住む場所で変わる?都市部と郊外のお金の話③ 見える資産と、見えない資産—通勤・移動から考える都市部と郊外

第3回:見える資産と、見えない資産─通勤・移動から考える都市部と郊外
第1回『同じ年収でも、都市部と郊外で家計が変わる理由』は、同じ年収でも住む場所で家計の中身が変わること。第2回『「移住したら、資産形成が変わった」—住む場所を変えてお金と心が動いた話』は、移住で資産形成がどう変わったかを見てきました。第3回は、通勤・移動という切り口から、都市部と郊外の資産形成を見ていきます。
資産形成というと、つい預貯金や投資といったお金の資産を思い浮かべがちです。しかし、時間や健康、人とのつながりも、暮らしを左右する大切な資源や資産であると言えます。住む場所は、住居費などのお金だけでなく、こうした目には見えない資源や資産に大きく影響します。
通勤は、家計の固定費に似ている
毎朝の通勤で、「この時間は、人生の何日分になるだろう?」と考えたことはありますか。
通勤や移動の時間は、毎日少しずつ差し引かれていく、いわば「時間の固定費」と言えます。
総務省の社会生活基本調査によると、通勤・通学にかかる時間は全国平均で1日往復1時間19分です。例えば、年間休日を135日とする場合、年間の出勤日は230日です。これに往復1時間19分(=79分)をかけると、1年で302時間50分。よって、年間で12日と14時間50分を通勤時間に使っている計算になります。
このように、時間は一度に大きく出ていくわけではなく、毎日少しずつ出ていくので見落とされがちです。しかし、積み重なると大きいものです。通勤などの移動は、気づかないうちにこれだけの時間を使っています。
1年を52週間で計算。週休2日×52週=104日。これに「国民の祝日(16日)」「夏期休暇・年末年始休暇(5日)」「有給休暇(10日)」を加えて、年間休日計135日とした場合を仮定。
「都市部は通勤が短い」とは限らない
都市部は職場が近くて通勤が短く、郊外になるほど長くなる─そんなイメージを持っている方がいるかもしれません。しかし、データを見るとそれほど単純ではなく、もう少し複雑です。
総務省『令和5年住宅・土地統計調査』によると、例えば東京を中心にした距離帯ごとの通勤時間(中央値)では、都心の0〜10km圏は片道36.8分。20〜30km圏では片道52.2分とピークに達し、さらに外側へ向かうと、また短くなっていきます。
| 東京70キロ圏 (距離) | 世帯数 (被雇用者) | 通勤時間 ─片道─ (中央値) |
|---|---|---|
| 0~10km | 71万人 | 36.8分 |
| 10~20km | 175万人 | 47.8分 |
| 20~30km | 150万人 | 52.2分 |
| 30~40km | 127万人 | 46.5分 |
| 40~50km | 81万人 | 39.7分 |
| 50~60km | 36万人 | 28.4分 |
| 60~70km | 25万人 | 25.6分 |
都心は住居用の建物も少なく、住居費が高いため、職場のそばに住める人は非常に限られます。一方で、図表に示されている世帯数を見ると、都心から少し離れた場所に住む人が多いことが分かります。通勤時間についても、都心から遠くなるほど単純に長くなるわけではなく、都心から少し外側の地域に住む人が最も長い通勤時間を要している傾向が見られます。
また、大都市圏(東京都区部や政令指定都市)で比べると、関東大都市圏の片道の通勤時間は44.8分と全国でいちばん長く、近畿の34.8分や中京28.4分を上回っています。いずれも都市機能が集積した利便性の高い地域ですが、その中でも関東大都市圏では、通勤により多くの時間を要しているという事実が見えてきます。
| 地域区分 (大都市圏) | 通勤時間 ─片道─ (中央値) |
|---|---|
| 札幌 | 26.5分 |
| 仙台 | 26.7分 |
| 関東 | 44.8分 |
| 中京 | 28.4分 |
| 近畿 | 34.8分 |
| 北九州・福岡 | 26.5分 |
通勤時間の中央値が最も大きい地域は、神奈川県横浜市青葉区の片道60.5分です。また、通勤時間が長い地域の上位20位は一都三県に集中しています。
一方で、通勤時間が最も短い地域は北海道の紋別市と八雲町で、片道10.2分です。通勤時間が短い地域の上位20位では、北海道の地域が過半数を占めています。言い換えると、時間という見えない資源にゆとりがあるとも言えます。どちらが良い悪いではなく、何を選ぶかの違いです。
長い通勤時間の先で、削られているもの
通勤時間が長いと、ほかの資源や資産も気づかぬうちに削られていきます。
総務省『令和3年社会生活基本調査』(47都道府県ランキング)によると、「通勤・通学時間が長い」地域の上位には、神奈川・千葉・東京・埼玉の一都三県が並びます。
さらに、就寝時刻が遅い地域にも、同じような顔ぶれが並んでいます。
| 順位 | 都道府県名 | 時間.分 |
|---|---|---|
| 全国平均 | 1.19 | |
| 1 | 神奈川県 | 1.40 |
