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2020.09.03 NEWエッジな視点

【投資の新常識】世界の運用資産の1/3を占めるESG投資とは

【投資の新常識】世界の運用資産の1/3を占めるESG投資とはのイメージ

コロナショックを機に、日本はますます世界から置き去りにされてしまうかもしれない。

温室効果ガス排出削減、プラスチック製品の廃止、自然エネルギーへの切り替え──。日本でも「持続可能な開発目標(SDGs)」という言葉をあちこちで目にするようになって久しい。これらを社会奉仕活動やPR活動の一環だろうと見る向きもあるが、世界からすれば大きな勘違い。企業が環境問題に取り組むのは、それが巡り巡って自社の利益につながるからだ。

環境・社会への影響を考慮すると利益が減るので、考慮すべきでない──そんな資本主義の常識が変わりつつある。いったいなにが起こっているのか、『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった』(講談社+α新書)の著者、夫馬賢治さんにうかがった。

世界の運用資産の1/3を占める「ESG投資」

夫馬さんは現代における資本主義のありかたを、「環境・社会」に対する態度から、下図のように4つに分類している。

図:経済認識に関する4分類モデル

図:経済認識に関する4分類モデル

出典:『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった』(夫馬賢治著/講談社+α新書)

図の横軸は「企業が環境や社会へ配慮するようになると利益が増えると見るか、減ると見るか」を表し、縦軸は「企業が環境や社会へ配慮することに賛成か、反対か」を表している。それぞれの特徴は以下の通りだ。

①ニュー資本主義 環境・社会に配慮すれば利益が出るため、配慮すべきと考える

②陰謀論 きれいごとの裏には陰謀があるから、環境・社会に配慮すべきでないと考える

③脱資本主義 環境・社会に配慮すれば利益は出ないが、それでも環境社会に配慮すべきと考える

④オールド資本主義 環境・社会に配慮すると利益が出ないので、配慮すべきではないと考える

たとえば企業が取り組むSDGsにまつわる活動を「企業PRの一環だろう」と見なす人々は「④オールド資本主義」、「企業の利益活動の一環だろう」と見なす人々は「①ニュー資本主義」に該当する。

一般的に、前者は日本に多く、後者は欧米に多いとされている。

そして、オールド資本主義は終焉を迎え、世界ではニュー資本主義がスタンダートになっているというのが夫馬さんの主張だ。

実際に、こうしたニュー資本主義の考え方は10年ほど前から、世界の投資家やグローバル企業の間でスタンダードになりつつある。

わかりやすい例が、環境や社会への配慮に着目して企業を分析し、優れた経営をしている企業に投資する「ESG投資」だ。ESG投資で運用されている資産は年々増加の一途をたどり、2018年の時点では世界全体における運用資産の3分の1がESG投資で運用されるまでになっている(※)

つまり、世界の投資家たちは「環境や社会に配慮する企業への投資は儲かる」「環境や社会に配慮する企業は成長する」と考えているのだ。

※出典:GSIA “2018 Global Sustainable Investment Review”

ESG投資が伸びている背景

なぜ環境や社会に配慮する企業(および、そうした企業への投資)が伸びると考えられているのか。その背景には、気候変動をはじめとする環境問題への懸念があると夫馬さんは言う。

「気候変動というと異を唱える懐疑派も多いですが、国連はこの数十年、一貫して『非常に高い確率で地球は温暖化している』と主張し、それを裏づける科学的データも示してきました。日本でも今年7月に九州を中心に甚大な被害をもたらした豪雨をはじめ、相次ぐ気象災害に『なにかおかしい』と感じている人は多いのではないでしょうか」

実際、欧米企業の意識を変えたのも気象災害だった。きっかけはアメリカを襲ったハリケーンだったという。

「2005年、カトリーナという巨大ハリケーンがアメリカの南東部を襲いました。ルイジアナ州では、堤防が想定通りの強度を発揮せずに崩壊。市街地の多くが浸水したことで住民は避難を余儀なくされ、1,500名以上が亡くなりました。あまりの被害の大きさに、『気候変動は本当に大きな問題である』という意識が生まれたんです」

加えてその直後、リーマン・ショックが発生。これをきっかけに、欧米企業の経営戦略に決定的な変化が訪れる。

「リーマン・ショックで巨大な銀行が相次いで経営危機を迎えたのを見て、経営陣は企業そのものの“サステナビリティ(持続可能性)”に不安を覚えはじめます。自社の経営を脅かすようなリスクが、どこかに潜んでいるのではないか。そう考えたとき、やっぱりカトリーナのトラウマは大きかった。そこで、環境や地域社会と共存したうえで利益を拡大していくという“サステナビリティ経営”の考え方が、欧米のグローバル企業に根づいていくことになったのです」

いま想定されている未来の気候変動が現実になれば、生存できなくなる企業が続出する。だからグローバル企業は生き残りをかけて環境問題に取り組んでいる。「2030年までに温室効果ガスの排出量をゼロにする」「自社の消費電力に占める再生可能エネルギーの割合を2030年までに100パーセントにする」といった目標設定は、PRのための社会貢献活動ではなく、切実な生存戦略なのだ。

