2025.09.17 NEW

自民党総裁選で円相場はどう動く? 野村證券 チーフ為替ストラテジストが分析

自民党総裁選で円相場はどう動く? 野村證券 チーフ為替ストラテジストが分析のイメージ

写真/タナカヨシトモ(人物)

9月7日、石破茂首相が辞任を表明し、10月4日に自民党総裁選の議員投票・開票が行われる見込みです。ドル円相場は10月初旬にどのような展開がありうるか、野村證券チーフ為替ストラテジスト・後藤祐二朗が解説します。なお、野村證券では選挙結果そのものについての予想は一切行っていません。

野村證券チーフ為替ストラテジスト・後藤祐二朗のイメージ

10月初旬に向けて日本政局が重要に

ドル円相場は147円前後での膠着状態が続いています。目先の焦点は9月17日(日本時間18日)のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げ再開とそれに対する米債利回りや株価、ドル相場の反応ですが、10月初旬に向けては日本政局も注目材料となるでしょう。日本政局に絡み、日本と米国の通貨政策や日本の対米投資、日本銀行の政策姿勢に変化が生じるかも重要となります。

目先の日本政局の焦点は9月22日告示、10月4日投開票が予定される自民党総裁選です。現段階では、小泉進次郎農相、高市早苗前経済安保相、林芳正官房長官、小林鷹之元経済安全保障相、茂木敏充前幹事長の5氏を中心とした選挙戦が有力と報じられています。

小泉氏と高市氏勝利の場合の市場への影響

そのなかで、各種世論調査などで優位と見られている小泉氏と高市氏勝利の場合、どのように市場への影響があるかを考察します。

小泉氏が勝利した場合には円高方向の反応を想定する投資家が特に海外勢の間で多く見られます。国内勢に限れば、その他の自民党議員が首相になった際に円高方向の値動きを想定する向きも多いものの、仮に小泉氏の優位が続けば、円相場への一定の支えとなることが予想されます。

一方、高市氏勝利時には株高に加え、金利上昇を見込む向きが多く見られます。高市氏勝利の場合、いわゆるリフレ的な経済政策運営を期待する向きが多いと言えそうです。為替市場では円安材料視される可能性が高いでしょう。

日米財務相は共同声明で政局変化に伴う通貨安誘導を牽制か

日本の政局不透明感が根強い中、日米財務相は9月12日に共同声明を発表しました。「マクロ経済及び為替」に関する合意を公表し、「為替レートは市場において決定されるべきこと」や「過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ること」などを再確認しました。介入については「過度の変動や無秩序な動きに対処するためのものに留保されるべき」とされましたが、特に「競争上の目的のために為替レートを目標とはしない」との表現が三回にわたり用いられており、通貨安誘導への警戒が滲みます。

この段階での共同声明の公表は、日米の関税交渉合意に則したタイミングとも言えますが、自民党総裁選やその後の連立交渉などの過程で、円安誘導的な議論が出ることを牽制している面もありそうです。共同声明では「年金基金等その他の政府の投資主体による海外への投資」についても「競争上の目的のために為替レートを目標とはしない」ことに言及されていますが、一部で議論されるソブリン・ウェルス・ファンドなどが円安誘導的に働く可能性を懸念している可能性があるでしょう。

2013年2月には、当時の日銀総裁人事に絡んで日銀による外債ファンド設立といった議論も出る中、G7財務相・中銀総裁が緊急共同声明を発表、各国の財政・金融政策は「国内目的の達成に向けられており、為替レートを目標にはしないことを再確認する」と明記しました。今局面においても、日本の政治変化により円安誘導につながるような議論が台頭した場合、米国側からの圧力が強まる可能性がありそうです。

対米投資コミットメントによる円安インパクトは限定的か

関税合意については、日本側がコミットした5500億ドルの対米投資の影響も引き続き注目されます。日米が交わした覚書によれば、米商務長官を議長とする投資委員会が推薦した中からトランプ大統領が投資先を選定、投資は2029年1月19日まで随時行われるとされています。投資対象は半導体や医薬品、金属など経済・国家安全保障上の利益を促進する分野に焦点が当てられるようです。

5500億ドルと総額は大きいのですが、日本側の見解によれば、JBIC(国際協力銀行)による出資及び融資やNEXI(日本貿易保険)による融資保証を活用するとされています。JBICの資金調達は外国為替特別会計からの借り入れや外貨建債券発行に依存、為替インパクトは生じない仕組みと考えられます。日本企業による対米投資の呼び水となる可能性はありますが、足下では日本企業による外貨建ての債券発行が急増、為替中立的な投資比率が高まっている可能性が高いです。

日本企業の外貨建て債券発行と日5年債利回り

日本企業の外貨建て債券発行と日5年債利回りのイメージ

(出所)ブルームバーグ、野村證券市場戦略リサーチ部作成

対米投資スキームについては不確実性も残されており、実際の投資動向を見極めていく必要は残りますが、米国側も円安ドル高は望んでいないと見られる中、現時点では円安インパクトは限定的との判断が妥当でしょう。

日銀会合は無風も、為替議論には注目

今週は9月の日本銀行金融政策決定会合(18-19日)も予定されていますが、政策金利は据え置きが確実視され、植田和男日銀総裁は記者会見で次回短観などを見極める姿勢を強調すると見られます。10月会合での利上げの可能性は完全には排除されないでしょうが、一方で利上げに向けた強いコミットメントもなさそうです。目先の市場の焦点が2026年1月会合までのどこで利上げが決定されるかとなる中、市場のターミナルレート期待を大きく変化させるような発言は見られにくく、ドル円の反応も限られそうです。

FOMC後に円安ドル高が加速しているような場合、植田総裁の為替に絡んだ発言に注目が集まる可能性はあるでしょう。7月会合後の記者会見では、植田総裁が為替の影響について「物価の見通しに、直ちに大きな影響があるというふうには今のところみておりません」と発言し、円安圧力が強まる局面が見られました。

もっとも、植田総裁は9月3日には首相官邸で石破首相と会談、「為替の話も出た」「政府と連携しつつ市場をモニターしたい」と言及しており、当局の円安警戒は高まっていると見られます。円安を加速させるようなコミュニケーションを回避する慎重な受け答えとなりやすいでしょう。

本邦政治に絡んだ円安は一時的に留まると予想

これらをまとめると、10月初旬に向けては本邦政局がドル円にとって重要材料となりそうですが、円安誘導的な政策は取りにくい環境であり、物価高対策が必要となる中ではリフレ的な政策は取りにくくなっていると考えられます。本邦政治に絡んだ思惑で一時的な円安ドル高の可能性は否定できませんが、年末に向けたドル円相場は緩やかに145円割れを試す公算が大きいと考えています。

野村證券 市場戦略リサーチ部 チーフ為替ストラテジスト
後藤 祐二朗
為替相場のリサーチ・ストラテジーを担当。8年半に渡るニューヨーク・ロンドン駐在時には海外ヘッジファンド向けを中心としたドル円ストラテジー、日米欧の資本フロー分析、日本及び欧州の金融政策及びマクロ分析を担う。2002年に野村総合研究所に入社、2004年に野村證券への転籍を経て、2011年以降は海外拠点にて外国人投資家向けの情報提供を中心に活動。2019年8月より現職。

※本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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