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代替肉のさらにその先へ―研究進む“培養肉”とは? 食料不足や環境問題の課題解決に

代替肉のさらにその先へ―研究進む“培養肉”とは? 食料不足や環境問題の課題解決にのイメージ

近年、大豆などの植物性タンパク質で作られた“代替肉”は、身近な食品売り場でも見かけるようになり、食したことがある人もいるだろう。一方、動物の細胞を培養することで作られる“培養肉”は世界中の企業が製品化に向けて研究開発に取り組んでいるが、実用化には越えなければならない課題が残っている。

このような人工肉は、世界人口の増加による食料不足や環境問題など、地球規模で懸念されている課題を解決する可能性を秘めている。今回は、培養肉の研究がどこまで進んでいるのか、今後の市場規模はどう発展していくのか、その様子を見てみよう。

研究が進む“培養肉”とは

食肉の味や食感を人工的につくりだした“人工肉”は、主に代替肉と培養肉がある。市場に流通しているフェイクミートと呼ばれる代替肉は、大豆などの植物性タンパク質で作られており、食感や味は本物に近いかもしれないが、いわゆる“肉もどき”だ。植物性タンパク質は動脈硬化の抑制や肥満改善効果などが期待できることから、健康やダイエットを目的として買い求める人もいる。また、代替肉は食肉に比べて少ない水や肥料で生産できることなどから、環境や人々の暮らしに配慮したサスティナブルな食材としても注目されている。

一方の培養肉は、ウシやブタ、トリなどの動物の細胞を培養して作られる食肉のことだ。植物性タンパク質で作った代替肉が“肉もどき”なのに対し、培養肉は細胞を培養して作られた“肉そのもの”である点が大きく違う。これまでに、ウシの細胞から作ったパティのハンバーガーや、トリの細胞を用いたチキンナゲットなどが発表されているが、これらの培養肉は、バラバラの筋細胞の集合体で、ミンチ肉のような状態だ。日本の大手食品企業は、ステーキのような培養肉の実現に向けて大学と共同研究に取り組み、ウシの細胞を用いてサイコロステーキ状の筋組織の作製に成功している。だが、本物と同等サイズの開発は世界でもまだ実現しておらず、技術の飛躍的発展が必要とされている。

また、一般販売を実現するための低コスト化も課題だ。世界で初めて培養肉のパティを作った際の研究費用は数千万円を超えていたといわれており、現在は研究発展や改良によりコストダウンを目指しているが、まだ実用化には届いていない。その他、法整備や安全基準の策定なども必要になるだろう。

未知の食材“培養肉”に期待する半面、安全性に懸念の声も

培養肉の研究が進められているが、消費者の動向はどうだろうか。培養肉について実施した調査では、「よく知っている」と答えたのは4.1%で、「少しだけ知っている」(12%)と「名称は知っているが、その内容はほとんど知らない」(23%)を含めた認知度は39.1%にとどまっている(図1)。

図1:培養肉の認知度

図1:培養肉の認知度

出典:特定非営利活動法人日本細胞農業協会「細胞農業・培養肉に関する意識調査」をもとに編集部作成

全国の20歳~90歳の男女1,000名を対象にしたインターネット調査。2020年12月28日に実施。

他方、認知度は十分とは言えないものの、細胞農業(注)や培養肉には「味がおいしいこと」(38.6%)、「食糧危機を回避できること」(27.9%)、「価格が安いこと」(27.2%)などの期待も寄せられた。懸念されているのは、「食の安全性が担保されているか不安」(37.9%)、「おいしいかどうか」(34.8%)、「何が入っているかわからない」(29.3%)などが多く、おいしさに期待するものの、認知度の低さも影響してか、未知の食材に対して安全性を心配する傾向が見られた(図2)。

(注)細胞農業とは、従来家畜や水産資源など動物個体から得ていた生産物を、特定の細胞を培養することで収穫する生産方法のこと。

図2:細胞農業・培養肉について期待すること、気になること

図2:細胞農業・培養肉について期待すること、気になること

出典:特定非営利活動法人日本細胞農業協会「細胞農業・培養肉に関する意識調査」をもとに編集部作成

全国の20歳~90歳の男女1,000名を対象にしたインターネット調査。2020年12月28日に実施。

また、培養肉の価格帯については、約4人に1人が100gあたり500円以上でも購入する意向を示した(図3)。消費者の一定数は、通常の食肉より少し高くても、培養肉を食べてみたいと考えているようだ。

