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2019.03.18 NEW

【ヘッドハンター特集:後編】年収を数百万円単位で左右する「転職スキル」の実態

【ヘッドハンター特集:後編】年収を数百万円単位で左右する「転職スキル」の実態のイメージ

前編では、転職市場が発達した現代においては、人事異動やヘッドハンティングで良い話が来るのを待つのではなく、自分の「好き」を大切にして主体的にキャリアを築いていくことが重要だということを説いた。

後編では、望むキャリアに近づくためのスキルや、求められる能力などについて、前編に引き続き「日本ヘッドハンター大賞」コンサルティング部門初代MVP、渡辺秀和さんに伺った。

「実力・実績があれば転職できる」は本当か?

転職について語る際、「在職している企業で実績をあげておくことが大切」だと言われることがある。これは半分正解だが半分不正解。なぜなら、転職活動を成功させるために必要なスキルが存在するからだ。「理想のキャリアを築くためには、転職スキルを高めることも大切です」と渡辺さんはいう。

そのスキルを磨かないまま転職活動を行っても、なかなか理想のキャリアに近づくことはできない。特に、人気の転職先であれば合格率が1%を切ることもある。選考に勝ち残るにはかなりの準備が必要になるのだ。

「現職で優秀な結果を残している人ほど、転職活動には準備が必要だということを忘れてしまいがちです」

では実際、どのようなスキルが必要になるのか。渡辺さんいわく、効果的な職務経歴書の書き方を知っているだけでも、選考結果が大きく異なってくるという。

「もちろん優秀な実績を持っている人であれば、転職がうまくいく可能性は高いです。しかし転職活動の際には、その優秀さを書類選考でうまくアピールするスキルを持っていなければなりません」

たとえば、現職の営業からコンサルティングファームへの転職を志望する際、「前年比200%売り上げました」など、営業実績をそのまま職務経歴書に並べても、残念ながら人事には響かないだろう。

それよりも、営業の実績を出すために戦略的に取り組んだことを掘り下げて、「200%達成するために、顧客分析をしてセグメント別の販売戦略を構築しました」というように、希望先の職務に寄せた書き方が望ましい。

「読み手の立場やニーズを勘案して、文章を書くことが大切です。その意味ではビジネスライティングのスキルと同様とも言えますが、職務経歴書を書く際にこの観点が抜けてしまう人は少なくないようです」と渡辺さんは指摘する。

同様に、本番で分かりやすく魅力的に話すための面接対策も大切だ。特に、最近多くの企業で採用されるようになったケース面接などは、準備無しに回答するのは困難だろう。

自分の望む条件やポジションを得るための条件交渉スキルも欠かせない。渡辺さんの経験上、「条件交渉の仕方によって、合否が変わることはもちろん、年収が数百万円単位で変わることも珍しくない」という。

このような転職スキルを身につけているかどうかによって、その後のキャリアが大きく変わってしまうのだ。転職を考える際には、必要不可欠なスキルといえよう。

注意! 応募ルートで合否が変わる

求人をどこで探すかも重要なポイントだ。第一に、人材紹介会社によって扱っている求人案件は異なっている。また、あまり知られていないことだが、職種や業界によって、受かりやすい応募ルートが存在するのだという。

たとえば、渡辺さんが代表を務める人材紹介会社は、事業会社のエグゼクティブポジションやコンサルティングファームへの転職に強い。通常の求人には出回っていないポストを紹介できることも多々あるという。

「幹部ポジションの場合、極秘で採用活動を進めているということがあります。その企業の戦略が透けてしまったり、自社内の関係性に悪影響を及ぼしたりする恐れがあるためです」

このような企業は、エグゼクティブ層に強い、限られた人材紹介会社にだけ採用を依頼することとなる。

また、企業との強いパイプを持っている人材会社の場合には、企業側へ「この人物を採用してみてはどうか」と提案することも珍しくないという。しかし、こういった提案ができるのは、やはり企業の戦略や実態を深く理解している一部の人材会社に限られる。

こういった背景があるため、自分にとって最適な応募ルートをキャッチするスキルが重要になってくるのだ。

「先ほどの書類準備とつながる話ですが、ある紹介会社経由で書類選考に落選した方が、他の紹介会社のアドバイスに従って書類を書き直して再応募したところ、内定が出たという話は珍しくありません」

実力・実績が同じでも、応募ルートによって転職活動の成否が分かれてしまう。人材紹介会社を利用する際には、複数の会社の中からフィットする会社を慎重に選ぶことを渡辺さんはおすすめしている。

転職先ですぐに活躍できる「協働するスキル」を磨く

もちろん転職を成功させるためには、そうした転職スキル以前に、人材として企業に求められる能力を持っている必要がある。また、仮に採用を勝ち取ったとしても、入社後に活躍できなければ仕方がない。

もちろん、希望する業界や職種によって求められる能力は異なってくるだろう。しかしそれでも、ほとんどの企業で求められる能力というものが存在する。たとえば、「協働するスキル」などがそうだ。

