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2019.05.20 NEW

【マーケットバリュー特集:前編】マーケティング戦略から学ぶ、あなたの価値の高め方

【マーケットバリュー特集:前編】マーケティング戦略から学ぶ、あなたの価値の高め方のイメージ

あなたは自分の「商品価値」を正しく理解しているだろうか? ビジネスパーソンは常に「商品」として評価されている。いまの会社で働いているのは、会社が「あなたという商品」を必要としているからだ。当然、「商品」の価値が高くなれば、長い目で見ると会社はそれに見合ったコストを払うようになる。もしかしたら、他社があなたをより高値で獲得しようとするかもしれない。では、どうすれば自分の商品価値を高めることができるのだろうか。

自分という「商品」を高く売るには、マーケティング戦略の考え方が有用だ。今回は、『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)や『「あなた」という商品を高く売る方法』(NHK出版)などの著書で知られるマーケティング戦略コンサルタント、永井孝尚(ながい たかひさ)さんにお話を伺った。

ライバルとの競争を避けろ!

自分の価値など意識せずとも、目の前の仕事に集中して取り組んでいれば、自ずとキャリアアップできる──そう考える人もいるだろう。その考えは必ずしも間違いとはいえないが、今では危うい考えになりつつある。

かつての時代であれば、会社に尽くしてさえいれば一生面倒を見てもらえていたかもしれない。しかし現代においては、定年まで安心して勤め続けられる会社など存在しないも同然だ。

とりあえず目の前の仕事に集中しているうちに、なにも得るものがないまま10年、20年が経ち、急に会社が倒産したときになって、「自分」という商品の買い手がいないことに気づき途方にくれる……。そうならないために必要になるのが、「自分」という商品に対するマーケティング戦略だ。

永井さんによると、自分という商品の価値を高める出発点は「他人がやっていないことをする」ことだという。

「ほかがやっていないことをする、つまり競争を避ける。これが近年のマーケティング戦略の王道です。20年ほど前の日本では、消費者は『より大きく、より豊か』であることを求めていました。たとえば掃除機に求められるのは吸引力だけというように、ニーズがシンプルだった。ですからどのメーカーもそのニーズに対応するために、こぞって吸引力をウリにした商品を開発していました。

しかし、いまや消費者のニーズは多様化し、店頭にはロボット型掃除機、サイクロン型掃除機など、さまざまな製品が並んでいます。消費者のニーズはまるでメッシュのように細分化された状態になっている。そして各々の分野でまったく異なるメーカーがトップシェアを握っています。細分化された消費者ニーズに最適化することで、企業はライバルとの競争を避けようとしています」

ここでいう掃除機は、そのまま「あなたという商品」に置き換えることができる。消費者のニーズが多様になったことと同じように、人材に対するニーズも多様になっている。目指すべきはそうした自分にマッチした市場(ニーズ)の完全独占、ブルーオーシャンであると永井さんは言う。

「あなたのほかにも代わりがいる環境では、あなたの商品価値を上げるのはむずかしい。狙うべきは完全独占です。競争を徹底的に避けて、戦わずして勝つ。完全独占を狙う戦略が、あなたという商品の価値を高めるはずです」

商品価値を高める「バリュープロポジション」という考え方

ライバルがいないブルーオーシャンで、戦わずに勝つ。そう言うのは簡単だが、では、どうすれば完全独占が可能な市場を見つけることができるのか。

その際に重要になるのが、「バリュープロポジション」をつくる意識を持つことであると永井さんは言う。

バリュープロポジションとは、相手が求めていて、なおかつ自分にしか提供できない価値のこと(図1)。これを見つけることができれば、戦わずして勝つことのできる自分の市場を見つけることができる。

図1:バリュープロポジション

図1:バリュープロポジション

バリュープロポジションをつくるためには、「どんな強みを活かして、誰のどんな悩みにいかに応えるか」を考える必要がある。そのときに抑えるべきポイントは、以下の4つだ。

  1. 自分の強みはなにか(※強みがなければつくる)
  2. 自分の強みを必要としている人(ターゲット)はだれか
  3. ターゲットは、なぜあなたの強みを必要としているのか(ニーズはどこにあるのか)
  4. 相手のニーズに対していかに応えるか(そのための具体的な自分の仕事はなにか)

永井さんが一例として挙げてくれたのは、長野県南部にある阿智村のケースだ。

「数年前までの阿智村は観光客数の減少に悩む、特にこれといった特徴のない温泉郷でした。そんな状況に危機感を覚えた旅館のスタッフは、地元で知られていた星空の美しさを強みと捉え、首都圏などの若者カップルをターゲットに絞り、彼らの非日常的な体験がしたいというニーズに応えるツアーを企画することでバリュープロポジションをつくり成功しました(図2)」

