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2024.03.28 NEW

不動産セキュリティ・トークンの特徴、「手触り感」のある投資と消費が融合した商品

不動産セキュリティ・トークンの特徴、「手触り感」のある投資と消費が融合した商品のイメージ

撮影/藤井洋平

不動産投資の新しい選択肢として、ブロックチェーン技術を活用した「不動産セキュリティ・トークン」と呼ばれる金融商品があります。どんな点が従来の不動産投資と異なり、市場規模はどのぐらいあるのか、野村総合研究所未来創発センター デジタルアセット研究室長の谷山智彦さんに、金融商品として見た不動産セキュリティ・トークンの特徴について話を聞きました。

小口投資で安定した分配金を享受

そもそもセキュリティ・トークンとはどのような金融商品なのでしょうか。

谷山:有価証券(セキュリティ)とみなされる権利をデジタル化し、ブロックチェーン技術を利用したシステム上で発行・管理されるトークン(証憑)のことで、法令上の有価証券です。また、デジタル証券と呼ばれることもあります。2020年5月施行の改正金融商品取引法で「電子記録移転有価証券表示権利等」と規定され、金融機関等での取り扱いが可能になった比較的新しい金融商品です。

例えば、温泉旅館やショッピングモールを所有したいと思ったら、莫大な資金がある機関投資家しか買えませんよね。それを10万円などに小口化されたトークンを通じて個人投資家が買うことができ、そこから分配金を得ることができます。

J-REITにはない「手触り感」と「優待」

既存の不動産投資と不動産セキュリティ・トークンとの違いについてうかがいます。不動産投資と言うとJ-REIT(不動産投資信託)を思い浮かべる人もいると思いますが、J-REITと不動産セキュリティ・トークンはどんなところが違うのでしょうか。
谷山:不動産ファンドを通じて小口投資ができるという点は両者の共通点ですが、J-REITは複数の不動産を対象としたポートフォリオに投資ができる投資信託であり、不動産セキュリティ・トークンは単一もしくは少数の不動産に投資ができるという違いがあります。
投資信託という意味でJ-REITだとリスク分散ができる印象がありますが、谷山さんご自身は、不動産セキュリティ・トークンならではの強みや魅力はどんなところだと考えていますか。

谷山:投資に慣れていない人が初めて不動産を自分のポートフォリオに組み入れるのであれば、複数の不動産にポートフォリオとして分散投資するJ-REITの方が向いていると思います。ただし、J-REITの価格や分配金が安定しているという意味ではありません。J-REITは証券取引所に上場されている金融商品であり、金融市場全体の影響を受けやすく、相応の変動があります。一方で、不動産セキュリティ・トークンは単一もしくは少数の不動産に投資をしていることから、当然、J-REITのように分散投資にはなっていません。価格は不動産の鑑定評価額に基づくものであり、J-REITの投資口価格に比べると、その変動は比較的小さくなる傾向が見られます。

また、ポートフォリオへの投資という意味で、J-REITでは現物資産である不動産に対してよく言われる「手触り感」を感じられるという特徴が薄れてしまいます。一方で不動産セキュリティ・トークンは単一不動産に投資ができ、その種類も旅館やホテル、ショッピングモール、オフィスビル、タワーマンション、学生レジデンスなど多種多様です。自分が投資したい不動産を選ぶことができ、実際に行ってみてにぎわいを確認するなど、手触り感を持てるという良さがあります。

加えて、不動産セキュリティ・トークンによっては分配金と別に、株式における株主優待に相当する「ユーティリティ・トークン」を付与している事例もあります。その不動産の宿泊券や割引券などがよくある例ですが、2023年8月に134億円という国内最大規模でセキュリティ・トークン化されたタワーマンション「リバーシティ21 イーストタワーズII」では、不動産がある月島にちなみ、名物の佃煮を受け取れる「佃煮トークン」が付与されるといった面白い取り組みもあります。

例えば、あるショッピングモールやテーマパーク、温泉旅館などが好きな人にとっては、その投資先についてとてもよく理解していると思いますし、投資を通して所有できるとうれしいですよね。しかも優待ももらえるならさらにうれしい。そうした好きだから応援したい、よく知っている不動産のオーナーシップを体験したい、という考えから投資を始めるには、不動産セキュリティ・トークンはいい金融商品なのではと考えています。

現物不動産に比べて多様な不動産への投資とリスク分散が可能

現物不動産と不動産セキュリティ・トークンはともに単一不動産への投資となりますが、どんな違いがあるのでしょうか。

谷山:不動産は古くから財産3分法の一つでもあり、個人投資家にとっても現物不動産への投資は身近になりつつありますが、現物不動産投資はリターンを期待できる反面、リスクの塊でもあります。自分でローンを組んだ上で管理・運用などの大家さんとしての業務が発生し、テナントが入らない場合にはローンの支払いを自身で負わないといけません。しかも、個人で買える不動産はワンルームマンションなどに限られており、継続的に貸せるのか、耐震は大丈夫かなど、現物不動産の目利き力も問われてきます。

不動産セキュリティ・トークンであれば、タワーマンションやショッピングモールといった大手のディベロッパーが開発した不動産など、従来であれば機関投資家しか買えなかった不動産を個人投資家も買え、不動産を所有するというオーナーシップを感じられるのが特徴です。また、自分が許容できるリスク範囲でリターンを得るという意味でも、不動産セキュリティ・トークンは一つの選択肢になると思います。

