2024.09.02 NEW
坂東眞理子さんが提唱する3つの“無形資産” 「資産をうまく使えば老後は豊かになる」
文/竹下順子 撮影/藤井洋平
70代後半にして、昭和女子大学総長として大学教育の最前線で活躍される坂東眞理子さん。内閣府の男女共同参画局初代局長を務め、『女性の品格』(PHP新書)や『70歳のたしなみ』(小学館)など、人生100年時代の生き方について数々のベストセラーを世に出してきました。50代で国家公務員から大学教員に転じ、今も精力的に活動される坂東さんに、人生後半を豊かに生きる心構えを聞きました。坂東さんが大切にしている「無形資産」とはどんなものなのでしょうか。
大切にしたい3つの「無形資産」
- 人生後半を豊かに過ごすためには、「無形資産」を増やすことだと著書にありましたが、無形資産とは具体的にどんなものでしょうか
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私が考える無形資産は3つあります。1つ目は「見た目資産」です。見た目、といっても美容整形に行けとは言いません(笑)。まずは姿勢を良くする、それから足早に歩く、そして「貯筋」、つまり筋肉を鍛えることです。私も毎週、ボディパンプという専用バーベルを使ったレッスンに通っていますし、家から大学までの約30分を歩いて通勤しています。元気に見える「見た目」が大切です。
おしゃれをする気持ちも大事にしています。以前に著書『女性の品格』の中で、大人は定番で質の高い服を長く着るのがいいと書きましたが、5年10年はよくても、さすがに20年も着ると定番の服もくたびれてきます。年に1回は新しいお洋服を買うことをお勧めしています。男女問わず、「もう年だから」と地味に目立たないように心がけるのではなく、新しい服を買ったり、髪を染めたり、自分の身なりの手入れをすると気持ちも明るく前向きになります。
チャレンジする「変身資産」と「活力資産」
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2つ目は「変身資産」。 新しいことにチャレンジする力です。時代の流れとともに必要なスキルは変わっていくし、新しい知識も必要になります。スマートフォンも嫌がらず、指1本での入力でもいいから使いこなさないとダメ。私も公務員時代は部下が資料や文書を作ってくれましたが、大学職員になったときにパソコンの使い方をコツコツと習いました。大学教員は何でも自分でやらなくてはいけませんから。慣れないパソコンを習得するためにレッスンを受け、分からないことは周りに聞いて教えてもらいました。
3つ目は「活力資産」です。見た目を整えて体力をちゃんと保つと同時に、心と体にエネルギーが満ちてポジティブな考え方でいること。「どうせ私なんて」とネガティブな思考が癖になると危ないと思います。周りはみんな幸せに、うまくやってるように見えますが、70代で元気そうに見える人は、実は疲れて家でひっくり返ってるかもしれません。それでも、人前で元気そうに振る舞うことで活力が湧いてきます。
自分に与えられた場所や役割を大切に
- やる気が低下して、活力が出ないときはどうすればいいでしょうか
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やる気がでない原因は、容貌や体力の衰えではなく、社会が自分を必要としてくれないと感じることなんです。「年の割にはお元気ですね」「もう年なんだから無理することないですよ」と言われると、がっくりしますよね。年齢に対する社会の認識と、当事者の間ですごくギャップがあると思います。
私の場合、個人の自覚症状としては体力や能力が衰えたとはあまり感じません。忘れ物はありますが、うっかりは昔からですから(笑)。「お年の割にお元気ですね」と言われたら、「まだいろんなことがやりたいんですよ」と笑って答えるようにしています。
- 元気で活動を続けられている秘訣はなんですか
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私がよく言っているのが、「キョウイク」と「キョウヨウ」。今日も行くところがある、今日も用事があることです。どんな場であっても、自分に与えられた場所や役割を大切にすること。町内の役員、小さな会社の相談役、地域のボランティアでも、役割は積極的に引き受けた方がいいですね。
引き受けた役割をばかにしないことも大切です。やるのなら一生懸命やって、そのポストを輝かせるぞと思ったほうがいいんですよ。遠慮して「余計なことをしない」と思ってしまったら本当につまらない。どんな場でも、ちょっとでも「いい仕事」をしようと思えば、やれることはたくさんあります。
