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2022.02.10 NEW

「やめる」判断が早いほど、成長に繋がる理由

「やめる」判断が早いほど、成長に繋がる理由のイメージ

「せっかくいい大学に入ったのだから」「ここまで同じ会社で頑張ってきたのだから」といった理由で自分を諭し、本当はやりたくないのにだらだらと続けていることはないだろうか。

元日本マイクロソフト業務執行役員の澤円(さわ まどか)氏は『「やめる」という選択』(日経BP)で、そうした思考は無意識のうちに負荷になり、人生にあらゆる停滞を生み出す「埋没(サンク)コスト」だと断言している。人生の「埋没コスト」を手放すために何をすればよいのか、手放すことによって得られるメリットは何か。

誰もが陥る「せっかく……」の罠

埋没コストとは経済学の概念で、「ある経済行為(投資、生産、消費など)に支出した固定費のうち、どんな意思決定(中止、撤退、白紙化など)をしても回収できない費用」のこと。そして費やした資金、労力、時間が惜しいために、経済行為を続けてしまい、損失が大きくなる可能性があるもののことである。

この埋没コストを、澤氏は「『せっかく〇〇したのだから』という言葉で表せる思考や行動パターン」と言い換えている。基本的には過去の話であり、それが成功体験であれ失敗体験であれ、固執すると途端に自分の視野を強く限定されてしまう。

常に自分をアップデートしていく意識がなければ、自分が誇りとしてきた過去の価値観に、いまの自分が簡単に固定されてしまいます。
そうして少しずつ成長が止まり、人生を豊かにするための大切な時間の使い方ができない状態になっていくのです。あげくは、「いいか? 俺が若い頃はな……」と、部下や後輩たちに言い出しかねません。(P.38)

いまこそ埋没コストを手放したい理由

パンデミックを経たいま、「誰もが成功体験や失敗体験をまだ持たない状態」へと完全にリセットされたと澤氏は言う。

そんな時代では、「自分がこれからやることはなにもかもが新しい」というポジティブなマインドを持ち、いままで以上に「やめることをすぐ決められる人」が、仕事ができる人の条件になる。新型コロナウイルス感染症が拡大しはじめたとき、いち早くいままでのやり方をやめることを決断し、オンライン化などに対応した会社はスムーズにシフトチェンジし、生き残ることができている。

同じことだけを続ければ、いつまでも人生に変化がないどころか、埋没コストを持ち続けていた場合、状況が悪化する可能性がある。これまでの自分の固定観念や習慣に埋もれる前に、思考や行動をいますぐ変えていく必要があるのだ。そしてすぐにその判断をできる人ほど、手放した時間やエネルギーを有効活用し、新しい場所でもフルコミットしやすくなる。

反対にいえば、自分に変化を起こしたいときの最も簡単な方法も、まず何かをやめることだ。やめると必然的に何らかの変化が起こる。少なくとも「自分で変えた」というポジティブな実感が残り、その実感がこれまで抱えてきた埋没コストを減らしていく動機になる。

身の回りのあらゆる場面に潜む埋没コスト

埋没コストは仕事だけでなく、身の回りのあらゆる場面に潜んでいる。数年着ていないコートや本棚に並べているだけの本など「ずっと使わずに置いてあるモノ」や、会社や肩書がなければ付き合わない人間関係などがその例だ。

また、気づきにくいのが自分自身のなかにある「マインド面の埋没コスト」である。たとえば、自分の得たスキルの基盤になっている経験に対しては、そのやり方に固執してしまいがちだ。

書籍で「日常に潜む埋没コスト」と紹介されているものには、以下の4項目がある(図1)。

図1:身の回りの埋没コスト

図1:身の回りの埋没コスト

埋没コストを手放すには?