現物不動産 不動産セキュリティ・トークン J-REIT
投資対象 単一不動産 単一不動産 複数不動産
投資単位 大口 小口(証券) 小口(証券)
運用管理 不動産保有者 専門家(不動産ファンド) 専門家(不動産ファンド)
運用期限 なし あり なし
このように、不動産セキュリティ・トークンは投資と消費が融合したような金融商品であり、J-REITと現物不動産、それぞれを補完する存在と言えます。不動産投資をしたいけど、そこまでリスクを負いたくないのであれば、初めての不動産投資として入り口はJ-REITが分かりやすいように思われますが、その不動産が好きで応援したい、好きだから誰よりもよく知っている、手触り感のある投資がしたい、という考えから不動産セキュリティ・トークンを入り口にするのもありだと思われます。

さらなる市場拡大のキーワードは「プレーヤー増」「海外不動産」

谷山さんは不動産セキュリティ・トークン市場規模の見通しをどのように考えていますか。
谷山:国内公募セキュリティ・トークンは不動産の他に、債券に紐づく発行事例もあります。セキュリティ・トークン全体の数字にはなりますが、発行総額は1年で2倍以上のペースで拡大しており、2024年3月末時点で1,200億円超に拡大する見込みです。月島のタワーマンションのように100億円を超える規模の発行事例もすでにあり、多種多様な商品化が可能であることも踏まえ、今後も成長していく市場だと考えています。

公募ST市場規模(発行総額)の推移 各社開示資料を基に野村ホールディングス デジタル・アセット推進室にて作成。2024年2月22日時点で有価証券届出書等が提出されている銘柄を対象としています

ただ、2020年5月に法整備されたばかりの比較的新しい金融商品であり、不動産セキュリティ・トークンに関しては2024年3月現在、まだ償還を迎えた事例がありません。これから徐々に市場が成熟化していき、先行する商品が無事に償還を迎えてから、いろいろなプレーヤーの参入が増えていくのではと思われます。

また、現状の不動産セキュリティ・トークンは譲渡制限付が主流であり、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が展開する国内初の流通市場「START(スタート)」での売買は2023年12月に始まったばかりです。ここから数年で市場がどう成熟していくかが、市場拡大において一つ大きなポイントになるのではと考えています。

日本は世界に先駆けてセキュリティ・トークンの法整備を進めてきたこともあり、世界から驚かれるほどのスピードで市場が拡大しています。今後、多様な商品がさらに増えていく中で、海外にある不動産を対象にしたような発行事例も出てくる可能性があるのではと考えています。世界的に知られているオフィスビルや商業施設、ホテルなど、日本人投資家にとって魅力的な世界の不動産を裏付け資産とした商品は、不動産セキュリティ・トークンだからこそ実現できるものであり、市場のさらなる拡大に向けてブレイクスルーとなるのではと期待しています。

野村総合研究所 未来創発センター デジタルアセット研究室長
谷山智彦(たにやま・ともひこ)
2002年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2004年同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、2010年大阪大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。2004年に野村総合研究所に入社後、主に不動産・インフラ分野に関する調査研究及びコンサルティング業務に従事。2017年11月よりケネディクスとの合弁会社であるビットリアルティの取締役に就任し、2019年1月にオンライン不動産投資プラットフォーム「bitREALTY」を立ち上げる。2020年3月より同社取締役副社長として不動産分野におけるデジタル戦略を推進し、2023年4月より現職。主な専門分野は、オルタナティブ資産に関わる金融経済学、ファイナンス理論、データサイエンス、デジタル戦略など。

※本コラムで取り上げられた投資に関する基本的な考え方などについては、あくまで個人の見解によるものであり、野村證券の意見を代表するものではございません。

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ブロックチェーン技術や不動産セキュリティ・トークンの仕組みなど、「野村の不動産セキュリティ・トークン」で詳しく紹介しています。

〜 不動産セキュリティ・トークンについてのご注意事項 〜

  • 証券保管振替機構(ほふり)で発行・管理されておらず、ブロックチェーン技術を利用して分散型台帳上で権利の記録・移転がされます。ブロックチェーン技術やプラットフォームの運営の不確実性に伴い、買付・売却の受渡し、分配・償還の支払い等が遅延するリスクがあります。
  • 単一または少数の不動産への投資の成果を投資家に還元することを目指した商品です。投資対象不動産の収益・資産価値変動、不動産市況・金利動向等の市場環境、需給状況等の影響により、商品の取引価格や償還価格が下落し、損失を被ることがあります。また、借入れを利用している商品の場合、契約上の制限事項等に抵触すると、配当停止や資産を廉価で失う等により損失を被ることがあります。
  • 流動性は限られており、売却の機会は保証されておりません。また、譲渡制限が付されている場合があります。
  • お買付時には、購入対価のみをお支払い頂きます。
  • ご購入を検討される場合には当該商品の目論見書等の資料をお渡し致しますので必ずご覧下さい。
  • セキュリティ・トークンに係る税金の詳細は、税理士等の専門家にお問い合わせ下さい。

野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第142号
加入協会/日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会、一般社団法人日本STO協会

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