2025.09.03 NEW

紡ぎ続けるスター・ファンド・マネージャーの系譜 フィデリティの強さは「人」にあり

紡ぎ続けるスター・ファンド・マネージャーの系譜 フィデリティの強さは「人」にありのイメージ

撮影/タナカヨシトモ

アクティブ運用で優れた運用成果を挙げるためには、充実した運用調査体制に基づく徹底したリサーチ力が求められます。米国を代表する資産運用会社のひとつであるフィデリティ・インベスメンツ(以下、フィデリティ)は960人以上という世界最大級の運用調査体制を誇り、積極的な企業訪問などから生み出された年間2万件以上にも及ぶ企業調査レポートが、フィデリティの運用力の根幹とも言えるボトム・アップ・アプローチを支えています。

同社のアクティブ運用のもうひとつの特徴として、優れたファンド・マネージャー(フィデリティではポートフォリオ・マネージャーと呼ばれます)に運用の権限を与え、自由に運用力を発揮してもらう「スター・ファンド・マネージャー・システム」が挙げられます。著名なアクティブ運用会社でファンド・マネージャーになることを目指し、優れた人材が集まるフィデリティ。その中での厳しい競争を経て運用担当者としての座を勝ち取り、何十年にもわたり卓越したパフォーマンスを残し続けて旗艦ファンドに育て上げた、ピーター・リンチ氏のような傑出したファンド・マネージャーも少なくありません。

また、スター・ファンド・マネージャーが次世代のスター・ファンド・マネージャーを育て上げてバトンを渡すという人材育成術も、フィデリティが優れたファンドを長期にわたり運用し続けられる理由です。こうした企業文化がなぜ培われたのか、フィデリティの強みについてフィデリティ投信プロダクト・スペシャリスト部長の藤原嘉人さんに詳しく聞きました。

960人以上の運用のプロが世界中で活動

フィデリティはアクティブ運用で優れた運用実績を残しています。まずはどんな会社なのか、教えてください。

フィデリティ・インベスメンツは1946年に米国ボストンで創設された米国の資産運用会社です。「ボトム・アップ・アプローチ」による株式や債券などのアクティブ運用に強みを持ち、ポートフォリオ・マネージャーを含む960人以上(注1)の運用プロフェッショナルが世界中で活動しています。預かり資産残高はおよそ868兆円(注2)と、この半世紀の間に約1,000倍に増えています。

(注1)2024年12月末時点。(注2)1米ドル=157.2円で換算。

また、社名の「フィデリティ」は「誠実、忠実」を意味し、社員全員が「最善の顧客サービスを追求する」という創業以来変わらぬ精神を持っています。近年は伝統的資産のみならずプライベート資産、暗号資産などのデジタル資産の商品開発にも積極的に取り組むなど時代の変化を読み取り、多様化する投資家のニーズに応えるため、日々、社内で議論を重ねています。

創業以来変わらないイノベーションの企業文化

創業時の精神がいまも息づいているんですね。当時からさまざまな試みをしていたのでしょうか。

はい。1946年に米国ボストンでフィデリティを創業したエドワード・C・ジョンソン2世は、投資委員会という合議体での銘柄選別、投資の意思決定が当たり前だった当時、優れた運用担当者が自らの意思で銘柄を調査・分析し、リスクをとって投資判断できる体制を整えました。つまり、ポートフォリオ・マネージャーや企業調査アナリストといった、現代の資産運用に欠かせない役割の必要性を見抜き、時代に先駆けて取り入れたのです。

後を継いだエドワード・C・ジョンソン3世は「イノベーション」を掲げ、小切手発行機能を付けて銀行口座に近い性質を持たせたマネー・マーケット・ファンド(MMF)を開発し、米国株式が「冬の時代」を迎えた1970年代にフィデリティを大きく成長させました。また、彼は日本の製造業をヒントに「Kaizen(カイゼン、改善)」という考え方を社内に浸透させました。運用の現場では、いまでもよくこの言葉を耳にします。