子どもや孫だけではなく、若い世代のためできることも探せばいろいろあります。私は大学以外にもう一つ、公益財団法人東京都教育支援機構(TEPRO)の理事長をしています。そこでは、東京都内の学校活動をサポートするボランティアを常に募集してます。部活動や学習支援だけではなく、学校の事務をサポートするボランティアもあります。人を助けることが自分の活力にもなるし、学びにもなる。そして感謝されることもあると思います。
お金をうまく使って老後を豊かに
- お金の使い方や貯め方といった「有形資産」についてはどう考えていますか
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老後のためにお金を貯めておこうという方が多いですが、貯めるだけでなくお金をどううまく使うかを考えることが大切だと思います。資産を多く持つことよりも、持っている資産をどう使うかで老後の豊かさは違ってきます。
例えば、困ってる人を助けるためにお金を使うのもいいですよね。もちろん、そういう立派なことだけではなく、楽しい思い出を作る、新しい経験をするといった行動に投資すると、老後を生きる拠りどころとなります。お金を使うことで無形資産が増えていくわけです。
私は年に3回ぐらい海外に行きますが、3回のうち1回は行ったことのない国へ行くと決めています。初めて行く国は、どんなに事前の情報を持っていても、必ず「へえっ」と思うことがあります。最近ではイランのテヘランに初めて行きました。もちろん建物や名所にも感動しましたが、スーパーマーケットで「リヤル(現地通貨)安」を目の当たりにし、この国のハイパーインフレを実感しました。お肉や野菜が信じられない値段で売られているんです。ニュースや情報で知っていることも、実際に体験をすると新たな発見があり、自分の活力になります。
人から感謝されるお金の使い方
- 自分の子どもや孫のためにお金を使いたいという人も多いと思います
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子どもの教育や住まいなど人生のインフラを整えるための援助はある程度は必要ですが、子どもたちが贅沢な生活を楽しむためにお金を使うのはやり過ぎないほうがよいと思っています。それは自分たちの収入の範囲でやればいいこと。たとえ親がブランド物を買ってあげても、それが当たり前だと思われて感謝もされなくなります。子どもや孫ではなく、頑張っている周囲の人、お世話になっている人にプレゼントなどをしたほうが喜ばれるでしょう。
心理学理論の一つである「マズローの法則」(マズローの欲求階層説)では、人間の欲求の最終段階は「自己実現」だと言われてきましたが、最近では、その上に人から感謝されたいという「奉仕の欲求」があると指摘されています。つまり、人から感謝されるようなお金の使い方は、結果として自分の欲求を満たすことにつながるのです。人にプレゼントをして喜ばれると自分もうれしくなりますよね。義理で贈るお中元やお歳暮のようなものより、個人的な気持ちとしてプレゼントするのがいいと思います。
何歳になっても、今日が一番若い日
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私が、自分でも一番いいお金の使い方をしたと思うのは、昭和女子大学女性文化研究賞(坂東眞理子基金)の創設です。著作がベストセラーになって得たお金で、昭和女子大学内に基金を作り、男女共同参画社会の推進や女性文化研究の発展に寄与した書籍に毎年、昭和女子大学女性文化研究賞を差し上げています。今年で16回目になります。
実は、ベストセラーになった『女性の品格』は私の33冊目の著作なのです。それまでは本を書いても全然売れなかったんです。だから、「ベストセラーを出す秘訣は」と聞かれると、「32冊まで諦めないことです」と答えているの。それくらい売れる本を書くのは大変なので、よい本を書く人たちを応援する基金を作りました。それが私の無形資産になっています。
- 最後に、同世代の方々へのメッセージを
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5年後に「あのときやっておけばよかった」と思うことがいっぱいあると思います。だから、できること、やりたいことは今やったほうがいい。「私はもう年だから、今さら」なんて思っている人は、10年前も同じように「もう年だから」と言っていたのではないでしょうか。
何歳になっても今日が一番若い日です。自分のため、人のためにお金を使って、無形資産を増やし、豊かな老後にしていきましょう。
- 坂東 眞理子(ばんどう まりこ)
昭和女子大学総長 - 1946年、富山県生まれ。東京大学卒業後、1969年に総理府(現内閣府)に入省。内閣広報室参事官、男女共同参画室長、埼玉県副知事、在オーストラリア連邦ブリスベン日本国総領事などを歴任。2001年、内閣府初代男女共同参画局長を務め、03年に退官。2004年から昭和女子大学教授、2007年から同大学学長、2014年から理事長、2016年から総長を務める。著書に320万を超える大ベストセラーになった『女性の品格』ほか多数。