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2021.02.18 NEW

ハーバードの学生たちが東北を訪れる理由。3つの理念がもたらす、次世代のリーダー像

ハーバードの学生たちが東北を訪れる理由。3つの理念がもたらす、次世代のリーダー像のイメージ

東日本大震災後、東北ではソーシャルビジネスやベンチャー企業が次々と生まれた。そんな東北を、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の学生がMBAプログラムの授業の一環として毎年訪れている。なぜ世界のビジネスエリート候補生たちは東北を訪れ続けるのか、彼らは何を東北のリーダーたちから学ぶのか。

2012年から2016年まで、HBS日本リサーチセンターのスタッフとして本プログラムの企画・運営に深くかかわり、その経験を著書『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか──世界トップのビジネススクールが伝えたいビジネスの本質』(ダイヤモンド社)にまとめた山崎繭加(やまざき まゆか)さんに聞いた。

HBSに変革をもたらしたリーマン・ショック

新型コロナウイルスのパンデミック以降、アメリカでは経済格差をはじめとする社会の諸問題について語る経済学者や指導者が増え、資本主義を取り巻く議論はターニングポイントを迎えているように見える。

同国では、現在の状況とよく似た現象が10年ほど前にも起こっていた。2008年、リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発し、世界規模の金融危機が連鎖的に発生。これをきっかけにアメリカの金融業界や経済は自省ムードに包まれたのだ。

それは、金融業界に数多くの卒業生を輩出していたHBSも例外ではなかった。2006年からHBS日本リサーチセンターに勤務していた山崎さんは、当時をこう振り返る。

「ハーバード・ビジネス・スクールは、ハーバード大学に1908年に設立された世界最古のビジネススクールのひとつです。“Educate Leaders Who Make a Difference in the World(世界を変えるリーダーを育成する)”を理念にビジネスエリートを養成してきましたが、金融危機の原因となった金融業界にも多くのHBSの卒業生が行っていました

当時のアメリカは好景気に沸き、HBSの学生たちはこぞって金融業界を目指していたんですね。HBSの授業といえば、組織や企業が抱える具体的な課題について書かれたケースをもとに、教室で議論しながら学ぶ『ケース・メソッド』が有名です。それこそ2006年頃は、マーケティングの教授まで『いまの学生はファンドや投資銀行のケースじゃないと読まない』と言うほど金融がもてはやされていたのを覚えています」

リーマン・ショックと世界規模の金融危機の発生が、ちょうどHBS設立100周年の大きな節目に重なったこともあり、HBSでは「自分たちのリーダー教育は本当に正しかったのだろうか?」という自省が徹底的になされた

その結果、HBSはMBA教育のあり方を更新することを決断。変革の大きな柱は、「知識」偏重になるのではなく、「実践」や「価値観」も重視するフレームワークの導入だった。

「具体的には“ケース原理主義”からの脱却ですね。いくら知識(Knowing)があっても、実践(Doing)のスキルがなければ役立たない。また、自己の存在(Being)からくる価値観や信念を反映した自己認識がなければ、Doingのスキルも方針が定まらず、有効に使うことはできない。そんな考えが、新たな理念として組み込まれました」

図:“ケース原理主義”から脱却するHBSの新たなフレームワーク
図:“ケース原理主義”から脱却するHBSの新たなフレームワーク

※山崎氏へのインタビューをもとに編集部が作成。

新しい方針はすぐさま教育現場に導入され、大規模な教育カリキュラムの改訂が行われた。その一環として、これまでは任意の参加だった教室の外で学ぶ体験型のフィールドプログラム「Immersion Experience Program(IXP)」を、2年生の選択科目として単位化。

2012年、単位化してはじめて開催されたIXPのうちのひとつが、東北を舞台とした「ジャパンIXP」だった。

「Knowing, Doing, Being」を実践する東北の起業家たち

「ジャパンIXP」の柱のひとつが、HBSの学生たちが東北で地域のための事業を営む企業に対しコンサルティングを行うプログラムだった。

実際に訪れてみると、学生もまた東北の人たちから多くの学びを得ることがわかった。

結果的に「ジャパンIXP」はHBSの学生から高評価を得て、東北でのフィールドプログラムは世界中に研修地候補がある同授業のなかで唯一、2012年から2017年まで6年連続で選ばれ続けた(2016年の第5回以降はジャパンIFCに改名、2017年以降は活動のおもな拠点は東京となり、東北は週末の訪問地となっている)。

では、HBSの学生は東北という土地から、あるいは東北の起業家たちから何を学んできたのだろうか。

東北には、学生たちがHBSの教室で学んだ『Knowing,Doing,Being』のフレームワークを当たり前のように実践する人たちがいる──その事実に感銘を受けるようです

もちろんHBSの学生たちは優秀ですし、一度は社会に出た経験がある人たちばかりですから、事業における『Knowing,Doing,Being』のバランスの重要性を頭ではしっかり理解していますが、やはり『Knowing』から始めよう、わかってから動こう、という人は多い。

