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2022.08.18 NEW

植物や廃棄物から作ったバイオ燃料「SAF」。脱炭素に向けて世界の企業が動き出す

植物や廃棄物から作ったバイオ燃料「SAF」。脱炭素に向けて世界の企業が動き出すのイメージ

脱炭素社会を目指してさまざまな取り組みが行われている中、国土交通省は国内航空会社で使用される燃料に占める持続可能な航空燃料「SAF」の割合を、2030年までに10%に増加させることを目標に掲げた。

こうした動きは世界中で広がっており、今後、SAFは需要の拡大が見込まれている。海外の石油メジャーが商業用SAFの供給を始めたとの報道がある一方、日本はSAFの商業化に向けて研究・開発が進められている段階だ。日本はSAF市場で世界をリードできるのか、その様子と今後の展望を解説する。

SAFとは

脱炭素社会に向けてさまざまな業界が動く中、航空業界も二酸化炭素の排出削減を目指している。その切り札が、次世代の航空燃料とも呼ばれる「SAF」だ。SAFは「Sustainable(持続可能な)Aviation(航空)Fuel(燃料)」の略で、「持続可能な航空燃料」を意味する

航空会社はこれまで、燃費の良い機体の採用などを通じて二酸化炭素の排出削減をしてきた。こうした取り組みに加え、持続可能な原料から作られるSAFの本格導入を目指している。

では、SAFは何から作られるのだろうか。SAFの原料は植物や藻類、廃材などの木質系セルロース、飲食店や家庭などから排出される廃食用油、廃棄される動物の脂などである。たとえば日本の航空会社では、ユーザーや企業の協力のもと綿の衣料品を集め、それらを原料にしたSAFの製造に挑戦・成功している。このように、SAFはさまざまな原料から、製品化する取り組みが進められている。

なお、原料が植物系の燃料の場合、生育の際に光合成で二酸化炭素を吸収しているため、燃やす際に二酸化炭素を排出しても、実質的な排出量がゼロに近い状態になるという利点もある。また、SAFは従来の化石燃料と混ぜて使用することができるため、既存の航空機や給油設備を使用することができる。再生可能エネルギーをはじめとした“スマートエネルギー”の中でも、航空業界にとっては導入のハードルが低いと考えられるだろう。

なぜいま、SAFが必要とされているのか

ここで、航空機がどの程度の二酸化炭素を排出しているのか見てみよう。国土交通省が公開しているデータによると、日本の二酸化炭素総排出量10億4,400万トン(2020年度)のうち、運輸部門からの排出量は17.7%(1億8,500万トン)だ(図1)。

図1:運輸部門における二酸化炭素排出量

図1:運輸部門における二酸化炭素排出量

出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html)のページをもとに編集部作成

端数処理の関係上、合計の数値が一致しない場合がある。

電気事業者の発電に伴う排出量、熱供給事業者の熱発生に伴う排出量は、それぞれの消費量に応じて最終需要部門に配分。

温室効果ガスイベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2020年度)確報値」より国交省環境政策課作成。

二輪車は2015年度確報値までは「業務その他部門」に含まれていたが、2016年度確報値から独立項目として運輸部門に算定。

二酸化炭素排出量を運輸部門だけで見ると、最も多いのは排出量の87.6%を占める自動車で、航空機の排出量は2.8%(524万トン)にすぎない。しかし、排出される二酸化炭素の排出量を、輸送量(輸送した人数に輸送した距離を乗じたもの)で割った、単位輸送量当たりの排出量で見ると、自家用乗用車よりも多くなっている(図2)。SDGsの課題解決に取り組む機運が世界的に高まる中、航空機は排出量の削減に取り組む余地が大きいといえそうだ。

図2:輸送量あたりの二酸化炭素の排出量(2020年度)

図2:輸送量あたりの二酸化炭素の排出量(2020年度)

出典:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html)のページをもとに編集部作成

温室効果ガスインベントリオフィス:「日本の温室効果ガス排出量データ」、国土交通省:「自動車輸送統計」、「航空輸送統計」、「鉄道輸送統計」より、国土交通省 環境政策課作成

では、SAFの利用によって、航空機はどの程度の二酸化炭素の排出量を削減できるのだろうか。削減量は導入するSAFによって異なるが、現在のSAF混合率(最大50%)で、二酸化炭素の削減率が50%~80%のSAFを使用した場合、通常のジェット燃料に比べて2~3割程度の削減が可能になると試算されている。また、二酸化炭素の削減効果を高めるには、原料の栽培から収穫、SAFの製造から輸送など、あらゆるプロセスで排出量を削減することも重要で、どの原料に由来し、どのようにして作られたSAFを使用するのかによっても効果が変わる。