| 2 | 千葉県 | 1.35 |
| 2 | 東京都 | 1.35 |
| 4 | 埼玉県 | 1.34 |
| 5 | 奈良県 | 1.28 |
| 6 | 大阪府 | 1.27 |
| 7 | 兵庫県 | 1.24 |
| 8 | 京都府 | 1.21 |
| 9 | 茨城県 | 1.18 |
| 順位 | 都道府県名 | 平均就寝時刻 |
|---|---|---|
| 全国平均 | 23:04 | |
| 1 | 東京都 | 23:39 |
| 2 | 大阪府 | 23:17 |
| 3 | 神奈川県 | 23:14 |
| 4 | 京都府 | 23:11 |
| 5 | 福岡県 | 23:09 |
| 6 | 千葉県 | 23:08 |
| 7 | 奈良県 | 23:07 |
| 8 | 埼玉県 | 23:06 |
| 8 | 兵庫県 | 23:06 |
つまり、通勤・通学時間が長い地域ほど就寝時間が遅くなる傾向が、ランキングの数字から読み取れます。通勤という時間の固定費が、睡眠という健康資産を削っている。そんな見方もできそうです。
もちろん、これは通勤だけが原因と言い切れるものではありません。それでも、通勤時間の長さが、睡眠や健康という資産を目減りさせている可能性は十分にあります。
時間は「削る」だけでなく「磨く」ことができる
お金の固定費は、節約して削ることができます。しかし、時間という固定費は、住む場所や働き方を変えないと、簡単には削れません。
ですから、削れないときは「時間の使い方を変える」という手段があります。同じ時間でも、その時間を何に充てるかで価値が変わる―これが、時間を「磨く」という考え方です。
例えば、通勤時間に勉強などの自己投資をして、見えない資産を育てる。一駅分歩いてみる、駅でエスカレーターを使わずに階段を使う。いずれも時間という限りある資源を有効活用していることになります。
テレワーク(在宅勤務)で通勤時間が減ったとき、その時間がどのように使われたか。
総務省統計局の「令和3年社会生活基本調査」では、テレワークをしていた人としていない人を比べると、25〜34歳は睡眠が41分、趣味・娯楽が28分長く、35〜44歳は育児が23分、45〜54歳は睡眠が17分、食事が16分長くなっていました。通勤時間が削られた分を、趣味・娯楽や育児などに充てていることがうかがえます。削って空いた時間を、休養に充てるのか、学びに充てるのか、家族との時間にするのか。その選び方で、見えない資源や資産が増えていくのです。
健康も、つながりも、めぐってお金に反映する
時間と並ぶ見えない資産が、健康です。
都市と郊外という比較ではないですが、通勤方法で健康への影響は変わるようです。
国土交通省では、「エコ通勤」1を推奨しており、これにより「健康増進にも役立つ」としています。
実際に、通勤時の交通手段別にメタボリックシンドローム該当者及び予備軍の割合を比較したところ、エコ通勤をしている人の方が、その割合が少ない結果が出ています。2

また、自動車通勤に比して、「渋滞に巻き込まれず通勤できる」「交通事故にあう確率が低減し安全に通勤できる」等もエコ通勤のメリットとして挙げられています。
こういった観点も住居を決める際の一つの要素として考慮することも良いかもしれません。
1「エコ通勤」とは、電車通勤、バス通勤、自転車通勤、徒歩通勤などを指します。
2この比較は通勤手段のみが健康状態の差を生じさせたことを示すものではありません。
もう一つが、人とのつながりという資産です。
内閣府の「満足度・生活の質に関する調査報告書(2025年9月)」では、家庭でも職場でもない第三の居場所がある人ほど、生活の楽しさへの満足度が高いという傾向が出ています。第2回『「移住したら、資産形成が変わった」—住む場所を変えてお金と心が動いた話』で紹介した、湘南へ移住した男性を思い出してください。立ち寄るだけのコンビニや飲食店での出費が減り、サーフィンを通じて、年齢も職業もさまざまな仲間ができたと話していました。寂しさを埋める消費が、人とのつながりという資産に置き換わった瞬間です。
そして、人とのつながりは資産形成そのものにも影響します。将来のお金の不安があった人が、人から情報を得て積立投資を始めたという話はよく聞きます。まわりに同じ意識の人がいると、自分も同じ行動を取りやすくなるものです。
時間とお金は、つながっている
資産形成とは、今あるお金や時間、スキルなどを、将来価値が増える形にすることです。収入の一部を投資に回すように、通勤という時間の固定費を「削る」か「磨く」かして、健康や学び、人とのつながりに充てる。健康や人とのつながりが良好であると、長期的には家計や資産形成にも良い影響を与える可能性があります。
お金や健康、人とのつながり、そして時間の使い方も、今から自分で見直し、将来につながる資産にしていくことができます。どこに住んでいても、こうした視点が大切であると言えるのではないでしょうか。
編集協力:寺澤真奈美 2級ファイナンシャル・プランニング技能士
編集/文責:野村ホールディングス株式会社 ファイナンシャル・ウェルビーイング部
記事公開日:2026年8月12日


