2024.12.06 update

2024.10.17 NEW

株価の二番底は買いのシグナルなのか? 見極めを野村證券ストラテジストが解説

株価の二番底は買いのシグナルなのか? 見極めを野村證券ストラテジストが解説のイメージ

文/斎藤 健二(金融・Fintechジャーナリスト)

株価が大きく下落して反発したときに「次に下がったら買おう」と思っている投資家もいるのではないでしょうか。その後株価が再度下落し二番底と呼ばれる状態になると、今度は「もっと下がるのではないか」など、躊躇する経験をお持ちの方もいるかもしれません。二番底と思われる状態になったとき、どのように買いのシグナルを見極めるといいのでしょうか。

二番底と呼ばれる株価の動きに対する疑問に、チャート分析の観点から野村證券投資情報部 ストラテジストの岩本竜太郎が答えます。

相場が上昇トレンドに転換した可能性を意味する二番底

投資家の立場からは、株価が一度下がってから反発すると、「買いそびれた、今度下がったら買おう」と思うのですが、なかなか思うとおりにはいきません。二番底とはどのような現象なのでしょうか?

二番底は、チャート分析で「ダブルボトム」と呼ばれる株価の動きのパターンの一つです。株価が下落し、大きな底(一番底)があって、その後株価が反発し、再び下落することで形成されます。安値が同じような水準まで下落し形成されるケースが多くみられますが、高めや若干低めの水準でもダブルボトムといいます。

二番底(ダブルボトム)のイメージ

(出所)野村證券投資情報部作成

このパターンは、相場が上昇トレンドに転換する可能性を示すものです。ただし、これはチャート分析の一つの見方に過ぎません。他の指標と合わせて総合的に判断することが大切です。

チャート上では、二つの底の間につけた一番高い山から平行に引いた線を「ネックライン」と呼びます。株価がこのネックラインを上回ると、ダブルボトムが完成したと判断します。

ダブルボトムが完成すると、それは上昇相場に入る可能性が高まったことを示します。多くの投資家がこのパターンに注目することもあり、株価が上がりやすくなる傾向があります。

二番底は投資家のパニックが形成する

二番底はなぜ形成されるのでしょうか。

二番底が形成される背景には、市場参加者の心理と需給の変化があります。最初の底では、多くの場合、パニック的な売りで形成されます。恐怖心から売りが売りを呼ぶ状態です。信用取引で買っていた人が損切りを余儀なくされることも売りを加速させます。相場が行き過ぎて下がりすぎる傾向にあります。

一方で、ある程度下落が進むと、冷静に見ている投資家は「もう下がりすぎた」と判断して、買いを入れ始めます。これが相場の反発につながります。一回下げ止まったら、「落ちるナイフに手を出せない」と考える投資家でも買いやすくなります。大きな下げの後は大きな上げ幅になりやすいのは、こういうことです。

その後、なぜ再び下落するのでしょうか。

一度反発した後、今度は「戻り待ちの売り」が出てきます。例えば、大きく下がっていったときに売れなかった人が、「ああ怖かった、次にある程度上がったらいったん売っておこう」と考えるわけです。この場合の「ある程度」とは、例えば「下落幅の半値戻しくらい戻ってきたら」や「自分の取得コストまで戻ってきたら」など様々な考えがあるでしょう。その結果、下がり始める前の上値を超えずに、株価が下がる現象が多くみられると思います。

またこの段階では、まだ相場の先行きに不安を感じている投資家も多いので、悪いニュースが出るとすぐに反応して売りに走りやすい状況というのもあり、再び下落する流れになりやすいのです。ただし、一番底のときほどパニック的ではないのでそれ以上下がるのではなく、一番底と同じような水準で止まることが多くなります。「一番底と同じ水準まで下がったからもう下がらないだろう」という、前の株価を覚えているアンカリング効果という心理も働きます。

二番底が形成された後はどうなりますか。

二番底を形成した後は、徐々に上昇に向かうケースが多いです。なぜかというと、二度にわたって同じような水準で下げ止まったことで、そこが強い下支えになると多くの投資家が認識するからです。

また、大きな下落を二度経験し、その間に月日が経過したことで、市場全体の過度な悲観も和らいでいきます。さらに、相場のボラティリティ(価格変動の大きさ)が落ち着いてくると、機関投資家なども徐々に買いに動きやすくなります。こういった要因が重なって、上昇トレンドに入りやすくなるという傾向があります。

二番底は買いのシグナルとなるか

二番底を買いのシグナルとして見極めるポイントはどのようなものでしょうか。

二番底が完成した後、これを買いのシグナルとして見ていいのかどうかを見極める上で重要なのは、ほかのテクニカル指標のトレンド転換サインを確認するということです。例えば、移動平均線との関係です。移動平均線とは、一定期間の株価終値の平均値を結んだものです。日足チャートを例にとると、特に25日移動平均線は注目されます。これは約1ヶ月間の平均株価を表していて、平均取得価格だと考えることができます。つまり株価がこれを上回れば、平均的に含み益の状態になっているということです。

株価と移動平均線

(出所)野村證券投資情報部作成

例えば、株価が25日移動平均線を上回ると、短期的な上昇トレンドに入った可能性が高まります。逆に、この線を下回ると調整局面に入ったと判断されることが多いです。二番底形成後、株価がこの線を上回るかどうかが、上昇トレンドへの転換を確認する一つの目安となります。