SAFの現状

さまざまな国や地域で、SAFの製品化や商用化が進みつつある。

日本においては、大手航空会社がSAFの導入促進を目指す世界経済フォーラムのクリーン・スカイズ・フォー・トゥモロー・コアリション(Clean Skies for Tomorrow Coalition)に参画し、航空燃料に占めるSAFの割合を、2030年までに10%まで増加させることを目指す「2030 Ambition Statement」に署名。2050年には、航空輸送における二酸化炭素の排出実質ゼロを目指している。

SAFの製造技術開発では、フィンランド企業がパームオイルや大豆油、廃獣脂などを原料にしたSAFをすでに商用化しているほか、アメリカでは商用化に向けた計画やプラントの建設も進んでいる。一方、日本は国内企業で研究が進んでいるものの、商用化が実現するのは2030年頃の見込みで、海外と比較するとまだ導入前段階である(図3)。

図3:SAFの製造状況図
プレイヤー 原材料 商用化時期
フィンランド パームオイル、大豆油、廃獣脂など すでに商用化
アメリカ サトウキビ(バイオマス糖)などのアルコール、炭素含有ガス 商用化を計画
アメリカ 都市ごみ 都市ごみ由来のSAF製造プラントを建設中
国内企業の共同研究 木質バイオマスなどの製紙スラッジ、おが粉など 2030年頃の商用化を目指す
国内バイオベンチャー企業 廃パルプ、廃菌床など 2030年頃の商用化を目指す
国内の複数企業 クロレラ、ミドリムシ、海洋珪藻(けいそう)など 2030年頃の商用化を目指す
国内大手石油会社・大手商社 使用済みの食用油など 事業化に向けて始動

参考:国土交通省「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会(第1回)」(https://www.mlit.go.jp/common/001395880.pdf)の資料などをもとに編集部作成

供給体制の面では、英国の石油メジャーが海外の航空会社に供給を始めるなど、国境を越えた体制ができつつある。日本の大手商社も、アラブ首長国連邦の航空会社との間でSAFの販売契約を締結し、国内の空港で海外の航空会社へSAF供給を始める。提供するのはフィンランドの企業が製造するSAFだ。

SAF普及に向けた課題と展望

SAFの普及には解決しなければならない課題が多く、その中でも、供給量が圧倒的に少ないことと、製造コストが高いことが大きな課題となっている

世界のSAF供給量は、経済産業省が公開している資料によると約6.3万キロリットル(2020年時点)で、世界のジェット燃料供給量のわずか0.03%だ。一方でSAFの世界需要は2050年に約2.94億キロリットル~約4.25億キロリットルに達し、国内需要も2030年に約250万キロリットル~約560万キロリットル、2050年には約2,300万キロリットルに拡大すると見込まれている。供給体制が整わないまま、世界の航空会社が本格的にSAFの導入を始めると、奪い合いになってしまうだろう。

そのため、日本の航空会社が目標を達成するためには、安定的に供給できる国産化が欠かせない。そこで、国内大手企業が結集して、国産SAFの商用化と普及・拡大に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」を設立した。参加企業を見ると、たとえば大手食品メーカーはSAFの原料となる油脂の供給、大手石油会社は廃棄物や廃食用油、木質バイオマスによるSAFの製造など、それぞれの強みを生かして国産化に向けて動き出している。

もう一つの課題である製造コストを見ると、SAFのコストは製造方法によって異なり、現状では1リットル当たり200円~1,600円だ。従来のジェット燃料の1リットル当たり100円と比べるとかなり割高で、製造コストを大幅に引き下げる必要があるだろう。

日本は先述したように、2030年の商用化を目指し、開発とサプライチェーンの構築が始まったばかりだ。世界市場においても、供給されているSAFの量はまだごくわずかで、量産化と低価格化という課題が残されている。つまり、技術革新を成し遂げた企業は、SAF市場で世界をリードできる可能性があるだけに、今後の企業動向には注視しておきたいところだ。

また、2022年8月31日から9月2日にかけて、新エネルギー業界の国際商談展「スマートエネルギーweek」が開催される。SAFを含め、新エネルギーは注目の分野なので、この機会にぜひチェックしてほしい。

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