一般的に、転職は年齢が高くなるほどに難しくなると思われている。にもかかわらず、50代であっても転職市場で引く手数多な職業があることをご存知だろうか。コンサルティングファーム出身者、いわゆる「ポストコンサル」と呼ばれる人たちだ。

彼らが転職市場で人気なのは、戦略立案や組織変革などの経営スキルが評価されるのが大きな理由だが、それだけではない。他社のカルチャーの中でも短期間で結果を出していける対応力やコミュニケーション能力、リーダーシップなど、「協働するスキル」があると判断されているためだ。これは単に人柄がよく、メンバーと仲良く働けるという話とは異なる。

言わずもがな、仕事は一人では完結できない。どんな転職先であろうとも、そこには必ず誰かとのやりとりが発生する。しかし、価値観、使う言語、持っている知識などが全く違う組織に入り込んで、人間関係が構築できていない中、短期間でチームをとりまとめることは容易ではない。

「どんな仕事でも『協働するスキル』を磨くことはできます。ただし、ポストコンサルは業務経験上、その『協働するスキル』が高く評価されやすいのだと考えられます」

コンサルタントは、一般的にクライアント先に常駐し、数ヶ月や数年単位で変革に向けて伴走していく。クライアントの組織内にどっぷり入りこみ、信頼を掴んだうえで、変革していくことが求められる職業だ。さらにいうと、クライアント企業の大半の社員はコンサルタントに対して、「お手並み拝見」という冷めたスタンスでいることが少なくない。一般的な企業内での部署異動とは、厳しさが異なるのだ。

「他社のカルチャーを理解して、そこに自分の価値を提供していく。この関係性は、まさに転職と同じです。そういう点で、ポストコンサルは、どんな組織でも再現性高く結果を出せると期待してもらいやすいのだと思います」

では、長い年数一つの会社に勤務してきた転職希望者が「協業するスキル」を磨き、アピールするためには、どのような方法が存在するのだろうか。

「もちろん若い人であれば一社しか就労経験がなくとも問題ありません。もし、40代、50代の方で一社のみの経験であった場合は、地域活動やボランティア、副業などのパラレルキャリアで経験を積むのもひとつの手です」

これは、会社外の活動を経験していることを伝えれば、柔軟性があり、人と協働して物事を進めていくことができるということをアピールすることができるからだ。

「副業先のベンチャー企業やボランティア先のNPOで、自分より若い経営者の活躍をみて、刺激を受けることもあるようです。外部の勉強会、ワークショップなどに参加するのもよいでしょう。主体的にキャリアを築いていくためには、フットワークよく必要な経験や学びを求めていく意識が大切なのです」

自分の未来は自分でデザインする時代

読者の中には、将来経営者や起業家になりたいと考える人も多いだろう。「誤解の無いようにお伝えしたいのですが、経営者や起業家を目指すのに、コンサルティングファームでの経験が必須ということではありません」と渡辺さんは強調する。

渡辺さんが支援する起業家に、お笑いのメソッドを営業トークやマネジメントに活かすノウハウをパッケージ化して、研修事業を立ち上げた元お笑い芸人の方がいるという。彼は今でこそ成功しているが、キャリアのスタートは大学中退のお笑い芸人。しかも、転身する30歳までPCの使い方すら知らなかったそうだ。

「彼はそんな状況からビジネスのイロハを一から学び、入社させてもらった研修会社で結果を出すようになっていきました。持ち前のコミュニケーション能力を活かし、3年目にはトップセールスとなったそうです。そして最終的に、『お笑い×研修事業』の掛け合わせで、唯一無二のサービスを作ったのです。今では、芸人時代には実現できなかったTV・ラジオ出演の夢を叶えるまでになりました。人生は本当におもしろいものだなと思います」

こうした独自性のあるキャリアを描いていけることこそが、会社に任せないキャリア設計の魅力と言えよう。

人生は長い。今の会社の延長線上にあるキャリアだけではなく、自分軸を中心に据えたキャリアを描いてみてはいかがだろうか。

もしかしたら、そこには、自分しか登れない新しいキャリアの道が存在しているかもしれない。

【お話をお伺いした方】
渡辺 秀和(わたなべ ひでかず)
コンコードエグゼクティブグループ代表取締役社長CEO。株式会社三和総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサルティングを経て、2008年、株式会社コンコードエグゼクティブグループを設立。マッキンゼーやBCGなどの戦略コンサルタント、投資銀行・ファンド、外資系エグゼクティブ、起業家などへ1,000人を越えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援。
第1回「日本ヘッドハンター大賞」のコンサルティング部門で初代MVPを受賞。
2017年に東京大学で開講されたキャリア設計の正規科目「未来をつくるキャリアの授業」(全12回)のコースディレクターとして、企画・講義を担当。著書に『未来をつくるキャリアの授業』(日本経済新聞出版社刊)など多数。

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