一方、東北の起業家たちの多くは、なにもないどころかマイナスの状態からビジネスや町づくりを始めた人たちです。まずは家族のため、地域のために何をやるか──自分はどうあるべきか(Being)があり、次に実践(Doing)する。そうしているうちに、自ずと知識(Knowing)がついてくる。HBSの学生が慣れているやり方とは順番が逆なんです

たとえば、山崎さんが学生たちの研修地に選んだのは、漁師から農家、水産加工業者、地域密着型のワイナリーやカフェまでさまざまな事業体や団体だが、その多くに共通していたのは「地域の課題を解決するための事業」「長期志向」といった点。いずれも四半期ごとの利益が求められがちなビジネスの世界において、重視されてきた指標ではない。

さらに、震災後の東北には、それまでビジネススクールで広く教えられてきた、業界や他社を分析し、自分の立ち位置を考える「アウトサイドイン(外から中へ)」の戦略ではなく、“想い”を中心に戦略を考える「インサイドアウト(中から外へ)」の経営を行う企業も少なくない。

インサイドアウトの経営は普段からジャパンIXPの指導教官である竹内弘高教授が教室で教えていることで、ある意味では従来の戦略論のアンチテーゼですね。東北の起業家たちには、根本に自分の家族や地域のために何かしたいという強い想いがあって、それが同時に自分のよろこびでもある。『人のために』だけではないので、続けられるわけですね。

自分の周囲や社会が良くなっていくことが彼らのよろこびなので、自分が楽しいと感じることの実践が、社会にとっても良いことになる。そんなふうに、自分と社会が自然につながっています。そんな起業家たちのあり方を目の当たりにして、学生たちは驚いたんだと思います」

次世代のビジネスリーダーに必要なのは、内省と「社会にどう向き合いたいか」というBeing

地域のため、人のために事業を続ける東北の起業家たちは、社会起業家の鑑である。多くの企業が持続可能な開発目標(SDGs)を重要視する時代において、新しいリーダーのあり方ともいえるだろう。

「ジャパンIXP」での5年間を通じ、そんな彼らを間近で見てきた山崎さんが考える「これからのリーダー像」とは、いったいどのようなものなのだろうか。

「やはり『自分が何者で、どんな価値観をもち、社会にどう向き合いたいか』というBeingをしっかりもっている人だと思います。東北の起業家たちは、自分の弱くてだめな面も含めて自らを認識し、それをコンパスにして進むべき道を切り開いてきたように見えます。

『セルフ・アウェアネス』という言葉を最近よく目にしますが、これには同じような意味があります。優れたリーダーは、自分自身をよく知っているし、他者が自分をどう見ているかをありのままに受け止めることができる。だからこそ謙虚で、他人に対しても思いやりがもてる、と言われています」

実際に、セルフ・アウェアネスは、スタンフォード大学経営大学院の調査でリーダーが伸ばすべき最大の能力の筆頭に挙げられている。リーダー研究においても、リーダーの取るべき行動やリーダーの役割といった「Doing」から、リーダー自身のあり方「Being」に光が当たるようになっているのだ。それは起業家にかぎらず、一般のビジネスパーソンにとっても、スキルや実践へのアクションに繋がる重要なことだろう。

じつは、山崎さんも東北の起業家たちのBeingに感化され、HBSを辞めて華道家として独立した。いけばなにも、人がセルフ・アウェアネスを高めるのをサポートする面があるという。

また、山崎さんが起業家たちから受けた影響はそれだけではない。

「ジャパンIXPで関わった東北の事業の多くは、企業や一般の人からの寄付が資金源になっていました。私も、HBSを離れて仕事上の付き合いがなくなったいまも、彼らがクラウドファンディングをやるときには寄付をしています。

なぜ自分が寄付をしているのかを考えてみると、たぶん彼らのつくる未来を見たいし、それが私自身のよろこびにもなるからです。私と同じ考えの人が沢山いるからこそ、事業が存続できるのだと思います」

一人のリーダーの力だけで“世界を変える”ことはできないかもしれないが、多くの力が集まれば、未来を少しずつ良い方向に変えていくことができる。

どのような未来を思い描き、そのために自分がどうありたいか。新型コロナウイルスによって世の中が大きなターニングポイントを迎えているいま、あらためて自らのコンパスの針を調整してほしい。身近なところに何かできることが見つかるかもしれない。

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【お話をお伺いした方】
山崎 繭加(やまざき まゆか)
マッキンゼー・アンド・カンパニー、東京大学助手を経て、2006年より2016年まで、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)日本リサーチセンター勤務。主にHBSで使用される日本の企業・経済・ビジネスリーダーに関するケース作成、東北を学びの場とするHBSの2年生向け選択科目の企画・運営に従事していた。現在は、華道家として活動を行いながら、ハーバード・ビジネス・レビュー特任編集委員なども務める。著書に『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか──世界トップのビジネススクールが伝えたいビジネスの本質』(ダイヤモンド社)。

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