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基礎から学べる行動ファイナンス 第2回「直感システムと熟慮システム」

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野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が投資や資産運用の際に人が陥りがちな「バイアス」に関して解説する「基礎から学べる行動ファイナンス」シリーズ。第2回では、「人は短時間の判断による『直感による判断(直感システム)』と長時間かけて判断・評価・反省をする『熟慮して行う判断(熟慮システム)』という二つの判断システムを持っている」という考え方について紹介します。

自らの判断で後悔することも・・・

前回の「合理性と心理バイアス」で示したように、人はお金に関して合理的であろうとするものの、心理的なバイアス(偏り)によって合理的とは言えない行動をしてしまうことがあります。

これを理解するには、「2重過程モデル」(※1)の考え方が重要とされます。このモデルは「人は短時間の判断による『直感による判断(直感システム)』と長時間かけて判断・評価・反省をする『熟慮して行う判断(熟慮システム)』という二つの判断システムを持っている」という考え方です。多くの心理学者らがこのモデルについて研究しています。〔図表〕

〔図表〕 2重過程モデル

直感システム 熟慮システム
短期の判断 長期の判断
直感、主観的、感情的 熟慮、客観的、理性的
無意識に自動で作動 意識して作動
処理が速い 処理が遅い
進化的に古い 進化的に新しい
  • 出所:野村證券金融工学研究センター

人は短時間での判断を迫られたとき、無意識のうちに物事を決めたり、深く考えずに直感で決めたりすることが多いといえます。結果的にそれでうまくいくことや、選択肢がそれしかなかった、といったことも多々あるはずです。

一方で、後から改めて考えてみたら「あの時は間違っていた」「こうしていたら良かった」と後悔することもあるでしょう。

複雑な人間の判断システム

伝統的な経済学の世界では、人は直感システムの迅速さをもって、熟慮システムの理性を基に行動する「ロボット」のようなものと考えられていたと言えます。金融教育も、計算機にデータを入力するように、熟慮システムが従うべき知識を与えるだけでよいとされていました。

しかし、実際の人間が行う判断や行動は、直感システム単独によるものや、または直感システムと熟慮システムの密接な連携に基づくものが多いことがわかってきました。第1回で挙げた12の心理バイアスの大半は、その判断が不完全であるために生じています。特に直感システムは個人の性格と深く結び付いているため、簡単に変わるものではありません。

早くからその点に着目していた欧米では、金融教育を「知識を授ける」ものから「(判断の)システムを助ける」ものへとシフトさせることに成功しています(※2)。新しい金融教育の現場では、かつて脇役だった「人へのアドバイスの方法」や「人の行動をコントロールする技術」が、中心的な役割を果たすようになっています。

日本ではまだ・・・

日本ではまだ「人は完全なものだ」と思いたいという「バイアス」が存在するのか、直感システムの扱いが軽視されている面があると言わざるを得ません。しかし、今後は「人は不完全なものだ」という事実(データ)をベースとした現代的な金融教育が推進されていくのではないでしょうか。

  • 1:2重過程モデル(デュアルプロセスモデル)の研究についてはK. E. Stanovichらが2000年にまとめている。
  • 2:大庭昭彦「投資教育と投資推進に関する研究の新展開」(証券アナリストジャーナル 2022年7月)

(KINZAI Financial Plan 2023年2月号掲載の記事を再編集したものです)

本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2023年2月現在の情報に基づいております。

大庭 昭彦

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

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