紡ぎ続けるスター・ファンド・マネージャーの系譜 フィデリティの強さは「人」にありのイメージ

ボトム・アップ・アプローチを世に知らしめたピーター・リンチ

そのジョンソン3世の時代にピーター・リンチ氏が入社し、ボトム・アップ・アプローチという言葉が世の中に広く知られるようになったんですね。

ピーター・リンチが「フィデリティ=ボトム・アップ・アプローチ」というイメージを確立させたのは、間違いないでしょう。彼は「10社を調べれば1つの、100社を調べれば10の投資アイデアが見つかる」との信念のもと、誰よりも多くの企業を調べ、また、そうするようアナリストにも発破をかけました。投資対象先をあらゆる角度から分析するため、その企業の仕入れ先や工場、競合他社、店舗、顧客、研究機関などにも足を運びました。

その結果、1977年から1990年まで運用を担当していた大型グロース株式ファンドの運用成績は平均で年率29.2%のプラス・リターンとなり、ボトム・アップ・アプローチが高いリターンをもたらすことを証明しました。「ポートフォリオ・マネージャーに裁量を与え、リスクをとって自由に運用力を発揮させる」――。ジョンソン2世が目指し、築き上げた文化がピーター・リンチというスター・ファンド・マネージャーの誕生につながったのです。

傑出したポートフォリオ・マネージャーだけに、とっつきにくいイメージを持たれるかもしれません。しかし、彼は自分のアイデアや運用哲学を顧客や同僚に分かりやすく伝えるのが本当に上手で、銘柄分析のプロセスは言語化されており、後進にしっかりと受け継がれています。

大ベテランでも年間1,200件の企業面談

フィデリティの企業文化やピーター・リンチ氏に憧れて入社する社員も多いのでしょうか。

そうですね。ピーター・リンチに憧れて入社する社員はとても多いです。直接師事した社員で著名なのは、いずれも1986年に入社したウィル・ダノフとジョエル・ティリングハストでしょう。前者は大型グロース株式、後者は中小型バリュー株式に強みを持ち、運用スタイルこそ対照的ですが、企業調査アナリストとして、または同じファンドを運用する共同ポートフォリオ・マネージャーとして直接ボトム・アップ・アプローチの神髄を叩き込まれ、スター・ファンド・マネージャーとしての才能を開花させました。

ウィル・ダノフは、運用資産残高が3,200億ドルを超えるフィデリティ最大のアクティブ・ファンドを長年運用する、米国を代表するポートフォリオ・マネージャーのひとりです。彼の運用するファンドは1967年5月の設定以来50年以上の歴史がありますが、ウィル・ダノフが運用の主担当者となった1990年9月から2025年7月までのパフォーマンスは平均で年率14.3%のプラス・リターンと、同期間のS&P500種指数(11.3%)を上回り、基準価額は105倍(S&P500種指数は42倍)に上昇しました。

彼のモットーは「Best of Breed(最高の企業)」を見つけること。企業を率いるリーダーが投資成功の鍵を握ると考え、出来るだけ多くの経営陣に会うことを大切にしています。入社して40年近く経ち大ベテランとなったいまでもなお年間1,200件ほどの企業訪問をこなし、ボトム・アップ・アプローチを徹底しています。

また、オフィスの壁一面には、自身が運用するファンドに投資している個人投資家から寄せられたたくさんの手紙が飾られています。近況報告だったり、感謝や励ましの言葉だったりと、まるで友人に宛てるような内容です。「みんなに喜んでもらえるのが一番うれしい」と、いつも誇らしげに来訪者に説明しています。人当たりの良さやコミュニケーション能力の高さも、フィデリティの優れたポートフォリオ・マネージャーに共通している点かもしれません。

2025年4月には彼が運用する大型グロース株式ファンドの共同ポートフォリオ・マネージャーとしてマット・ドラッカーやニディ・グプタなど複数のメンバーが新たに加わりました。彼らはこれまで、ウィル・ダノフとさまざまなファンドを共同運用した経験があるほか、企業取材や出張にも頻繁に同行し、ウィル・ダノフから直接、フィデリティの投資哲学やポートフォリオ・マネジメントの考え方などについて薫陶を受けています。

歴史を通じて最も偉大かつ成功したストックピッカー

ジョエル・ティリングハスト氏も日本ではよく知られていますね。

ジョエル・ティリングハストは、ピーター・リンチに直接採用され「歴史を通じて最も偉大かつ成功したストックピッカーのひとり」と称えられるほど、その類まれな才能を遺憾なく発揮しました。1989年の新規設定から2023年末まで運用したファンドの運用成績は年率で13.0%のプラス・リターンと、同期間のS&P500種指数(10.2%)を上回り、基準価額は設定時と比べておよそ68倍(S&P500種指数は35倍)に上昇しました。ピーター・リンチは「愛弟子」であるジョエル・ティリングハストの性格を「忍耐強く、柔軟で、融通無碍である」と評価しています。

