2025.09.05 NEW

「本社移転」銘柄の株価影響 コスト削減理由はコロナ禍後、株価にポジティブ 野村證券ストラテジストが解説

「本社移転」銘柄の株価影響 コスト削減理由はコロナ禍後、株価にポジティブ 野村證券ストラテジストが解説のイメージ

本社移転の動機の割合では、コロナ禍後は働き方などに関する動機が増加

8月29日、本田技研工業(ホンダ、7267)は本社を八重洲地区へ移転すると発表しました。ホンダは、1フロアあたりの面積を拡大することで、さまざまな部門の従業員が集まりやすくし、これを通じて組織全体の生産性向上や新たな価値創出につなげることを目指すとしています。

本稿では、企業のオフィス戦略が株価や業績(企業の収益状況)に与える影響について分析します。「本社移転は従業員満足度にプラス効果をもたらすか?」(佐久間誠ほか、2024年)は、本社移転の動機を分類し、それが企業に及ぼす影響を論じています。本稿でも同様の分類を採用しています。まず、移転の動機ごとの割合について、コロナ禍前後で比較します。

本社移転動機の割合

「本社移転」銘柄の株価影響 コスト削減理由はコロナ禍後、株価にポジティブ 野村證券ストラテジストが解説のイメージ

(注)2002年以降の開示を対象。オフィス移転には半年以上かかることを前提に、2020年10月以降をコロナ後と定義。母集団は東証プライムおよびスタンダード(旧東証一部、二部)上場銘柄。1つの銘柄が複数の動機に分類される場合がある。本社移転動機の分類は漏れやノイズを含む場合がある。括弧内はサンプル数。
(出所)各社開示資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成

コロナ禍後には、オフィス環境の改善やコミュニケーションの促進、働き方改革など、働き方に関する動機が増加していることがわかります。一方、コスト削減や業務効率化を動機とする割合は減少しているものの、その比率は依然として高水準です。分析可能なサンプル数を十分に確保する観点から、今回はコスト削減を主な理由とした本社移転を対象に、株価および業績への影響を検証します。

コスト削減を理由とした本社移転は、コロナ禍後は株価や業績にプラスの影響

コスト削減を理由に本社移転を発表した企業について、コロナ禍前後で株価や業績への影響が変化しているかを分析します。発表から60営業日までの株価パフォーマンスを見ると、本社移転という出来事は、コロナ禍後において株価上昇につながる傾向が強まったことがわかります。これは、コロナ禍を契機として企業の業績見通しが不透明になる中で、成長投資よりもコスト管理や利益の確保が重視される局面が続いたことが背景と考えられます。また、発表から5年後までの予想ROE(自己資本利益率)の推移を見ると、コロナ禍後にROEの上昇傾向が強まっていることが確認できます。発表から実際の移転実施までにタイムラグがあるため、本社移転による直接的な業績影響を正確に把握することは困難ですが、一定のプラス効果が認められるといえます。

コスト削減を動機とする銘柄をコロナ禍前後で比較

「本社移転」銘柄の株価影響 コスト削減理由はコロナ禍後、株価にポジティブ 野村證券ストラテジストが解説のイメージ

(注)2002年以降の開示が対象。母集団はTOPIX500、およびそれ以外の東証プライムおよびスタンダード(旧東証一部、二部)上場銘柄の3つに区分。区分ごとに対母集団平均リターン、対母集団中央値の予想ROE変化を算出。予想ROEは来期優先(IFIS予想を東洋経済予想で補完)。
(出所)各社開示資料、IFISおよび東洋経済新報社より野村證券市場戦略リサーチ部作成

コスト削減理由を業種別で比較すると、非製造業で株価や業績へのプラス影響が顕著

次に、業種区分(製造業・非製造業)ごとに同様の分析を行います。コスト削減を目的とした本社移転の場合、非製造業の方が製造業に比べて株価上昇やROEの改善につながりやすい傾向がみられます。非製造業は、オフィスワーク比率が高く、固定費の見直しが与える影響が大きいことが主因と考えられます。一方、製造業では工場や生産拠点のコストが多くを占めており、オフィス移転による費用削減の効果は限定的です。そのため、サプライチェーン最適化など、他要因が業績により大きな影響を与えている可能性があります。

コスト削減を動機とする銘柄を業種分類で比較

「本社移転」銘柄の株価影響 コスト削減理由はコロナ禍後、株価にポジティブ 野村證券ストラテジストが解説のイメージ

(注)2002年以降の開示が対象。母集団はTOPIX500、およびそれ以外の東証プライムおよびスタンダード(旧東証一部、二部)上場銘柄の3つに区分。区分ごとに対母集団平均リターン、対母集団中央値の予想ROE変化を算出。予想ROEは来期優先(IFIS予想を東洋経済予想で補完)。
(出所)各社開示資料、IFISおよび東洋経済新報社より野村證券市場戦略リサーチ部作成

最後に、参考資料として、直近1年間に本社移転を発表した企業の銘柄一覧を、動機分類とともに掲載します。

直近1年間で本社移転を発表した企業
コード 銘柄名 非製造業 移転動機
コスト削減

業務効率化
事業拡大
3093 トレジャー・ファクトリー 1 1
4222 児玉化学工業 - 1 1
2108 日本甜菜製糖 - 1 -
2483 翻訳センター 1 -
3634 ソケッツ 1 -
3799 キーウェアソリューションズ 1 -
4059 まぐまぐ 1 -
4421 ディ・アイ・システム 1 -
6165 パンチ工業 - 1 -
6706 電気興業 - 1 -
7985 ネポン - 1 -
1885 東亜建設工業 - 1
3076 あい ホールディングス - 1
4224 ロンシール工業 - - 1
7721 東京計器 - - 1
7984 コクヨ - - 1
8032 日本紙パルプ商事 - 1
8084 RYODEN - 1
1904 大成温調 - -
1992 神田通信機 - -
2345 クシム - -
2475 WDBホールディングス - -
2491 バリューコマース - -
2764 ひらまつ - -
3068 WDI - -
3094 スーパーバリュー - -
3593 ホギメディカル - - -
3665 エニグモ - -
4218 ニチバン - - -
4404 ミヨシ油脂 - - -
5351 品川リフラクトリーズ - - -
5589 オートサーバー - -
5989 エイチワン - - -
6273 SMC - - -
6675 サクサ - - -
7416 はるやまホールディングス - -
7525 リックス - -
8137 サンワテクノス - -
8566 リコーリース - -
9605 東映 - -
9702 アイ・エス・ビー - -
9930 北沢産業 - -

(注1)2025年8月29日時点。適時開示書類での開示を対象とし、webなどその他媒体での開示は含まない。「コスト」、「効率化」、「拡大」のキーワードで判定しており、ノイズや漏れを含む場合がある。
(注2)クシムは、継続企業の前提に疑義の注記あり。
(出所)各社開示資料より野村證券市場戦略リサーチ部作成

(編集:野村證券投資情報部 デジタル・コンテンツ課)

編集元アナリストレポート

日本株クオンツストラテジー – 本社移転の理由で見る“お引越し銘柄”の株価影響(2025年9月1日配信)

(注)各種データや見通しは、編集元アナリストレポートの配信日時点に基づいています。画像はイメージ。

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