2025.05.27 NEW
グーグル、マイクロソフト開発者会議 米国株式市場に与えるインパクトは 野村證券・村山誠
写真/竹井俊晴
5月下旬、米国大手情報技術企業による開発者会議が行われました。5月19~22日にマイクロソフトが同社の年次開発者会議「Build 2025」を開催し、5月20・21日にアルファベット傘下のグーグルが同社の開発者会議「Google I/O」を開催しました。2025年の両社の開発者会議は、米国株式市場へどのような影響を及ぼすでしょうか。野村證券投資情報部シニア・ストラテジストの村山誠が解説します。
世の中にAIが普及していることを反映した開発者会議の内容
- マイクロソフトとグーグルの開発者会議とはどのような会議でしょうか。
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大手情報技術企業は例年この時期に、協業する企業の技術者などに向けて、自社の開発方針などを説明する開発者会議を開催しています。今年のマイクロソフトの開発者会議では、ソフトウェア開発におけるAIエージェントの活用などが説明されました。
一方、グーグルの会議では、AIビデオ生成モデル「Veo 3」が発表されたほか、AIによる会話型チャットボット・インターフェース「AIモード」を発表し、AI検索の説明が重点的に行われました。両社とも、AIを用いた機能の拡充に重点がおかれていて、世の中にAIが普及していることを反映していると思います。
- 印象的だった変化はありますか。
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グーグルが、検索エンジンに「AIモード」を導入したことは、検索エンジンを主力とする同社が、AIの急速な進歩と普及により、大きな変革期に直面していることを示しているのかもしれないとの印象を受けました。
グーグルは、独自のアルゴリズムを用いた検索エンジンを投入し、それまで多くの人に利用されていたネットスケープやヤフーなどを駆逐し、検索エンジンとして長らく圧倒的な競争力を誇ってきました。しかし、2022年秋にChatGPTが登場し、人々が物事を調べたり情報を収集したりする際に使われるようになり、状況が大きく変わりつつあります。
グーグルなど従来の検索エンジンでは、ユーザーが適切と考えるキーワードを入力して検索を行い、自分が探している情報が見つかるまで、検索を繰り返して行います。
これに対しAI搭載の会話型チャットボットでは、ユーザーが知りたいことを文章で入力して質問すれば、AIが情報収集を行い、回答を作成してくれます。内容にもよりますが、従来よりも楽に調べられるようになる場合も多く、今までとは異なる検索方法に利便性を見出し、多くの人々が従来型の検索エンジンに代わって利用するようになっているとみられます。
今回、グーグルが発表したAIモードは、ChatGPTなどと同様に、ユーザーがより複雑な質問を実行できるようになるとのことです。AIモードでは月額課金型の有料モデルも発表されました。
グーグルは広告を収益源とするビジネスモデルの転換が必要か
- グーグルはなぜ有料モデルを発表したと考えられますか。
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AIによる会話型チャットボットについては、グーグル自身でも既にGeminiを投入しています。にもかかわらず、AIモードを投入するというところに、グーグルが従来のビジネスモデルの再考を迫られている可能性が窺えます。
グーグルによる検索は、ユーザー自体には直接は課金せず、検索結果に表示される広告を収益源とするビジネスモデルでした。
先述のとおり、従来の検索エンジンではユーザーは、自分が探している情報が見つかるまで検索を繰り返して行うことが一般的です。これに対してAI搭載の会話型チャットボットでは、ユーザーが知りたいことを文章で入力して質問すれば、AIが情報収集を行い、回答を作成してくれます。
このため、ユーザー自身がさまざまなウェブサイトやホームページを訪問する機会が減り、検索結果に対して広告を表示する従来型の検索エンジンにとっては、収益機会が縮小するリスクがあります。検索ビジネスに月額の定額課金型のビジネスモデルが導入された背景には、このようなことも影響している可能性が考えられます。
開発者会議前後に、アップルが目立って株価下落した理由
- マイクロソフトの開発者会議が始まる前の2025年5月16日から23日の米国大手情報技術企業(GAFAMと総称されるアルファベット(傘下のグーグル)、アップル、メタ・プラットフォームズ(元フェイスブック)、アマゾン・ドットコム、マイクロソフトにエヌビディアを加えた)の株価推移を見ると、その中ではアップルの株価下落が目立ちました。何が背景にあるのでしょうか。
(注)2025年5月16日=100とする指数。2025年5月17日、18日は休日。
(出所)LSEGより野村證券投資情報部作成
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大きく2つのことが考えられます。一つは、2025年5月21日にOpenAIが、アップルの初代iPhoneのデザインを統括したジョニー・アイブ氏が設立したAI端末開発の新興企業io Productsを買収すると発表したことがきっかけです。
報道では、この買収の狙いとしてOpenAIは、従来のスマートフォンやパソコンに代わる新しいデバイス、あるいはそのようなデバイスには依存しないサービスの開発と投入を目指すとしています。もしそのようなデバイスやサービスが登場すれば、これまでiPhoneやiPadなどのハードウェアをユーザーとの接点として構築してきたアップルのビジネスモデルが脅威にさらされる可能性が意識されているとみられます。
2025年5月23日の株価下落は、トランプ大統領が、米国外で生産されたスマートフォンについては、25%の関税を課す方針を示したことが大きいとみられます。
- 今後の米国大手情報技術企業の動向を見るうえでの注目点はなんでしょうか。
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AIの進歩、普及により、これまで圧倒的な強さを示してきた大手企業でも、新たに登場する技術や新興企業により、これまでのビジネスモデルが脅かされるというようなことが起きるかもしれません。かつて、メインフレーム・コンピューターと呼ばれる大型コンピューターで圧倒的な競争力を誇ったIBMや、半導体市場で圧倒的な存在感があったインテルなどが、競争環境の変化にうまく対応しきれず、徐々に競争力を失っていったような事例が起こらないとも限りません。今後も情報技術企業などから発信される情報をフォローしていきたいと思います。
目先のイベントでは、6月9~13日にアップルが開催する、同社の開発者会議、WWDC(World-wide Developer Conference)が注目されます。2023年のWWDCでは、AR(拡張現実)に対応したゴーグル型端末、Apple Vision Proが発表されました。2024年のWWDCでは、アップルが開発した独自のAIプラットフォームであるApple Intelligenceを発表したほか、自社のツールにOpenAIのChatGPTを導入することを発表しました。WWDCでは例年、ソフトウェア戦略を中心に、関連するデバイスや技術開発の方針が説明されており、直近の同社AIの開発動向についての説明があるかもしれません。

- 野村證券 投資情報部 シニア・ストラテジスト
村山 誠 - 1990年野村総合研究所入社、1998年に野村證券転籍。エクイティアナリスト、クレジットアナリストとして勤務。2011年6月より米国株ストラテジー担当。投資環境の分析、個別株の投資アイデアを提供。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」出演中。
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