彼は2024年に運用の現場を離れました。しかし彼がピーター・リンチから学び、磨きをかけた運用哲学の3つの柱①忍耐強く、合理的に投資をする、②独自の製品や健全な財務を備えた事業に投資する、③話題性を持つ銘柄を避け割安な銘柄に投資をする、は、ファンドを引き継いだ「孫弟子」であるモーゲン・ペック、サム・シャモビッツの運用の要諦となっています。

ジョンソン2世からピーター・リンチ、そしてウィル・ダノフ、ジョエル・ティリングハストに至るまで、フィデリティの先達が築いた企業文化、改善に改善を重ねた運用哲学は、彼らの背中を追い続けた次世代のポートフォリオ・マネージャーにしっかりと受け継がれているのです。

紡がれるスター・ファンド・マネージャーの系譜

紡ぎ続けるスター・ファンド・マネージャーの系譜 フィデリティの強さは「人」にありのイメージ

※フィデリティ投信の資料を基に野村證券作成

スター・ファンド・マネージャーとはいえ、常に勝ち続けるのは難しいと思います。過去に、逆境はあったのでしょうか。

もちろんです。例えばジョエル・ティリングハストが運用していた小型バリュー株式ファンドは、IT(情報技術)バブルだった2000年前後に運用成績が大きく悪化しました。当時は毎年、2ケタのマイナス・リターンが続いていたので、心労はとても大きかったと思います。しかし、徹底したボトム・アップ・アプローチに基づいた高い確信度や強い信念を持ち、忍耐強く運用哲学を貫いた結果、バリュー株式ファンドの淘汰の波にのみこまれることなく生き残り、その後のバリュー株式の反転とともにファンドは急成長しました。

加えて、グロース株式優位な相場が続き、バリュー株式ファンドの運用実績が競合ファンドに劣後していた時期においても、顧客がファンドの特性や彼の投資哲学を理解した上で投資していたため資金流出が限定的だったことや、経営陣がパフォーマンスの悪化に対して一切ネガティブな評価をしなかったことなども大きいです。

歴代カリスマから学ぶ若手アナリスト

現役で活躍するウィル・ダノフは別として、フィデリティの礎を築いた歴代のカリスマたちに直接会う機会がない若手社員が増えれば、その経験やフィデリティらしさも継承しにくくなるのではないでしょうか。
そんなことはありません。実はピーター・リンチもジョエル・ティリングハストも一線を退いたとはいえ、まだアドバイザーとして会社に残っています。ポートフォリオ・マネージャーや企業調査アナリストとの会議に出席し、侃々諤々の議論を繰り広げる姿も時折目にします。フィデリティでは運用のプロフェッショナルの多くは企業調査アナリストからキャリアをスタートさせますが、2人は若手アナリストの教育セッションにも頻繁に登壇します。

紡ぎ続けるスター・ファンド・マネージャーの系譜 フィデリティの強さは「人」にありのイメージ

3月にピーター・リンチが家族で来日した際には、我々のオフィスを訪れて日本の投資信託市場への理解を深めたり、株式相場の見通しなどについて意見を交わしたりもしました。日本拠点の副会長である蔵元康雄(注3)とは同期入社の間柄で、いまでも交流があります。

(注3)フィデリティ・ジャパン・ホールディングス副会長。フィデリティが日本に事務所を開設した 1969年に1人目の社員として入社。ピーター・リンチからボトム・アップ・アプローチを学び、日本株式市場で実践した。

また、企業調査アナリストはポートフォリオ・マネージャーへの単なる登竜門だと思われがちですが、そうではありません。フィデリティの株式調査部門には130人超のアナリストが在籍し、約半数はアナリスト経験が10年を超えています。中には、業界や企業を深く知り、企業から信頼され、情報の網を張り巡らせている大ベテランも多数在籍しています。また、不正会計を見抜く企業会計の専門家チームや地政学リスク分析チームなどもあり、リサーチ力に磨きをかけ続けています。

ポートフォリオ・マネージャーの存在が目立つため、企業調査アナリストの存在は見えにくいかもしれませんが、彼らもフィデリティのボトム・アップ・アプローチを継承する運用のプロフェッショナルです。若手社員は、ポートフォリオ・マネージャーからだけではなく、優れたベテラン・アナリストからも学ぶ機会が大いにあるのです。

