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2021.03.04 NEW

【解説】税制を知れば日常が変わる?「2021年度税制改正」の見るべきポイント

【解説】税制を知れば日常が変わる?「2021年度税制改正」の見るべきポイントのイメージ

「税制」と聞いて、「難しそう」「何となく縁遠い」と感じる人も多いのではないだろうか。体系立てて税制を学ぶ機会は少なく、「税金は給与から自動的に徴収されているもの」という認識しかない人もいるかもしれない。

しかし、税制の仕組みを理解して、毎年行われる税制改正のポイントを押さえておくことは、日常生活のみならず、ビジネス上でも確実に役立つ

今回は、資産形成・資産活用に関する情報発信を行いながら、さまざまなお金の相談を受けている株式会社ウェルスペント 代表取締役であり、ファイナンシャル・プランナーの横田健一(よこた けんいち)さんに、税制改正のポイントを知ることで生活や仕事に活かせることを解説してもらった。

「住宅ローン控除」が期間延長。現在は住宅購入のベストタイミング?

日本では毎年1回、税制改正が行われる。その全貌が書かれた、毎年12月中旬頃に与党が公開する『税制改正大綱』は100ページ以上にも及び、その情報量は膨大だ。

まずは、『令和3年度税制改正大綱』のポイントを押さえたい

横田さんによると、今回の税制改正で特に大きな話題を呼んでいるのが「住宅ローン控除の特例措置」だ。これは、少しでもマイホームに憧れを持つ人にとっては朗報かもしれない。

改正ポイント
契約時期と入居時期に応じて最大13年間、住宅ローン残高の一定割合が所得税額等から控除される特例措置が、令和4年12月末まで延長

「消費税率が10%に改正されたのと同時に、住宅ローン控除の特例措置が導入され、通常は控除期間が10年間のところ、13年間に延長されました。

これまでは令和2年12月末までに入居した住宅が住宅ローン控除の対象となっていましたが、今回の税制改正により、その期間が令和4年12月末までに入居した住宅についても住宅ローン控除が延長されました。ただし、契約時期にも条件があり、注文住宅では令和3年9月末、マンションや中古住宅では同年11月末までに契約する必要があります」

つまり、住宅ローン控除は、原則として年末時点の住宅ローン残高の1%が税額控除(所得税(所得税から控除しきれない金額があるときは住民税))となる制度。今回の住宅ローン控除が適用されると、トータルで数百万円単位のお金が浮く可能性があるのだ。

図:住宅ローン控除額の概算(目安)
借入額(=土地・建物価格)
2,000万円 3,000万円 4,000万円
年収 400万円 160万円
(37万円)
160万円
(37万円)
160万円
(37万円)
600万円 205万円
(38万円)
302万円
(57万円)
340万円
(76万円)
800万円 205万円
(38万円)
308万円
(57万円)
411万円
(76万円)

シミュレーションの条件
・金利1%(固定金利)・返済期間 30年・扶養家族 配偶者1人 子ども1人・入居日 2021年1月

表の見方
年収800万円 借入額2,000万円の場合
205万円…13年間の住宅ローン控除額
38万円…205万円のうち、11年目~13年目(3年間)の住宅ローン控除額

また、“期間”だけではなく“条件”も一部緩和される。これまで、控除の対象となる建物の床面積は「50m²以上」だったが、合計所得金額が1,000万円以下の人については、「40m²以上」に引き下げられたのだ。

「40m²以上」となれば、広めの一人暮らしや二人暮らしに最適な広さ。また、増改築にも控除が適用されるため、「在宅ワークにあわせて部屋をリフォームしたい」などといったニーズも控除対象となる。ライフスタイルの変化から住み替えを検討している人が少なくない現在、これまで“賃貸派”だった人もこの改正によって住宅ローンの活用を検討する人が増えてくるかもしれない。

だがここで、横田さんは注意を促す。

「確かにこの税制改正は『これから家を建てたい、購入したい』と考えている人にとっては都合が良いでしょう。しかし、『住宅ローンの控除が延長されるから家を建てよう、購入しよう』と急いで決めるのは考えもの。

そもそも住宅ローンの控除は昭和47年から行われており、金額の大小はあっても年々改正を重ねています。目先の税制改正に目を奪われ、無理してマイホームを手に入れると、『子どもの教育費が不足してしまった』などの失敗を招いてしまう可能性もあります。

そうならないために大事なのは、税制改正に引っ張られるのではなく、まず自分のライフプランを明確に立てること。どんな人生を歩みたいのか、明確にプランを立てた上で、『今、家を新築(購入)したり、増改築したりすることが必要だ』と判断したタイミングで行動を起こすことをおすすめします」

家を建て(購入し)たり、増改築したりするのは、一生のうちに何度もあるわけではない大きな買い物。税制改正にあわせて自分のライフプランを変更するのではなく、ライフプランを明確にした上で、優遇制度を利用するかどうかを検討することが大切である。

結婚、子育て、教育などに関わる資金援助を後押し。非課税制度はどう変わる?