図3:培養肉100gあたりいくらなら試しに買おうと思うか

図3:培養肉100gあたりいくらなら試しに買おうと思うか

出典:特定非営利活動法人日本細胞農業協会「細胞農業・培養肉に関する意識調査」をもとに編集部作成

全国の20歳~90歳の男女1,000名を対象にしたインターネット調査。2020年12月28日に実施。

人工肉が必要とされる4つの理由

では、なぜ人工肉の開発が進められているのだろうか。その背景について見ていこう。

1. 食料需要の高まり
人口の推移を見ると、2011年に70億人を超えた世界人口は、2050年には97億人に達すると予想されている。それにともない、畜産物の需要は2050年には2010年比で1.8倍の13.98億トンに拡大すると見込まれている(図4)。

図4:世界の畜産物需要見通し

図4:世界の畜産物需要見通し

出典:農林水産省「2050年における世界の食料需給見通し」をもとに編集部作成

2. 食肉の安全性
畜産では細菌による感染症で家畜の成長が遅くなったり、死んでしまったりすることがあり、それらを防ぐために家畜に抗生物質を投与することがある。しかし、培養肉なら抗生物質を投与する必要がなく、衛生的な環境で作られるため、従来の畜産より安全性が高いと考えられている。

3. 食肉増産による環境問題
食肉を増産するには、家畜のための飼料や水に加えて広大な放牧地が必要で、農地拡大のための森林伐採など、環境破壊が危惧されている。また、ウシなどの反すう動物のげっぷには、地球温暖化をもたらすメタンが含まれており、その量は二酸化炭素に換算すると年間約20億トンに達し、全世界で発生している温室効果ガスの約4%を占めるといわれている。そのため、食肉のための畜産は、地球環境に大きな負荷を与えることが懸念されているのだ。

4. 倫理的観点
2019年の日本の食品ロス推計値は約570万トンで、そのうち46%にあたる261万トンが、家庭から出される食品ロスだ。これは、国民1人あたり、毎日茶碗約1杯分の食べ物を廃棄している計算になる。こうした食品ロスの中に、屠殺された食肉も含まれており、賞味期限切れなどを理由に捨てられている。

人工肉はこうした課題を解決することが期待されている。食肉はタンパク質の主な供給源であるが、将来的に従来の畜産だけでは需要を満たすことが困難になる可能性があるため、代替タンパク質の必要性が高まっているのだ。培養肉を含めた代替タンパク質の世界市場規模(植物由来肉、植物由来シーフード、培養肉、培養シーフード、昆虫タンパク計/メーカー出荷金額ベース)は、2025年に1兆1,919億6,400万円、2030年には3兆3,113億8,900万円に達すると予測されている(図5)。

図5:代替タンパク質(植物由来肉、植物由来シーフード、培養肉、培養シーフード、昆虫タンパク)世界市場規模予測

図5:代替タンパク質(植物由来肉、植物由来シーフード、培養肉、培養シーフード、昆虫タンパク)世界市場規模予測

出典:株式会社矢野経済研究所「代替タンパク質 (植物由来肉、植物由来シーフード、培養肉、培養シーフード、昆虫タンパク)世界市場に関する調査(2022年)」(2022年2月28日発表)をもとに編集部作成

メーカー出荷金額ベース

市場規模は代替タンパク質(植物由来肉、植物由来シーフード、培養肉、培養シーフード、昆虫タンパク)の合算値

2025年、2030年は予測値

このような背景から培養肉の研究が世界中で進められている。実用化にはまだ技術面・コスト面の課題が残るものの、それらがクリアできた暁には、急速に広がりを見せるだろう。私たちの食卓に培養肉が提供される日はそう遠くないかもしれない。

サスティナブルな社会を実現するため、サービスや技術が進化しているのは“食”だけではない。地球規模の課題に目を向けると、その様子が見えてくるのではないか。気になる分野を見つけたら、チェックしておくといいだろう。

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