2025.05.13 NEW
米中90日間の関税引き下げでサプライズ合意 日経平均株価上振れシナリオに現実味 野村證券・池田雄之輔
トランプ政権は5月12日、中国政府との間で90日間の関税引き下げに合意したことを発表しました。この発表を受け、同日の米国株式市場ではNYダウが前週末比1,160.72ドル上昇し、42,410.10ドルで取引を終えました。外国為替市場では円相場が一時1ドル=148円台半ばまで円安・ドル高が進みました。日本株式市場も13日は寄り付きから主要指数が大幅上昇となり、日経平均株価はおよそ1ヶ月半ぶりに38,000円台を回復しました。今回の合意の意義や今後の日本株やドル円相場の見通しについて、野村證券市場戦略リサーチ部長の池田雄之輔が解説します。
米中サプライズ合意により株高、ドル高が加速
米中関税協議は、双方が関税率を115%引き下げるという、驚きの結果となりました。市場は株高、ドル高で反応しています。ヘッジファンドなど短期勢のポジションはドル、日本株ともに大幅ショート(売り持ち)になっていましたので、このポジション解消(=買い戻し)により、相場は上昇しやすくなっています。とくに短期勢の影響が表れやすい為替市場では、ドル円が一時的に150円を回復する可能性があるとみています。
今回、スイスのジュネーブで行われた米中関税協議を巡っては、米国の対中関税率についてトランプ大統領が「80%がいい」と言ったり、ラトニック商務長官が「34%に近付く可能性がある」と言ったり、その前にウォール・ストリート・ジャーナルは50~65%と報じていたりと、焦点が定まりにくい状況でした。それでも「50%程度に落ち着く?」という見方が多かったと思います。しかし今回の決定で相互関税は、90日間という条件付きではあるものの、10%という予想外に低い水準で合意しました。4月9日にトランプ大統領が中国以外に打ち出した「90日間停止」を中国にも適用したとみることもできます。なお、フェンタニル(合成麻薬)の取り締まり不備を理由とした20%の関税を含めると米国の対中関税率は30%です。
関税方針転換で日経平均上振れシナリオに現実味
今回のサプライズ合意は何を意味するのでしょうか。最大のポイントはトランプ政権が強硬路線から現実路線にかじを切ったということだと思います。4月2日発表のショッキングな相互関税は停止に追い込まれ、その後、FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長を解任できると豪語した発言も、トランプ大統領は撤回せざるを得ませんでした。株安、ドル安、債券安の「ドル資産トリプル安」が進行し、支持率も大きく下がったことが大統領の政策姿勢を現実路線に転換させたとみられます。関税政策のリード役も、強硬派のナバロ大統領上級顧問から穏健派のベッセント財務長官へと、明らかに変わりました。「いざとなればトランプ大統領は方針転換する」という「トランププット」は生きていたことがはっきりしたのです。
日本株の見通しは晴れてきました。野村證券は5月8日に年末の日経平均株価ターゲットを3つのシナリオごとに設定しましたが、そこではメイン:38,000円、上振れ:40,500円、下振れ:30,000円としました。今回の対中関税引き下げのサプライズにより、上振れシナリオに移行する道筋が見えてきたと言えます。
シナリオ | 株価指数 | 2025年6月 | 2025年12月 | 2026年6月 | 2026年12月 | 2027年6月 |
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メインシナリオ:25年度減益も日米景気後退は回避、相互関税10%(自動車等は25%)、26年度以降にEPS拡大 | TOPIX | 2,650 | 2,800 | 2,900 | 3,000 | 3,050 |
日経平均株価 | 36,500 | 38,000 | 39,250 | 40,500 | 41,000 | |
上振れ:関税の適用除外大幅拡大や大規模減税実施で3月以前の景気・業績見通しに近づく | TOPIX | 2,850 | 3,000 | 3,100 | 3,200 | 3,300 |
日経平均株価 | 39,000 | 40,500 | 41,500 | 42,250 | 43,750 | |
下振れ:米国景気後退局面入り、政策対応が後手に回る | TOPIX | 2,200 | 2,200 | 2,300 | 2,300 | 2,400 |
日経平均株価 | 30,000 | 30,000 | 31,500 | 31,500 | 33,000 | |
従来のメインシナリオ(4/4付け「日本株見通し」、4/18付「日本株投資戦略(2025年4月)」) | TOPIX | 2,500 | 2,700 | 2,800 | 2,900 | 3,000 |
日経平均株価 | 34,000 | 36,000 | 37,500 | 39,000 | 40,000 |
(出所)野村證券市場戦略リサーチ部作成
日銀の利上げシナリオ再構築、原油安は円高要因に
ドル円については、冒頭でみたようにショートカバーを巻き込みながら150円をトライする可能性がありそうです。ただし、中長期の緩やかな円高・ドル安トレンドは変わっていないと評価しています。日米金融政策については、米国は年後半からの利下げ開始が有力視されている一方、日本は米中対決が和らいだ分だけ、利上げシナリオを再構築しやすくなります。日米金利差は縮小方向でドル安・円高を促すというのが基本観です。
また、OPECプラスが増産姿勢を強めており、原油価格が年初の1バレル75~80ドルから同60~65ドルへと大きく切り下がってきました。原油安は、輸入業者のドル買い需要の低下に直結するため、ドル安・円高方向に作用します。ドル円は年末にかけて緩やかに140円前後に向かうと見込んでいます。
注目点は分野別関税と企業の設備投資意欲
トランプ政権の関税政策を見るうえでは、課税対象として国別よりも分野別に比重を傾けていることには注意が必要です。すでに発動されている自動車・鉄鋼・アルミへの25%の関税に加えて、半導体関連(電子製品、製造装置を含む)、医薬品、航空機向け部品といった輸出品目への関税が今後打ち出される可能性があります。相互関税も、グローバル一律の10%は撤回される見通しは立っていません。世界経済は、「異例の高関税」という状態が続きます。市場センチメントの回復持続性を占ううえでは、不安定な関税政策によって萎縮したグローバル企業の設備投資意欲がどこまで回復できるかがカギを握るとみています。

- 野村證券 市場戦略リサーチ部長
池田 雄之輔 - 1995年野村総合研究所入社、2008年に野村證券転籍。一貫してマクロ経済調査を担当し、為替、株式のチーフストラテジストを歴任、2024年より現職。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演中。
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