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「行動ファイナンス」で疑問を解決!第2回「買おうとしているうちに株価上昇…」

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野村證券金融工学研究センターの大庭昭彦が、皆さまの投資に関するお悩みを行動ファイナンスの観点から分析、解決法を探っていきます。第2回で紹介するのは、投資を始めようとしたら株価が上昇して買いにくくなってしまったというお悩みです。

お悩み

投資は未経験ですが、当面使わないお金が銀行預金に貯まってきたこともあり、投資に興味が湧き、株価の動きや経済ニュースなどにも注意するようになりました。難しいことはよく分からないので、とりあえず知人たちも買っていると聞いた世界の株式に分散投資する投資信託を買ってみたいのですが、買い始めるタイミングがわかりません。
すぐ買っても良かったのですが、買おうとしたタイミングで価格が上昇し、「先週買っていたら2万円得したのに」、「待っていれば下がるだろう」などと考えてしまい買えませんでした。しばらく様子を見ていると下落が始まりました。改めてニュースを見ると「もっと下がる」という記事が目につき、やっぱり買えません。いったいどうすれば良いのでしょうか。
(Bさん、35歳、会社員)

回答:その状況は「買いたい弱気」かも

未経験の投資を始めてみようということでわくわくしていたのに、いざ始めようとすると相場が気になって、なかなか踏み切れないというわけですね。特にお悩みの「買おうと思ったら上がってしまった」というのは良く聞く話です。

この現象は昔から伝わる相場の格言「買いたい弱気」として、行動ファイナンスで説明できます。

いわゆる「上げ相場」の中で、長期投資を目的にある株式を買いたいと思って株価を見ているとします。ある時点の株価が400円だったので、そのくらいでその日のうちに買おうと思いつつ株価をリアルタイムで見ていると、405円、410円と徐々に株価が上がって、日中に415円まで値上がりしたとします。その時、人はどう感じるでしょうか。

格言が示唆するのは「少しは下がって安いところで買えそうな気がする」と考えているうちに、ややエスカレートして「どうしても下がってほしい、いや下がるはずだ」という弱気の希望的観測が起こるというものです。

もともとは「上がると思っていたから買いたかった」はずが、株価を「見ているうちに下がることを期待する」、さらには「下がると確信してしまう」のが「買いたい弱気」です。そして実際に下がると、今度はなぜ買いたかったのかがわからなくなってしまうのですね。

この状況の原因は、長期投資の意識が緩んで短期的な見方になってしまったことと行動ファイナンスで言う「認知的不協和」(参考:基礎から学べる行動ファイナンス 第5回「すっぱいブドウのバイアス」)にあります。

「余裕資金で世界株式に長期投資したい」と決断した時点では、(周囲の人から影響を受けていたにせよ)長期的な統計データを踏まえていて、短期的な相場予測とは無関係だったはずです。にもかかわらず、下がるまで待っている自分の行動を正当化するため「下がるはずだ」と自身の考えの方を調整してしまうのです。

初心に戻って行動を

株価が長期的に上昇するという見方が変わっていなければ、初心に戻って行動してみましょう。スタートは早い方が合理的ですが、一度に全部投資することに心理的な負担が大きいなら余裕資金の一部から試してみることも良いでしょう。試すことの効果は金額の大小によらず大きいと考えられているからです。

それも難しいなら「積立投資」などの投資の自動化や、必要に応じて信頼できる第三者に合理的な行動を促してもらうのがよいでしょう。(参考:基礎から学べる行動ファイナンス 第9回 「自分の未来にも約束させる」

「買いたい弱気」は特殊な悩み?

さて、今回取り上げた様な「投資したいのに始められない」という状態になるのは特殊なことではありません。2022年7月の論文「投資教育と投資推進に関する研究の新展開」(大庭、証券アナリストジャーナル)で紹介したデータによれば、日本の個人は大きく「投資に興味がなく投資をしていない人」、「実際に投資をしている人」、「興味があるのに投資をしていない人」の3つのグループに分けられます。

内訳は「投資に興味がなく投資をしていない人」が全体の半分程度と最も多く、「実際に投資をしている人」と「興味があるのに投資をしていない人」がどちらも約4分の1でした。一般に考えられている以上に、多くの人が「興味があるのに投資をしていない人」に分類されるのがわかります。

「買いたい弱気」はその理由の一つですが、他の心理的な理由で買えないケースもあります。そうしたお悩みへの対処法についても、今後お答えしていきたいと考えています。

お悩みやご相談を募集します

本シリーズでは、読者の方から投資家心理に関するお悩みやご相談を募集しています。こちらのサイトからお送りください。

本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2024年5月現在の情報に基づいております。

大庭 昭彦

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

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