図2:阿智村のバリュープロポジション

図2:阿智村のバリュープロポジション

結果、阿智村の「日本一の星空ナイトツアー」は、2016年には11万人もの観光客を集め、同村は「日本一の星空の村」として全国的なブランドとなった。

「目指すべきは『あなた』という商品が阿智村と同じように、ほかのだれも同じ価値を提供できないバリュープロポジションを獲得することです。とはいえ、もちろん誰もが最初からそうした状況を実現するのは難しいはず。まずは職場などの小さな世界で、他の人とは違うあなたという商品を磨き上げていき、チームや職場でのオンリーワンを目指すところから始めてみるのがよいでしょう」

「強み」は「才能×技術×知識」から生まれる

では、自分の「強み」がない場合は、どうやってつくればいいのか。「強み」とは、先天的な「才能」と、後天的な学習や経験で身につく「技術」および「知識」が組み合わさって生まれると永井さんは言う。ここでいう「才能」は特別な能力でなく、だれもが必ずもっている個人の先天的な資質のことだ。

「たとえば共感力が高い、あるいは責任感が強いといった個人の性格も才能です。営業の現場であれば、共感力の高い人は顧客への質問力などの技術、顧客の業界に関する知識などを組み合わせることで『顧客の細かな課題を発見できる』という強みを手に入れていく。このように、自分の先天的な資質(才能)に目を向け、強みとして育てていくのです」

「強み」をつくるための第一歩は、日々の仕事の中で自分の才能を活かせるポイントを見つけ、育てていくことなのだ。

加えて、「目の前にある仕事を好きになることも大切」と永井さんは言う。

「私自身、いまでこそマーケティング戦略コンサルタントとして独立していますが、日本IBMに勤務していた時代、36歳でマーケティングに出会うまではなにが自分の『強み』がわからない状態でした。年齢的にもこのままではいけないと焦っていたとき、元上司に声をかけられて新設されたマーケティングの部署に異動したら、これがおもしろかった。マーケティングの仕事を好きになったんです」

理系出身の永井さんは、かつて小学校の図書館で科学書を読み漁っていたときのように夢中でマーケティング理論の本を読み込んだ。右も左もわからない状態から3年ほどマーケティングの仕事にのめり込んでいるうちに、自分の「強み」が見えてきたのだという。

「マーケティングの仕事をする前にやっていた製品開発や販売では、悪戦苦闘することも多かったんです。ところが、マーケティング理論を学ぶと、以前の部署で失敗した理由をロジカルに説明できるようになり、どうすれば成功していたのかもわかるようになってきた。悪戦苦闘した経験は決して無駄ではなく、大きな意味があったんですね。

ちょうどその頃から、ほかの部署の同僚からマーケティング戦略をどのように組み立てればいいか相談を頻繁に受けるようになりました。よく考えてみると、マーケティング理論に現場での経験を当てはめて戦略を考えられる人間はほとんどいなかったんですね。そこで、どうやらこれが私の『強み』らしい、と気づいたのです」

バリュープロポジションをつくり、競争せずに勝つために、まず必要なのは自分の「強み」を手に入れること。とはいえ、せっかく手に入れた強みが仕事で役にたたなければ、ビジネスの場で自分の商品価値を高めることにはつながらない。図3は永井さんが作成した、自分の「強み」が本物かどうかを検証するためのチェックリストだ。

図3:「あなたの強み」チェックリスト

図3:「あなたの強み」チェックリスト

4つの問いが「YES」になれば、それが本物の「強み」だ。その強みを核にしてバリュープロポジションを作っていけば、社内であれ社外であれ、あなたの商品価値は格段に高くなっているだろう。

以上、マーケティング戦略を用いたキャリア戦略の組み方を紹介した。続く後編では、さらに商品価値を高め、「強み」を伸ばすために使える、4つのマーケティング理論を紹介する。

【お話をお伺いした方】
永井 孝尚(ながい たかひさ)
マーケティング戦略コンサルタント。慶應義塾大学工学部(現・理工学部)を卒業後、日本IBMに入社。製品の開発・販売に従事したのち、マーケティングや人材育成を担当。退社後は、マーケティングの本質を伝える講演や研修を行うと同時に、執筆活動を開始。仕事で役立つ経営戦略を学ぶための「永井塾」も定期的に主宰している。おもな著書に『100円のコーラを1000円で売る方法』(KADOKAWA)、『これ、いったいどうやったら売れるんですか?』(SB新書)などがある。新刊の『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)を4月24日に刊行。

永井孝尚オフィシャルサイト

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