2025.07.24 NEW
関税合意後の日経平均株価上昇 持続性の見極めポイントは? 野村證券・小髙貴久
写真/タナカヨシトモ(人物)
日米両政府が関税交渉で合意したことを受け、7月23日の東京株式市場では日経平均株価が1,396円値上がりしました。24日も続伸となっています。特に23日のけん引役は自動車など輸出関連銘柄。こうした業種はトランプ米大統領が関税政策を発表してから大きく値下がりしており、株価の評価が改めて見直されているようです。野村證券シニア・ストラテジストの小髙貴久は「持続的な相場上昇には米景気の先行きを見極める必要がある」と語ります。詳しく解説します。
関税合意を受けて自動車株が大幅高
23日の日経平均株価は前日比1,396円高と、4月10日(2,894円高)以来、約3ヶ月ぶりの上昇幅となりました。日経平均株価の構成銘柄で見ると、大幅高のけん引役は18%高のマツダや17%高のSUBARU、14%高のトヨタ自動車など自動車メーカーがずらりと並びました。
騰落率順位 | 銘柄コード | 企業名 | 株価終値 2025年7月22日 |
株価終値 2025年7月23日 |
株価騰落率 7月22日-23日 |
株価終値 2024年12月30日 |
年初来騰落率 7月23日まで |
---|---|---|---|---|---|---|---|
円 | 円 | % | 円 | % | |||
1 | 7261 | マツダ | 844.1 | 994.1 | 17.77 | 1,083.5 | -8.25 |
2 | 7270 | SUBARU | 2,520.0 | 2,938.5 | 16.61 | 2,821.0 | 4.17 |
3 | 7203 | トヨタ自動車 | 2,496.5 | 2,854.5 | 14.34 | 3,146 | -9.27 |
4 | 7211 | 三菱自動車工業 | 389.2 | 439.9 | 13.03 | 532.6 | -17.41 |
5 | 6954 | ファナック | 3,818 | 4,270 | 11.84 | 4,175 | 2.28 |
6 | 7267 | 本田技研工業 | 1,484.5 | 1,650.0 | 11.15 | 1,535.0 | 7.49 |
7 | 6506 | 安川電機 | 2,917.0 | 3,239.0 | 11.04 | 4,067 | -20.36 |
8 | 6326 | クボタ | 1,601.5 | 1,757.0 | 9.71 | 1,839.0 | -4.46 |
9 | 6762 | TDK | 1,656.0 | 1,815.0 | 9.60 | 2,072.5 | -12.42 |
10 | 7272 | ヤマハ発動機 | 1,055.0 | 1,154.5 | 9.43 | 1,404.5 | -17.80 |
11 | 6273 | SMC | 50,260 | 54,890 | 9.21 | 62,180 | -11.72 |
12 | 6645 | オムロン | 3,664 | 3,982 | 8.68 | 5,353 | -25.61 |
13 | 6902 | デンソー | 1,940.0 | 2,107.5 | 8.63 | 2,214.5 | -4.83 |
14 | 7201 | 日産自動車 | 304.2 | 329.4 | 8.28 | 480.0 | -31.38 |
15 | 5332 | TOTO | 3,650 | 3,945 | 8.08 | 3,805.0 | 3.68 |
16 | 6479 | ミネベアミツミ | 2,207.0 | 2,382.5 | 7.95 | 2,569.5 | -7.28 |
17 | 4523 | エーザイ | 3,832 | 4,120 | 7.52 | 4,329 | -4.83 |
18 | 7951 | ヤマハ | 1,006.0 | 1,075.0 | 6.86 | 1,129.5 | -4.83 |
19 | 6988 | 日東電工 | 2,841.5 | 3,035.0 | 6.81 | 2,680.0 | 13.25 |
20 | 6103 | オークマ | 3,660 | 3,905 | 6.69 | 3,410 | 14.52 |
(注)母集団は日経平均株価構成銘柄。株価騰落率順位は2025年7月22日~23日の騰落率に基づく。上位20銘柄を掲載。年初来騰落率は、2024年12月30日~2025年7月23日の騰落率。
(出所)東京証券取引所などより野村證券投資情報部作成
背景にあるのは、もちろん日米間での関税交渉の合意でしょう。8月1日が期限とされ、トランプ大統領も日本の交渉姿勢に対して厳しい発言を繰り返していました。
強まる日本企業の比較優位性
とはいえ、予想外に早期に関税を含む通商合意に至ったことを好感した株高だけならば、日経平均株価は4万円を少し上回る程度が「関の山」だったでしょう。TOPIX(東証株価指数)が取引時間中に最高値を上回るなどここまで買いの勢いが強まったのは、何か市場のメッセージがあるのではないでしょうか。そのひとつとして、今回の合意を受けて日本企業の比較優位性が強まったことがあると考えています。