もう一つ、今回の税制改正で注目したいのが、贈与税の非課税制度の一部変更だ。

令和3年度の税制改正大綱では、「教育資金、結婚・子育ての資金一括贈与にかかる贈与税の非課税措置の適用期限を2年延長する」と述べている。これは、家庭の経済状況が望ましくない子育て世代に向けて負担軽減を意図したものだ。

改正ポイント
教育資金、結婚・子育てのための資金贈与を一括で受けた場合、非課税で贈与ができる制度が令和5年3末まで延長

祖父母や両親などが、30歳未満の子どもや孫に教育資金として1,500万円まで、結婚・子育て用のお金として20歳以上50歳未満の子どもや孫に1,000万円までの範囲を非課税で一括贈与できる制度がある。これまでは令和3年3月末まで適用される予定だったが、今回の税制改正により2年間延長される。

「結婚・子育てのための資金贈与制度の注目ポイントは、不妊治療などにもその贈与を利用できるということ。たとえば自分が結婚をする場合、『結婚するから資金の援助をしてほしい』とは、ご両親になかなか言いづらいですよね。

でも、『こんな税制の優遇があって、不妊治療や妊婦検診などに利用できるみたいだよ』などといった、話のきっかけを作ることはできるのではないでしょうか

税制改正の話題を皮切りに家族ともライフプランについて話し合い、同時に援助の手を差し伸べてもらいやすい環境を作るチャンスともなりそうだ。

しかし、この制度変更にはこうした優遇措置だけでなく、一部の富裕層が“節税目的”で利用することを防ぐための「適用条件見直し」も含まれている。

たとえば、教育資金贈与の現行制度では、祖父母等の贈与者が亡くなった時点で、贈与された教育資金が使い切れていなかったとしても、贈与を受けてから3年以上が経っていれば、相続税の課税対象にならなかった。そして非課税枠が大きかったため、一部では「富裕層への優遇策だ」という批判を招いていたのだ。

それが今回の改正により、贈与後3年以上経過したものに対しても相続税の課税対象になり、贈与を受けた者が贈与者の子以外である場合は、通常の税額に2割加算で相続税が加算されることになった(注:贈与を受けた孫などが、23歳未満や在学中である場合を除く)。

「2割加算」は、結婚・子育て資金で贈与されたものの残額にも適用される。これまで経済的なサポート目的だけではなく、節税も兼ねて制度を利用していた人にとっては、税金の負担が増える可能性があるのだ。

これに対し、横田さんはこう話す。

「確かに、使い切れなかったお金に対する課税は厳しくなりますが、使い切った場合には課税されないという点にも目を向ける必要があります。これを活用することにより、『世代間でスムーズな資産移転が行われる』というメリットが生まれるでしょう」

贈与された資産を使い切れば課税されないため、資産の移転はスムーズに進む。世界に例を見ないスピードで少子高齢化が進む日本にとって、今回の税制改正は「相続税対策」ではなく、「子や孫の未来のため」という本来の趣旨に合致した活用を目指すものと言えるかもしれない。

税制度を理解することは、生活や仕事に役立つ

このように、税制改正の内容を読むと、少なからず自分の生活との関わりが見えてくる。まずは目立つトピックだけでも押さえておくことが大切だ。

「一年に一度行われる税制改正の内容を読み取ることは、慣れない人にとってハードルが高いものかもしれません。その点、政府は財務省のWEBサイトに税制改正大綱を数ページにまとめた概要をアップしています。他にも、さまざまな税理士法人が独自にトピックをまとめた資料を公開しています。

そうしたものを活用し、要点を効率よく押さえるのがおすすめです。税制改正は個人所得税や資産税だけでなく法人税も対象にしていますから、そうした動きを把握することは世の中への理解を深め、社会の動きを俯瞰することにつながります」

税制改正の内容を理解することが、なぜ社会の動きを把握することにつながるのか?

「たとえば、今回の税制改正では、コロナ禍での経済再生に向け、クラウド型システムの導入など企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)への投資を促す減税措置が盛り込まれています。また、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制が創設されたり、株式対価M&Aを促進するための措置が設けられたりといったトピックもあります。

こうしたトピックを俯瞰してみると、たとえば、『これから企業のDXがますます進みそうだ』とか、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする『2050年カーボンニュートラル』に向けての動きがますます進みそうだ』とか、『M&Aの動きがさらに活発化し、さまざまな企業にビジネスチャンスが生まれそうだ』ということが予測できるはず。

そうした予測をもとに、自分の関わるビジネスを見つめ直せば、新たなチャンスを見つけることができるかもしれません」

確かに、そもそも税制改正は世の中の動向や中長期的展望に基づいて考案されるもの。それを読み解くことは、広く社会の動きを理解することにつながるはずだ。最後に税制と“お近づき”になる方法を横田さんに聞いた。

「まずは自分の給与明細を正しく読めるようになること。所得がどれだけあり、どんな税金があって、どれだけ控除されているのか、一つひとつわかってくると、税金が身近なものに感じられるはず。

特に生きている限り、ずっと付き合うことになるのが所得税です。これはできるだけ早いタイミングで仕組みを知り、理解を深めておくと、今後のライフプランやマネープランを考える時に役立つでしょう」

中長期的な業界の動きを読み解くヒントが詰まった税制改正大綱。その概要を読み、社会を俯瞰して眺めれば、おのずと自分が携わるビジネスとの接点も浮かび上がってくるはずだ。

【お話をお伺いした方】
横田 健一(よこた けんいち)
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