運用力の源泉は「人」

ピーター・リンチがいまなお精力的に活動されているのは驚きました。教育システムがしっかりしているからこそ、優れた人材が育ち、また人を引き付けるんですね。フィデリティが今後目指す方向性について、教えてください。

優れた運用のプロフェッショナルからボトム・アップ・リサーチを直接学びながら周囲との厳しい競争を勝ち抜く、という「ヒリついた」環境が自身を大きく成長させると知っているからこそ、世界中にいる知的好奇心を抱く多くの若者がフィデリティの門を叩くのでしょう。

彼らの中から次世代のスター・ファンド・マネージャーが生まれ、創業以来変わらない「最善の顧客サービスを追求する」という事業精神のもとで投資家に優れたリターンやサービスを提供し続ける、そしてそれが次の世代への求心力につながる、という循環こそがフィデリティの優れた運用力の源泉です。運用のノウハウは一朝一夕で身につくものではありません。80年かけて培ったフィデリティらしさを今後も忍耐強く実践し、改善し続けるだけです。

紡ぎ続けるスター・ファンド・マネージャーの系譜 フィデリティの強さは「人」にありのイメージ
フィデリティ投信
プロダクト・スペシャリスト部長
藤原嘉人さん
2018年フィデリティ投信入社。同社入社前は、ニューヨークでの投資戦略企画、東京やシンガポールでの株式ファンド・マネージャーなどに従事。約30年の投資業務経験を持つ。

※本コラムは個別銘柄を推奨するものではありません。本コラムで取り上げられた投資に関する基本的な考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。

投資信託の手数料等およびリスクについて

投資信託のお申込み(一部の投資信託はご換金)にあたっては、お申込み金額に対して最大5.5%(税込み)の購入時手数料(換金時手数料)をいただきます。また、換金時に直接ご負担いただく費用として、換金時の基準価額に対して最大2.0%の信託財産留保額をご負担いただく場合があります。投資信託の保有期間中に間接的にご負担いただく費用として、国内投資信託の場合には、信託財産の純資産総額に対する運用管理費用(信託報酬)(最大5.5%(税込み・年率))のほか、運用成績に応じた成功報酬をご負担いただく場合があります。また、その他の費用を間接的にご負担いただく場合があります。外国投資信託の場合も同様に、運用会社報酬等の名目で、保有期間中に間接的にご負担いただく費用があります。
投資信託は、主に国内外の株式や公社債等の値動きのある証券を投資対象とするため、当該資産の市場における取引価格の変動や為替の変動等により基準価額が変動します。従って損失が生じるおそれがあります。投資信託は、個別の投資信託ごとに、ご負担いただく手数料等の費用やリスクの内容や性質が異なります。また、上記記載の手数料等の費用の最大値は今後変更される場合がありますので、ご投資にあたっては目論見書や契約締結前交付書面をよくお読みください。

株式の手数料等およびリスクについて

国内株式(国内REIT、国内ETF、国内ETN、国内インフラファンドを含む)の売買取引には、約定代金に対し最大1.43%(税込み)(20万円以下の場合は2,860円(税込み))の売買手数料をいただきます。国内株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。国内株式は株価の変動により損失が生じるおそれがあります。国内REITは運用する不動産の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。国内ETFおよび国内ETNは連動する指数等の変動により損失が生じるおそれがあります。国内インフラファンドは運用するインフラ資産等の価格や収益力の変動により損失が生じるおそれがあります。
外国株式(外国ETF、外国預託証券を含む)の売買取引には、売買金額(現地約定金額に現地手数料と税金等を買いの場合には加え、売りの場合には差し引いた額)に対し最大1.045%(税込み)(売買代金が75万円以下の場合は最大7,810円(税込み))の国内売買手数料をいただきます。外国の金融商品市場での現地手数料や税金等は国や地域により異なります。外国株式を相対取引(募集等を含む)によりご購入いただく場合は、購入対価のみお支払いいただきます。ただし、相対取引による売買においても、お客様との合意に基づき、別途手数料をいただくことがあります。外国株式は株価の変動および為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。
詳しくは、契約締結前交付書面や上場有価証券等書面、目論見書、等をよくお読みください。

  • EL_BORDEをフォローする

ページの先頭へ