インフレ時代の資産形成のポイント(1)金融経済教育の意義
インフレ時代に必要とされる資産形成に大切なポイントや金融経済教育の必要性について、野村證券ファイナンシャル・ウェルビーイング室長の園部晶子と、投資情報部長の東英憲がトークセッションを行いました。その模様を4回にわたって紹介します。第1回目では、日本の金融経済教育の実情や、野村グループの取り組みについてです。
画像左:園部 晶子
1991年野村證券入社。5支店でお客様の資産運用のアドバイス業務に従事。現在はファイナンシャル・ウェルビーイング室において「お金について学ぶことで、あらゆる人が自由に自分の人生を選択できる世界」を目指し、小学生から大人まで幅広い世代に対して金融経済教育のコンテンツを提供中。
画像右:東 英憲
1990年、野村證券入社。池袋、静岡などの支店で個人向け営業に従事し、調布、盛岡、奈良、岐阜の各支店長、ソリューション・アンド・サポート部長(現在は改組)を経て、2022年4月から現職。個人投資家向けに情報を発信するおよそ約40人のリサーチャーやスタッフを率いる。
―園部
まず初めに、野村證券が金融経済教育に取り組む目的と、意義について説明します。金融広報中央委員会では、金融教育の意義を以下のように定義しています。
1)自立する力の育成支援
お金を通して生計を管理する能力を身に付けること。より豊かな生き方を実現するために、将来を見通しながら、主体的に考える工夫と努力する態度を身に付けること。
2)社会と関わり合う力の育成支援
金融・経済の仕組みを学び、働くことやお金を使うことなどを通して、社会に支えられている自分と社会に働きかける自分とを自覚して、社会に感謝し貢献する態度を身に付けること。
このように、経済的な自立を目指して将来の見通しに主体的な考えを持ち、社会に貢献する人材育成を支援するため、2022年から高校での金融経済教育が必修化されました。
2024年4月には金融経済教育推進機構が設立されました。今後、学校・企業向けの出張授業やシンポジウムの開催など、官民一体となった効率的・効果的な金融経済教育を全国的に実施することになっています。
―園部
野村グループは、国内においていち早く1990年代から、学校や職場への出張授業、教材の提供などを行ってきました。例えば、大学での寄付講座はスタートが2001年と歴史も古く、毎年100近くの大学で授業を行っており、延べ400人の社員が講師を務めています。
―東
大学での寄付講座を20年以上にわたり、取り組んできたのですね。学校での金融経済教育の取り組みでは、どのような授業を行っているのでしょうか?
―園部
下の図で一例を示していますが、小学生向けではお金について楽しく理解してもらえるよう、ゲームを通じて為替や株式の仕組みを学ぶプログラムを実施しています。また、中学生向けでは投資の仕組みやビジネスアイディアを考えるイノベーションプログラム※、高校生向けではライフプランを学ぶプログラムなどを行っています。
※身の回りにある課題からそれを解決するアイデアを考え、それをビジネスにするという、起業家育成プログラム
加えて、高校生のプログラムでは、まず将来自分がどのような生活を送りたいかを考えて、必要なお金を試算し、さらには資産形成の方法を学びます。将来の進路や、結婚するのかしないのか、どの場所に住むのか、家は買うのか借りるのかなど、参加された生徒の皆さんは頭を抱えながら考えています。将来のイメージが湧かない人が大半ですが、まず自身の人生について考えることが大切な事ではないでしょうか。
―東
先ほどもお話がありましたが、高校では金融経済教育が必修になりましたね。
―園部
はい。2022年度に学習指導要領が改定され、高校の家庭科において資産形成に関する項目を学ぶようになりました。新しいプログラムということもあり、野村グループでは、金融経済教育を教える先生方のサポートなどを行っています。
―東
金融経済教育を学ぶ年齢に応じて、その時知っておくべきことを授業のプログラムにしているのですね。
学校への金融経済教育の取り組み以外にも、企業の従業員向けの金融経済教育や、社会人向けの確定拠出年金や職場つみたてNISA、iDeCoなどに関する金融経済教育の取り組みを行っています。野村グループで、幅広く金融経済教育を実施するようになった背景は何でしょうか。
―園部
社会環境の変化、とりわけ人生100年時代と言われるようになったことだと思います。長寿化が進み、老後をどう過ごしていくのかという「長生きリスク」が顕在化しました。併せて、少子化による将来の年金不安などにも関心が高まっています。新型コロナ禍以降はお金のデジタル化、キャッシュレス化も進んでおり、これまでとは違いお金の管理を考える必要があると思います。
一方、インターネットやSNSにはお金に関する情報が満ち溢れており、多くの情報の中から、自分に適切な情報を選ぶための金融リテラシー※が必要です。
※経済的に自立し、より良い生活を送るために必要なお金に関する知識や判断力
また、2022年から成年年齢が18歳に引き下げられました。この年齢で自分の意志で様々な契約ができ、その契約に責任を持たなければならなくなったのです。成年年齢に達したばかりの若者が、詐欺や犯罪に巻き込まれないようにリスクをしっかり理解して正しい判断力を養うことが必要です。
―東
大学生の2人に1人は奨学金を利用していると言われており、社会人になってから奨学金の返済に関わる金利の知識なども必要ですね。社会環境の変化は、今後の日本における大きな課題ではないでしょうか。子どもから学生までが金融経済教育を学ぶようになったのですから、大人も金融や経済についてしっかり学んでいく必要がありますね。
―園部
はい。日本ではお金について話すことに何か悪いイメージがあるせいか、これまでは学ぶ必要性を感じながらも、実際に勉強しようという人は少なかったと思います。ところが、最近では政府が資産所得倍増プランによりNISA拡充などを打ち出した結果、投資について関心を持ち、学んでみようという方が急増しているのを実感しています。
―東
そうですね。投資について学びたい方のために、Part2以降でインフレ時代の資産形成について説明します。
※このコラムは2024年6月時点の情報に基づくものです