2018.02.05 NEW
【質問力特集:前編】上司や顧客のあやふやな指示で消耗しない「聞き出す力」を学ぼう
インタビューのプロであるモデレーターたちの「聞き出す技術」は、実は交渉、商談、営業にも役立つスキルだった!
「具体的なアウトプットのイメージを共有できない上司」や、「ふわっとした、こんなことやりたいんだけどと言うクライアント」に困ったことはないだろうか。
質問をしても要領を得ず、上司には「自分で考えろ」と言われたり、クライアントにはあまりしつこく質問をできない場合もある。その結果、アウトプットの質が下がり、低い評価をうけて消耗してしまっているかもしれない。
そんな「伝える力」がない相手に振り回されないためにも、相手から適切な情報を引き出す「聞き出す力」について考えてみたい。どれだけITが発達しても、まだまだビジネスの場ではヒトとヒトとのコミュニケーションが中心にある。交渉、商談、営業、取材でも、相手が何を求めているのか「質問力」を身につけておく必要があるのだ。
ここでは、質問力特集として、3回に分けて「相手の本質的な要望を見つけることの重要性(前編)」「質問力の鍛え方(中編)」や「相手が話したくなる聞き方のコツ(後編)」について考えていこう。
ビッグデータでは、分からない情報
今や、ビッグデータとしてあらゆる情報がデータ化される時代だ。インターネット上では、過去の購買履歴を元に「あなたへのオススメ商品」とレコメンドされるのが当たり前。自分の好みにあった商品にいち早く出会えるという購買側のメリットや、業務効率化につながるという販売側のメリットが一致し、今後の活用は一層広がっていくことだろう。
ただし、「こうした客観的データが万全かといえば、そうではありません」と語るのは、マーケティングリサーチ会社「株式会社シー・ユー」代表取締役、早尾恭子さんだ。
彼女は、グループインタビューなど定性調査を行う際のインタビュアー(モデレーター)として長く活躍した後に独立。現在は、マーケティングリサーチ会社を営む傍ら、モデレーターを養成する講座も運営する。
モデレーターが質問する目的は、ただ一つ。商品・サービス開発時の定性調査において、消費者の声を聞き出すことだ。特に、「消費者自身も気づいていない意識」を聞き出すことを得意とする。
商品やサービスの開発には、消費活動や購買意欲を促す潜在的な欲求のスイッチ、つまり「インサイト」を把握することが欠かせない。そうした「インサイト」を、モデレーターは質問力を駆使して聞き出している。
こうした質問力は、実際のビジネスにおいては商品開発の際の消費者調査だけでなく、「具体的なアウトプットのイメージを共有できない上司」や、「ふわっとした、こんなことやりたいんだけどと言うクライアント」などの伝える力が足りていない相手から、本意を聞き出すことに使うことができる。
言語化できていないところに、ホンネが隠れている
では、この「質問力」を身につけられると、どのような「インサイト」が手に入れられるのか。
例えば、レトルト食品を利用する際、肉や野菜などの具を足してボリュームアップさせる、いわゆる“かさ増し”をすることへの意識調査を行ったとする。
一般的に定量調査(数値化できるデータを多数集める調査)の結果では、「栄養バランスを考えて」「2人前が3人前になり節約できる」など実用的な発言が出てくる場合が多いもの。
一方、モデレーターが定性調査を行い、その理由を深堀りしていくと「レトルトを使っている罪悪感が減る」「わざわざ手間をかけている私は偉い!」という、普段言葉にしないようなリアルな声が出てくるのだ。
このような「相手も気づいていない意識(=インサイト)」を引き出す質問力が身につけられれば、「具体的なアウトプットのイメージを共有できない上司」や、「ふわっとした、こんなことやりたいんだけどと言うクライアント」の意図を汲み取ることができるようになり、上辺の言葉に惑わされて疲弊することもなくなるだろう。
次回以降、「聞き出すスキルは、誰でも体得できる技術」と説く早尾さんに、モデレーターが行っている、「質問力の鍛え方(中編)」や「相手が話したくなる聞き方のコツ(後編)」を聞いていく。
- 監修:早尾 恭子(はやお やすこ)
-
株式会社シー・ユー代表取締役。マーケティングの定性調査として行われる、グループインタビュー・デプスインタビューのプロ、「モデレーター」として活躍。2001年より、自社にてモデレーター養成講座を開講。学習院大学ビジネス講座講師、明星大学マーケティング講座講師、企業向けの講習も担当。著書は『モデレーター 聞き出す力』(すばる舎)。