SDGsバッジだけがひとり歩きした日本

サステナビリティ経営が欧米企業のスタンダートになっていくなか、日本は大きく遅れをとっていると言わざるをえない。近年はやや変化の兆しもあるものの、やはり依然として「環境・社会に配慮すると利益が出ない」と考えるオールド資本主義の国だ。

そもそも欧米企業が抱く気候変動への危機感を実感として共有していないので、環境・社会への配慮というと社会貢献活動になってしまう。欧米との違いは、コロナウイルスの感染拡大を受けての行動にも如実に表れていると夫馬さんは指摘する。

「日本では2016年、首相を本部長とする『SDGs推進本部』が発足したのをきっかけに、SDGsという言葉が急に注目を浴びるようになりました。SDGsの意味もよく知らないままSDGsバッジをつける社会人が続出しましたが、それもコロナショックを受けて大きくトーンダウンしています。

一方、欧米ではコロナショックを機に、ニュー資本主義が加速している。欧州では、コロナでダメージを受けた経済の立て直しと脱炭素社会への移行を両立させる『グリーン・リカバリー』が注目を集めています。たとえばフランス政府は、エールフランスの救済条件として、国内線のCO2排出量を2024年までに5割削減することを要求しました。

そのほか、途上国でも気候変動対策に関するプロジェクトにどんどん国の補助金や助成金がついている。日本も、海外に遅れをとっている自然エネルギー技術やプラスチックのリサイクル技術の開発などに資金につぎ込むべきだと思います」

意外なことに、いまの日本にはプラスチックをリサイクルする技術をもつ会社はほとんどないのだという。かつてはこの分野で世界をリードしていたが、「儲からない」ことを理由に、過去15年間、事業の大規模化が進展せず、価格競争力のある企業が出てきていない。現状、めぼしいスタートアップも見当たらない。

「これもまた日本の弱点なのですが、日本のスタートアップはITサービスに集中していて、リアルテックと呼ばれる分野のスタートアップがあまり成長していない。だから投資家からすると、ESG投資をしたくても、国内に投資先がほとんどないという状況です」

それでも、今後企業が生き残るには、オールド資本主義からできるだけ早く脱し、ニュー資本主義へ移行するしかないと夫馬さんは断言する。

あらゆるビジネスパーソンに資する「ESG思考」

当然のことながら、企業だけでなくビジネスパーソン個人にとっても、もはやサステナビリティを重視するニュー資本主義的発想、「ESG思考」は必要不可欠だ。

ESG思考とは、要するに“長期的なトレンドで物事を考える”ってことですから、どんな業種、どんな職種の人も身につけておいたほうがいい。たとえば食品メーカーの場合、原材料を調達しているアメリカの小麦畑は洪水や旱魃(かんばつ)の被害に遭わないか。コーヒーチェーンは、10年後もいまの取引先からコーヒー豆を調達できるのか、など。実際に、欧米の企業では、環境部門と同じぐらい調達部門の人たちもESGやSDGsを熱心に勉強しています

長い目で見ると、この会社や事業は生き残れるのか、生き残れないのかが見通せるようになってくる。ESGの投資家たちはそんなメガネをかけて企業を評価し、投資先を選んでいるんです」

では、どうすれば投資家たちがもつESG思考が身につくのだろうか。

「まずは環境問題についてきちんと勉強することですね。多くの日本人は、知識が高校で学んだ地球温暖化レベルでストップしていると思います。『北極の氷が溶けてシロクマがかわいそう』みたいな(笑)。でもこの分野の研究は、この10年、20年で大きく刷新されている。正しい知識がなければ、エールフランスが短距離路線を減らすことの意味もわからないと思います。

もうひとつ、企業の将来性を予測するなら、実際にESG投資をしてみるのもいいかもしれません。たとえばいまなら、対面を回避しつつ健康に資するサービスとか、リモートワークの働き方をより良くするサービスとか。勉強という観点では、自分で個別株を選んで投資するのがベストですが、関連銘柄を集めた投資信託を購入するだけでも意識が変わると思いますよ」

自分の住む地域には将来どんな環境リスクがあるのか、あの企業は30年後も生き残っているのか。これを機に、思考実験をしてみてはいかがだろう。ESGのメガネをかけると、目に映る世界が一変するかもしれない。

夫馬 賢治(ふま けんじ)
株式会社ニューラルCEO。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザー。ニュースサイト「Sustainable Japan」編集長。ハーバード大学大学院リベラルアーツ(サステナビリティ専攻)修士。サンダーバード・グローバル経営大学院MBA。東京大学教養学部(国際関係論)卒。環境省や農林水産省、国際会議でESG関連の委員を歴任。CNN、NHK、日本テレビ、テレビ東京、FT、日本経済新聞等への出演・取材対応、国内外での講演も多数。著書に『ESG思考』(講談社+α新書)ほか。最新刊は『データでわかる 2030年 地球のすがた』(日本経済新聞出版)。

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