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基礎から学べる行動ファイナンス 第6回―決定麻痺のわな―

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「自分も投資を」と思い立ち…

今をさかのぼること30年、バブル崩壊後の就職氷河期に運よく大手企業に就職できたDさんは、同期の3人とすぐに仲良くなり、現在まで付き合いは続いています。

若いころ、4人の飲み会での話題は、「次の合コン」などの話ばかりだったが、その後4人は結婚。配偶者の話や、子どもの進学の話をすることが増えました。

50歳代になると、健康の話や老後をどう過ごすかといった話もするようになりました。

そして、ある日の終業後の飲み会で、初めて「老後に向けた余裕資金をどんな形で持っているか」という話題になりました。今は使う予定のないお金の話です。

Dさんは全て現預金などリスクのない資産にしていましたが、ほかの3人は全員「ほとんど投資信託にしている」と聞いて驚きました。「そんな危ないことをして」と言ったところ、友人から「やらないほうが危険だ」という言葉が返ってきました。

夜遅くに自宅に戻ったDさんは、お酒の勢いもあって「自分も投資をしてみよう」と思い立ちました。即座にネットで調べてみたところ、注目されているのは高収益の記録更新中のA投信や、ESG(環境・社会・ガバナンス)関連銘柄に投資していることで知られるB投信などが見つかりました。

多くの情報に触れ「先送り」に

翌日は早速、投資についての雑誌を買って読んでみました。そこには投資信託だけでなく、個別企業の株式や新興国の債券も「今が買い時」と、魅力的に紹介されていました。何が良いのか、かえって分からなくなってしまい、その日も投資に踏み出せず「そのうち時間ができたら決めよう」と考えました。

結局、そのまま10年が経ちました。定年退職が目前に迫っているDさんは、投信などに投資をしていた同期の友人たちと比べ、老後に備えた資金がかなり少ないことを知り「投資しなかったこと」を強く後悔しています。

前回までで紹介したのは「買って失敗した例」ばかりでしたが、今回登場したDさんは「買わなくて失敗した人」です。

心理バイアス「決定麻痺」とは?

Dさんが捕らわれた主な心理バイアスは「決定麻痺」と呼ばれます。情報が多いと間違いを犯してしまうという「普通の人」特有の問題行動といえます。

「完全に合理的な人」であれば、参考になる情報が多ければ多いほど、良い判断ができるはずです。仮に余分な情報があったとしても、自分で判断して取捨選択できるはずです。しかし「普通の人」は、処理できる情報量や検討できる選択肢の数に限界があるのです。

そのため、大事な決定を「先延ばし」してしまいがちといえます。ここで改めて選択肢を二つに単純化してみると、①「余裕資金を現預金にする」と②「余裕資金を投資信託にする」となります。

「先延ばし」を「選んでいない」ことだと考えるのではなく、「①を選んでいる」ことだと自覚できれば、決定麻痺から逃れやすくなるかもしれません。

(KINZAI Financial Plan 2023年6月号掲載の記事を再編集したものです)

本稿は、野村證券株式会社社員の研究結果をまとめたものであり、投資勧誘を目的として作成したものではございません。2023年5月現在の情報に基づいております。

大庭 昭彦

野村證券株式会社金融工学研究センター エグゼクティブディレクター、CMA、証券アナリストジャーナル編集委員、慶應義塾大学客員研究員、投資信託協会研究会客員。東京大学計数工学科にて、脳の数理理論「ニューラルネットワーク」研究の世界的権威である甘利俊一教授に師事し、修士課程では「ネットワーク理論」を研究。大学卒業後、1991年に株式会社野村総合研究所へ入社。米国サンフランシスコの投資工学研究所などを経て、1998年に野村證券株式会社金融経済研究所に転籍、現在に至るまで、主にファイナンスに関わる著作を継続して執筆している。2000年、証券アナリストジャーナル賞受賞。

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