以下に、各国・各地域の米国向け輸出にかかる関税率の一覧を載せています。この表をみると、日本に課されている関税率の低さが目立ちます。米国との協定に合意した国の中では、ベトナムやインドネシアよりも低く、10%で合意した英国に次ぐ低水準です。こちらには、米国から見て輸入額が大きな代表的な国・地域を掲載していますが、現在の関税率の状況は、明らかに日本が米国に輸出する国としてとても有利な状況になっていることがみて取れます。
(注1)前回はカナダとメキシコについては、2025年3月4日に発動した関税率(USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)等は除外)、中国は5月12日の第1回対米通商合意である、10%のベースラインにフェンタニル流入防止を目的とする追加関税20%を加えたもの。その他の国は4月2日に発表された相互関税の税率。
(注2)今回は、2025年7月7日以降に発表された各国に対する関税率で、中国に対しては5月12日の通商合意で8月12日へと発動が延期された追加の24%分を加えたもの。台湾、インド、スイスについては、前回発表時から新たな関税率は発表されておらず、前回のままとしている。
(注3)備考は2025年7月23日時点の状況で、中国は5月12日の通商合意における追加の上乗せ関税の発動期限。その他の国・地域は8月1日が発動日。カンボジアは7月4日に米国と共同声明案で合意したと発表したが、具体的な内容は発表されていない。
(注4)ロシアに対しては、直接的な関税は課さず、ロシアから原油・天然ガスを輸入する国に対して関税を掛ける2次関税が表明された。
(出所)ホワイトハウス、米商務省、各種報道資料等より野村證券投資情報部作成
加えて、自動車株がビックリするほど上昇した理由ですが、自動車はほかの品目よりも高い関税率が課される「品目別関税」が適用され、米国向け輸出は25%の関税が設定されていました。今回の関税交渉においても、交渉の対象は国・地域に一律に掛ける相互関税が対象で、自動車などの個別品目は議論の対象にならないのではないかとの見方もありました。それが、今回の合意で15%まで引き下げられたのはサプライズでした。
米国市場で競合する自動車メーカーが多い欧州連合(EU)、韓国といった国・地域よりも現時点で低く、日本の自動車メーカーが価格競争や収益性などの面において優位に立ちやすいと言えるでしょう。そのため、これほどまでに自動車関連銘柄の株価が上昇したのだと思います。
中には一方的に高関税を課され報復関税を示唆するなど、対決姿勢を示す国・地域もみられました。しかし、日本政府はそうした態度を示さずどちらにもメリットがある形に着地するよう、粘り強く交渉を続けてきました。今回の関税交渉を経て、トランプ大統領の日本に対する心証もよくなっているでしょう。日米関係が改善するとの期待も、23日の株高の支援材料になったとみられます。
株高持続のカギは?
ただし、株高の持続性に関しては、予断を許しません。前日比で大幅高になった銘柄の多くは、トランプ関税が市場を揺るがした4月以降、業績の先行き不透明感から大きく売られていました。冒頭の株価騰落率を見ても、多くの自動車メーカーの株価は、2024年末と比べてマイナスです。電機・精密業もトランプ関税を受けて大きく値下がりしており、十分に取り戻したとは言えません。
そのため、株高の持続性を見極めるうえでは、3月期決算企業の4~6月期決算発表が相次ぐこの時期に、経営者が足元や今後の販売動向をどう見通しているのか、がとても重要です。関税交渉の決着により、輸出企業にとって悩みのタネだった米国事業を巡る先行き不透明感がだいぶ薄れ、米国での販売動向をこれまでよりも見通しやすくなっているためです。
いまはまだ、各社とも関税発動前の駆け込み輸出で積み上がった「関税のかかっていない」在庫で対応している段階でしょう。その在庫がなくなりいよいよ値上げとなった時にこれまでの販売数量や売り上げを維持できるのかどうかが、企業業績や株価の方向性を見極めるうえでのポイントになります。もちろん、米国の堅調な消費の継続が大前提としてあります。17日発表の6月の米小売売上高は前月比0.6%増と、市場予想を上回りました。この勢いが持続するようであれば、株式相場も堅調さを保つかもしれません。

- 野村證券投資情報部 シニア・ストラテジスト
小髙 貴久 - 1999年野村総合研究所入社、2004年に野村證券転籍。日本の経済・財政・金融動向、内外資本フローなどの経済・為替に関する調査を経て、2009年より投資情報部で各国経済や為替、金利などをオール・ラウンドに調査。現在は日本株に軸足を置いた分析を行う。2013年よりNomura21Global編集長を務める。
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