ダブルボトムが形成されるのは、あくまで結果論であり、ダブルボトムに見えても違う株価の動きもよくあります。代表例に「一文新値」と呼ばれるものがあります。これは、ダブルボトムが完成したように見えて、ネックラインを若干だけ高値更新した後に、再び下落していくパターンです。

このパターンで購入すると、「上昇するサインだと思ったのに違った」と思ってしまうでしょう。避けるためにはいくつかの方法があります。一つは、ネックラインを超えるときのローソク足に注目することです。ちょっとだけ抜けているのか、取引時間中に株価が大幅上昇して形成される大陽線で抜けているのかを見ます。大陽線とは、取引開始時の値段である始値から終値にかけて大きく上昇して形成されるローソク足のことです。大陽線で抜けていれば、それだけ上昇の勢いがあると判断できます。

また、ネックラインを超えた後、何日か待つという方法もあります。2日間とか3日間、その後の動きを見守ります。ただし、待てば待つほど、上昇相場に乗り遅れるリスクもあるので、そこはトレードオフになるでしょう。

さらに、他の要素と合わせて見ることも重要です。例えば、移動平均線も同時に超えたか、他のテクニカル指標でもシグナルが出ているか、それまでの下げは十分だったかなどを確認します。

リーマンショックやブレグジットの時のチャート

過去の相場で、二番底が形成された代表的な事例はありますか。

代表的な例としては、リーマンショック時の相場が挙げられます。2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻後、株価は大きく下落しました。その後、10月に一度底をつけ、いったん反発しましたが、2009年3月に再び底値圏まで下落しました。

この時のチャートを週足で見ると、とても美しいダブルボトムの形が確認できます。一番底と二番底がほぼ同じ水準で形成され、その後大きく上昇していきました。これは長期的なスパンでのダブルボトムの一例です。

リーマンショック時の日経平均株価 週足チャート(2008年~2010年末)

(注)天底の数字は終値ベース。
(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成

より最近の例では、2016年のブレグジット(英国のEU離脱)の際の相場動向も興味深いです。この時は、2月に一度底をつけた後、6月の国民投票の結果を受けて再び下落し、ほぼ同じ水準で二番底を形成しました。

ブレグジットの際は日本株に特徴的な動きがありました。為替が急激な円高に振れたことで、日本株は他の市場以上に大きく下落し、同じ値段で二番底をつけました。これも週足チャートで見ると、ダブルボトムのパターンが確認できます。

ブレグジット時の日経平均株価 週足チャート(2015年~2018年2月末)

(注)天底の数字は終値ベース。
(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成

現在の相場への応用

現在の相場動向も、過去の二番底に関連付けて語ることはできますか。

現在の相場を見る上で、8月5日にかけての下落は需給上の要因が大きいと考えています。為替市場における急激な動きが、日本株式市場にも大きな影響を与えています。このような状況下では、過去の事例の中でも今回と同様に需給上の要因が大きかったブラックマンデーと対比して見るのがいいのではないでしょうか。

ブラックマンデー時は、底入れから約1ヶ月半(36営業日)で二番底をつけました。今回の場合、8月5日の安値から36営業日後は9月27日頃になります。ブラックマンデーを参考とすれば、今の株価もこの先本格上昇に向けた動きに転換する可能性があります。

日経平均株価指数化チャート ブラックマンデー時と2024年8月を比較

(注1)直近値は2024年10月10日時点。
(注2)ブラックマンデーや今回の下落局面は直前の高値を起点とした。
(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成

日経平均株価 日足チャート(2024年7月~10月10日)

(注)直近値は2024年10月10日時点。
(出所)日本経済新聞社より野村證券投資情報部作成

現在の日経平均株価のチャートを見ると、8月の歴史的下落の後、9月に入ってからも振れ幅の大きい状況が続いています。9月2日に戻り高値(39,080円)をつけたあと再度下落し、9月9日に安値35,247円をつけました。その後株価は回復し、9月27日にはネックラインといえる9月2日の水準を超えた39,829円をつけました。8月5日安値に対する二番底が完成したと判断できますが、自民党総裁選や中東情勢の緊迫化を受けて再び下落に転じたこともあり、しばらく動向を見守りたいところです。

二番底が完成したとすると、一般的には本格的な上昇相場に移行する可能性が高まります。今年7月につけた史上最高値(42,426円)を視野に入れる動きになるかもしれません。

二番底を見極めたいという投資家に対して、アドバイスをお願いします。

大底や二番底のその瞬間に買うことができれば良いのですが、実際に買える投資家はほんの一部です。ダブルボトムのパターンを確認してからでも遅くはないと思います。「頭と尻尾はくれてやって、中身の美味しい部分をいただく」という考え方が賢明でしょう。

相場というのは波動です。その波を捉えようとする際、方向性を捉える分析と転換点を捉える分析の2つがあります。ダブルボトムのようなパターン分析は、転換点を捉える代表的な手法の一つです。しかし、これだけでなく他の指標も併せて見ることが大切です。

野村證券 投資情報部 ストラテジスト 岩本竜太郎
2005年野村證券入社、北九州支店を経て、2008年より投資情報部。以降、テクニカルアナリストとして国内外のチャート分析を手掛け、お客様向けの冊子「週刊チャート展望」などの制作を担当している。日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト。

※この記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。
また、将来の投資成果を示唆または保証するものでもございません。銘柄の選択、投資の最終決定はご自身のご判断で行ってください。

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