に立つなど、多様な立場に身を置いてみることもおすすめだそう。たとえば、銀行員であれば、他社の銀行窓口に行って営業を受けてみる。そうすると、お客側は「騙されないぞ」という考えが強いことや、グッドストーリーだけでは信ぴょう性に欠けることを実感することができる。このように、多様な立場に立つことで、新たなチェック項目を見つけることができるそうだ。
多様なレイヤーから分解する能力を身につけよう
以上、後編では分解力を高める手段として、チェックリストを自作し、分解力を磨いていく方法を解説してきた。
“分解力”と聞くと、小難しく聞こえるかもしれないが、物事を多面的に捉えることに近しい。多面的に捉えて、広い視野から考えられた意見は、必然的に説得力も高まる。しかし説得という点では、もう一つ意識しなければならない、重要な分解項目があると苅野さんはいう。
「それは、『論理』と『感情』の分解です。若手コンサルタントは、論理的に正しいことを提案しているのに、クライアントが『YES』と言ってくれない場面に遭遇して憤ることが少なくありません。しかし、論理の部分がいくら正しくても、相手の感情を上手くコントロールできていなければ『YES』は引き出すことができない。こういった若手は、『論理』と『感情』の分解という、一番大切な分解ができていないのです」(苅野さん)
確かに、いくら分解力に基づいた、論理的に正しいことを提案されたとしても、「理屈としては理解できるのだけれども……」、と思ってしまうこともあるのが人間というもの。
本当に分解力のある人であれば、「説得」という行為についても分解し、「論理的に正しいから説得できる」というグッドストーリーだけによらず、「相手は感情的に納得できないのかもしれない」「相手が気持ちよく『YES』といいたくなる話し方を試みてみよう」といったように、多様な判断を行うことができるはず。
まずは、既存のフレームワークを活用したり、チェックリストなどのフレームワークを自作したりして、分解力を磨く。そして最終的には、上記の「論理と感情」といったような、多様なレイヤーにおける分解を行う能力を身につけること。そうすることで、前編で伝えた若手ビジネスパーソンが陥る課題の一つである「説得力不足」を補うことができるだろう。
- 【お話をお伺いした方】
- 苅野 進(かりの しん)
学習塾ロジム塾長兼代表取締役。東京大学文学部卒業後、経営コンサルティング会社を経て、2004年学習塾ロジムを設立。コンサルタント時代には、社会人向けのロジカルシンキングの研修、指導も担当。「“自ら問題を設定し、試行錯誤しながら前進する力”を養うことこそ教育の最も重要課題である」という考えから、小学生から高校生を対象に論理的思考力・問題解決力をテーマにした講座を開講している。
国語・算数・理科・社会・英語といった主要科目の学習への応用でも効果を上げている。著書に、『10歳でもわかる問題解決の授業』(フォレスト出版)、『考える力とは、問題をシンプルに考えることである』(ワニブックス)などがある。