では、どうしたら「埋没コスト」を手放せるのだろうか? 具体的な方法を抜粋・要約して見ていこう。

(1)コスト化した「仕事」を手放す方法

仕事を「貢献」として捉え、貢献できていない仕事はやめる決断をすることが大切だ。いま会社に何が足りなくて、それに対して自分はどう貢献できるのかを考えれば、やめることが決まる。

そのための方法の一つとして、「『優先順位』はあらかじめ決めておく」と説かれている。澤氏はマイクロソフト時代、顧客との面談を常に優先することをチーム全員の理解を得ていたという。そうすることで、顧客のアポイントメントと社内の会議が重なったときは、社内の会議のほうをやめることを躊躇なく決めることができる。優先順位をあらかじめ決めておくと判断のスピードが上がり、仕事の効率性や生産性が高まっていく。

また、「『やらなくてもいいこと』を一切しない」という方法もある。たとえば、誰が読んでいるかもわからないレポートを作り続けるのをやめるために、自動化する仕組みを考えることも手だ。ルーティンの会議、目的不明な日報、丁寧すぎる資料作成、長文メールなどといった無駄なことをやめることは、新しい価値を生み出す手段を提案することと同義である。

(2)コスト化した「人間関係」を手放す方法

ポイントは「その人間関係に、いまも自分の時間をかける価値があるのか?」と疑ってみること。かつて一緒に過ごした時間には確かに価値があり、その上で「心地よい関係性は変わりゆく」ことを前提に考えたい。

対応策として「人間関係はリソースではなくリレーション」と捉えることなどが紹介されている。仕事をしていると、「自分の課題はまず自分で解決する」という社会人の基本を忘れている人に出会い、消耗されてしまうこともある。人間関係はリレーション(関係)であり、リソース(資源)ではないと念頭に置き、自身の貴重なコストや時間を守りたい。

(3)コスト化した「モノ・お金・時間」を手放す方法

自分が「豊かな時間」を得られるかどうかを判断基準に、「モノ・お金・時間」を選ぶことが肝だ。これらをセットで考えるのは、役立つモノや憧れるモノを買うことは豊かな時間を買うことと同義だからである。それに当てはまらない使い方をしている場合は、手放す方向で考えた方が良いだろう。

その判断力をつけるために、日常の時間の質を高めて「『幸福の解像度』を上げる」という方法もある。たとえば、澤氏は外食の際、食事をつくった人に「おいしい」と伝えるようにしている。これは自身がいい気分でその時間を過ごすための方法であり、相手にお礼を言うことで、面白い話に発展するきっかけになることもあるという。

(4)コスト化した「夢・目標」を手放す方法

意識的にビジョンを固めすぎると、「これだけ続けたのだから」と自分の首を絞めてしまうことがある。夢や目標が叶わなくても、これまで全力を傾けてきたことを、形を変えて活用する意識に変えていきたい。

それに対処する一つの方法として、「才能はマッチングにすぎない」と捉えたい。同じ才能を持っていても、生まれ育った環境や本人がその才能に自覚的かどうかで活かし方に大きな差が生じるはずだ。そう考えれば、“周囲から褒められる才能”に合った生き方を選ばなかったとしても、「自分がやりたいことでなければ」、後悔することはないだろう。

OSのように自分の人生をアップデートしよう

澤氏は「スキルというのは必ずコモディティ化する、代替できるもの」だという。1つのスキルに固執せず、複数のスキルを自分流に掛け合わせていくことが、自分自身の希少価値を高める。自身をアップデートするための時間やエネルギーを捻出するためにも、取捨選択して「やめる」ことを見極めたい

そこで、不安に襲われたときは、自分が「コントロールできて、かつ重要な部分」に集中することがなにより大切だ。「他人から自分がどう思われるか」「未来の景気がどうなるのか」などを考えることも時に重要だが、自分ではどうしようもできないことにリソースを割くコストは、それがそのまま無駄になる可能性も高い。

自分が楽しむ気持ちに耳を傾けるという意味で「自己中」なセンスを持ち、自分自身を根本的に変えていく姿勢が、変化し続ける時代で豊かな人生を送ることに繋がる。これまで以上に「当たり前」を疑い、人生のポジティブな変化を妨げる埋没コストを手放して、自分らしいキャリアや人生を築いていこう。

「やめる」という選択

■書籍情報

書籍名:「やめる」という選択

著者 :澤 円(さわ まどか)
元日本マイクロソフト業務執行役員。株式会社圓窓代表取締役。
立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。
2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。
著書に『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)、『個人力 やりたいことにわがままになるニューノーマルの働き方』(プレジデント社)、『「疑う」からはじめる。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム)、伊藤羊一氏との共著に『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)。監修に『Study Hack! 最速で「本当に使えるビジネススキル」を手に入れる』(KADOKAWA)などがある。

出版社:日経BP

本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。

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